第二話 最奥学園 6
「うっ!」
痛い、首がズキズキする。でもホントに気絶するんだな、楓の技。
「あ、ナツ起きたよ」
「な、夏紀くん、ごめんなさい!」
いや瑞穂は悪くないよ…多分、紗癒が悪いんだから
「大丈夫、気にしないでください」
「よしナツも起きたし帰るか」
「え?……あ」
3時40分、学校の授業が終わって25分、教室誰もいないよ、気絶してから約2時間、俺今日何のために学校来たんだ?
「待たなくてもよかったのに、じゃ、帰るか?」
「ナツ、素に戻ってる」
「どうせ誰もいないさ」
そろそろこの口調も戻そうと思ってるんだけどね
「瑞穂も帰るぞ」
「あ、うん…」
それから誰もいない教室を後にし、昇降口で靴を履き替え外に出た。
「そういえば、楓は?」
「よくわかんねーけど、怒って帰っちゃったな」
まぁ原因分かってるんだけどね、明日ちゃんと説明すれば、大丈夫だと思うんだけど
「ふーん、でも何か今日疲れたな、晴斗はバカだったし」
「関係ねーだろそれ!?ってかお前ほとんど寝てたろ!?」
「うるせー、オメーもそうだろ」
「毎回思うんだけどさ、俺だけ扱い違くね?」
「……………」
「……ナツ?」
何か静かと思ったら、瑞穂が無言で俯いて、ついてくるだけだった。
「……瑞穂?」
「え?あ、なに?」
「なにはこっちの台詞だよ、そんなんじゃ車に跳ねられるぞ?」
虫が止まっても気付かないな、あれは
「だ、大丈夫だよ!そんなぼーっとしてないし」
してるよ。晴斗も見てるし。
「でもね、ちょっと考え事があって」
「そうか…でもそんなに悩んでるなら、相談しろよ?俺でもいいし、晴斗もいるんだから」
俺とお前等の仲なんだからさ
(なんだ?)
「うん、ありがとう、夏紀くん」
「優しいねぇ〜流石は夏紀くん」
晴斗が冷やかす、いつもだったら蹴ったりするのに、今はそういう気分じゃない。
「お前もだよ、晴斗、悩みがあれば相談しろよ?」
「え?……あ、ああ、お前がそんなだと調子狂うな、どうしたんだ?」
別にどうもしない、けど、なんだこのもやもや、気持ち悪い、なにかいやな予感がする。
* * *
「なぁ瑞穂」
「分かってるから、言わないで」
何故俺らがこんな話をしてるかと言うと、前を一人で歩いている幼馴染みのせいだ。
「でもあれってよ〜、キレてる時と同じ…だよな?」
「うん、どうしたんだろ、いきなり」
確かにいきなりだった、俺と瑞穂を心配したと思ったら、そのまま黙り込んで一人で先に行ってしまう。ホントにどうしたんだよ?
「おい瑞穂、お前声かけてみろ」
「え?私が!?」
「お前なら大丈夫だ」
俺が声をかけたら、多分蹴られる。いや、確実に
「わ、わかったよ〜」
言い終わった後、ちょこちょこと夏紀に追い付く瑞穂。なんかの小動物だと思ったのは、黙っておこう。
「あ、あの夏紀くん」
「………え?ああ、瑞穂?どうした?」
「あのね……夏紀くんも悩んでるなら、私達に相談して欲しいな?」
おおっ!瑞穂上手いぞ!その手があったか、それなら俺でもいけたかも……多分。
「……ありがとな、瑞穂」
そう言って夏紀は、瑞穂の頭を撫でた。なんかあいつらのほうが、兄弟に見えるな。
「へへ、どういたしまして」
「だけど、俺もちょっと考え事なんだ」
「あ、うん」
瑞穂は後ろに振り向き、敬礼のポーズでアイコンタクトを送ってくる。
(頑張りました)
俺も親指を立て、少し頷き、アイコンタクトを送る。
(よし、よくやった)
俺らがこんなことやってるなんて知らず、夏紀は先に行ってしまう。
「あ、行っちゃう」
瑞穂は、「何が?」と言わんばかりに、首を傾げる。
俺は夏紀に向かって指を差し、瑞穂も差した方向を見る。そして二人の視界に、嫌な光景が広がる。
「夏紀!?」
「夏紀くんっ!!」
気付いたときに遅かった、夏紀の体は、車のけたたましいクラクションの音が鳴り響くと同時に、吹っ飛ばされていた。
「イヤーーーッ!!」
夕暮れの路地に、瑞穂の叫び声が響く。
そしてこの事故から、俺達の気持ちが少しづつずれ始めていったんだ。
二話目完結しました。 読んでくださっている皆さんありがとうございます。