第2話「異世界=チートなんだよね知ってる...と思っていたんだ」
さて、今日からは文字を覚えようと思う。
舌足らずな時期はもう終わったが、親の前では怪しまれるといけないので1歳6か月相応の話し方をするようにしている。
しかし兄弟のいない僕は1歳6か月でどれだけ話せるものなのか分からないので、少々話し方がこの歳にしては大人びてしまった。
両親が「うちの子は天才かも知れない」なんてよく話すのを見かける。
半分以上単なる親バカだと思うが。
というわけで、アナベルのところに来てみた。
「おかーさん、もじ、よみたい、おしえて!」
「まあ、なんて頭のいい子でしょう。ねえクロード、この子きっと将来天才になるわよ。あなたもそう思うでしょう?」
「もちろんだ。俺たちの子供が馬鹿になるわけないだろう」
「ええ、そうね。でも、文字ねぇ…私は読めないし、クロードも読めないじゃない。どうしましょう。あ、ウスターシュなら読めるはずよ」
なんということだろう。
何が俺たちの子供が馬鹿になるわけないだ。
この体が持ち合わせている僕の頭脳が心配になってきた。
ちなみにウスターシュとはうちの執事のことである。
やはり優秀な人だ。
実に泣けてくる。
「お呼びでしょうか?」
空気の読める優秀なウスターシュがやって来た。
「あら、ウスターシュ!ちょうどいいところに。この子に文字を教えてくれないかしら?ほら、私達、ちょっと忙しいから」
忙しいようには見えなかったが。
「ええ、分かりました。お任せください」
きっと察したのだろう。ウスターシュは華麗に一礼し、僕を抱え上げて本棚のある寝室へ連れて行った。
何故アナベルとクロードは文字が読めないのに本棚があるのだろう。
永遠の謎である。
ウスターシュの授業は実に分かりやすかった。
学校の先生にもなれるレベルだと思う。
もしかしてうちはウスターシュのおかげで成り立ってるのではないだろうか。
きっとそうだ。
それしかありえない。
この世界にある文字は一種類だけだった。
ひらがなみたいに組み合わせて使うが、ひらがなと違ってややこしいルールが無いので比較的簡単だ。
漢字に慣れている僕からすると少し読みにくいが、そこは慣れれは大丈夫だろう。
文字の正式な名前は「アンベール文字」だった。
アンベール王国、強い。
というか、一歳半に対してここまでの説明をするなんて僕の正体が見破られていそうで冗談抜きに怖い。ウスターシュは鋭いし。
でもまあ、アンベール文字は簡単そうなので、この調子ならすぐ覚えられそうだ。
早く覚えて本を読みたい。
きっといい情報源になるはずだ。
魔法の本とかもあるかもしれない。
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そして5日後。
アンベール文字をマスターした。
え、早いって?
いやいや、よく考えてほしい。
赤ちゃんの生活なんて、ごはん以外やる事が無いのだ。
1日のうち10時間くらいずっと暇なのだ。
ゲームもパソコンも何もないのに、暇な時間はニート同然。
これでもサボった方なのだ。
ああ、早く3歳くらいになりたい。
それはまあ置いておいて、今はやりたいことがある。
そう、読書だ。
やっとだ。
やっと本が読める。
というわけで本棚へ行こう!!
ダッシュだ!
はいはいだけど!
本棚の前に座る。
ある本の数はちょうど10冊。
そのうち3冊はアンベール文字の教科書で、2冊は他の言語で書かれている。
となると5冊しか読めるものが無い。
結構少ないが、この世界の本は手書きなのでこれでも多い方だろう。
ざっと題名を読む。
「あんべーるおうこくのれきし」
「まものずかん」
「りょうりのきほん」
「たべられるやせいのしょくぶつ」
「はじめてのまほう」
あった!魔法、あった!
楽しみは最後に残しておいて、一個ずつ見ていこう。
「アンベール王国の歴史」…これは題名通り、アンベール王国の歴史について書かれている。 この世界についての情報源としては随分良いだろう。
次に「魔物図鑑」…これも題名通り、魔物の種類や生息地等が書いてある図鑑だ。
そういえば両親の会話に何度が魔物という言葉が出てきたな。
魔物がいるなら、冒険者なんて職業もあるのだろうか。
ちょっとやってみたい。
三つ目は「料理の基本」…これも題名通り。料理の基本知識やレシピが乗っている。
和食は無さそうだな。ちょっとショックだ。
まあ、これはよっぽど暇でない限り読まなくてもいいだろう。
そして「食べられる野生植物」…冒険者の方におすすめ!なんてことが表紙に書かれている。
やっぱり冒険者はあるみたいだ。
夢が広がる。
この本には植物が写真付きで紹介されている。調理方法も書いてあってなかなか親切だ。
そして最後。
そう、「初めての魔法」。
初めての、魔法。
僕にぴったりの本だ!
さっそく読もう。
待ってなんかいられない。
えっと…どれどれ。
「魔法とは、体内にある魔力の形を変えて放出する技のことである。生活の補助から魔物討伐まで、様々な場所で活用されている。」
なるほど。
体内にある魔力の形を変えるのか。
体内にあるのか。
すげえや。
「体内にある魔力の量は人によって異なる。正確な魔力総量は魔法道具または魔力鑑定魔術によって測定可能である。」
それが無いと測定できないのか…?
「魔法道具は本書の一番最後のページに付録されているが、五回しか使えないので注意。」
お、あるのか。
しかし五回となると、もう使われている可能性があるな…。
おそるおそるページを開く。
「残りの使用可能回数 五回」
そこにあったのは手の形をした板と、この文字。
「まじかよ」
思わず声が出てしまった。
確かに僕の両親は文字が読めないが…
誰も読んでないのか…?
何のために買ったんだ…
とりあえず、自分の手をその上に乗せる。
…
何も感じないな。
何だろう。
頭の上にはてなマークを浮かべていると、手形が光り手が浮いた。
手が浮いた!!
しばらく感動に浸っていると、光が収まり頭の中に文字が浮かんだ。
【鑑定結果 貴方の魔力総量は400です】
【魔力のコントロール能力は400です】
急いでページをめくり、魔力総量表を見る。
「平均魔力総量…250~350」
「平均コントロール能力…250~350」
「400を超えていたら優秀。」
「500を超えていたら天才。」
「アンベール王国の代表的な魔術師達の平均は大体600。」
「世界記録は1100。」
…。
ちょっと平均より上なだけじゃん。
異世界チート、期待してたのに…。
ああ…なんか冷めてきたな。
まあ、でも優秀なだけいいだろう。
高望みなのはよくなかった。
…
…でも、やっぱり
チート能力、欲しかったぁぁぁぁぁぁぁ~!!
【ロックが解除されました】
ん?
【スキルを取り込みます】
え?
【取り込み中…】
はい?
【スキルの取り込みが完了致しました】
うん?
【スキル「時間移動」を取得しました】
え?
…え?