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47.トットリア

中々投稿出来ずに申し訳ございません…。


『ある日の狩猟小屋の朝』


「オレ達でダンジョンを攻略しよう」


俺のダンジョン攻略宣言に、エミリーとソーリスはうなずき、カッサバさんは顎に手を当てニヤリと笑った。

ダンジョンを巡って色々と面倒な事態になっているのだから、原因を潰してやればそれで終わりだ。

魔族以外にはダンジョンの存在を気取られていないのもデカい。

それに、個人的にも如何いった所なのか興味がある。

強敵がひしめく幾多の試練の先に、抱えきれないほどの金銀財宝。

男の子の浪漫が山盛りだ。


「まーそれは良いんだけどさ、魔族軍がどう動くのか全然分からないのはちょっとヤな感じだよねぇ」


木匙を口にくわえてピコピコと揺らしながら椅子にもたれかかったエミリーが、少し困ったようにそう言った。

そう、オレ達が持つ魔族軍の情報は、殆どクリーンの会話からもたらされたものだ。

その全てが真実であるとは限らないし、魔族軍の予測するのは難しい。

『コンコルドの誤り』宜しく、クリーンが居なくても無理やりダンジョンを確保しに動くのか。

将又、撤退に向けて陣を引き払おうとしているのか。

考えはすれど、情報を得るための方法も今のところ思いつかないというのが現状だった。


「魔族軍の目的はダンジョンの確保、そしてクリーンはその目的達成のキモだった可能性が高い。それ以外の情報が無いのが痛いな」

「目的が一つとは限らないし、魔族軍の構成も不明。まだゴブリンがうろついているのは、クリーンを探してなのか、それかまだダンジョン確保を諦めていないのかも」


エミリーがそういうと、あの日の事を思い出す。

クリーンを殺した日…同時にソーリスの死んだ日でもある。

鮮烈な記憶だった。『絶対記憶』が無くても忘れることはないだろう。

ともかく、あの日から少し経った後、ゴブリンの集団を森で見かける回数が増えた様に思う。

今思えば、あれは居なくなったクリーンを探していたのだろうか。

オレと戦った時ほぼ単独だったし、連れて来たゴブリン達は死体を確認できていないのかもしれない。

2週間以上しつこく探し続けているのを見る限り、よほど重要なのだろう。

オレ達も死体を確認しに行ったのだが、熊か狼に食われたのか、死体は無く血の跡だけが残っていた。

あの後すぐに表れたカッサバさんにソーリスを直してもらった後、クリーンの死体はそのままに『世界地図』で帰ったからな。

こんなことならクリーンの死体もカッサバさんに収納してもらえばよかったか。

『死霊使い』と『魔物使い』の他に有能なスキルを持っていなかっと思うから別に良いけど。


「しち面倒くさい。魔族軍に殴り込みに行くか?」


先ほどの上機嫌ぶりから打って変わって、カッサバさんが腕を上げて面倒臭そうに言った。

その渋面には、『早くダンジョンに行きたい』と書いてあるようだ。


「いくらおじいちゃんでも、魔族軍がどれくらいいるかも判らない所に特攻はさせられないかなぁ」

「ふむ。それが判れば如何だ?」

「え、判ればって……魔族軍を如何やって調べるの?偵察でもするつもり?駄目だよ。絶対言う事聞かずに突撃するじゃん」

「馬鹿言え。偵察などそれこそ面倒だ。そうではなく、魔族に直接聞けば良いだろう。時間も掛からん」


魔族に直接聞く?

ええ、何だそれ。

ツッコミどころ満載じゃないっすか。


「相手は魔族軍なんですよ?教えて貰えるとは思えませんが……」


同意を得ようと思いエミリーを見てみると、エミリーは何か言いたげに口を開こうとして、また口を閉じた。

そうして数舜顎に手を添えて考え込むエミリーだったが、何故か納得したかのようにカッサバさんを見た後、オレに視線を移し複雑そうな顔をしている。

どういう事だ?カッサバさんに魔族軍の知り合いでもいるのか?


