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45.ダンジョンマスター

オレは金熊の胸に氷の棘が刺さり切っているのを確認し、少し離れて観ていると、ドスンという音と共にカッサバさんが『絶対反撃』によって弾き飛ばされた上空から戻り地面に着地した。

体重の軽いオレは着地の勢いでちょっと浮いて少しびっくりした。

当の本人は結構上の方に飛ばされたはずだが、着地した際にダメージは見られない。

相変わらず肉体的なダメージには頗る強い。

だからこそ、トドメの一撃をお任せできたのだけど。

着地の衝撃で舞い上がった砂煙が腫れると、カッサバさんは禿頭をポリポリと掻きながら呟いた。


「最後の一撃、あれは見切れんな」


金熊が最後に放った『絶対反撃』の事だろう。

オレがこの森で見て来た中でも最速の一撃は、カッサバさんでも捉えきれなかったようだ。

黒い毛皮に覆われたカッサバさんの腹部にはやや血が滲んでいるが、カッサバさんは意にも返さず腕組みをしながら金熊を見ている。

続いてエミリーが木の上から枝にぶら下がりながら「終わった?」と、様子を伺いに来た。

「たぶんね」と返しながら、オレは金熊の方に視線を戻した。

今も金熊の体内ではマイナス70度である氷の棘の冷たさによって、どんどんと冷え固まっている状態だ。

血も臓器も筋肉も、生物として動くための何もかもを少しずつ阻害し、停止させて行く。

金熊は何とか起き上がろうと腕に力を込めようとするが、失敗して力なく腕が地面に落ちる。

傷口周りの金毛は動くに連れてパキパキと折れては散らばる。

そうして呻きながら何度か繰り返すと、段々と動きが鈍くなり遂に動かなくなった。

エミリーの『世界地図』にも敵性反応は無くなっているらしい。

これで間違いなく金熊は死んだ。

オレはそれが確認できると、安心から思わずその場で座り込んだ。

いやー、疲れた。間違いなくこの森に来てから一番疲れた。


「マジで金熊強かった。今まで一番強かったよ」

「うむ。儂の人生の中でもこれほどの強ものに勝ったのは初めてだ。こんな化け物と何度も戦う者などそれこそ『勇者』ぐらいだろうが」

「勇者ですか」


ここに来て新たなワードが出て来たな。『勇者』っすか。

字面からどういう存在か想像に難くはないが、時間があれば聞いておこう。

まぁともかく、オレは転生の『設定』上強い奴と戦う可能性が高いと思う。

だからこその高難易度、だからこそのヘルモード。

今回の金熊との成り行きだって、そうじゃないとは言い切れない。

オレの今の幸運値はマイナス250を割り、森でのエンカウント率は体感でもだいぶ下がったように感じるが、元々が高すぎたというか低すぎたというか、要所要所ではやはりその奇運を発揮しているようだ。


