第3話「ほらね!ほらね!ほらほらほらほらほらほら」
さ、さっきなんか時間移動のスキルを取得したとか言ってたよね?
ど、どうしようか。
やばいやばい。
怖いけれどなんかちょっと嬉しい…ってか、え!?
時間移動て、え?
ちょちょ、そっれってどういう意味。
やばくないか?
え、これってつまり、そ、そそそその僕がスキルを…?
うわあああああああああああああああああああ!!
と、とりあえず落ち着こう。
先ほど頭に浮かんだ文章…あれは魔力測定した時と同じようなものだった。
まあ、そこはあまり気にしなくてもいいだろう。
問題はそう、内容だ。
時間移動というスキルを取得した、というような内容だったが…
こ、これってまさか文字通りの時間移動スキル?
いやいや、僕は確かにチート能力が欲しかったと心の中で叫んだが、こうもあっさり手に入るものではないだろう。
そもそも、欲しいと思うだけで手に入るとかおかしいだろ。
生まれたときから持っていたとかならまだしも。
き、きっと膨大な魔力を消費するとかそんなやつなんでしょ?
500とか、1000とか。
て、てか、どうやって発動するんだ?
誰でも取得できちゃうけれど発動する方法が物凄く難しい、とかならあり得る。
とりあえず念じてみよう。
時間移動!時間移動!時間移動!
…うん、何も起こらないな。
次は口で言ってみよう。
扉を少し開け誰もいないのを確認し、小さく呟く。
「じ、時間移動…」
【移動する時間を指定してください】
ええええ!!
ま、まじかよ…。
えっと、これも口で言えばいいのか?
うーん、どうしよう。
時計をちらりと見る。
今の時間は午前11時13分。
なら、試しに5分戻ってみよう。
【5分前に移動します】
言わなくていいのか。
確かに時間移動は、思っただけで発動してしまうとややこしいから言わなくてはならないだけだろうし、時間指定は言う必要がないってことか。
結構考えられてるんだな、このスキル。
【移動が完了しました】
脳内に文字が浮かび上がった。
再び時計をちらりと見る。
午前11時8分…ちょうど5分前だ。
うん、ちゃんと動いてる。
ええ…?
いや、まさか本当にチート能力を手に入れられてしまうなんて。
しかも、時間を好きなだけ行き来できる能力。
上手く使いこなせば瞬間移動にもなるし、死にそうになってもこれで戻ればいいだけ。
完全に無敵だ。
昔夢見ていた、最強キャラとして無双する夢が叶えられるのだ。
夢が広がる。
…待てよ?
もし時間移動が、この世界では普通のスキルだったら。
僕のように、チートが欲しい!と思っただけでもらえるものだとしたら。
あり得ないような話だが、可能性はゼロじゃない。
一応確認してみよう。
「おかあさん!」
「あら、どうしたの?フィル」
「ぼく、みらいにいってみたい!」
「未来だなんて、随分難しい言葉を知ってるのね。でも、未来に行くのは無理よ。時間を移動する魔法もまだないもの。フィルが頑張って勉強したら、できるかもしれないわね。」
「そっかー。ぼく、がんばるね!」
「ええ、頑張って」
だそうだ。
そうか。
ということは僕は本物のチートなのか。
実感が湧かないが、そうか…。
顔だちも体形も平凡で、普通の親に生まれ人並みに遊び、人並みに勉強し、普通の高校に行って普通にすごし…前世では普通と平凡の具現化だった僕が、異世界に転生してチート能力を得た。
今でも少し信じられない気持ちがあるし、ぶっちゃけ変な話だと思う。
でも、こんな僕でもチート能力を使えば、もしかしたら…
人助けを沢山して、みんなに尊敬されて、素敵な仲間を沢山作って、夢のような人生を…
こんな僕でも、送れるかもしれない。
やる気が出てきた。
そうだ、大きくなったら冒険者になろう。
そして、沢山仲間を作って世界中を旅して…
「フィル?そんな所でなにやってるの?そろそろご飯よ」
あ、やばい。
冒険者になる妄想をしていたら、いつの間にか時間が経っていたようだ。
ドアを少しだけ開けてこちらを見ているアナベルから本の表紙を隠しつつしまう。
字か読めなくても表紙の絵が魔法っぽいからな。
厄介なことは避けたい。
「おかーさん、きょうのごはんなにー?」
「ふふふ、見てからのお楽しみよ」
最近は柔らかいものなら食べられるようになったのだ。
この家の料理は結構美味しい。
僕のお気に入りはクラムチャウダー。
野菜の茹で具合が好みにぴったりなのだ。
さて、明日からは魔法の練習をしてみるか。
時間移動だけできても冒険者にはなれないだろうからな。
お、今日のメニューはクラムチャウダーと柔らかいパンだ。
僕の好きなクラムチャウダーだ、やった。
いいこと続きだなあ。
まあ、クラムチャウダーはこの家ではよく出るものなのだが。
それでは、いただきます。
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そして翌日。
小さな本棚を前に、「初めての魔法」を開く。
初めから4ページ目。
よし、昨日の続きを読んでいこう。
「魔法にはいくつかの属性がある。主な属性は水、風、土、火、光、闇の六種類であり人によって得意不得意が分かれる。光と闇は得意とする者が非常に少なく珍しい。」
属性か。ゲームでもよく聞く言葉だが、闇とか使えたらかっこいいな。
辺りがいきなり暗くなり、慌てる勇者。
そこで現れる僕!
