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50.オードの行進

お久しぶりです。

まだ何とか生きています…。

『オード』


まったく、『協力者』からその情報を聞いた時には心底驚いた。

何しろ、王国が躍起になって探しているダンジョンの存在についてだったから。

あのクソ将軍にこんな場末に送られた時には想像もしていなかった、軍事的な価値で測ればお姫様を浚った時にも匹敵する好機。

アリア最大の謎であり懸念材料でもある『元聖女さま』も面白いとは思うけど、ダンジョンの存在を王国側で知ってるのは今のところ私だけだ。


この情報の使い方は大きく分けて二つある。

一つは王国に報告することで王国での評価を上げること。

将軍の圧倒的な強さで均衡を保ってはいるが、ダンジョンを持てない王国は軍事方面で他国に後れを取っている。


そこにダンジョンの情報を提供できれば、私たちの立場を確固たるものにすることが出来るだろう。

あるいは、クソ将軍を蹴落とし、私が大将軍にとってかわることだって可能かもしれない。

もう一つの選択肢は、私たちの手でダンジョンを確保すること。

成功すれば、ダンジョンマスターの懐柔が成功すれば情報を王国にくれてやらなくても、私たちは大幅なレベルアップが見込め、その戦力で将軍に抵抗できる力を手に入れること。


王国で立場を上げても、クソ将軍に武力で押さえつけられてしまえば身動きが取れなってしまう。

だがダンジョンを利用し、戦力比がこちらに傾むけば将軍も手出しが難しくなり、状況が膠着するようならダンジョンの力と貴族達の取り込みを進めることが出来るこちらが有利だ。

ああ…こんな好機は滅多に無い。絶対にものにして見せる。

とはいえ、まずは情報収集か。




ダンジョンの報告があった数日後。

王国南方国境線で国境侵犯が起き、王国と南方の国で小規模ながら戦闘になっているようだ。

この戦闘は私にとって非常に都合が良い。

というより、王国で混乱が起きれば起きただけ将軍の手間を取らすことがで出来て得だ。

だがこの小競り合いのお相手が、以前お姫様が親善のために訪ねに行った国というのは皮肉なものだ。

元々仲が悪く、お姫様の尽力で国交回復までこぎつけたそうだが、即裏切るとは中々やるものだ。


さて、聞こえてくる噂によれば、南方の国はダンジョン持ち故か、クソ将軍の奮闘も虚しく王国の戦況は芳しく無いようだ。

私を監視するために送り込まれたクソ将軍の副官も慌てて南方国境線に向かって行った。

まあ、あの『坊や』たちはそれなりの手練れで時間がかかったが、私の『淫蕩瘴気』で頭の半分は私色に染め上げている。

そんなあの子達を、真面目が服を着て歩いているようなクソ将軍が見たときどんな顔をするだろうか。

愚直に任務を全うするあの子たちが惚けて毎日……じいがとまらないさまをあのかたぶつがどういうふうにしせんをむけるのか――

たまらない。あああ、是非にも見たい。見に行く?行ってもいいよね。

ダメ?ダメかしら。ちょっとぐらいいいよね。ダンジョンが先?うふふふふふふふふふふ。

…いけない、またヘンな事を考えちゃった。悪い癖ね。


だが、これで監視のいなくなった私は自由に動ける。南の国さまさまだ。

とはいえ、将軍の力の警戒は怠らないようにしないと。

圧倒的な力を持つ将軍に『個人の武力』で追いつくには、ダンジョンを利用しても年単位の修行が必要になってしまう。そんなのは全然面白くないし、なにより面倒だ。

ただ、個人間では強さに開きがあっても、軍単位ではそうはいかない。

かなり良いところまで拮抗、無いし私たちが上回るはずだ。


それに私たちが争うことになれば、王国の国力の低下は免れない。

王族の保護と、王国の隆盛を願う将軍にとってそれは必ず避けなければならいし、国を守りながら私の持ち駒すべてに対応するのは難しく、隙を見せれば他国の介入もあり得る。

そして、そんな事態を回避するために、将軍は私の発言を無下にできなくなり、相対的に立場が悪くなる。いまだに将軍に味方する貴族の幾何かこちら側に呼び込むこともできるかもしれない。


素晴らしい。ああ、計画通りに事が進めば、あの将軍に勝てる可能性が大幅に上がる。

やはり、軍に入ってやっぱりよかった。遊び相手にも困らないし、稼ぎも良いし、何より高貴な方々の生活を脅かし続けている実感は性交よりはるかに気持ちいい。

この気持ちに名前を付けるとしたら?

