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44.金熊戦:棘

ギィィィン、と金属を叩くような音がした。

それは、およそ野生の生物の体から響く事はない打撃音。

音の出どころ、手元のククリナイフを見てみると驚く事に刀身の半ばが拉げていた。

結果として、オレの放った斬撃は全く無駄だった。


(眼球ですら無傷かよ)


有ろうことか、金熊は瞼でもなく眼球でククリナイフを受け止めていた。

その眼球には傷も凹みも無い。まるでホタルイカのような硬い眼球だ。

半減したとはいえ守備力は600を越え、数々のスキルに守られているその体の頑強さをオレは見誤っていたみたいだ。

そんな驚くオレに、熊から反撃の一撃が放たれた。


「ガァッ!」


短く吼えた金熊がノ―モーションで右腕を振り払う。

行動力100少々な奴の動きではない。何らかのスキルによる一撃だ。

その薙ぎ払いがオレのわき腹を捉える。

ミシリという嫌な轢音を聞くと同時に、空中に居るオレの体を吹き飛ばすと勢いのまま木に激突した。


「ぐっ!」


背中から伝わる衝撃に肺から空気が漏れる。

地面に落ちすぐさま立ち上がるも、背にかけて激痛がこみ上げてくる。

金熊の方を見ると、金熊が手を振り上げていた。

脳裏に蘇るのは、先ほどまで氷塊によって防いだあの衝撃波だった。


「グガァァアアア!」


先ほどの静かな佇まいから一転、金熊が力強く吼える。

しかしその咆哮とは裏腹に、振り下げられた腕から放たれた衝撃波は氷塊を破壊した一撃に比べて小規模で威力も低い。

レベルダウンの影響もあるのだろうが、『力溜め』や『精密』を使用せず、速射を意識しているからかもしれない。

だがそんな一撃でも、先ほどのダメージに体がすぐには動かず再び吹き飛ばされた。

地面スレスレを飛び、次の瞬間には地面を二度三度と転がっていく。

たとえ威力は低く、ダメージは余りないが何度も受けると流石に危険だ。

痛みを堪え歯を食いしばりながら、オレは急いで起き上がり再び金熊へ走りだした。

同時に握っていたククリナイフを金熊の足元に向けて投擲するが、金熊の振り払いによって弾き飛ばされると回転しながら藪へ消えた。

遠距離戦は分が悪い。金熊は距離を空けても衝撃波がある。

MPが尽きるまで逃げ続けるという手もあるが、オレは金熊と違って遠距離で決定的な威力のあるスキルはない。 

水銀球は『絶対反撃』の迎撃されてしまうだろうし、ニトロを使うには距離を取る必要があり起爆するまで若干の時間差がある。

大きく距離を空けると氷塊を破壊したあの高威力の衝撃波を使ってくるだろう。

レベルダウンの影響で威力は低下しているだろうが、実際の威力は判らない。

だからこその接近戦なのに、ここで引くのはリスクが高い。

なら、戦い方を変える必要がある。

急所攻撃ですらダメージは望めそうにないのなら、次は搦め手だ。


(『倉庫』、からの『液体操作』)


念じて、『倉庫』に仕舞っておいた大量の水を空中にまき散らすと、纏めて水球にする。

狙いはレッサーマンティコアにも通用した『窒息死』だ。

頭にまとわりつかせた後、そのまま凍らせてやればいい。

気付けば、金熊は再び仁王立ちに戻っている。衝撃波で追撃も出来ただろうに、好都合だ。

ククリナイフと同じように一発受けてくれればなお良し。

そんな金熊に水球を真上から差し向ける。先ほどと同様に、金熊は微動だにしない。

だが、金熊の死角から頭に覆い被さる瞬間だった。

先ほどのオレと同様に、水球が飛沫を飛ばしながらはじけ飛ぶと、地面に広がり金熊周辺の地面を濡らしてそのまま凍った。

目で追った限り、とんでもなく早いアッパーが水球を叩いた…はずだ。

正直、早すぎて良く見えないが、恐らくそうだろう。

水球はあっけなく金熊に撃退されてしまったが、分かった事もあった。


(恐らく、『絶対反撃』)


