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冷たき雨の夜の出逢い

一度書いてみたかった、オッサンざまあ系統


3話終了予定です。

 ………降りしきる冷たい雨の夜、とぼとぼと、無一文で歩く。とある街の路地裏を、濡れ鼠になりながら、あてもなくさ迷い歩く。


 途中、安酒に酔っ払ったゴロツキにからまれ、奴等のストレス発散とやらに殴られ、蹴られ、ぼろ布の様になってしまったが、奴等が立ち去ると、


 何も感じることなく、放り込まれたゴミ箱から立ち上がり、フラフラと歩き続けていた。


「口うるさいメンバーは迷惑だから、オヤジは引退したらいいよ、同じ年の仲間のが、連携っていうの、とりやすいから」


 うすうすは感づいていた、煙だげに思われていることを……


 若い彼らと出会ったのは数年前。その時はまだまだ弱い彼等を自分の息子や娘の様に思い色々と教え、戦いには支援をかけ、成長を、見守ってきた。


「強くなったら、親孝行するからな」


 勇者や、魔法使い達の無垢だった頃の声が頭を過る。親子の様な絆を持っていた、


「地位と名誉と金を得たらいらないか、まぁ俺もいい年だけどな」


 ポツリと漏らすと、町外れの空き家の軒下にしゃがみこむ。これから何をするのか、どうするのか、わからない、心の中は透明な悲しみと、底知れぬ黒い怒り。


「無一文で、放り出すとはな、それほど迄に金が欲しいのか、何もかも巻き上げて棄てる、か」


 地面に、叩きつける雨粒に目を向けた。土にはもう吸い込む余力がなくなっているのか、くぼみには、大きな水溜まりが出来上がっている。


 それをただ眺めていたら、有ることにふと気がつく。


「何故だ?水溜まりの真ん中だけ、波紋が現れない」


 降りしきる雨の中、再び外に出ると『それ』の前に座り込む。


 ……透明で、一見したらスライムみたいな生物だが、それよりは柔らかく、淡雪の様なモノが雨水の中にいた。


「初めて見た」


『それ』を目にした俺は息を飲む、あり得ない存在がそこにあったからだ。


 それは『魔界』の生き物、この地上に置いて伝説の生物。名前は、誰も知らない。


 初めて出会った。どういうわけでここに居るのかは知らないが、ろくでもない日に最高の出会いをした中年魔法使いの俺。


 噂によると、大地にも空にも水にも大気にも、魔力が満ちる『魔界』でも、その生態は不明と聞いている。


 ただ、いつの間にか産まれ、ただ糧を喰い、大きくなり、寿命が終えると消え去る、何をするのか、何を残すのか、誰も知らない生き物。


 捕獲して売れば、相当の金額になる、おそらくあくせく働かなくても、食べて行ける位の、


 しかし俺は装備も何もかも無くしている今、出来ない事だった。


 装備無しで触れれば、魔法を使う者は命を吸いとられると言われていたからだ。


 水溜まりに力無く、ぼんやりとした様子の『それ』に俺は話しかける。


「お前、そのままだと、餓えて死んでしまうだろう?ここ街中には『魔力』は無いぞ、どうするつもりだ?森へと行けば、魔物もいる、餌もあるだろう」


 当然だか、返事等帰って来ない『未知なるそれ』俺は話しかける。これまでの人生を、雨の中でとつとつと、つまらぬ男のストーリー。


 そして黙って『それ』は聞いている、そんな気がした。何故だか嬉しかった。ほんわりとした物が冷たい心に広がった。


 やがて話が終わると、俺は『それ』にこれから先の時を、与えることを思い付く。


 何もかも無くして、何もないのなら、餓えてしまうだろう命を救うのもいいかもしれない。


「魔法使いだけど年いってるからな、だからな、魔力は高くないし、おじさんだぞ、ちぃと、汚れてるけど森に行く位の力にはなるはずだ、まぁ喰ってくれ」


 明るく話かけながら、泥水の中のそれに手を触れる。じゅるとした氷の中に手を入れた様。


 余程腹が空いていたのか、即座に絡み憑かれ意識が遠のく、じゅるとした『それ』は冷たい炎の様なモノで俺を覆い包む。


 こんなに終演もいいかもな、以外と早く俺は『死』を迎える事となった。走馬灯が過る、


『シャノアール、出会ったら名前をつけたいの!私の『使い魔』に、素敵な名前でしょう?』


 笑顔を見せてた、魔法使いのリアル、あの子だけは、いつも俺に話しかけて来てくれてた。


 しかし、ふっ、それも儚き幻だったんだな、最後のときには、目もあわそうともしなかった。


 とことん薄情な奴等に、目にものみせてやりたいところだが、できる事なら幸せな気分で逝きたい。しかし、たぎる悔しさからは逃げれない!


