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31.尽きない獣

驚いたカッサバさんの叫びで、森に居た鳥が羽ばたいて逃げ出す音が聞こえた。

カッサバさんの目は驚愕に目を見開いているが、その眼は次第に驚きよりも少年が憧れの物を見つけたような喜色を伺わせていた。

狩り関係の話以外にはあまり興味を示さないカッサバさんにしては珍しい反応だな。

そんなウキウキのカッサバさんの横、オレの対面に座るエミリーは難しい顔で顎に手を当て考え込んでいた。

あれ?もしかしてオレが一番事情を把握しきれていないのか?何となく疎外感を感じるぞ。

そんな寂しげな俺に気付いたのか、ソーリスがこちらに微笑みを向けてくるのを見てオレは思わず苦笑してしまう。

聞かぬは一生の恥と言うし、ダンジョンについて教えて貰おう。


「ソーリス、悪いんだけどオレは『ダンジョン』なる物に詳しくないだ。簡単で構わないので説明してもらえないかな?」

「畏まりました。簡単に言えば、ダンジョンとは世界各地に存在する拠点寄生型の魔物の住処であり、国にとって最重要施設でもあります」


そういって『ダンジョン』を解説するソーリスの顔は何処か楽し気だ。もしかしたら、人に教える事に喜びを感じるタイプなのかもしれない。

もし彼女が教師ならば、大人びた見た目と相まって生徒に非常に人気が出る事だろう。フレーム細めの眼鏡などもアリだな。


「まずは拠点寄生型の魔物…この存在を『ダンジョンマスター』と言うのですが、過去の資料文献から何点か討伐が確認されています。巨大な甲虫、人型に寄せ集まった砂、柄に刃が有る長剣、紳士の書かれた絵画。もしかしたら創作の話もあるかもしれませんが、寄生している魔物の姿に統一性は無いようです。これらの魔物が過去に打ち捨てられた建築物、自然に出来た大洞穴などを拠点に据えると、そこを自らの住みやすいように『改造』し、さらには対侵入者用に眷属たる魔物を召喚する術を持つようです。そして、ダンジョン内に落ちた物、死亡した動植物なども含めて全てダンジョンが吸収しダンジョンマスターに還元されます。その還元された力を用いてさらに力を付けて行くのです」


ソーリスの解説を聞きながら、朝飯を片付けて行く。

…ステーキ、本当にサーロインじゃないか。やたらと濃い肉汁と油と旨みが逆に辛い。いや、本当に美味いんだけど朝から食う物じゃ無いって。

オレはフムフムと相槌を挟みつつ、引き続き耳を傾ける。


「ですが、ただ危険なだけのダンジョンに人々が侵入する訳は有りません。ですので、ダンジョンマスターはダンジョンのあちこちに宝物を用意し、それをエサにして人々をおびき寄せているのです。実際に、昔は一部の冒険者の人たちがダンジョンの宝物によって多額の財を得たそうです」


だが、裏を返せば大半の冒険者たちは失敗しているって事なのだろう。

ダンジョンマスターからしてみれば、そうして財宝を取られようとも実行する価値があるって事なのだから。

しかし、『昔は』って事は、今は違うって事なのだろうか?

今でもそんな所があれば、一攫千金を狙った冒険者達はこぞって宝探しに向かうと思うのだけど。


「そして、問題はここからです。80年ほど前、ある国がダンジョンを利用した軍事力強化を試みました。ダンジョンを徹底的に調べ上げ、魔物の出現位置を割り出し、兵士の訓練場としたのです。その結果、兵の大幅なレベルアップに成功し、当時その国と戦争状態にあった2か国がその強化された軍によって大打撃を受け敗北しています。その結果を知った他国はこの国に間者を潜り込ませ、ダンジョンの利用に気付くとすぐさまこの訓練方法は他国に知れ渡る事となりました。これにより国の軍事力は国営として確保しているダンジョンの数に直結していきます。自由に出入りしていた冒険者たちを閉め切り、完全な軍事施設として活用しているのです」