金熊の持つユニークスキルだ。

名前で察するに、此方の攻撃に対して確実に反撃をしてくれるスキルなのだろう。

だが、2回使用されたがどちらも『爪術』等のスキルを上乗せしているようには見えない。

多少の攻撃力を上乗せされているようには感じるが、あの衝撃波で反撃されないだけマシか。

となると、反撃の範囲は腕の長さ分な訳か、成程な。

木々の間で仁王立ちを続ける金熊を観察しながら、心の中で溜息をついた。


(これは勝てないな)


これは、早々に『一人で』勝つのをあきらめた方が良い。

持久戦に持ち込んでも良いが、早く倒すのに越したことはないだろう。

あー、もう少しやれると思ったんだがな。

あっちのスキルの相乗効果が思ったよりも高かったのが敗因か。

ともあれ、金熊のスキルは大体把握できた。そのどれも『作戦』に支障は無いだろう。


(もう一度『倉庫』だ)


再び空中に液体が広がる。

ただし、先ほどの真水とは違い、今度の液体は琥珀色で粘度の高い液体だ。

それを、水球の10倍の量を予め用意してある。

その液体を巨大な水球として纏めると、金熊に向かって勢いよく動き始めた。

ただし、狙いは金熊その物では無く、前の水球によって凍った地面の上だ。

金熊も目で水球を追っていたが、『絶対反撃』が発動せずそのまま地面にぶつかり、地面と金熊の足元を濡らす。

バシャリと水球が凍った地面の上に叩きつけられ、金熊の足元に黄金色の液体が広がっていく。

金熊の目には、僅かに困惑の色が見える。

何故『絶対反撃』が発動しなかったのか疑問なのだろう。

だがそれは当然だ。初めから金熊に当てるつもりはなかったのだから。

先ほどククリナイフを金熊の足元を狙って投擲した時、金熊は『絶対反撃』ではなく何のスキルも使用していない咄嗟の反応で対処したのだろう。

つまり、金熊の『絶対反撃』は自らを対象とする攻撃のみに反応しているのだ。

であれば、その周囲の影響に対応はできないという事。

そんなことを知ってか知らずか金熊が琥珀色の液体に視線を向ける中、さらに木々の間を抜けて矢が地面に突き刺さった。

エミリーからの援護射撃だ。

さらに金熊の頭を狙い何本もの矢が飛んでくるが、金熊に先ほどの様な動揺は無い。

その矢は全て『絶対反撃』によって迎撃されてしまう。

エミリーはらちが明かないと判断したのか、頭上から大量の矢が降り注ぐ弓術のアーツ『アローレイン』を放ったようだが、その一本一本に『絶対反撃』が発動しているようで、嵐の様に腕が振るわれ防がれてしまう。

だが、元々金熊にダメージを与えるために射掛けている訳じゃ無い。金熊の注意を少しでもそらすためだ。

オレは金熊まであと数mというところで三度『倉庫』を使う。

取り出したのは、氷塊と同じように鋼鉄並みの硬さを誇る超低温氷で作られた一本の棘だ。

土台から継ぎ目なく上向きに突き出ているその棘の大きさは約2m程。

その先端は返しが付いており、抜けにくくするための工夫が施されている。

そして、取り出した場所が肝だ。

『倉庫』には物を取り出す以外にも、地味ながらもう一つの効果がある。


○一一一一一一一一一一一一○

l 倉庫(2/5LV コスト無し スキル )