黒い宝石の付いた杖を持ち、呪文を唱える!
勇者は何も出来ぬまま魔法に巻き込まれ、気づけばそこには何もなくなっていて…
おっといけない。
こんなことを考えていると将来黒歴史になってしまう。
次いこう、次。
「初級魔法 初級魔法とは、魔法の階級のうち最下位の魔法である。大体の生活魔法はこれに属し、アレンジ等もしやすい。ほとんどが小規模な魔法だが、威力は変えることができるので戦闘にも多く使われている。」
ほうほう。生活魔法というのはアナベルが出していた水のようなものだろうか?
威力が変えられるというのもいいな。
最初練習するならこれだろう。
うん、説明はこのくらいでいいかな。
お待ちかねの実践だ。
はやる気持ちを抑え、ページをめくる。
うーん、とりあえず得意不得意を見つけるためにひとつずつやってみよう。
最初は水魔法。
…やってみようとは言ったものの、部屋が水浸しになったら困るな。
絶対怪しまれる。
だって、よく考えたら一歳が五日で文字マスターして親でも読めない本を読んで理解し魔法使い始めるとかおかしいよな。
天才とかで済まされるレベルじゃないような気がする。
だとしたら無難なのは風だろうか?
火は火事になるし、土は部屋の中にあったら怪しいし、光と闇はよく分からないけど室内で使っちゃいけない気がする。なんかやばいことが起きそうで怖い。
風ならまあ大丈夫だろう。
見えないし。
「風属性 初級魔法
風刃:風属性の魔法の中で最もオーソドックスな魔法。風を刃として対象のものを切り裂く。」
なるほど、確かによくありそうな名前だ。
魔法の使い方の説明に戻り、そこを読みながら実践してみる。
まず、体内に流れる魔力を意識する。
体の中で水が流れているイメージ。
むむ、難しいな。
水、水、体の中に水が…
こ、これでいいのか?
なんとなく水が流れているような気がした。
次に、それを指先に集めるよう意識する。
そして、それを任意の属性魔法の形に変えて放出。
えっと、こうかな?
水を指先に…水を指先に…
「ヒュン!」
あ。
魔力を水と意識しすぎて、水属性を放ってしまった。
威力は…うーん。
壁にぶつかったけど、壁はびくともしていない。
これってどうなんだろ?
次はちゃんと風でやってみよう。
さっき意識していた水を、風の感覚に変えて…
指に流し込むのはさっきと同じくらい…
あれ、心なしかさっきよりきちんとイメージできる気がする。
じゃあ、結構鋭いものを…
指から…
「ヒュン!」
おお!
…って、や、やばい。
壁に大きな亀裂ができてる。
だんだん広がって…
し、死ぬ!
「時間移動!」
【移動する時間を指定してください】
えっと、三分前!
【三分前に移動します】
早く早く早く!!
【移動が完了しました】
ふ、ふう…。
危なかった。
あのままだったら壁の下敷きになるところだった。
危ないから、魔法の練習はこのくらいにしておこう。
流し込んだ魔力の量は多分同じだと思うし、心なしか操作もしやすかったので風属性が僕の得意属性なのだろう。
僕は操作能力も平均と大して変わらないがこのくらい操作できている。
ということは、両親が平均以下なのではないだろうか。
両親の魔法能力が遺伝しなくてよかった…。
タイトル通りの展開になるのはもうちょい先です