48.目覚め
中々更新できずに申し訳ありません。
ダンジョンについて会議していた場面が薄れて行き、徐々に目が覚めて来る。
偏頭痛は無く、寝起きのけだるさだけが感じられた。
どうやら『絶対記憶』の弊害である記憶整理ではなく、普通の夢を見ていたようだ。
……魔族軍か。
大丈夫。今のところあの日の朝で話し合われた問題点の殆どは解決の兆しが見え始めている。
いよいよ大詰めだ。何とかミス無く終われば良いんだけど。
そんなことを考えながら目を開けると、俺の目の前にはソーリスの顔があった。
どうやら、倒れたオレを膝枕してくれていた様だ。
だが、まだ戦闘から間がないのか、ソーリスは防具を身に着けていたままの様で、頭に伝わる感触は生膝ではなく布の類だった。
少し残念。
いや、すごく残念だ。
今度頼んだらさせてくれないだろうか。
いや待て、こういうのは頼んでしてもらう物では無く、意識を失い覚醒する過程の中で膝枕してもらっていることに気付く事に浪漫があるのではないだろうか。
だとすると、オレはそんな貴重な体験である1回を防具付きという不運な形で終える事になるのか。
何という事だ。
それもこれも『ヘルモード』が悪い。
そういう事にしておこう。
そんな寝ぼけているのか良く分からないことに決着がつくと、ソーリスと目が合った。
何といえば良いか分からず、無難に「おはよう」と挨拶すると、ソーリスも「おはようございます」とクスクスと曲げた人差し指を唇に当てて笑っている。
今、何か面白い要素があっただろうか。
もしかしたらよだれでも垂れてるかもしれず、腕で拭うも特に何もついていなかった。
そんなオレの様子に気付いたのか、ソーリスは少し慌てた様に、だがその顔は笑顔のままで言い訳をするように言った。
「旦那様が、少し照れたようにそっぽを向いたので」
何と。全くの無意識の行動だった。
事前に変なことを考えていたためか、不自然に目をそらしてしまったのか。
少し気恥ずかしくなり、何となく否定する事にした。
「や、照れてないよ」
「照れてましたよ」
「ない」
「じゃあ、そういう事にしておきますね」
「事実は『そういう事』なんて推定じゃない。神様がなした様な絶対的な何かなんだ」
「難しい言い方で誤魔化さないでください。先ほどの旦那様は、ちっちゃい子の様でかわいかったですよ」
「ソーリス、オレは生後2か月で間違いなく『ちっちゃい子』だよ」
「そんなこと言って。そう思っていないのは、旦那様自身でしょう?」
そう言って、またソーリスはクスクス笑いながらオレを見つめる。
……何となく、負けた気がする。何にかはわからんが。おのれ。
オレはその視線にまた堪えられずに視線をそらし、ソーリスの頭にぶつからないように立ち上った。
ここで初めて気づいたのだが、まだ地面が石畳の上で、ボス部屋から移動していないようだった。
此処でまだ何か調査をしているのだろうか?
「ごめん、何時間ぐらい寝てた?」
「凡そ1時間ほどですね。前回と比べてかなり短時間のご就寝でしたが、大丈夫ですか?」
1時間か。
前にソニック・オーガに『時間停止』を使った時にはかなりの時間寝込むことになった。
あの時は記憶整理で苦労した。もしかしたら、寝込む時間は記憶整理にも関係あるのか?
「うーん、気怠いだけで体調は悪くないよ。…オレが寝ている間に、何か進展ってあった?」
「はい。この部屋の隅にある魔法陣の調査を進めています」
笑い顔をひっこめたソーリスが部屋の隅に見るのにつられて其方に視線を向けると、何に使うか判らなかった魔法陣が薄ぼんやりと光っているのが見えた。
あれがソーリスの言う調査の結果なのだろうか。
「へえ。あれって結局何だったの?」
「如何やら双方向で移動が可能な転移魔法陣だったようです。向こう側に行ったエミリーの話だと『狼の領域』である可能性が高く、あの熊男と一緒にいた狼男のダンジョンではないか、とエミリーは考えているようです」
あの狼男は熊男の部下とかじゃなくて同じダンジョンマスターだったのか。
まあ考えてみれば魔族軍から森を守るためには足並みをそろえなければならない。
お互いが勝手なことすれば隙をつかれて各個撃破されるかもしれないし。
元々にしろ一時的にしろ、協力するのは当然か。
それにしても、転移魔法陣か。
語感から察するに魔法的な移動手段なのだろうか。
とはいえ、エミリーの『世界地図』の性能以上って事はないだろうな。
まぁいいや、オレも魔法陣を調べてみよう。
近づき、魔法陣を一度なぞる様に触れてみるが、光る部分には特に熱などは感じられない。
指を見てみると薄く塗料が付いているが、そこは光っていない。
何か電気的なものがあるのだろうか。魔法陣というぐらいなのだから、やはり魔力とか?