「まぁでも、実際にはまだやることが沢山ありますが」

「違いない。エミリー、お前のスキルでダンジョンの入口は探せるか?」

「地図に表示できるのは敵だけだから無理。だけど、おじいちゃんの言ってた『防衛』は護る対象が近くに無いと発動出来ないんでしょ?この近くに間違いなくあるはずだよ」


『防衛』は金熊の持っていたスキルだ。

カッサバさんが言うには、護る対象が近くにいるとダメージ軽減の補正が入るとか何とか。

まさしくダンジョンの門番にふさわしいスキルだ。

でも金熊、衝撃波をガンガン使ってたよな?ってことは……


「あと、あの衝撃波に巻き込まれないように何らかの工夫がしてあると思う」

「それだと、地下とかかな?あ、トモヤ君。ソーリスちゃんいつまでも『倉庫』だと可哀想だし出してあげてよ」

「あ、ヤベ。終わったらすぐに出すって約束してたんだった」


という訳で、『倉庫』から出て貰ったソーリスを含めて全員で辺りを捜索することにした。

ソーリス曰く、『倉庫』に入っている間の時間は止まっているらしく、『逃走吸収』を使った場面でしか時間の経過を感じられなかったそうだ。

「エミリーの使う『世界地図』を使った瞬間移動の感覚に近いですね」とソーリスは言っていたが。




カッサバさんとエミリー、ソーリスはオレと一緒に捜索して10分程。

地面を重点的に捜索しているのだが、本丸であるダンジョンを暴かれそうなのに周りには一切敵がいないのが気にかかる。

よっぽど金熊を信頼していたのだろうか。

確かに金熊にはそれに足るだけの強さがあったしな。

適当な木々の間や藪の中を検める。蛇が出て来ないと良いんだが。

そんなことを考えながら、先ほど投擲したククリナイフをも一緒に回収しておく。

が、それは武器として使うにはかなり難しい程に傷んでいた。

元々ゆるやかな曲線を描いていた刀身は奇妙なオブジェの様に拉げてしまっている。

オレの攻撃力と金熊の守備力、そのせめぎ合いに耐えきれなかったのか。

とはいえ、ここまで一緒に頑張って来たのだ。時間が出来れば鍛冶屋に持って行ってみるか。

そうして『倉庫』にククリナイフをしまうと、遠くの方からエミリーの「あったよー」と発見の報告が聞こえて来た。

声のする方に行くと、カッサバさんとエミリーが地面を見ながら話していた。

ソーリスと一緒に向かうと、此方に気付いたエミリーが顔を上げた。


「あ、トモヤ君とソーリスちゃん。多分だけど、入口見つけたよ」

「その地面にあるやつ?」


2人が見ていた地面の先には、小さな池…というか水たまりがあった。

いかにも浅そうに見えるが、何故か水底が見えない。特別汚れている訳でもなさそうなんだけれど。

試しに小石を放り投げると、水面に触れた瞬間に小石が見えなくなった。


「怪しすぎる」

「怪しすぎますね」

「だよねぇ。行ってみる?」

「罠って可能性もあるんじゃない?」


そんなオレの疑問に、エミリーが少しキョトンとした顔を向けて来た。


「そりゃ、ダンジョンなんだから罠の1つや2つあるでしょ」

「ああ、それもそうか」


というか、ここまで来て帰る選択肢なんてない。

相手はダンジョンマスターなんて道の存在で、次来た時に金熊が何事もなかったようにここにいる可能性だってあるんだ。

かと言って、ここから先は相手に有利であるダンジョン内なのだから、少し慎重になるべきか。

そんなことを考えていると、弾んだ声で「儂から行こう」とカッサバさんが躊躇なく脚から水たまりに飛び込んだ。

オレもエミリーも、止める間もない一瞬だった。

するりと抵抗なく水面に吸い込まれると、少しの波紋を残してカッサバさんが消えた。


「全くもう!おじいちゃん思ったよりテンション上がってるのかも!」

「ちょ、エミリー!?」


ソーリスが制止の声を上げるも、プリプリと怒りながらエミリーも続いて水たまりに飛び込む。

血のつながりからか、2人とも結構即断即決だよな。いや、オレもか?

そんな二人に何とも言えない思いを感じながら、少し遅れてオレとソーリスも飛び込んだ。

と、思ったら一瞬にして石畳に着地することになった。

そこにはオレ以外の3人もいて辺りを興味深そうに見ていた。

オレもそれに倣い辺りを見渡すが、薄暗く辺りの様子は良く分からない。


「これがダンジョンか。想像よりも暗いな」

「これだと探索は松明とか用意しないと難しいね。おじいちゃんとトモヤくん、『倉庫』にそういうの入れてる?」


エミリーに言われ、オレもカッサバさんも倉庫を見てみるが、松明になりそうなものは持っていなかった。

確かに、光は俺たちが入って来た天上の出入り口から洩れる淡い光ぐらいで、その周辺だけが何とか見渡さエルぐらいで、奥は殆ど確認できない。

そんなことを考えていると、カッサバさんが勢いよく振り向いた。

敵かと思い見てみると、一つだけ視線の先にある暗闇に光が灯った。

あれはカンテラの光だろうか?


