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35a.『熊と狼』の主

申し訳ありません。

投稿していたつもりでしたが、出来ていなかったようです。

その全面石造りの部屋は地下にあった。

そこに入る為の唯一の出入り口には扉は無く、柔らかな陽光がそこから入り込むだけで、光を取り込める天窓などは何処にもない。

それを補うように、2人の男が腰掛けた椅子、その前にある机には辺りを照らすランタンが一つ置かれていた。

そのランタンが照らすのは、机の中央に置かれた一枚の地図。

その地図は、男たちの居る部屋を出た周辺の物のようで、その精度は非常に正確であった。

その地図の上には4つのヒト型の駒と、少し離れたところに金色に光る熊型の駒が置かれていて居るのだが、不思議なことに時たまその4体の内の何体かが吹き飛ぶように移動したり、弾かれるように横へとずれたりしている。よく見れば熊の駒も細かく震えるように動いており、それに連動するように4つの駒も動き、地図に描き表された木の絵も、熊が動くたびに何本か無くなって行くのが分かる。

2人の男はその地図をジッと見て、一人は苛立った様に机をトントンと指で叩き、もう一人の男は腕を組んで冷静に地図の上に展開する駒の動きを見つめている。

そして、4つの駒の内の1つが、遠くへ吹き飛ばされていたのだが、その1つの元にに残りの3つが集うと、まるで役目が終わったとばかりに4つの駒はその動きを止めた。


「…ああ?止まっちまったぞ。兄貴、これ如何なったんだ?」

「逃げられたな。ふん、人族如きにここまで粘られるとはな」


腕組みを止め不機嫌そうに悪態をついた男は、丸い熊耳を生やした、茶色の濃い体毛を持つ男だった。

その男を『兄貴』と呼ぶ男は、三角の狼耳を生やした薄灰色の体毛を持つ。

人族に獣の特徴が現れた獣人種と違い、その2人の男はまるで獣がそのまま人の形を取ったような姿をしていた。

着ているものは人族の者と大差の無い物だったが、熊や狼の特徴を色濃く残し、その鋭そうな爪や牙は獣人族には無い物だった。


「ああ、逃げられただと!?すぐに追いかけてぶっ殺そうぜ、兄貴!」

「無駄だ。地図の端では無く地図の中で駒は動かなくなった。つまり、何らかの方法によってこの領域から一瞬にして別の場所に移動したのだ」

「…んだと?まさか、『次元魔法』の使い手がいるってのか?」

「少なくとも、それに近いスキルを持っている人族がいるはずだ」


『熊の男』がそういうと、机に広げた地図を畳んでいく。いつの間にか地図の上からは駒が消えていた。

『狼の男』の言う『次元魔法』は魔法の中でも最高難度の魔法技術であり、短命である人族が修めることは非常に珍しい。エルフ族や樹木族など、長命かつ魔法敵性の高い種族が長い年月の修行の果てに初めて習得出来る魔法であった。

だが、もし人族で習得出来る者がいるのであれば、その者は紛れも無く天才の証明である。

『狼の男』は、その存在が万が一、あの集団に居るのではないかという事を危惧しているのであった。


「あのウルとかいう金色の熊、魔法耐性無えんだろ、大丈夫なのか?」

「『次元魔法』で覚える事の出来るアーツを攻撃の手段として使うのは難しい。他の魔法を極めているというのならば話は別だろうが、2つの属性をあの若さで極めるのは至難だ。まず使うことは出来る事は無い。ならば、再戦になろうともウルで返り討ちに出来る」

「…それなら良いんだけどよ。守りの狩りは性に合わねえな」


不満を述べる『狼の男』は口を尖らせたまま、机の上に置かれていたゴブレットの中身を飲み干す。

その後吐き出された酒臭いゲップに『熊の男』が眉を顰めた。


「お、帰って来たみたいだぞ」


おもむろに『狼の男』がそういうと、『熊の男』の隣を指さした。

いつの間にかこの部屋に入り込んできた小さな穴熊が、『熊の男』の側に座り込んで前足を上げている。

それに驚くわけでもなく、『熊の男』がその穴熊に手を差し伸べ穴熊の前足を掴む。すると、その掴んだ部分が淡く発光し、その光が『熊の男』の方へ流れて行く。

この穴熊は『熊の男』の持つ眷属の一匹であり、この穴熊が見たものをその他の者へと映像だけを引き渡す事が出来るスキルを持っていた。

光が消え、その映像を確認し終えたのか、『熊の男』が閉じていた瞼をゆっくりと開けると何かを馬鹿にするかのように鼻で笑う。


「やはりな。成す術も無く撤退している。碌な対応も出来ずに、1人は深手を負って帰って行った様だ」

「そりゃあ良いけどよ。また来るかね、奴ら」

「奴ら自身が来るかどうかは分からんが、我らがダンジョンを発見したのだ。まず間違いなく、人族が大挙して押し寄せてくるだろう。それこそ、魔族共よりも大量にな」


なんてことは無いとでも言いたげな『熊の男』の言葉に、訝し気に『狼の男』が疑問を口にした。


「大丈夫なのか?今まで遣って来た事ってそういう状況を作らねぇためにやってたんだろう?」

「問題ない。修行場として生かされているだけのダンジョンとは違い、我らにはこの数十年間溜め込んできたダンジョンポイントが有る。とはいえ、今すぐに人族の軍が攻め込んで来るという訳でもない。早くても2,3か月後だろう。まずは、しつこい魔族共を森から駆逐するのだ」


自らの勝利を確信したかのように、『熊の男』は猛々しい笑みを熊の顔に浮かべた。


「1週間後程で雑事を片付け、我々は『外』に打って出る。ダンジョンが支配されるだけの存在と思うなよ、人族め」

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