 ちくしょう、こんな時にもなっても思い出すか、でも楽しかった時もあったな、確かにあった!あった!少しはあった、あった、あったぁ!


 そう思うことにしておこう、黒い感情は奥深く押し込めて、復讐したい気持ち等は、忘れてしまえ!俺!忘れてしまえ、しまえ!


 そして、無理矢理に、強引に、幸せな気分を作り出し俺は『それ』の糧となり全ては終わった。


 ――闇の中で意識が戻る。寒い、寒い、何やら小さな体で目が覚める遠い感覚。俺は『それ』と同化したような気がする。


  立ち上がらなければ死んでしまうだろう。本能が教える。


 そして『生きる』為に行動を開始。


 黒い道をヒタヒタと歩く。ヒタヒタと、しかし力が続かず、倒れる。ごめんな、と『それ』に謝る。


 やっぱり、オッサンはダメだなぁ、せめて近くの森迄、動ける力をあげたかったのにな。


 そして再び、意識が無くなる。眠りにつく俺たち。今度はちゃんとした奴に見つけてもらえよ、と思いながら、


 お迎えか?天から軽やかな声が聞こえるのを、夢うつつに聞き目を閉じた。


『見つけたわ、私の可愛い……ちゃん』



 ―――ん?何だ?助かったのか、どうしたんだ?ここは何処だろう、う~ん、ほあほあと暖かくて気持ち良い、良いにおいがするぞぉー、そしてこの柔らかき触感はぁー、天国かー?


「にゃ?」


 何だと?声が変では無いか?猫?俺が猫の声でにゃ、とはいい年のオッサンが恥ずかしいではないかー!


「うふふ、目が覚めた?可愛い私の『シャノアール』」


「ウナー!」


 突然!ぎゅうと、乙女の豊かで、柔らかくたわわな胸元に抱き締められる俺!おいおい?おいおい?おいおい?


 オッサンは今パラダイスだぞ!ものすごーくしあわせな夢心地ー、幸せだにゃぁー


「良かった『可愛い黒猫』ちゃん、昨日は雨降りだったけど『新月』の夜、魔法使いが『使い魔』と出逢える時の夜だったのよ」


 抱き締められながら、聞こえて来るのは、リアルの声ではないかー!使い魔?オッサン使い魔?俺が『使い魔』だとおー?


 ちらりと俺は、自分の手を恐る恐る見る。当然ながら、目に入る黒猫の『前足』黒猫の『前足』黒猫の……


 顔を上げるとそこには 間近にキラキラとしたリアルの瞳、そしてそれが近づいて来ると、


 再び抱き締められ、眉間にキス迄プレゼントされてしまった、幸せなオッサン使い魔、黒猫シャノアール。


 我ながらげんきんだが、うん、彼女からの仕打ちは泡沫の泡となり消え去る。


 助けて貰ったし、この先の事を考えると、彼女の配下になっておくのは、良い手かも知れない。


 とりあえずお礼を述べとこうと、声を出すと


「うなーん」


 猫だな、まだまだ駆け出しの『使い魔』だから仕方ない。何故こうなったかは、おそらく最後の時に思い出した記憶が干渉した事になるか。


 そして今の状況は、俺を憐れんだ神様が、特例でプレゼントしてくれた幸運、としか思えない。


 もしそうならば、有りがたく受けとっておくとしよう。下心ありありのオッサン、幸せだからぁー!


 まぁまぁ、時間はあることだから、ゆっくりと謎解きはして行けば良い!これからの人生(猫生)はたっぷりありそうだし……


「さっ、起きて朝ご飯にしなくちゃね!」


 リアルは布団をはねのけると、ベッドから降り朝の身支度に取りかかる。


 う、にぁぉー!乙女のお着替えタイム等見てはいけな、い、いけない、いけない、まぁいいか、


 ……生きてた時の慰謝料として眺めよう、幸せだにやぁー


 時折手を止め、うふふ見てるのー?悪い子ねと俺に目を向け、話かけながら、整えて行く可愛し我がご主人様のリアル、


 まぁ、端から見れば、あどけなく子猫が首を傾げて、見てる風情だろうから、眺めておこう!眼福とはこれいかに!


 そして俺は決意する!ご主人様を守る為には何でもする事を!今の幸せを守るのだにゃー!


 そんな、俺のめらめらと燃える闘志を、知ってか知らずか、天使の微笑みを向ける我がご主人様。魔女リアル。


「さぁ、出来た!さあ、行こうかシャノアール」


「うにゃん!」


 元パーティーメンバーで、追い出された挙げ句その夜の内に、好き好んで魔物の糧となった俺。


 消え行く命を救ったお礼なのか?それとも運命だったのか?それは誰にもわからないが、ただひとつはっきりとしている事実は、


 新しい俺の人生(猫生)が幸せに始まった。ということのみ!


  もちろん『復讐』覚えてるよ!しっかりとな。


  これは、チャンスあるな。フフフ……


 


















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