l-常時発動可能。

l-生物・敵性対象以外に発動可能。手に触れているものを亜空間に

l 保存することが出来る。

l-容量は以上に倉庫に入れることは出来ない。容量はスキル保有者の

l レベルとスキルレベルに依存する。

l-スキル保有者の半径10m以内に取り出した物を配置する事が出来る。

○一一一一一一一一一一一一○


『倉庫』には場所を指定することで対象の場所に物を配置することが出来る。

オレが指定したのは、金熊の背後だった。

金熊はオレが接近していたのに気づいて視線を再びオレに戻していたが、突然現れた氷の棘の冷気を感じ取ったのか、背後を振り返った。

いつでも撃退出来るオレよりも、突如気配もなく現れた何かを確認することを選んだようだ。

ソーリスがレベルダウンの原因というのは金熊も理解しているのだろう。

そうなれば、突然湧き出た何かは金熊に取って最も警戒するべき対象だろうから当然か。

そして、振り返った際に地面に広がる琥珀色の液体を金熊が踏む。

このタイミングだ。

ここからの数秒で全て決める。


「カッサバさん!」

「応っ!」


オレの呼び掛けに答えたカッサバさんが、生い茂る枝葉を潜り抜けて木の上から金熊に向けて飛びかかった。

体は銀熊と戦った時と同じように赤く光っており、銀熊と戦う際に見た『格闘術』のアーツを使っていることが分かる。

祈りをささげる聖職者の様に両手を合わせて握り、先の金熊と同じように振りかぶっている。

そんなカッサバさんを『察知』により感じ取ったのか、慌ただしくも金熊はカッサバさんの方向に体を向け要とした、その瞬間だった。


「グッ!?」


だが、振り返り踏み出した足は踏ん張りがきかず、逆上がりのように空を蹴り上げてしまう。

早い話、金熊は足を滑らせてしまい、体を浮かせてしまっていた。

その原因は、金熊が先ほど踏んでしまった液体の正体は『潤滑油』だ。

粘度の高いこの液体は、物体と物体が密着した時に発生する摩擦を著しく低減させる。

潤滑油を踏んだ足では幾ら踏ん張ろうとも意味を成さず、金熊であっても容易に転ばすことが出来る。

地面をあえて凍らせたのも、土の地面に潤滑油が染み込んでしまうのを防ぐためだ。

そうして転ばせ、仰向けに倒れる金熊の背の先には、あの氷の棘があった。


「グガッ」


やや間が抜けたような声が金熊の口から漏れ出した。

巨体から想像できる通り、金熊は非常に重い。

体長から考えて、トンにも迫る体重だろう。

その重さによって、金熊の背には鋭く尖った氷の棘が突き刺さっているが、その頑強さから筋肉に食い込む程度だ。

それも想定内。だからこその、カッサバさんだ。


「がぁああああああ!」


獣染みた一喝がカッサバさんの口から迸る。

宙に身を躍らせたカッサバさん渾身の一撃を、仰向けになり棘の刺さった体で避ける術は金熊にはなかった。

背骨が折れるのではないかという程体は海老反りになり、そこから振り下ろされた両腕はまるで大槌の如く金熊の膨れ上がる大胸筋を殴りつけた。

その打撃音はククリナイフで切りつけた時と同様に、肉を叩く音ではなく金属の鐘を叩いたような音が辺りに響き渡る。

同時に、『絶対反撃』による一撃によってカッサバさんの体が金熊の真上に吹っ飛ぶが、カッサバさんのスキルによって殆どダメージは無い筈だ。

それは金熊も同様であり、体はカッサバさんの全力を込めた振り下ろしでもダメージは無かった。

だが、高い防御力もその勢いまでは殺し切ることが出来ず、衝撃を受けた体は地面に向けて叩きつけられる。

必然的に、浅く刺さっていた氷の棘は筋肉の壁を越え、肋骨をすり抜け内臓を食い破りながら胸を突き破った。

百舌鳥の早贄のように金熊の胸からは氷の棘が生え、傷口の周りは早くもその低温さから血と毛皮を凍らせ始めていた。

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