第四話 真実 1
蒼空が学校に来始めてから一週間が経ち、月日は五月の終わり頃になった。でも蒼空は毎日来たって訳じゃない、学校がある一週間の五日の内、二日位は学校を休んでいた。
いつも来れない日には、病院の公衆電話から俺の携帯電話か自宅に連絡をくれる。来る日に連絡はなく、俺が校門で蒼空を待ち、来たら朝のHRが始まる前まで廊下でずっと喋ったりしていた。
そんでもって今日は、蒼空が来てる日。今はと言うと、三組と四組の間の廊下、つまり俺と蒼空の教室の間で、窓を開け、入ってくる風を感じながら、ホントにどうでも良いことで話していた。
「今日いい天気だな〜」
「うん。まさに五月晴れだね」
「……………って!見てないのになんで分かるんだよ!?」
視線を隣にいる蒼空に移すと、蒼空は窓際を背に、体を教室の方に向けていて、どう見ても外の景色を見ているとは思えない発言だ。
「言わせてもらうけど、昨日も同じ事言ってるし、昨日と同じ様な天気で同じ事を言いざるおえないんだよ」
「なに言ってんだ蒼空!?昨日と同じ台詞を言ったことは認めよう。しかし!よく見ろ!空は昨日と全然違う!!」
窓の外を指差す俺を、変なものを見るような目で見てくる蒼空。周りも同じ様な目で見てくる。………くっ!視線が痛いとはこの事か!?
だけど俺は変なことは言ってない、本当のことしか言ってないぞ?だってそうだろ、空ってあるだろ?快晴の時には確かに変わりはない、だけど雲があればどうだ?雲っていうのは同じ形は絶対にない。似ているのはあるけど、それは似ているだけで同じではない。つまり、昨日の景色と今日の景色は違うって事。………なにを誰に力説してんだろ、俺。
「……籐波くん。熱でもあるのかい?」
「ねぇよ!あったとしたら休むわ。……あ!でも蒼空が来る日なら無理して来るかも」
「っ………ありがとう。あ、ほらっ!そろそろHRが始まるから、戻った方がいいね。それじゃあ私は先に失礼するよ」
言った後すぐに四組に入っていく蒼空。やたら早口だったな?あとなんか顔が赤かったような気がしたけど、蒼空の方が熱あるんじゃないか?無理しなきゃいいんだけどな……、まぁ蒼空なら体調管理とかちゃんとしてそうだし大丈夫だろ。
それにしても今日は暑いな、まだ五月なのに気温が高い。って言ってもあと数日で六月になるけど……。もう梅雨に入るのか……そろそろだな。
話が逸れたが、まぁ、窓から入ってくる風のおかげで窓際は涼しいけど、やっぱ暑い日はイヤだな………うん。どうでもいいよね?
そんなことを思いつつ、廊下の窓を開けっ放しで教室に入った。
* * *
籐波くんと別れ、教室に入って席についても、私の顔はまだ赤かった。理由は分かっている。先程籐波くんが言った言葉のせいだ。
私が学校に来るなら、自分が熱を出しても無理をして来るって、こ、告白ではないのかっ!?……………でも多分、彼にそんな気はないだろうな……はぁ〜……この言葉は私に対しての優しさなのだろう。それでも、そんなことを言ってくれて嬉しかった。
私の為に行動する言葉を初めて言われたよ。それに、彼でよかった。他ならぬ、彼に言われたことが凄く嬉しかった。
まぁ、本当に彼が熱とか出して来るようなら、私も全力で止めるけど……。
「あの、西城さん……」
私が席についてぼーっとしてると、前の席の……谷中さんだったかな?その彼女が話しかけてきた。
「えっと、なにかな?」
「その……と、籐波 夏紀君と付き合ってるんですか!?」
「……え?」
付き合ってるというのは交際してるかと言うことだよね?交際はしてないけど……したいっていう気持ちはある………って!なにを言っているんだ私は!?今は彼女と話しているんだった。
「こ、交際はしてないよ?」
「そうなの?でも、凄く仲良いよね?籐波君って同じクラスの那川君達にしか、あまり喋らないからもしかして〜って思って聞いたんだけど」
「……谷中さん、もしかして」
彼女との話は籐波くんが絡んでる。私に付き合ってるのか?とか、彼のクラスでのことなど、こんなことを聞いたら普通に察するだろう。
「い、いやっ!別に好きとかじゃなくて!!」
「ふふ、私はまだなにも言ってないよ?」
「うぅ……西城さんのいじわる〜」
でも彼女の応援は出来ないな、彼女の恋が実ったら、私はどうすればいい?今の私に彼がいなくなったら、また前の生活の繰り返しになる。そんなのはもうお断りだ。だから、私は彼と一緒にいたい。高校生活もその先の未来もずっと一緒にいたい。彼が私に希望をくれたように、私も彼に何らかの形で希望を与えたいんだ。
だから、彼女には悪いけど、その恋は実らないで欲しいし応援も出来ない……したくない。自分でも嫌な感情なのは分かってる。だけど、彼のことは絶対に諦められないんだよ。
「蒼空でいいよ」
「え?うん。じゃあ私も里菜[リナ]でいいよ?」
「よろしくね。里菜」
私は今日、良い友達が出来たよ。彼女は恋のライバルでもあるけど、負ける気はない。だから待っていてよ籐波くん。絶対に私がキミの……か、彼女さんに、なってみせるから。




