第一話 出逢い 1
「眠い………」
まだ朝の九時ぐらいだろうと目を覚まし、携帯電話のボタンを押して明るくなったディスプレイの時間を見た。
「まじかよ、寝過ごした」
携帯電話の画面を見ると24時間表示の時計で、13:06と表示されてる。別にこれといって用事があるわけではない、でも流石に昨日の十二時頃に寝て、起きたら午後の一時……つまりは、半日も寝ていたら誰だって一日無駄にしたっていう感じがあるだろう。
「ふぁ〜あ、今日もバイト怠いな〜」
ベッドの上で欠伸をして、誰かが聞いているわけでもないのに愚痴をこぼす。だってこういう事言わなきゃ仕事とかやってらんないでしょ?
そんなことを思ったりしてみるとドアの方から誰かのノック音が聞こえた。
「はい」
俺が返事をすると「ガチャ」というドアの開く音と同時に母親が入ってきた。
「どしたの?」
「あんたやっと起きたの?ご飯片付かないから早く食べちゃってくれる?」
「ん〜わかった〜」
やる気のない返事をした俺のほうを見た後、母親は溜め息を吐いて部屋から出て行った。
ちなみに母親の名前は「瞳」さんだ。どうでもいいって?よくないよ母親の名前だよ?大事でしょ。
それから2分位ぼーっとした後、やっとのことベットから降り、部屋のカーテンと窓を開けてベランダに出た。
「ん〜、今日はいい天気だな〜、ふぁ〜あ」
今日はかなりの青空だ。快晴というのだろうか雲一つと無い、こういう日は気分がよくなるね。
欠伸をしながら下を見ると、母親が今から洗濯物を干すのかカゴが置いてある。その中には、家族五人分の量と見られる結構な程の洗濯物が入っている。一時なのに大丈夫なのかな?
そういえばうちは、両親に姉と妹、そして俺っていうごく普通の……少し変わった五人家族だ。
そしていきなりだが、俺の部屋は二階にある。そんでもって見晴らしがいいんだ。この街を一望できて遠くには海も見える。
何せウチの親父が……
「家を建てるなら空気がうまいところがいい」
と言ったらしくこんな結構な山の方の高台にある。
そのおかげで夏場は虫が五月蝿い。朝から夕方にかけては蝉共で、夜は夜で「スイーチョン」、「ガチャガチャ」などの名前も知らない虫共が騒いでいやがる。ホントに騒々しい、寝不足になった程だ。
まぁこのことを両親に言ったとしても…
「お前は少し神経質すぎだ」
「馴れれば子守唄みたいに聞こえるわよ」
聞こえねーよ、普通に五月蝿いから、あんたらの神経が図太いんだよ!と、何度思ったことか。つまり言ったとこでなにも変わらないってこと。まぁ、もう諦めたけどね……。
とまぁこんな感じの少し変わった両親だ。姉と妹はもうちょっと先で。
ベランダから街の景色を充分満喫した後、寝間着姿のまま自分の部屋を後にして、二階から一階への階段を降りた。
一階に降りて、階段近くにあるリビング。そのドアを開け室内に入った。
入ってから右側を見ると、ソファーに姉の紗癒[サユ]と妹の心優[ミユ]が座って仲良くテレビを観ている。視線を画面に移すと、バラエティーか何かの番組が映っていた。
ここでこの姉妹の紹介しときます。
まずは姉から。本名籐波 紗癒[トウハ サユ]高校三年生の17歳。
凄い美人さんです。顔も整っていて髪も長くて綺麗だしスタイル良いし、美人以外の言葉が見つからないくらい美人さんです。弟から見ても綺麗なんだもん、他の人はどうなんだろうねまったく。学校でも凄いんだこれが、成績優秀で運動神経抜群だよ?もう、マンガとかの世界の人だよね?……でも家では、学校でもなんだけど、気のせいだと思いたいんだけど、俗に言うブラコンなんだよ。こんな人に学校で抱きつかれたらどうよ?もう周りの目とかね、大変だよ?………もう疲れたな……兎に角、俺にとっては面倒くさい姉ってこと。以上紗癒でした。
