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27.天の恵み

クリーン視点→トモヤ視点 です。

やれやれ。今日の曇天の広がりから、進軍している時に雨が降るのではないかとは思っていたが、まさかこのタイミングで降るとはね。天気予報のありがたさは無くなって初めて分かる。レックスも自慢の黒毛が水にしぼみ、少しご機嫌斜めみたいだ。

それにしても、まさしく今血の雨が降ろうかという時に降雨に見舞われるとは、なんとも皮肉な事だな。

と言っても、過剰な演出に過ぎるかもしれないが、僕はこういうのが大好だ。

少年の暗殺者とその仲間を返り討ちにし、その余りに幼い命を絶つことに葛藤する僕、止めを刺した苦しみの涙が雨に流れる…うーん、良いな、『映画化決定』とテロップを付けて欲しい所だ。

唯一残念なのは、その少年が『転生者』なんて余計な設定が無ければなお良かったが。

その転生者の少年も、再び黙り込み、水たまりを作りつつある地面を見ていた。

さて、もういいか。町での『調達』を終わらせた後、急いで本隊と合流しオルトロスを『補給』しなければならない。帰り道にも『お楽しみ』が有る訳だし、俄然やる気も出てくるというものだ。

本命の作戦も僕抜きでは行えないとはいえ、これ以上の無茶を通すことは出来ないだろう。

まぁいい。何事もほどほどに、が一番だ。女の子も、食べ物も、酒も、そして『遊び』もね。


「それではさようなら、『トモヤ』君。中々面白いゲームだったよ。次に生まれてくるとき、オルトロスとして生を受けたなら僕が飼ってあげよう」

「……」


反応は無い。正直がっかりだ。ここまでお膳立てさせて置いて無反応。

白けるな。最期くらい楽しんでも良いだろう?死に行くものは、生きて行くものを楽しませる努力をすべきだ。


「殺せ、レックス。『重力100倍』」

「ガァ…!…ゴボッ!!!」

「…レックス!?」


レックスに重力魔法を発動するように命令したが、発動しようとした瞬間いきなり苦しみ始めた。

しかも尋常ではないほどの焦燥が、『魔物使い』のスキルを通じて僕に流れ込んで来る。

その余りの苦しさから姿勢を維持できず、ぐらりと崩れ前のめりに倒れ込み、喉を引っ掻き始めた。

馬鹿な。目の前のこのガキからは何かしたような雰囲気はない。こんな気配も何もないような攻撃が出来るならば、もっと前に行っている筈だ。一体何が起きているんだ?


「『魔法』ってのは、スキルと違って『詠唱』のような物が必要なんだろう?さっきの短い鳴き声がそれだ。オレが上手く魔法を扱えなかったのはそれが原因。偶然だが、この戦法はオレが初めて戦った時のものなんだ。生き物である以上、絶対に『それ』は必要なはずだ」


先ほどまで殆ど喋らなかったトモヤが、座り込みながら、死んだ女の顔を見て『ぶつぶつ』と呟いている。

だが、こちらはそれどころではない。レックスの暴れ方が尋常じゃない。相当苦しんでいる。『魔物使い』のスキルを使い、レックスとの会話を試みるも不鮮明な言葉しか帰ってこない。

不味い、ここでレックスを無力化された場合、オレの今の手持ちの獣はポチだけだ。しかも狩人の女を追跡させているため、此方に戻すのにも時間がかかる。何としてでもこの場はレックスに対応させなければいけない。


「防御力の高い、あの黒獅子の外皮に生半可な液体では傷つけることは難しい。ならば、」

「お前…お前が何かしているのか、トモヤ!?」


トモヤは、此方の呼び掛けにようやく顔を上げると、その顔に表情は無かった。ただただ、此方の眼を見ている。親しい者を殺された筈なのに、憎しみすら瞳に宿っていない。

何だ、なんでそんな顔をしている。お前がレックスに何かしているんじゃないのか?