「儂が聞くのは難しかろうが、坊主ならば出来るだろう。『こいつ』から聞けば良い」


カッサバさんが手を翳すと、一瞬の発光の後にテーブルの横へドシャリ、と何かが落ちた。

テーブルから身を乗り出して見てみると、それは魔族の特徴である青い肌の男だった。

今カッサバさんはその男を『倉庫』のスキルを使って取り出した。

そして、『倉庫』に生物を入れる事は出来ない。

つまり、この男はもうすでに息絶えているのだろう。

よく見れば、頭が通常あり得ない方向に向いているし、男の着込んでいる甲冑は所々大きくへこんいる。

しかし、血の匂いは若干漂ってはいるが、腐臭の様な匂いは嗅ぎ取れない。

この男の死体は死後直ぐに『倉庫』に仕舞われたものの様だ。

そうか、成程。

カッサバさんの遣りたいこと、というよりかオレに遣らせたい事が分かった。


「おじいちゃん!食事時になんてもん出すの!」

「エミリー、話は後にしよう。カッサバさん、この死体は死後五分以内に『倉庫』へ?」

「応。この男は魔族軍の援軍に居た男だ。倒した後に『倉庫』に仕舞い、エミリーの案内の元お前たちを拾いに行ったのだ」


成程。

クリーンの軍の後を付いて来ていた軍に居た魔族だったのか。


「了解です。試してみましょう」


方法は分かっていても、このタイミングで出されるとは思っていなかったのだろう。

死体を指さしながらぷりぷりと怒るエミリーを横目に、俺は席を立ち男の死体の前で膝を突いた。

男の頭に手を当て、スキルの発動を念じる。

このスキルは効果こそ凄まじい物だが、その分燃費が良くない。

体から大量のMPが抜け、暑くもないのに体から汗が噴き出してくるのが判る。

このスキルの効果を誰よりも知るソーリスが、少し心配そうにオレを見つめていた。

心配ないという風に笑って見せたが上手く笑えていたかな?


「『屍蘇生』」


スキルが発動した瞬間、『魔族の男』を黒の光と白の光が包み込んだ。

この光は、ソーリスを蘇生するために使ったスキル『死霊使い』のアーツだ。

上手く行けば、この男もゾンビとして疑似的に蘇生させることが出来ず筈。

螺旋を描く様にして黒と白が入り交じり、ひと際大きく光り輝くと、徐々に薄れて消えていく。

そして完全に光が消えると、男の体が完全に修復されていた。

流石に鎧までは治っていないが、見た目だけならば生前と変わらない姿の様に見える。

誰もが息を飲み、『魔族の男』を見つめていたが、直ぐに男の口から「く…」と呻くような声が聞こえた。

閉じられた瞼がゆっくりと開き、金色の瞳がぼんやりとオレを見ている。


「人族…か?」

「はい、人族です。差し当たっての命令なんですが、『今この小屋にいる者への敵対行為を認めません』、それと『貴方の名前を教えてください』」

「承知した。私の名は『トットリア』と申す……!?」


『魂の契約』によって『主従』の関係が結ばれた以上、下された命令は絶対に遵守しなければならない。

その逃れらえない命令によって、男は『トットリア』と名乗った。

命令によって意識せずに零れた自分の名前に、トットリアも動揺が見て取れる。

トットリアは、両目をキョロキョロと忙しなく動かし、最後にオレを見た。


「お前、私に何をした!何かの術で私の頭を狂わせたか!」

「オレはあなたの主人です」

「何を馬鹿な」

「『問答は不要です。今からする質問に答えて下さい』」

「…ぐっ……承知…」


喚くトットリアを遮るように命令を与えると、歯を食いしばりながら何も言うまいとしていたトットリアの口から憎々しげに言葉が漏れる。

知ってはいたが本当に凄いな、尋問も拷問も必要なく情報を引き出せるぞこれ。


「まず、魔族軍の目的は?」

「いう訳が無……ぐぐぐ、ぅぅあ……わわ、我々の目的はダンジョン、並びにダンジョンマスターの確保だ。魔族軍にはクリーン様という『魔獣使い』がいらっしゃる。その方のお力を借り、ダンジョンマスターを我らの傀儡とすることが目的だ」


抵抗するかのように喚こうとしたトットリアだったが、『契約』に逆らえなかったのか声を震わせ苦し気に話し始めた。

その内容も、クリーンの得意げに語った事と一致する。

これで魔族軍の目的は確定で、『ダンジョンの確保』だ。

同時に、目的を達成するためにはクリーンの力が必要不可欠という点か。

いやはや、あそこで殺せておいて良かった良かった。


「クリーンの力を使わずにダンジョンを確保する事では目的は達成できないの?」

「6つの領地持ちが結託した『東迷宮同盟』……お前たちの言う魔族軍はダンジョンの確保と、その後に生み出されるであろう莫大な経験値を目的に結成された……我らが領地はともかく、他領が納得しない。通常のダンジョン運用とはくらべものにならない程の経験値効率をうたい文句に、われわれが旗手となり他の領地に呼びかけを行ったのだ。それでも確保出来ずに終わるよりはマシなはずだが、森で戦い始めてから1年以上掛けても確保どころか目的地到達への目途すら立たなかった」




