プロローグ‐平凡な日常が終わった日‐
初投稿です。
よろしくお願いいたします。
それはあまりにも唐突だった。
ところどころに燃え尽きたたばこが転がっている通学路。
忙しそうに早歩きをするスーツ姿の大人。
いくつもの重そうなビニール袋を両手にぶらさげたお母さんたち。
早めのスピードで変わる信号とせわしなく車が行き交う交差点。
そのどれもが見慣れたもので、僕はいつも通りの日常に溶け込んだまま今日という日を終えるはずだった。
実際あんなことが起きなければ、僕は当たり前のようにいつもと変わらない日常を過ごし続けていただろう。
それは、僕が交差点を渡り始めたとき。
不安定な運転で曲がってきたトラックが、僕の体に勢いよくぶつかった。
始めはわけがわからなかった。突然の衝撃に頭が真っ白になり、急に痛みが襲ってきて・・意識が朦朧とし始めた。
もし、あのトラックを運転していたのがベテランの運転手だったら。僕がもうちょっと前に学校を出ていたら。運転手の人が、運転を始める前にコンビニによっていたら。
可能性を上げ始めたらきりがない。でも、どんなに考えても僕が轢かれたことは変わらない。あの交差点で、あの時間に・・・奇跡的な確率を乗り越えて、俺はトラックに轢かれた。
誰かの叫び声が聞こえた。だんだん思考があやふやになってきて、何を言っているのかよくわからない。
耳鳴りも、誰かの話し声も、サイレンの音も、悲鳴も、痛みも、全てがごちゃごちゃになっている。
もうほとんど残っていない力を振り絞って、少しだけ目を開けた。
まぶしい。
血だらけで地面に横たわる僕を嘲笑うかのように太陽が照り付けてくる。
目を開けているのが辛くなったので目を閉じた。
耳鳴りがいっそう大きくなり、周りの音をかき消す。
ああ、音がごちゃごちゃしている。
うるさい、鬱陶しい。
最後くらい、せめてしずかにしてほしいものだ。
ああ、僕、もう死ぬのかあ…
何か心残り、あったっけなあ…
苦しい…
くる、し…
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「あう!!」
叫び声を上げ、体を勢いよく起こした。
なんだか叫び声が赤ちゃんのうめき声のような間抜けたものになってしまったが、恥ずかしいのでなかったことにしよう。
「ぉえ!!」
体を起こした途端、首ががくっと後ろに倒れた。その重みで体ごと後ろへひっくり返る。
あれ、おかしいな。僕の首ってこんなに安定していなかっただろうか?
違和感を覚えてあたりを見回す。
ここは・・僕の家では無いな。今いるのは茶色い布団の上で、部屋は結構広め。少し上の方にカーテンの付いた窓がある。
というか、なんで僕は人の家で寝てるんだ?友達の家でも無さそうだし、見覚えは全くない。
ま、まさか誘拐だろうか?しかし誘拐にしては随分と扱いがいいな。
なんだろう。僕、なにか人の家に連れ込まれるようなことしただろうか?
とりあえず、記憶をたどってみよう。
僕はたしか、学校が終わっていつものように下校していたんだ。
途中で姉の友達に会って挨拶して、道端の石ころを蹴ったりしながら歩いて。
交差点について、あと少しで家って時に・・・
あれ?あの後、僕は交差点を渡って、、
「・・!!」
あ、そうか、僕、あの時トラックにひかれて、死にそうに・・
・・・ん?
なんで死んでないんだ?
あれ、絶対死んでたよな。
もしかして、と自分の手を見た。
少し赤みを帯びた、もちもちしている手。
そのまま手を伸ばし、体中を触った。
・・・うん。
間違いない。
僕、赤ちゃんになってる。