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6.森狼

血を操り、いざ熊の解体を始めようとした所、予想外の事態が起きた。いや、今思えば、予想しなければいけない事だった。熊の咆哮を聞きつけたのか、熊の死体を中心に、狼の群れに囲まれていたのだ。緑色の毛皮に、茶色の尻尾は保護色のようなものだろうか。全く気付かなかったオレが間抜けだっただけか。オレの目の前、大体10メートルほど先に、周りの狼に比べて一回りデカい狼が、こちらをジッと見ている。その群れを率いているっぽい狼を、『鑑定の魔眼』でステータスをチェックする。


○一一一一一一一一一一一一○

l名前:フォレスト・グリーン・ウルフ・リーダー(ノーネーム)

l種族(状態):狼族(空腹<小>)

lLV:9(1432/2500)

lHP:67/67

lMP:4/4

l攻撃力:33

l守備力:30

l行動力:58

l幸運 ;6

lスキル

l-狩猟<野生>(3/5LV)

l-統率(1/5LV)

l-擬態(2/5LV)

○一一一一一一一一一一一一○


熊よりは攻撃力も守備力も低いが、行動力がかなり高い。仮にこいつから逃げれても、群れを使われると逃走は難しいかな。オレが此奴らに気付かなかったのは、この『擬態』ってスキルの影響もあるかもな。

そのリーダー狼の周りにいる狼は、『フォレスト・グリーン・ウルフ』。スキルは『狩猟』と『擬態』、ステータスはボスよりも一回りか二回りか落ちる。森狼が何体いるかは分からないが、控えめに見ても大ピンチだ。

いや待て。こんな時にこそ、ポジティブに考えていこう。

経験値が向こうからやってきたと考えるのだ。逆に、オレが奴らを逃がさない位の気持ちだ。全部オレの経験値になっ貰おう。

熊の死体と、樹洞の間にいたオレは、リーダー狼を睨み付けたまま、少しずつ後退し、樹洞から剣を取り出す。オレが退いた分、狼は少しずつ近づいてくる。取り出した形見の剣は、ステータスが上がったためか、非常に軽く感じた。

さらに、『液体操作』で抜きかけていた熊の血液を全て抜き取り、球体にまとめ宙に浮かべる。

熊の血液はさすがに多く、抜いて纏めるのに10秒ぐらいかかった。


「アオォォォォン!」


此方が何かしているのを感じ取ったのか、リーダー狼が遠吠えのような咆哮を上げると、周りを囲んでいた狼たちが、一斉に突っ込んできた。それに対し、オレはさらに熊の血を操作する。


(半径5mの円周上に、高さ2mほどの薄い膜を作り、俺を囲う。別液体変化で濃硫酸に変化。飛沫は俺に飛ばないように)


すると、オレの周りに宙に浮いた、赤い血ののベールが、俺を中心にして展開される。やや酸っぱいにおいがするのは、濃硫酸にしたからだろうか。それとも血の匂いが残っているのか?

その膜に、狼たちが突撃し、強酸の膜を無理やり突破した。だが、強酸に耐性のない毛皮はジュウジュウと音が鳴り爛れ落ち、眼球も焼かれ、悲痛な鳴き声を上げていた。

グロテスクな光景だが、躊躇っている暇はない。オレはダメージを受けている狼に駆け寄り、首を狙い、剣を突き刺した。ステータスの差もあってか、あっさりと喉元に剣が突き刺さり、狼は動かなくなる。

その間にも、狼たちが次々と強酸のベールを潜り抜けて来るが、全て溶かされる痛みに耐えられず、戦闘不能状態になっている。


(地獄絵図って感じだな)


自分で行ったことながら、ちょっと引いてしまいつつも、まだ息のある狼一体一体に止めを刺して行く。

ヴェール端の最後の一体の止めを刺し終わると、先ほどの遠吠えとは違う、まるで激高しているかのような咆哮が聞こえた。まだ姿の見えないリーダー狼の声だろう。


「ガァァァァァアア!」


このヴェールに触れるのは危険と外より判断したのか、なんと、リーダー狼はヴェールを突破せず、3メートルの高さを跳躍して、強酸の膜を張っていない上から、ヴェールの中心に降り立ったのだ。

もしかしたら、外の熊の死骸を踏み台にしたのか?

無傷でヴェール内に入られたとしても、オレがやることは変わらない。再び『液体操作』を行う。


(オレの真後ろのヴェールを一部解除。オレがヴェールの外に出た後に、ヴェールを球体上に変化。リーダー狼を包み込み、溶かし尽くせ)


中央のリーダー狼を注視しつつ、バックステップでヴェールの空けた箇所から脱出する。瞬間、狼が高い行動力を生かした跳躍してくるが、それよりも早く、ヴェールが閉じ、球体上になると、狼を包み込んだ。ジュウジュウと、狼を溶かす音が目の前の水の玉から聞こえ、煙が辺りに立ち込める。次第に音と、水の玉が小さくなり、ついには聞こえなくなった。


周りを見渡すが、もう生きている狼はいない。全滅したのか、はたまた逃走したのか。戦闘が終わり、緊張が解けたせいか、辺りの吐しゃ物のような強烈なにおいに思わずむせてしまう。吐かなかっただけでも上出来だろう。

先ほどの戦闘で、強酸の水のヴェールの影響か、樹洞の入り口の一部を溶かしてしまい、

木が倒壊しそうになっていた。ここを拠点にするのはもう無理だな。不幸中の幸いで、樹洞の中の道具袋は問題なかった。熊の死体は無事だったが、ここで解体作業を続けるのは、他の魔物や動物に襲われるかもしれないことを考えると、やめておいた方がいいだろう。


目の前の狼を溶かしつくした強酸の水玉からはさすがに飲み水を作る気になれない。

残り少ないMPを使い、いくつかの表面だけ溶けた狼から血を抜き真水して、喉を潤し、水筒に詰めた。

真水になるように操作したので、濃硫酸の影響もないと思う。


水を詰め終わったオレは、急いでその場を離れた。……食糧探し直さないとなぁ。

ついでに物は試しと、オレは『絶対記憶』で、『狩猟<野生>』を思い出しながら歩き始めた。

…辺りが臭すぎて、地面を嗅いでも何にも分からんな。

濃硫酸では実際に人は溶かせない、と聞いたのですが、

物語の都合上、知名度が高く、何でも溶かせるイメージがある濃硫酸を採用しました。

過酸化水素が人体を溶かせるらしいのですが、イメージが湧き辛いかなと思ったので…。

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