「手間取っていたのは、クリーンが手を抜いていたって事?」

「それは違う。想像以上にダンジョンマスターの力が強力だった。我らの広げた前線を抑え込める程の、獣の大群を寄越したのだ。数も力も凄まじく、それらを跳ね除け攻勢に出る事は至難の業だ。それに、クリーン様が一度に支配出来る獣の数にも限界があった」

「成程。因みに、貴方たちの軍はどれほどの規模なのですか?」

「我が領地の軍のみで2500程。同盟全体では、亜人どもが6000、その他の種族が1000だ。この1年間で大分削られたがな」


トットリアの言葉通りなら、7000体もの大軍を抑え込める程の獣をダンジョンマスターは用意できたという事になる。

まさか、魔族軍側の戦力があのゴブリン達だけという事は考えづらい。


これは、思った以上にダンジョンマスターの力というのは強力なのかもしれない。

侮る気持ちはなかったつもりだが、改めて気を引き締めないとか。

そこで、椅子に座っていたエミリーがテーブルに頬杖を突きながらトットリアに質問した。


「でもそれだと、魔族軍はこっち側に来れないことになるよね。その割には、結構ゴブリンやらなんやらがいるんだけど」

「ああ、それもそうか。如何なんですか、トットリアさん」

「最近になって、狼と熊が多く出る地域の丁度境目には、どういう訳か獣のいない空白地帯の様になっていることが判明したのだ。その細道を通り、彼奴等の裏手に出るれば挟撃か、或いはダンジョンそのものを見つける事が出来るのではと考えた。何度か偵察部隊を送り込むと、獣の数も前線に比べ数を減じている事も分かり、裏手に軍を送り込むという事になった」


そう説明するトットリアの顔は苦々しげに顰められていた。

魔族も一枚岩では無いって事か。


「それがクリーンと貴方という事ですか」

「その通りだ。最も、クリーン様の目的は別のところにあった。何とか諫めようとはしたのだが……」


そういって、トットリアは力なく首を振った。

どうやら、クリーンの行動には苦労させられていた様だ。

そのクリーンの目的は、端的に言えば『女』に『食物』に『酒』だったか。

奴の言葉を借りるならば『人の文化の調達』。

つまり、魔族たちはそういう欲求に対して興味が薄いのだろう。

転生者であるクリーンが欲してやまない位には。

まあ、クリーンが並み外れて欲深かっただけなのかもしれないけど。


「トットリアさん。貴方にとっては残念なお知らせになるのですが、クリーンは既に2週間前に死んでいます」

「……は?ば、馬鹿な!私は先ほどまでクリーン様を追ってた途中、老いた人族と戦っていたのだぞ!謀るのもいい加減に……」


その時、ふとトットリアが視線をずらすと、目を見開いて驚いていた。

視線の先を追いかけると、カッサバさんが外へ出る扉を守るかのように仁王立ちしている。

ああ、そういえば『逃走するな』とは命令していなかったか。

まあ、この面子で逃げ切れる程の実力者には見えない。

というか、『魂の契約』を結んでいる以上、オレから離れすぎると勝手に死体に戻ってしまうのだが。

それはさておいて、トットリアが驚いているのは、さっきまで戦っていたカッサバさんが何食わぬ顔でそこに居るからだろう。

先に気づけよという気もしないでもないけど。


「ああ、確かにあの人と戦って貴方は殺されました。何故貴方が生きているのか、という疑問もおありでしょうし、いきなり2週間も時が過ぎたのも訳が分からなくて当然です。ですが、先にこちらの質問が先です。『クリーンが死んだ今、魔族軍はこれからどう動く可能性が高いですか?』」