大幅な軍事力強化を見込める施設。ここまで言われたら何が問題か何となく分かる。

と、ここで今まで考え込んでいて一言も発さなかったエミリーが初めて口を開いた。


「そんでね、今私たちの居るこの『ウッドラン王国』ってダンジョンを持っていないって噂があるの。今ダンジョンとして使っている所は実は唯の廃坑で、『ダンジョンが有りますよ』アピールをする事で他国に侮られないようにしている…だったかな。この噂そのものがブラフかもしれないけどね。ただ、ブラフにしろそうじゃないにしろ、この森にダンジョンが有るとしてそれをウッドラン王国が知ったら…」

「間違いなく『アロア自治領』…というか『カーネルの街』を占拠し、それを足掛かりにしてダンジョンの確保に動くでしょうね…。だけど、まだダンジョンがあると決まった訳では無いのでしょう?」


エミリーの言葉を引き継ぐように、ソーリスが疑問を示す。

詳しい事はよく知らないが、『アロア自治領』はその王国に領土内にあるにも関わらず、完全自治権を得ていて、国の方針に従う必要がないらしい。早い話、国の中にもう一つ小さな国があるような物だ。

もしダンジョンの確保の為にカーネルの街を国軍を用いて占拠するのであれば、領内の統治がそのままという事はないだろう。

かといって反抗したとしても、国軍と一地方軍の戦力が拮抗しているということは無いと思う。軍事力に訴えかけなくても、国としての力を使って外交上の圧力も掛けられるかもしれない。

あくまでダンジョンがあったとしての仮定なのだが、どんな未来を選んだとしてもアロア自治領は非常に厳しい状況になるな。

スープを啜っていた手を止めて、エミリ―に視線を向けると、指で何かをかき混ぜるみたいにクルクルと回しながらビシリと匙をこちらに向けて来た。


「この森、やたらと狼と熊が多いと思わない?」


行き成り何の話なんだとも思うが、確かにそうだな。カッサバさんはこの森の広さを理由に上げていたが、それにしたって多すぎる気がする。

街の冒険者と俺たちのような狩人が毎日の様に狩りまくっているのに全く減っている気がしない。

普通は、街近隣の森から熊や狼が寄り付かなくなっていくようなものだと思うのだが、いまだにガンガン出没しているみたいだし。

かといって、森の奥にもまだまだ熊は沢山いるから、森の奥で熊たちの食べるものが無くなって仕方なく人間を食べるために、という訳でもないと思う。

オレが頷くと、匙をプラプラと揺らしながらエミリ―が続けた。


「まず、ダンジョンが有るのか無いのかなんだけど、私はあると思う。魔族軍がなんで『カーネルの街』には手を出さず森にこだわっているのかも、何らかの方法でダンジョンの存在を確信しているから、って考えれば筋が通っているし。そんで、ダンジョン…正確にはダンジョンマスターには自分を守るための眷属を召喚出来る」

「それが狼や熊だってことか?」

「そそ。で、あの転生者の魔族は『魔物使い』の力を持ってたんでしょ?それで狼や熊、もしかしたらダンジョンマスターそのものを操ろうしたんじゃないかな?」


眷属や財宝を生み出すダンジョンマスターを手中に収めることが出来れば、如何様にも利用できる。確かに、やる価値はあるかもしれない。

そこでソーリスが「あれ?」と次の疑問を口にした。


「だけど、あの狼と熊は互いに争っていたと思うんだけど…」

「うん。だからこの森、ダンジョンが2つあると思う」

「ダンジョンが2つだと!!」


再びのカッサバさんの咆哮が小屋のみならず森に響き渡る。鳥はもうこの周辺にはいないのか羽ばたきの音はしなかった。カッサバさんは目をキラッキラさせて腕を上下させている。

耳をふさいだエミリーがしかめっ面で立ち上ったカッサバさんの腰をバシリ、と叩いた。


「おじいちゃん、五月蠅い。…単純にダンジョン同士で争っているのか、獣がダンジョン産だとバレないようにお互いが協力してカモフラージュの為に争っているとか色々仮説は建てられるけど、今は思いつかないっすねー。ま、有るにせよ無いにせよ王国軍には聞かせられないって感じかな」

「ふむ、ならば話は簡単ではないか」


変わらず目を輝かせたカッサバさんが顎でオレを指し示し、腕を組みオレを見ている。

あれ?これオレに言えって事か?いやまあ、話が始まってからずっと考えていたことではあるけど。

一つため息をつき、ある提案をする。


「俺たちで、ダンジョンを攻略しよう」

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