『蹂躙欲』かしら。まあ何でも良いか。

さて、この計画を机上で終わらせないためにも、今からあの堅物ダークエルフに手紙を書かないと。

ああ、気分が高まって変なこと書かないようにしないとね。




中々面白い女の子に会った。

名前はエミリー。ダンジョンを発見した冒険者に案内をさせるために呼び出した、2人のうちの1人だ。

まだ14歳だそうけど、悪名高い『山賊王』に会うというのに、全く物怖じしないあの胆力。

逆に、仕立てた偽物が見破られて、私の正体まで暴かれてしまうとは。

良い『眼』をしている。おそらく何かのスキルを駆使したのだろうけど、地頭も良さそうだ。

丁度良い、ダンジョンの居場所を知られている以上は消えてもらうしかないし、ダンジョンを確保した後はあの女の子には私の『玩具』になってもらおう。んー、楽しみが増えたわ。

だけど、新しい問題もいくつか出てきてしまった。

エミリーはともかく、もう一人のカッサバと名乗る老人。

あれはヤバい。相当強い。たぶん私よりも。


いくつか情報を集めてはみたが、森一番の狩人ということぐらいしか判らなかった。

しかも武器は使わず、狩りの時でも常に裸拳で熊と狼を殴り殺せるらしい。

はっきり言って頭のおかしい部類だし、本来余り関わりたくない人種だ。

こちらは600人もの兵を揃えたとはいえ、あのカッサバを上回るほどの武力を持つものはいない。

しかも、殺り合う可能性があるのなら、その場所は森の中ということになるだろう。

まさしく私たちは『狩りの獲物』みたいなものだ。冗談じゃないわね。


さらに、町で噂になっている『血の呪術師』などという子供の狩人までいるらしい。

噂の類ではあるが、血を抜き取り操り、呪いをかけられれば末代まで不幸になり続けるとかなんとか。

まぁ、恐ろしさの方向が違うが、2人に共通する問題点は年齢ね。

私の『淫蕩瘴気』も、同性愛に興味のない者や幼すぎる子供、枯れ果てている者を支配することはできない。

時間をかければある程度は効くかもしれないが、さすがに1週間程度では難しいだろう。


その子供については眉唾物だとは思うが…まぁ、この2人に正面から挑むのは辞めた方が良いだろう。

とはいえ、山賊が…おっと、今は騎士か。

ま、私なりの『騎士の矜持』から言わせてもらえば、馬鹿正直に真正面から当たるなんてばかばかしい。

もしそうなった時には、エミリーを人質にでもすれば良い。

あのおじいちゃんは、見た目は厳しいようだがエミリーを守るために相当気を払っていた。

誰かを守りたいと決意している者独特の気配が見え見えだったわ。

あの子もそこそこは戦えそうだけど、あのおじいちゃんと比べるまでもないし。


人手を使って各個分断して、私の部下の2,3人で囲んで生け捕からの人質にして、ダンジョンに案内させて2人とも処理が無難かな。

エミリーでちょっと遊びたくもあるけど、今回はダンジョンが最優先ね。

不安材料としては『血の呪術師』ちゃんの方かな。情報が少なすぎて対策の立てようがない。

協力者から情報を貰わないといけないわね。ちょっと時間を取られちゃうけどしょうがないか。


だけど、森に入った後に最も気にするべきはアリアの動向ね。

後ろから軍をけしかけられ、同時に狩人さんたちに暴れられると寡兵では壊滅もあり得る。

王国から壊滅の理由をアリアに問い合わせようが、森に入った以上『魔族に襲われたのではないか』等の言い訳も立ってしまうし、調査にも一歩引かざるを得ない上に、将軍から見れば私が消えることは幸いでしかない。


王国はそれを理由に、調査を名目として占拠する可能性もあるが、ダンジョンの存在を悟らせるのを一

時的に遅らせることもできる。

その間にアリアがダンジョンを攻略するか懐柔すれば、今度はアリアが将軍に対抗する力を持つことができるかもしれない。うん、私なら絶対そうする。

陽動、もしくは奇襲の為にのために町の周辺に部隊を置いてくる手もあるけど、ダークエルフ司令官の懐刀『絶姿』にバレてしまえば、別動隊を撃破されたのちに襲われて各個撃破されかねない。

