第三話 再会 3
ベッドの上で目が覚めた。
あの後すぐに寝てしまったたらしい、上半身を起こし窓の外を見ると、黒い空と海が重なっていて見にくいが、月のおかげで微かに水平線が見えている。
そう、今は夜だ。今日はホントに寝てばっかだな……。
「おはよう、と言っても夜だけどね」
「……蒼空?」
「ん?」
起きたときには気付かなかったが、ベッドの隣の椅子に蒼空が座っていた。
「いや……、それよりどうしたんだ?」
「キミは何をしてるんだろうと思って覗いたら」
「寝てた?」
「ああ、かわいい寝顔だったぞ」
寝顔がかわいいって言われてもな、それより男にかわいいって言うのは、どうかと思うが……。
「どうも…」
「そう言うつもりじゃないんだが……、あ!そうそう、キミ最奥の籐波君だろ?」
「ん、うん!?」
いきなり立ち上がり大きな声を出し驚いた。どうしたんだ?
「やっぱりか〜、私も一応最奥なんだよ?」
え?蒼空が最奥?だけど俺……
「見かけたことないぞ?」
蒼空は、また椅子に座り直し、話を続けた
「それはそうだ、まだ二回くらいしか行ったことないからな……」
「お前、病気なのか?」
見た感じでは何ともなさそうだが、蒼空はどこか悪いのだろうか?でも病院にいるしな……。
「生まれつきね、体が弱いんだよ」
「ふ〜ん、ま、腕とか細いもんな」
「うん……、でも最近は調子がいいんだよ」
話を聞いていて思うことがある、調子がいいんだし、もしかしたら……
「明日さよかったらなんだけど、学校一緒に行かないか?」
「え?でも……あれだ、キミに迷惑が掛かるぞ?」
「あ〜大丈夫、そういうの慣れてるからさ」
事実、晴斗やら紗癒とか、相手してて面倒くさくなるしね
少し無理な提案かなと思ったが……
「ん〜そうだね………うん、行くとしようか?」
どうやら行けることになったらしい。学校に行くって事は、いい事、なんだよな?
「よし、じゃあ……」
時計を探し、見つけて時間を見てみると、大体夜の12時を少し過ぎてる位
「そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
「そうだね、そうするよ、籐波君はどうするんだ?」
「いや、俺は全然眠れそうにないからな、じゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」
蒼空は寝る時の挨拶をした後、自分のベッドに戻って行った。
俺は体制を変えず、視線を窓の外の、暗くてほとんど見えない空と海を見ていた。
俺は夜眠れずに、ずっと起きていた。
蒼空のことを始め、学校のこと、そして家族や……俺の、過去のことを、ずっと考えていた。
俺はこのまま、あの家にいていいのだろうか?紗癒と心優はこのことを知っているのだろうか?もし知っていたとしたら、何を思っているのだろう?
こういう事を考えていると、外ではもう夜が明けていて、海が普通に見えるくらいになっていた。
「もう……朝、か」
最近思う、時が経つのはとても早いなって。気付けば、あのことを知ってからもう五年が過ぎた。
五年間もあったのに、何もできなくて、何も変えられなかった。
俺は臆病者なんだ。真実を掴んだって、結局は今の生活を捨てられずに生きてきて、与えられた「嘘」、その嘘の家族や友人にしがみついているだけ……、でも彼奴等がいなかったら耐えられなかったと思うんだ。
いたからこそ、受け入れられたんだ。自分にも嘘をついて……。
もし、しがみつくのをやめたら、俺に何か残るのだろうか?
………答えはもう、とっくに出ているのに、それからもさえ逃げているんだ。
何も残らないって、わかっているから
俺は何がしたいんだろう?変われる日は来るだろうか、与えられた「嘘」の「今」から……。
「どうした?怖い顔をして」
声がした方を振り向くと、昨日と同じパジャマ姿の蒼空が立っていた。
「蒼空か……おはよう、早いな」
「まぁな、久しぶりの学校だ、色々と準備もあるだろ?」
学校、そんなに楽しみなのか?今の俺の状態なら苦痛でしかないよ。
「悪いな、無理に誘って」
「別に、私も暇なんだし」
「そうか……、それで、準備って?」
着替えたりするのにそんな時間が掛かるんだろうか?
「外出届、書かなくちゃいけないだろう?」
「大変だな…色々と」
「君も書くんだよ!今日まで一応、安静にしてなきゃ駄目なんだろ?」
え?そうなの?ってか教えてもらってないし、あ!俺がみんなを帰したからか……。
「いいよ……抜け出さね?」
「キミはいいかもしれないが、私が帰るのはここなんだよ」
「ははっ、冗談だよ」
今でも覚えてるよ、俺の冗談を蒼空が本気にしてさ、よく叱られたっけ……。
「じゃあ私は貰ってくるぞ?……二枚な」
「早くないか?まだ……六時前だぞ?」
「早いに越したことはない、じゃ」
それから蒼空はこの場を後にし、病室から出て行った。




