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4.熊

歩き始めて大体1時間ほど経過した。

歩きながらステータスを確認していたが、MPは大体5分に1回復するようだ。時計も何もないから大体だけど。

血のサンダルは先ほどただの血に戻った。如何やら効果時間は1時間程度のようだ。しょうがないのでもう一度血でサンダルを作り直す。

日の傾きから、午後3時くらい。早ければあと数時間で日没で間違いない。

火を起こすのは、この距離だとあの怪物は居場所がばれるかな。

といっても、火を起こす手段を持っている訳じゃ無いが。

とにかく、食べ物と飲み水が無ければ死んでしまう。『液体操作』を使うことも考えれば、出来るだけ大きな水源が有るのがベストだ。

そこから、さらに30分ほど歩くと、あるものを発見した。


(……人に会えればとは思ったけどさ)


2人の男性が地面に倒れ込むように亡くなっていた。

一人は中年男性、もう一人は15歳くらいの少年だった。どちらも背中に大きな切り傷があった。

恰好から所謂兵士や、物語に出て来る冒険者のような恰好だ。

まだ腐敗はそこまで進行していないし、死んで間もないように見えた。

死因は背中の裂傷による出血死、だろうか。

オレは、申し訳ないと思いつつも、その2人の死体から装備を頂くことにする。

いつまでも全裸のままだと、オレも遠くないうちにこの2人の仲間入りだ。

ただ、流石に小学生低学年くらいの背丈しかないオレにはどちらの装備もぶかぶかだ。若干少年のほうがマシという感じ。それでも先ほどよりはだいぶ人間の恰好らしくなったと思う。

どうにか使えそうなのは、ブーツ、背中が破れたシャツ、皮手袋、皮鎧、ナイフと剣、道具袋だ。

背が破れた白いシャツと、茶色のズボンを、裾を折り曲げて履いていく。流石に下着は履くのを止めた。

皮の胸当てもあったが、こちらはサイズが違い過ぎていて付けれなかった。しょうがないので置いて行く。

ブーツの中には布を敷き詰めてサイズ差を誤魔化すと同時に、血がもとに戻るときに吸い込むようにしている。一応足にも布を巻き付けた。

身元が分かるものがないか探したところ、2人とも首からドッグタグのような物を下げていたので回収しておく。

ただ、残念なことに、水を入れていたであろう革袋は、どちらもカラであった。

飲み尽くしてしまったのか、戦闘の際にすべて零れてしまったのだろうか蓋が空きっぱなしだった。

その代わり、道具袋のようなものから、火打ち石と、干し肉、チーズのようなものを見つけた。うーん、食べ物は良いんだが、喉がパッサパサになるな。

……やりたくはなかったが、こうなっては仕方ない。生き延びるためには、出来る限りのことをしなければいけない。俺は2つの死体に対し頭を下げた。


俺は、2つの死体に『液体操作』を発動し、死体に残っていた血を全て宙に集めると、飲料水に変化させた。その水を、空いた革袋に入れて行き満杯になると、残りの宙に浮いた水を直接飲んでいく。その水は、カラカラに乾いた喉に染み渡り生きていることを感じさせてくれた。

飲みきれなかった水は、シャツを裂いた布切れで体を拭くのに使った。

死体のそばにあった剣は使わず鞘だけを母親の形見の剣を入れるために頂いた。多少隙間が空いているが抜き身よりはマシだと思う。

オレはそこから移動しながら、干し肉を少し食べ、移動していく。

あの2人の冒険者らしき人物は背中を切られていた。

ということは逃げている最中に切られた、もしくは奇襲により殺されたかだ。

もし、この2人が逃走中だったのなら、向かっている方向は人里に続いている可能性が高い。

何も目標も無く歩き続けるよりは、この2人の向かっていた先に行ってみよう。

そうして、さらに2時間後、特に進展なく進んでいると、周りの木に比べて一回り大きな木が目の前に現れた。お誂え向きに樹洞うろがあり、人一人ぐらいなら入れそうだ。

もう辺りがだいぶ暗い。

オレは、水と干し肉を齧り周辺にあった枝や葉っぱを使い入り口を隠すと、早めに寝ることにした。

ステータスを確認してから寝ようと思ったが、やはり疲れていたのか数分もせず眠りに落ちた。





頭の中に記憶が渦巻いている。

胎児のころの記憶だ。体のほとんどが働かない感覚。唯一、へその緒から送られてくる暖かさだけが母親との繋がりだった。きっと栄養だけでは無い物も送って来てくれたんだろう。

