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39.男と女

大変投稿がお遅くなり申し訳ございません。


エミリーとカッサバが通された部屋は砦3階にある奥の一室。

部屋の隅に置かれた燭台に照らされてはいるものの、スキルによる狙撃を考慮してか窓が無く、部屋は薄暗い。

空気は何処か湿っているようで、その場に留まり続けるには不快な場所であった。

そんな部屋に通されたエミリーは、先ほどから得体のしれない寒気を感じていた。

その寒気は室温に対してでは無く、かといってスキルから齎された独特の感覚という訳でもなく、何となくの勘であった。

それは、視界の端に移る1つのオブジェとして飾られている『何か』。

趣味の悪さを強調するかのような数々のインテリアの中でも、それは飛びぬけて異質だった。

エミリーの目に映るそれは、魔物の革で造られたイモムシの様な物体が天井からつりさげられており、時たま思い出したかのように身じろぎし、革鳴りがギシギシと聞こえてくる。

さらに、ダンジョン創作の御蔭かレベルが上がり、より鋭くなった五感から知りたくなかった情報が流れ込んで来る。

先ほどから感じ取れる寒気。耳に聞こえてくるのはごく小さなうめき声。鼻には微かなアンモニア臭も感じられる。

否定したくも、それらの情報を総括すると、あの黒革の中身が否が応でも判ってしまう。

体の細さや声の高さから、『あれ』は若い人間の女性だ。


「俺の『作品』に興味があんのか?」


野太い男の声にオブジェから視線を外し、エミリは―改めて目の前の男を見据えた。

半円状のソファーに、横柄な態度で座る男は自らをオードと名乗った。悪名高き『山賊王』の名だ。

身長凡そ2m、余り引き締まっているとは言えないが、体はそれなり以上の筋肉を備えている。

山賊ゆえか、それとも男の趣味なのか騎士の称号を得ながら男の服装は荒々しい毛皮を用いたベストに腰蓑。幾多の傷がある強面に、伸び散らかした髭というおまけ付きだ。『粗野』の言葉がこれほど似合う人物も中々いないだろう。

そんな男の隣には、男の首を愛おし気に撫でている女が一人、ビロードのような薄手の服を纏う煽情的な恰好で妖しく微笑んでいる。オード専属の情婦なのだろう、とエミリーは女を適当に結論付け、オードの問いに答える。


「勘違いしないでください。興味があるのは仕事の話だけです」

「ふん、いいねぇ。そういう態度を見てるとよ、『創作意欲』が湧いてくるじゃねえか」

「仕事の話をしませんか?私たちは暇じゃないんですけど」

「お前がそうでも俺はそうじゃない。『材料』になりたくねえなら、もう少し付き合えや」


無表情で答えるエミリーに対し、傲岸不遜な態度のまま舌なめずりして答えるオード。

そんなオードをエミリーは若干目を細めて観察する。そうして得た情報に、エミリーは「また、か」と内心首を傾けた。

こうした問答を先ほどから2,3回は繰り返すと、その度にエミリーはオードの視線の動きやしぐさを観察し続けていた。

この薄暗い中で、エミリーがそうして観察できるのは、ひとえに夜狩りの経験のなせる業だろう。

そして先ほどの、お前も『あれ』の様にしてやろうかと言外に脅迫するオード。そんな威圧的な男に対して、エミリーは少し違和感を感じていた。


(どこか不自然。さっき『作品』『創作意欲』と言った時、声の張りと震えを感じた。顔は笑顔でも、声全体に弾みを感じない。本意を隠すようにワザとちょっと大きな声をだして誤魔化している)


今もなお、本題に入らず如何でも良い事ばかり喋るオード。

やはり言葉の端々には違和感を感じる。

だが、目の前の男が何を隠しているのかが、これだけの情報だとエミリーには判らなかった。

はあ、と本日何回目かの溜息をエミリーがつくと、あるスキルを発動させる。


(『観察眼』)