混乱していると、トモヤが聞き逃しそうなほど小さい声で言った。


「『溺死』って、一番苦しい死に方らしいぞ?」

「お前、いい加減にしろよ!レックス、まだ聞こえているなら」


『狂化』を使え、と言おうとした瞬間、オレの口に何かが入り込んだ。

思わず吐き出そうとするが、するりと喉の奥に入り込むと、口に異物感が無くなる代わりに、

喉の奥、食道辺りで何かが詰まっているのが分かった。と同時に理解し恐怖する。

何故レックスがここまで苦しんでいるのか。それは窒息死だ。先ほどの口に入った『何か』でトモヤはオレの喉を詰まらせている。

さらに、追加で口の中に入り込む何かがあった。その2度目の感触で、何が入って来たのか分かった。

『水』だ。このトモヤは、『水』を操ることが出来るのだ。だとしたら不味い、『雨』が降るこの場所は奴のテリトリーだ。何とか吐き出して、別の場所に移動を…


(ぐぐ、酸素、レックスに指令、あああ、駄目…駄目…レックス、タスケ…あがががが…ああああ…ぐぐ)


酸素の足りない脳が、空気を吸えない死の恐怖が脳を支配する。駄目だ、考えたら酸素を、あああ、助けて、ああいあ、いやだいやだ、しぬ、しぬしぬしぬ…レックス、レックス、畜生!やはりお前も役立たずだ!帰った時には新しい強力な…





黒獅子は白目を剥き動きを止めている。此奴さえ無効化してしまえば、この状況は如何とでもなる。

こいつには追加で肺に水を贈り続けていたから、余計に辛いだろうな。

クリーンはもがき苦しみながら、黒獅子から転がり落ち、地面を這いずり回り体中を泥まみれにしていた。

その端正な顔立ちが今では見る影もない。

喉をひっかき続けたその喉からく血が溢れ、爪に皮膚が詰まっても首の肉を抉るのを止めない。痛みで意識を繋ぎ止めているのだろうか。

仰向けになったかと思えば、俯けになり体を弓ぞりに反らす。


「んんん~~~!!」


最期の理性なのか此方を一瞬見ると、雨で良く分からないが泣いていると思うんだけど、恐らく泣きながら懇願するかのようにオレを見ている。なまじ普通の人よりも心肺機能が上だから、気絶し辛いのだろう。その分、酸欠の恐怖も通常の人よりも大きそうだがな。

大丈夫だ、クリーン。お前は絶対に許しはしない。確実に殺す。

そもそも、水を一旦固形化してしまうと、操作できなくなってしまう。『液体』操作だからな。

だから、クリーン。お前が死ぬ事は、もう誰にも止めることは出来ない。

だからオレは、そんなクリーンに最期にやってもらう仕事を告げた。


「クリーン、まだ動けるなら、後ろのレックスとかいう黒獅子を殺せ」


クリーンが目を見開くが、一瞬のためらいも見せずに剣を抜くと、その剣を気絶している黒獅子に突き刺した。必死に体を震わせて、体重をかけて刺し込んで殺そうとするが、ステータス差が有る為か、中々深くは刺さってはくれなかった。気付けばクリーンは時たま体が痙攣するだけとなった。もう体を動かすことが出来ないのか、剣にぶら下がるようにだらりとしている。心肺停止状態か。

だが、黒獅子は血を流した。これで終わりだ。


(『液体操作』…黒獅子の血を全て抜く)


そうして抜き取った黒獅子の血液は、大凡100ℓ程だ。もう殆どMPが無いオレにとっては、かなりぎりぎりだ。その血を利用するほどの気力も無い。だが、黒獅子には確実に止めは刺さなければならなった。もしクリーンの死亡が原因で隷属下から解放される可能性もある。

血を半分ほど抜き終わり、ソーリスの顔を見る。


(ごめん、ソーリスさん。オレに出来るのは、これ位しかない)


抱きとめていたソーリスさんを、頭が汚れないようにポーチを枕にしながら、オレはククリナイフをオルトロスから抜くと、もう動かなくなったクリーンの側に近寄る。

ククリナイフを構え振りぬと、あっけなくクリーンの首は宙を舞った。

28話以降なのですが、現在執筆中なのですが中々進まず…

出来上がり次第投稿したいと思います。


申し訳ないのですが、30日中の投稿はありません。

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