「……待て、少し考える時間をくれ」


まだ混乱しているのか、片手で顔を覆いながらトットリアがつぶやく様に言った。

確かに、考えもせずに変な予想を立てられても困る。

オレはトットリアの顔から視線を外さず無言で待つ。

3分程待っただろうか。

トットリアがゆっくりと口を開いた。


「クリーン様が居らぬ以上、撤退する可能性が高い」

「一部が残る事は?」

「いや、一部だけが残るというのはあり得えん。他の領主が戻っているのにも関わらず、自らの領地を空にしておくなど、みすみす分け渡すようなものだ」


他の領主か。

話から察するに、魔族軍はいくつかの貴族の様な存在が集まって出来た連合軍なのか。

それなら、たとえダンジョンを独り占めできたとしても戻れる土地が無かったとなれば本末転倒か。

そもそも、連合軍で確保できなかったダンジョンを自分の戦力だけで確保できると思うのは流石に無さすぎる。

一部だけが残るというのは無さそうだな。


「だけど、現に2週間たってもゴブリンはいなくならないじゃん。というか増えてるし」

「ゴブリンが?……領主様はクリーン様が生きていると思っておられるのか?」

「どうでしょう。クリーンが死んだ際、周りに彼の兵はいませんでした。死体を確認できず、獣に食べられてしまったのかもしれません」


そう言うと、クリーンの死体を貪っている獣でも想像してしまったのか、トットリアは無念そうに頭を軽く振り、ゆっくりと口を開いた。


「クリーン様を探していると同時に、賠償の贄を探しているのだろう。獣共がうろつくこの森だと、それも難しいだろうが……」

「賠償の贄?如何いう意味ですか?」

「『東迷宮同盟』が掲げた目的を果たせなかった責任は……認めたくはないが、同盟の盟主である我々にある。これは結成の際にも決められていたことだ。我が領地以外に本来会得できるはずだった『経験値』を各領主に支払わなければならない」


そこでエミリーが『待って』と呼び止め、再び横から質問を投げかけた。

その表情は、普段の彼女からは考えられないほど真剣そのものだ。


「それって『何体』いるの?」

「私の部隊と、クリーン様の部隊はどうなった?」

「あなたの部隊はおじいちゃんが全部倒したって言ってたかな。クリーンの部隊はちょっと生き残りがいるはずだけど、おじいちゃんが粗方倒しちゃったと思うよ。」


そのエミリーの残酷ともとれる知らせに、トットリアは一瞬目をきつく閉じ、うっすらとまた開いた。


「……であれば、500程だ」

「500?全体の数からしたら少なくない?」

「それ以上要求するようなら、我が領は破滅するしかない。それならば他領へ最期の一撃を見舞い、華々しく散るほうを選ぶだろう」

「ああ、それだと誰も得しないか……成程ね」

「え、ごめん、今何の話?」


そこで、オレは話について行けずに思わず口を挟んでしまった。

エミリーは何かわかっているっぽいんだけど。

何が500いるんだ?

早く説明を横目で見るも、気づいているのかいないのか、エミリーは顎に手を当てて考えを整理しながら話し始めた。


「経験値は倒した人が全部貰えるってのは知っているよね?」

「ああ、それは分かる。過程じゃなくて結果が全てなのが経験値だな」

「それだと、経験値で賠償するって事は、『殺しても良い生きている何かを用意する』って事とイコールな訳よ」


言われてから気付いた。

経験値を用意するってそういう事か。

魔族軍えげつないな。


「じゃあ、さっきの500体云々が用意しなきゃいけない数って事か」

「そそ。問題は、その500体を如何やって確保するのかって所ね。一番確実なのは自分の所の兵を差し出すって事ね。他には森にいる熊や狼を確保するって手もあるけど」

「我々だけの領軍で、この森の獣共を生け捕りにするのは難しい。兵の損耗が激しすぎる。それに、纏まった数をすぐに用意できるとは思えない。とはいえ、他に確保できそうな贄も思いつかん」


真剣に考えているのか、床を凝視しながらそういうトットリアとは反対に、エミリーが手を額に当てて、幾分困ったように口を開いた。


「いやー、それがあるんだわ。何処にいるか分からない神出鬼没な獣共よりもレベルが低くて、纏まった数がいる所がさ」

「何?そんな馬鹿な。この森にそのような場所があるはずが…」


戸惑いながら反論しようとするトットリアの声へかぶせるように、今までずっと黙っていたソーリスが、声に緊張に震わせてエミリーに尋ねた。


「ずっと考えていたのですが…まさか、カーネルの町…ですか?」

「ユリーカ!」


「ゆ、ゆりーか?」と突然のエミリーの奇声に目を白黒させるソーリスを見ながら、どうなのか考えてみる。

人間の町であるカーネルの町は、熊や狼の毛皮目当ての冒険者が多い町らしい。

だとしても、町の中には戦いとは無縁の生活を送っている大勢の人々がいる。

神出鬼没な熊や狼に比べたら、確実にそこに居て数もいるって事か。

そこの所、どうなんですかね。


「で、トットリアさん。実際如何ですか?」

「……いよいよとなれば、その可能性もあるだろう。いや、最終的にはそれしかない。全軍を持って臨めば、熊や狼を相手取るよりも容易いだろう」

「凄い自身ですね。冒険者や人族の軍は相手にならないと?」

「報告では獣共よりもやりやすかったと聞いている。それに、出来るかできないかではない。やるしかないのだ」


それはヤバいな。それだと魔族軍をこのまま放置するのもダメか。

というか、どんだけカーネルの町苦難に晒されてるんだ。

ダンジョンやら魔族軍やら王国やら厄介ごとが多すぎるだろ。

オレよりもよっぽど『ヘルモード』してるな。


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