塗料を指で軽くもんでいると、魔法陣が一瞬強く光った。思わず目を瞑ってしまう。
瞼越しに見える光が収まると、魔法陣の上にエミリーとカッサバさんが立っていた。
如何やら向こう側で魔法陣をもう一度起動したらしい。
「ふむ、起きたか。話よりも目覚めが早いようだが」
カッサバさんがペチぺチとオレの頬を叩きながら面白そうに言った。
因みに『ペチペト』というのはあくまで例えであって常人であれば普通のビンタと同じぐらい力強い。
『ベチッベチッ』って感じだ。
オレじゃ無かったら普通に痛いと思う。カッサバさんには、もうちょっと力の強さを自覚してもらいたいところだ。
「あっち側は此処と違って地下3階のダンジョンっぽいダンジョンだったよ。おかげでおじいちゃんが張り切っちゃって大変だった。おかげでダンジョン内の狼は全滅出来たけど」
エミリーはやれやれ、とアメリカ人のように肩をすくめ、スタスタと歩きテーブルに近づくと、置いてあった水差しから直接水を飲んでいた。
エミリーも大概自由だよな。
にしても3階層のダンジョンのモンスターが全滅か。
オレって結構長く寝ていたのだろうか。いやまあ、カッサバさんであればダンジョンの広さ次第では速攻で終わらせられるかもしれないが。
ふと気になって、「金熊の様な奴はいなかったんですか?」と、狼狩りが楽しかったのか妙に楽し気なカッサバさんに尋ねてみた。
「残念な事にな。迷宮主を倒したのだから、解き放たれたのかもしれん。狩りの楽しみが増えたわ!」
「おじいちゃん、金熊と同じぐらい強かったらこっちが狩られる側だから」
「ぷはっ」と、水差しから口を離してエミリーが突っ込んだ。
カッサバさんがエミリーの真似をして肩をすくめると、エミリーももう一度肩をすくめた。
なんだこれ。
後ろを振り返るとソーリスも控えめに真似していた。
ちょっとかわいい。
「其れって結構不味くないか?あの金熊並みに強ければ町の人たちが詰むだろ」
「逆に魔族軍に突っ込んじゃったりしてね。まあ、それも存在すればの話だよ。たぶん金熊程強いのはいない」
「存在しないって、なんでだ?そこもダンジョンなんだろ?ここのダンジョンマスターなら、此処と同じようにガチガチに守りそうなもんだけど」
そんなオレの疑問にチッチッチと指を振る得意げなエミリーさん。腹立つな。
「このダンジョンと呼んで良いかもわからない部屋ダンジョンと比べて、あっちは普通のダンジョンっぽい構造だったのは何故か。私はね、万が一魔族軍の戦いで戦況が悪くなった時、あっちのダンジョンを『攻略』させるつもりだったと思うんだよね。ワザと戦線を『狼の領域』側に下げて、偽のダンジョンマスターを倒させるか自殺させる。そんで、本物のダンジョンマスターは『熊の領域』に退避して、熊と狼の召喚を一時的に止めて『死んだフリ』をするの。後はダンジョンが無くなったと判断した魔族軍が撤退するのを待てば良い。転移の魔法陣は片方の魔法陣が消えれば使えなくなっちゃうらしいし」
いやいや自殺て。
でも確かに、それだと滅茶苦茶強い奴を入口に配置する必要はない訳か。
というか、魔法陣片方無くなれば使えなくなっちゃうのか。
さっき塗料を弄ってしまったがあれは不味かったかもしれない。あぶねー。
「判る奴が観れば、転移の魔法陣って判るんだろ?ダンジョンマスターが囮を召喚して逃げたって気付く奴もいるんじゃないか?ダンジョンが二か所ある事に気付いている奴もいるかもしれないし」
「森に熊も狼も出なくなっちゃえばダンジョン二か所説も怪しいもんだよ。仮にダンジョンが二つあってもダンジョンマスターが二体いる保証もない。二か所のダンジョンとも倒したダンジョンマスターが主で、狼も熊も出て来なくなったのでは……と思うんじゃないかな。ただでさえダンジョン一つを駄目にしちゃったら軍の士気も落ちちゃうと思うし。まあ、全部バレた時は血みどろの総力戦だったかもね。そんな魔族軍への対策も、私たちのせいで全部ご破算になっちゃったけど」
さらに言えば魔族軍側が劣勢だったようだしな。
ダンジョン側が優勢だと分かる今では、恐らく使われない策だったはずだ。
とはいえ、ダンジョンを丸々一つ囮に使うなんて事を考えるとは豪胆だな、ダンジョンマスター。
いや、これはエミリーの予測な訳だからエミリーが豪胆なのか。
そういえば、あの狼男の方は熊男の事を『兄貴』と呼んでいたな。明確な上下関係があったのなら、『オウお前のダンジョン囮用に寄越せや』と言われても断れなかったのかもしれない。哀れな。
「ともかくだ。これで、ダンジョン側の問題は概ね片付いた。次は…」
「魔族軍だね」
距離はあるが、出来れば今日中に接触したい。
オードからの呼び出しがいつ来るか分からないしな。
忙しないが、もうひと踏ん張りだ。