「よく来た、というべきか。よくも来たなというべきか。ともかく歓迎させてもらおうか、人間」


そんな侮蔑の滲む声と共に、『人間になりそこなった熊の様な男』が現れた。

ソーリスの様に耳だけが兎の様だとかではなく、モロに熊と人間の中間を形どったようなその生物の表情は読みにくいが、恐らく怒りに燃えているのではないだろうか。

身長も2mを越えており、体重も恐らく熊のそれと変わらないだろう。

長いその両手には小手の様なものがはめられており、先端には鋭く長い爪が装着されていた。


「『ウル』にはどうにか勝ったようだがよぉ。兄貴のダンジョンに入り込んで生きて出れると思うんじゃねぇぞ」


その『熊男』の後方より、さらに『人間になりそこなった狼の様な男』が現れた。

その男も顔が狼の為表情は読みにくいが、『グルルルゥ』と本物の狼の様にうなりを上げるその様を見る限りは此方も相当お怒りのご様子だ。

毛皮に包まれた手には、ハルバートの様な戦斧を握り肩に担いでいる。

3人に目くばせした後、俺はその2人の内の1人、『熊男』に問いかける。


「ダンジョンマスターか?」

「答える必要も無いだろう、矮小なる人間。ともあれ…」


そこから何故か『熊男』が語り始めた。

敵が目の前にいるのに随分と余裕だな。

「王にならんとしている俺の~」やら、「貴様らの蛮行は~」と続ける『熊男』を無視しつつ、エミリーに視線を向けると、エミリーは視線を忙しなく動かしながら呟いた。


「……犬顔だから表情が読みにくいけど、そっちの狼の人が『ダンジョンマスター』って聞こえた瞬間にあの熊の人を一瞬見たの。結構確率は高い……ううん、私はダンジョンマスターだと思う」


おお、まさかのドンピシャか。

思わず頭の中でガッツポーズしてしまう。

まさか標的があちら側からやって来るとは思わなかった。

理由は分からんが、もしかしたらこれ以上配下の損耗を防ぎたかったのだろうか。

まぁだからと言ってダンジョンマスターが一番に出張って来る意味は良く分からんが。

兎に角、何日もかかりそうだったダンジョン攻略を省く事が出来たのは僥倖だ。

オレはスキルを念じる。


(『時間停止』)


俺は祝福の1つである『時間停止』を発動する。

このスキルは一度発動すると止めることが出来無い欠点はある物の、MP5を使用することで1秒時間を止めることが出来る。

今のオレが全MPをつぎ込めば20秒以上の時間を止めることが出来るが、金熊戦で消費した今では10秒も止められない。

光すらも止まった空間で、オレは急いでククリナイフを取り出そうとするが、刃がつぶれていることを思い出し、母の剣を使うことにした。

『倉庫』に入れっぱなしだったのは幸いだったな。

久しぶりに見た母の遺品は、やはり草臥れてはいるが、この一回で壊れる程ではなさそうだ。

俺は柄を握り、全力で駆けてその勢いのまま『熊男』の首を狙い横に薙ぐと、肉と骨を断ち切る感触を味わいながらも、首はそのままの位置に留まった。

『時間停止』の空間内における物理法則には物申したいところもあるが、今は時間がない。

続けざまに剣を振り上げ、『狼男』を狙う。

戦斧を担いでいる反対側の方向から再びスイングするように剣を振るうと、首を切断した勢いのままぶつかった戦斧も手から離れて宙に浮いた。

母の剣を『倉庫』仕舞う。これで終わりだ。


「そして我がちゅめのぉ――ぁぁ?――」

「アぃニぃ――キぃ?」


真剣な顔をした熊と狼の首がクルクルと回転しながら宙を舞い、そして石畳に落ちた。

最期まで何が起こったのか判らなかっただろう。無理もないとは思うけど。

そんな一瞬の間の後、首が元あった場所からは大量の血液が噴き出し、ドサリと地面に伏した。

オレはその様子を確認すると、今だ宙で回転していた戦斧を掴む。

軽く振るい、石突きを石畳に打ちつけた。


「良し、ダンジョン攻略完了っと」

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