続いては妹です。本名籐波 心優[トウハ ミユ]中学二年生で最近誕生日を迎え14歳になりました。
この子はめちゃくちゃ可愛いです。やっぱ姉が姉なだけにこの子もね、可愛いですよ。……俺は決してロリコンとかそっち系じゃないからね?………話を戻すけど、性格も明るいし、この子がいるだけで、その場の空気が和んじゃうくらい。普通さ、このくらいの年頃になれば悪口とかで生意気になるでしょ?でもね、この子は違うの、いまだに「お兄ちゃん」って言うしね、中学に入ってますます甘えてくるようになって……だから違うからねロリコンとかじゃ………じゃなくて!まぁいつまでも可愛い妹なわけですよ。以上心優でした。
二人の紹介が終わったので話を戻します。
心優が俺の足音に気付いたのか、顔だけ振り向いて声を掛けてきた。
「お兄ちゃんおはよ〜。今日は遅いね」
心優の言葉に紗癒も気付いて、同じ様に振り向き声を掛けてくる。
「ナツくんおはよ〜。ホントに遅いわね?もうご飯できてるわよ」
そういえば紗癒は、昔から俺のことをナツくんと言う。まぁ、もう慣れちゃってるし別に気にしてないけどね。
「ああ、おはよ。最近怠くてね」
「お兄ちゃん最近アルバイト頑張ってるもんね」
先程の起きてからの愚痴の通り、俺はバイトをしている。金銭的理由ではないが、少し訳ありで……まぁこの話はいずれ。
「その調子で勉強も頑張ってくれると嬉しいんだけどね〜」
「紗癒は勉強のことでうっさいんだよ」
「はいはい」
紗癒にからかわれた?後キッチンに行き、テーブルに置いてある冷めた朝食[昼食?]を温めないまま食べ始める。
そういえば自己紹介がまだだった。俺の名前は藤波夏紀[トウハ ナツキ]15歳、最奥学院高等部一年部[さいおうがくいんこうとうぶ]に通う高校生で特技、趣味は特になし。
あと俺は、勉強が出来ないってわけじゃない。普通くらいなんだ。中学の時なんだけど、テストのときに大概寝ちまうんだよ、あの静かな教室の中の筆記音がどうしても耐えらんないんだよな……。大体、あんな紙切れで生徒の良し悪し決められるのが嫌でムカついた。それで何回かは名前だけ書いて提出したこともあったけどね……。
ご飯を半分程度食べると、親父がリビングのドアを開けて入ってきた。その後新聞片手に俺の向かい側に座る。
「夏紀、おはよう。今日は随分遅いな?」
「おはよう。バイトで疲れててね、まだ少し眠いんだよ」
「そうか、バイトもいいが程々にな」
「うん、わかってる」
親父は言い終わると同時に新聞を読み始めていた。
会話を聞いての通り、俺と親父は少し疎遠気味だ。理由はなんだろ?俺がただ話すの面倒くさいからかな?
しばらくの沈黙の後、親父が声を掛けてきた。
「夏紀」
「ん?」
「学校はどうだ、楽しいか?」
表情には出さないものの、内心ではかなり驚いた。ご飯の食ってる箸は止まったけどね…。
だって俺は学校が嫌いだから。別に交友関係では問題ない。知り合いと会話したり、遊ぶのは好きだし。
なにが嫌いかっていうと……色々あるけど、一番は同じ事の繰り返しかな?朝早くに起きて、学校に行き、授業をやって帰る。この繰り返しが、小中高合わせて、十年以上もあるんだよ?やってられないでしょ。
幸いなことに、親父の視線は新聞の方に向いているため、俺の変化には気付いていなかった。
「ん〜まぁ、普通だな」
曖昧な返事だけを返した。楽しいと言えば安心するかもしれないが、嘘はつきたくない。かと言ってつまらないと言えば、かえって心配するだろうし、だからどちらでもない答えが一番いいと思った。
「そうか、まぁ気楽にやれ」
「うん」
そんなやりとりがあった後、紗癒と心優がキッチンの方に来た。