エミリーがは如何させた『観察眼』は、発動しなくても効果を発揮するタイプのスキルだが、MPを消費して発動した場合、視覚からの情報量を上げる効果があった。

会話による情報が不十分なら、同時に周囲を観察することで足りない部分を補おうと考えたのである。

ただ、発動していない状態の方がスキルの経験値を稼げている実感がある為、エミリーはあまりこのスキルを積極的に使っていなかった。エミリー曰く、「勿体ない」為である。

ただ、あまり悠長なことをしている暇はない。『計画』を実行に移すためにもエミリーはMPを消費し、今だにしゃべり続けているオードに相槌を打ちながらオードの全体を始め、部位の反応までつぶさに観察する。

ちらり、とオードから視線を外して女を凝視すると、その視線に気付いたのか小さく女が微笑んだ。

エミリーはそこで一旦『観察眼』を解くと、隣に座って目を閉じ腕組みをしているカッサバに小声で話しかける。


「おじいちゃん、この人たち『いくつ』?」

「女が30、男が15」

「了解。間違いないね」


片目を開けて男と女を見据えるカッサバの声を聴きながら、エミリーは再び女と視線をかわす。女はそんな2人の思惑を知ってか知らずか、未だに微笑んだままだった。

対照的に、オードの先ほどまでの余裕が崩れ、恐怖交じりの焦燥が見て取れ、明らかに何かを恐れていた。

そんな2人を見、面倒そうな相手だとエミリーは内心悪態をつきながら、恰も獲物を見つけた狩人の様に自然と口端は上がり、目は鋭くなっている。

「ちょっと待て」というオードの焦り切った中断の声を無視し、エミリーは女を指さした。


「貴方がオードですね?」


女は答えず、ただ笑みを濃くするだけであり、男は絶望を顔に浮かべ呆然としている。

エミリーがその反応で確申する。この情婦然としている女こそが、『山賊王』オードだと。

その追及をしようと口を開いたエミリーだったが、それよりも早く『グチャリ』と、何かがつぶれるような音が部屋に響くと同時、鮮血が辺りに飛び散った。

その音の発生源はオードと思われていた男の喉。今まで愛しむように女が撫でていた喉は、その手によって握りつぶされ抉られていた。

男の顔は恐怖に彩られており、女を見ながら口をパクパクと開閉させているが、動脈を切断されたのか喉から血が勢いよく吹き出している状態では、喋ることはおろか生命の維持すら難しいだろう。

そんな男を気にかける様子もなく、情婦然とした女…エミリー曰く『オード』は、噴き出る血で汚れた全身も気にかけずに、笑いながらエミリーに問いかける。


「ふう、何処でバレたのかしら?彼、結構いい線行ってたと思うんだけど」

「男の額に多量の発汗。視線は忙しなく動いているけど、隣の貴方を何度も見ては視線をすぐそらしている。呼吸は浅く回数が多い。貴方が男の喉を摩るように手を動かすと、それと同時に手足が一瞬震えていた。つまるところ、極度の緊張状態。貴方に精神安定のスキルでも掛けて貰っているのかとも思ったけど、そうじゃないとすれば…」


『観察眼』によって得られた情報量の多さにオードも少し驚いたようで、不敵な笑みを崩して目を細めた。

だが、それは一瞬で元の笑顔に戻り、追加の疑問を口にした。


「さっき、そっちのおじいちゃんが言ってた数字の意味は?」

「レベルだよ。おじいちゃん、スキル使わなくても大体わかるから」

「成程。でも、レベルの多寡だけだと『オード』を断定出来ないと思うけど。護衛って線もあるかもしれないじゃない。さっき貴方は『間違いない』って言ってたわ」

「あれ?そんなこと言ってたっけ?」

「…カマ掛けか。生意気ね」


少しだけ不貞腐れた様に、オードは腕組みし顔をそらした。

貴族の令嬢の様な端麗な容姿とは裏腹に、男の血に濡れ赤黒いその様は唯々不気味だった。

数舜の間を挟み、「まぁいいわ」とオードが何気なく言うと隣の男の死体をソファーの後ろへぞんざいに放り投げると、改めて中央に足を組み、深く腰掛けた。


「改めて自己紹介させてもらうわ。私がウッドラン王国名誉騎士にして、悪名高き『山賊王』…パトリシア・オードよ」


「宜しくね」と微笑むオードに、エミリーも笑顔を返す。

スタートラインまで来るのにどんだけ時間かかっているんだ、という思いと共に。いと共に。

後1話オードの会談で、その次が金熊戦です。


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