いっそ最初から町を襲う手もあるが『元聖女』の動きが読めないし、そもそもダンジョンで鍛えるべき兵が減ってしまうのは頂けない。


町の中はあちらの庭であるし、それなら『元山賊』である私たちの方が森では優位な戦場だ。

こちらの数倍の戦力とはいえ、勝算はある。そうなれば、逆に町を支配する好機につながる。

町とダンジョンを両得する最もおいしい展開だ。

まったく。考えれば考える程、全軍を率い状況に応じて動くしかないじゃない。

足りない武力を培うためにダンジョンを攻略するのに、その足りない武力の為に思うようにいかないのは皮肉なものね。




ほぼ戦支度に近い軍の準備も整ったころ、ダークエルフの司令官から連絡があった。

内容は概ねこちらの要求通りだ。

無期限の森の調査許可に加えて、森の狩人3人を借り受けて案内させることも問題ない。

ただし、森の中は非常に危険なため、人的被害が出た場合の責任は負うことはできない、だそうだ。

事実も含まれているのでしょうけど、威嚇とも取れるわね。まあ、ここでごねる意味はあまりない。

もうすでにお互いに引く段階ではない。

お互いにどう対応するかに掛かっている。さあさあ、勝負と行こうじゃない。

お姉さんと楽しみましょう。


…と、意気込んで森に来たものの、肩透かしを食らうハメになっちゃった。

町の脇を抜け、森の入口付近から少し入った段階で狩人の子たちと合流することになった。

だけど、移動する間、町の外にアリア領軍の姿は見えない。

町の横を通り過ぎ、森の入口に着くころには仕事が楽になる程度にしか考えていなかったが、遠くに狩

人の姿を確認できる辺りで、ふと違和感を覚えた。

余りに静かすぎる。

町の外には門兵が2人ばかりで、後は商人たちや冒険者風の輩がたむろするだけで、此方を警戒する兵がどこにも見えない。


万が一にも、こちらが奇襲を仕掛けてくるとは思っていないのか?

いや、それにしても無警戒はあり得ない。

そもそも、平原側にある町門は開いている。攻め込めば町門を確保することも容易だっただろう。

さらに、町門を破壊する術を国軍は手に入れた、という噂を協力者を使って流させている。

籠町戦を警戒させるための嘘なんだけど。


アリア領軍が外に出てきてどういう風に動くのか観察できれば儲けものだと思ったのだが、まさかの領軍が人っ子一人いないとは思いもしなかった。

…もしかして、もうすでに森にアリア領軍を伏せている?

いや、それはない。こちらが放った斥候からもそんな報告はないし、そもそも今も町にいる協力者からそんな情報は受け取っていない。


仮にカッサバを上手く仕えたとしても、森の中で私たちを全滅しきるのは難しいはずで、もし一人でも逃げ切れれば王国軍を完全に敵に回すことになる。

それはアリアからしてみれば絶対に回避したい筈だ。

まさか商売の繋がりか何かで、他国の援軍がいるのか?

いや、駄目だ。複雑に考えすぎている。


なぜ出てこないのか、ではなく出て来る必要がない、というのが問題だ。

つまり、今私が思惑通りの行動そのものがもうすでに誰かの計画の一部だということ?

馬鹿な。600もの兵をこの短期間にどうにかできる罠を森に仕掛けることができたということか?。

私の斥候達がよっぽどの無能ならその可能性も考えただろうが…。

分からない。今のところ、アリアが介入できる箇所は案内人である狩人だけ…?

……いや、まさか。

狩人だけですべて対処できると踏んでいる? たった3人で?


そんな考えに至った、そんな時だ。


「こんにちは。あなたがオードさんですね?」

「…あら。これはまた、ずいぶんと可愛らしい狩人さんもいたものね」


気づけば森の入口に到着していたようだ。

目の前にいたのは、まだ幼い金髪の男の子が、太陽のように屈託のない笑顔でこちらを見ている。

着ているものは狩人らしく熊の毛皮で設えたものだろうか。ちょっと獣臭い。

…情報と容姿も一致している。この子が件の『血の呪術師』だろう。

私は微笑みを返しながらも、その少年の笑顔の裏には別の何かがあるような、そんな予感がした。


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