41.金熊戦:風越し
申し訳ありません、少し短いです。
エミリーとカッサバさんが戻って来た翌日、早くも金熊に挑むことになった。
王国軍…というかオードとかいう特殊性癖女が道案内のお誘いが来る前にダンジョンを攻略したい。
輪になってエミリーの手を触るのは、オレとカッサバさんだ。
エミリーの顔には珍しく緊張の色が見える。カッサバさんは少しワクワクしているように笑っていた。
そんなオレ達は、普段着の上から熊の毛皮から作った防寒着をしている。
カッサバさんによれば、年中春の様な森では中々見られない恰好らしい。
どうでもいいが、ルーマニアかどっかで熊の毛皮を着る祭りがあったような気がする。
というか、カッサバさんは年がら年中上半身裸で熊毛皮のマントなのだからそっちの方が珍しいと思うんだけど。
オレも今回は隠れる必要が無いため緑のローブではなく毛皮のコートの様なものを着ている。
『裁縫』持ちのエミリーお手製のこのコートは、防寒性能は良いんだけど素材のせいなのか何か臭い。
他の皆はこの手の服に慣れているのか何ともなさそうだ。
防寒目的なら『液体操作』でワセリンとか作るべきだったかもしれないが今更だな。
カッサバさんとオレのコートは黒熊で仕立ての物で、エミリーは青熊の毛皮を使用している。
青熊の毛皮は耐寒能力が高く、防御力も黒熊より高いのだが、素材が一人分しかなかったのでレベルがそれほど高くないエミリーが着ることになったのだ。
オレが毛づくろいをするように毛皮を撫でつけながら獣臭に耐えている中、蒼い毛皮に包まれたエミリーの左手に皆の手が添えられ、自由に動かせる右手の指を3本立てた。
「それじゃ、3秒数えて行くよ。…3、2、1、『世界地図』」
エミリーがカウントを言い終わるか終わらないかのタイミングで、周りの景色が一変する。
今までいた狩猟小屋ではなく、一瞬にして緑の濃い森の中にオレ達は立っていた。
『熊の領域』、それもダンジョンから近い位置だからか、小屋周辺の森の空気とはどこか違う様に感じる。
辺りを確認する中、いち早くカッサバさんが動く。『狩猟』スキルで金熊の場所を察知したのだ。
が、小さくカッサバさんが「むう、気付かれた」と呟いたのを聞き、急いで前に出る。
(5、4、3、2、1…今だ)
カッサバさんが全力でオレの後ろに退避すると同時に、『倉庫』スキルから前方に取り出したものを展開させる。
宙に現れドン、と大きな音を響かせ地面に落ちたそれは曲線を描く巨大な氷塊であり、3mを超える対波動用の防壁だった。
オレは、あの金熊の衝撃波は『爪術』『波動化』『精密』『力溜め』の4つを利用した攻撃だと予想していた。
『爪術』で大本の衝撃を作り、『波動化』でその衝撃を遠方に拡散させ、『精密』で狙いをつけ、最後に『力溜め』で威力を上げると同時に射程距離も稼ぐ。
そうして4つのスキルを応用したものが、あの衝撃波の正体だ。
生半可な対応策ではあれに突破されてしまう。
そうして考えた末、オレが用意したのは『液体操作』によって作り出した超低温の氷塊だ。
その温度はオレが想像できる限界の『マイナス70度』であり、1気圧下では実現不可能な代物なのだ。
冷たくなれば冷たくなるほど氷は硬くなる性質がある。マイナス70度を超えるこの超低温の氷塊はモース硬度にして6前後であり、単純な比較は難しいが鋼を同等の硬度を持つ。
エミリーとカッサバさんが自由領に行っている間にソーリスと一緒に何とか作り上げた、まさしく鉄壁の一品だ。
というか、オレの前世の職業って一体何なんだ。こんな氷の知識なんて普通要らないだろう。
研究員か何かだったのだろうか。とはいえ、今回はそれに助けられた感じだな。
と、そんな今回の秘密兵器の一つは半分に割られた細長いかまくらの様な形状で、その流線形の先端を金熊の居る方向に向けており、衝撃波を受け流せるようにしている。
そんな氷塊に入る為に開かれた後部へ、オレ達4人が転がり込むようにして入り込んだ。
瞬間、辺りの木々を吹き飛ばす凄まじい轟風が巻き起こり、氷塊にもギャリギャリと何かを削るかのような不快な音も聞こえるが衝撃には耐えている様だ。
氷塊の外を見てみると、受け流された荒々しい轟風が辺りの木々をなぎ倒している。
宙を舞う巨木は1本や2本ではない。少なく見積もっても数十本は飛んでいる。
大木と言っても良い樹木が、まるで小枝のように吹き飛ぶ様は巨大なハリケーンに巻き込まれたようだ。
だが、これぐらいであればまだ予想範囲内だな。
「やはり連射できないようですね」
「うむ…予想していた5秒以上の猶予はある。衝撃波の着弾含め10秒は有るだろう」
「なら、作戦に変更なしだね。少しずつ近づいて行こう」
エミリーの判断にオレとカッサバさんが頷いた。
そう、あの金熊の衝撃波は確かに強力だが、『力溜め』の溜め時間とスキルの同時使用による弊害で連射が出来ない、と予測していた。
もし連射が出来るなら、前回オレが衝撃波によって空中に跳ね上げられた時、もう一度衝撃波を使われていただろう。
と、お互いに確認をした直後再びの轟風が放たれ、まるで質量を持っている様に氷塊の正面を叩いた。
落ち着いた時を見計らい、オレは2人に向かって小さく呟いた。
「収納」
氷塊を『倉庫』により収納すると、俺たちは前方に全力で走る。
衝撃波の影響でオレ達と金熊を結ぶ一直線上には倒木や大きな石が転がっており、その先には振りかぶるようにして構える金熊がいる。
まだ距離は50m程は離れているだろうから、作戦実行のためには後40mは進まなければならない。
その金熊が勢いよく腕を振り下ろすと、大気がぐにゃりと一瞬撓んだように見えた。
恐らくあれが衝撃波の元だ。
それを証明するかのように、金熊の振り下ろした地点から土埃と倒木を巻き上げながら此方に向かってくる。
まるで見えない大波が倒木を巻き込みながら押し寄せてくるようだ。
「展開」
氷塊の展開に都合の良い平らな場所を急いで探すと、再び氷塊を出して急いでその中に隠れた。
ドン、と大きな音を立てて再びの衝撃波が着弾し、氷塊を大きく揺す。
先ほどよりも削る音が大きい。何だかミシミシと軋むような音も聞こえ始めた。
疑似とはいえ鋼製並みの強度だぞ。結構自信作だったんだけどマジか。
「近づくと威力が段違いですね」
「面倒だな。予備の氷塊を使っても一撃の可能性もある。早いがここで二手に別れるか」
「ここからだと目測で残り40m程だね。一発はスカさないと厳しいと思うけど?」
「オレが何とかするよ。二人は森の中へ」
行ってくれ、と言い切る前に、氷塊に衝撃波の2発目が着弾した。
ぴしり、という何かがヒビ割れるような音がオレの耳に届いた。
氷のモース硬度の件ですが、『モース硬度』と『強度』は別物っぽいので実際にどうなのか詳しい方が居たら教えてください(ググったけど良く分からなかった)。