それが唐突に途切れ何も感じなくなり、俺は焦った。パニックになったんだ。

今思うと母親のことなど二の次で、自分の事しか考えていなかった様に思う。

何とか冷静に行動しようとしたが、事前の準備不足としか言いようがない。

もっと上手くやれたはずなんだ。『ヘルモード』に挑む上での覚悟が足りなかったんだ。

だから、あの繋がりから得た物を、オレは結局仇で返すことになってしまった。

そこからスキルを使い、オレの体が急成長し始めた。この時、オレは少し安心したんだ。

この絶望的な状況を変える事が出来ると。

もし、全てがオレの勘違いで母親がもし生きていたら?なんて、欠片も思わなかった。何も考えちゃいないな。やっぱり最低だ。

生まれ落ちたオレが、目の前の怪物とにらみ合い、剣を持って、村のような所から脱出する。

そこから走って、歩いて、2つの死体から装備を剥ぎ取りそして血をーーーここで俺はやけにはっきりと思い出せる夢から目覚めた。





余り面白くない夢を見た。夢というか記憶を辿っていく『作業』に近いと思う。

スキル『絶対記憶』の記憶の整理って奴が原因だろう。これ毎晩続くのか?たまらんね。

まぁ、ウジウジしても一個も良いことはない。切り替えよう。

これから先の就寝事情を考えていると、不意に何かが外にいるような気がして入口に置いた葉っぱと枝を取ろうとした手が止まった。

枝葉の隙間から見るに、どうやら…『熊』がそこにいるみたいだ。かなり長い体毛が特徴的な熊。かなり大きく立ち上がれば2mを超えるはずだ。

此方にはまだ気づいていないのか辺りをキョロキョロと見渡し、時たま地面の匂いを嗅いでいる。

もしかして、血の残り香からここまで来たのか?それなら、ここを見つけられるのも時間の問題だろう。

少し引け腰になりながらも樹洞に隠れながら『鑑定の魔眼』を発動する。


○一一一一一一一一一一一一○

l名前:ブラウン・ヘアリー・ベア(ノーネーム)

l種族(状態):熊族(空腹<中>)

lLV:12(120/6500)

lHP:114/114

lMP:2/2

l攻撃力:53

l守備力:41

l行動力:26(空腹<中>状態の為-10補正)

l幸運 ;4

lスキル

l-狩猟<野生>(2/5LV)

l-爪術(2/5LV)

○一一一一一一一一一一一一○


ヤバい。ステータスの差がダンチだ。レベルも6倍だから『逃走吸収』も使えない。

普通に逃げようにも空腹によりマイナス補正がされている状態でさえ行動力の差がありすぎる。

すぐに追いつかれてしまうだろう。かといって戦って勝てるものか?

こんな格上の存在と戦うよりも勝てる敵と戦い経験を積んでから挑むべきなのでは?

これから先、『ヘルモード』の効果で如何いった存在と争うことになるかも分からない。

様子を伺い経験を得る機会を待つのが賢い方法なのではないのか?

そんな弱気なオレが顔を見せている事に気づき、俺は頭を振った。いやいや、『そう』じゃ無いだろう。


(そうだ、ここは『ヘルモード』だぞ?いつまでも逃げ腰で如何にかなる所か?何も考えずに逃げるだけならヘルモードじゃ無くても良かったはずだ)


幸いにも俺にはチートスキルがある。ある程度の確認はできた。

ぶっつけ本番になってしまったが試したい事もある。

やるしかない。逃げ続けるために転生した訳ではないのだから。

心で深呼吸…大丈夫だ、やれる。体に震えは無い。

覚悟を決め、クマと戦おう。まずは、急いで水の入った革袋の蓋を取り、水を『液体操作』で空中に浮遊させる。

全部で4つの水の玉を作り準備完了だ。消費MPは『1』だ。

このスキルのいいところは発動時のコストだけで維持コストがかからないことだな。

MPが心もとないオレからしてみれば非常に省エネで助かるスキルだ。

この水の玉も『空中に自在に操れる水の玉を4つ作れ』と頭で念じるだけで作れた。

空中に浮かせ続けているときは『操作状態』になるらしく追加でMPは支払わなくてもいいようだ。

加えて別の液体にするのにも最初のMP消費だけで使用できる。

つまり、最初に使ったMPだけで『操作』『形質変化』『別液体変化』この3つを同時に扱うことが出来るのだ。ユニークスキルも実質チートスキルだな。

考えを終え、オレは入口の草枝を掴み、いつでも飛び出せる準備をした。


(3…2…1…今だ!)


オレはその4つの水玉をオレの背後に隠し、樹洞から枝葉をかき分けて飛び出した。まず熊の背後に回り込む。

俺は剣を全て樹洞の中に置いてきた。大人用の鉄の剣は、まだこの体には重すぎたからだ。

持ち運ぶだけならともかく自在に振り回すのは難しい。逆に振り回されてしまう。

だから、俺は今ナイフ以外を持っていない殆ど丸腰の状態だった。

熊は、地面を嗅いでいた頭を上げると頭を此方を向けた。四つ足をやめ立ち上がると手を広げて威嚇してくる。


「ガァァァァ!」

「ここだ!行け!」


背後に隠していた、4つの水の玉を、オレの体の脇に移動させ、2つを熊の目に当たるように操作する。

狙い通りに真っ直ぐ飛んだ水の玉が、バシャリと熊の目に命中した。


「グガァァァ!?」


水の目つぶしを食らったクマは思わず手で目を抑え短く吠えた。『そこ』を狙い、オレは再び水の玉を操作する。


(狙いは口内奥、気管を塞ぐ!形質変化で『ゴム』になれ!)


命令を受けた水の玉が2つ、再び飛んで熊の口に入った。口内に異物が入ったのが分かったのか、さらに混乱して熊が喉を手で掻き毟る。命令は遂行されたようで気管は塞げているようだ。呼吸を止められパニックになっている様で、足がもつれ後ろに倒れた。

よほど苦しいのか腕や足を我武者羅に動かす熊だったが、弓ぞりに体を伸ばすと遂には動かなくなった。


……あれ?割と余裕だったな。


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