第一話 出逢い 5
その声に反応し後ろを見ると、目の前に立っていたのはパジャマ姿の同年代位の女の子。髪は黒くて腰まで長く、目がくりくりしていてかわいい、そして体がかなりが付くほど細いので庇護欲満点の美人だ。
だけどその姿に見覚えがあった。
「し、死神!?」
少女の姿は、あの夢で見た死神にそっくりだった。
「初対面で死神か、君は失礼な人だな」
「えっ?」
「冗談でも言っては駄目だと思うが」
冗談じゃなくて本気だったんだけど、ってか口滑らせただけだし。余計悪いか……。
「えっと…すいません」
「うん、よろしい」
拍子抜けした。夢の死神にそっくりなのだが何か違う、喋り方か雰囲気のせいだろうか?あっちは周りを凍らせるというかなにか怖いのだが、こっちは場を和ませるというか安心感がある。初対面なのに…。
「それで話は戻るが、何故キミはここにいる?」
こういう質問は嫌いだ。いてなにが悪い?あんたに迷惑かけたか?そう思い反発したくなる。
「じゃあ君はどうなんだ?」
「私が質問してるのだが?」
教師の言い方に似ている。教師というのはムカつく。何故かというと、何かをして怒られているときに、こっちが反論して図星をつくと、教師の反応は、黙るか、他の教師を呼ぶか、話を変えてくるかの三通りに分ける。まぁ立場上自分の非を認められないんだろうね。
それとなにが言いたいかというと、さっきの少女の口調と言い方で教師を思い出したって言う事。
「景色を観てたから」
嘘を付く必要がないから正直に言ってみると、案の定驚いた顔をして、少し考える素振りを見せた後、いきなり笑い出した。
「あははっ!キミ面白いな、少し変わってるだろ?」
予想外だった、てっきり「は?」とか「なに言ってんだ?」ぐらいを予想していた。
「本当のことを言ったまでだよ」
「そ、そうか笑ってすまないな」
別に笑わせるようなことを言った覚えはない、ただ事実を言っただけ。
「いや、それで?」
「え?」
「なんで君はいるんだ?」
今度はこちらの質問。されっぱなしじゃ嫌だからね。
「ああ、人がいない所と思って屋上に来たのだが、先客がいて見てたんだ」
「なにを?」
「え?その…君をだ」
「なぜ?」
まぁ、大方予想は付くけどここは意地悪しなきゃ面白くないからね。
そしたら少女は顔を赤くして慌ててる。少し可愛かったのは言うまでもない。
「いや、なにしてんだろうと思って」
「そうか、ならいい」
「むぅ」
俺は不思議そうに彼女をを見ていると、目が合い話しかけられた。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない」
これっといって何もないが、思うことがある。
変わっているなと。まぁ、面白いけどね?どっかの誰かさんみたいにいじめがいあるし。
「む、そうか」
見た目は真面目そうだが、案外ヌケているのだろうか?やっぱり夢のアレとは全然違う。
「それで、本当のとこはどうなんだ?」
「なにが?」
「だから何をしていたんだ?」
少女は先程と同じ質問を俺に聞いてきた。
まぁ、俺みたいな若い奴が、爺みたいに景色を観てるなんて普通は信じられないだろうしな。でも本当のことだし嘘は付いてない。
「さっきも言ったろ」
「景色を見ていたのか?」
「そうだよ」
「そうか……」
少女がそう呟くと、しばらくの沈黙が流れた。
「そういえば」
「ん?」
「君の名前を聞いていなかったな」
そう言えば教えてないし、教えてもらってもいない。名前も知らないでよくこんなに会話してたな、自分でも驚きだよ。
別に隠しても意味がないので、簡単に詳しく教えた。
「藤の花の藤に、海の波の波で籐波」
「とうは?」
そう言って彼女は少し考え込んだ。ちょっと気になるから止めて欲しいんだけど…。
「どうした?」
「いや聞いたことがある気がしてね」
「俺の名前を?」
「ああ」
俺の名字はあまりない。普通は「ふじなみ」って読むんだけど、なんか分かんないけど「とうは」って読むらしいだから多分気のせいじゃないと思う。
「まあいいか、それで下の名前は?」
いいのかよと思いつつも、下の名前も教えた。
「四季の夏に、紀元前の紀で夏紀」
「籐波夏紀くんかいい名前だね」
「どうも……」
名前を初めて誉められたけど、嬉しいものだ。
その会話もすぐ終わり、それからは二人で海を見ていた。
「まずい忘れてた、すまない失礼するよ」
いきなり彼女は何かを思い出したらしく屋上の入り口の方へ歩き出す。
「あ、ちょっと」
「なんだい?」
俺の呼びかけに彼女は足を止める。彼女に聞いていなかったことを思い出す。
「キミの名前は?」
「蒼天の蒼に空で蒼空だ。また会えるといいね、それじゃあ失礼するよ」
彼女はそう名乗り、別れを告げた後、院内に戻っていった。あれ?……上の名前はどうしたんだ?
「ふぅ〜」
俺は溜め息を吐き、視線を海へ戻した。
やはりここの景色は綺麗だ。
「いたーー!」
屋上に響く誰かの大声。声で誰かは分かったけど。
振り向いてみるとそこには、我が姉がいた。そして怒ってる。
「紗癒、探したぞ」
「それはこっちの台詞!」
俺の無理がある嘘に突っ込んだ後に、近づいてきた。怖いんですけど…。
「ほら行くよ?」
「え?」
怒られると思ったが予想外なことに手を引っ張ってきた。
「ちょっ、紗癒?」
俺の言葉は無視され、手を引っ張られたまま屋上をあとにした。
「どこ行くの?」
急に足を止めるものだから紗癒にぶつかってしまった。
「なんだよいてーな」
「おばあちゃんの所」
なぜか知らんが紗癒は凄く機嫌悪い。それだけ言うと、また手を引っ張って急発進した。やっぱ俺のせいなのか……?
「紗癒、機嫌悪くない?」
「別に、早く行こう」
「はい…」
それから紗癒と一緒に祖母の病室に行った。俺が来た道とは反対方向だった。泣きたくなったよ?俺の馬鹿さに。
病室に入ると、祖母は元気だった。俺に会うなり「あんた夏紀かい?」と詰め寄ってきて頭を撫でられ「大きくなったね〜」とか色々なことを言われた。
だけどその後、俺のバイトがあるため早々に帰ることになり心優達が「また来るね」などと言い病室を出て行く。祖母は笑顔で手を振って「また来なさいな」と言っていた。
そして病院をでて、車に乗り込んだのだか、紗癒の機嫌がいつの間にか直っていて、隣に座るやいなやべたべたしてくる。正直しんどかったのだが、俺は疲れていてすぐさま寝てしまった。
家について起こされるなりホントにダルかった。だが頑張るしかない。
それからはバイトに行って、やって、帰ってきて、風呂入って、飯も食わずすぐに寝た。