25.奇襲
評価ありがとうございます。
→一部表現を変更しました。
○一一一一一一一一一一一一○
l名前:アルメルト・クリーン
l種族(状態):魔族(健康)
lLV:16(6734/18000)
lHP:76/76
lMP:35/35
l攻撃力:66
l守備力:55
l行動力:76
l幸運 ;47
l
lスキル
l-魔物使い(3/5LV)
l-死霊使い(3/5LV)
l-剣術(2/5LV)
l
l称号
l-転生者<イージーモード>
○一一一一一一一一一一一一○
戦闘スキルっぽいのは『剣術』のみ。正直、ステータスも大したことは無い。
気になるスキルはいくつかあるが、恐らく直接的な戦闘は得意ではないはずだ。
それよりも問題があるとすれば…
「『転生者』。モノホンの『同郷』を殺すことになるな」
「今更だよ。人を助けるために、何匹熊と狼を殺して来たか分からない。そもそも、ここまでゴブリンを殺し続けて来てる。私はその感覚で殺せるよ、人をね。それは転生者でも一緒だよ」
「エミリ―のそのクソ強いメンタルは羨ましい限りだよ」
「乙女に向かってクソとは何かねクソとは」
いや君もクソクソ言ってるじゃん。まぁ、確かに今更な話だ。だとしても、転生者だというのがタチが悪い。
心のどこかにしこりを残しそうだ。溜息を一つ吐き、エミリーに言った。
「同じ転生者として、オレ達がケツ拭くのが道理かね」
「トモヤ君が居なきゃ判らなかったんだし、そんな気負う必要無くない?それよりも、あいつをこのまま行かせたら町が碌なことにならない、ってのが重要だよ」
「あー、判った以上見て見ぬ振りは気持ち悪いなって言いたかっただけだよ。やることはオレも変わらないよ」
オレとエミリ―が同時に頷き、狙撃位置にまで移動を開始しようとした直後、エミリ―がハッとして、「トモヤ君、北から何か来る」と言うと、『それ』はやって来た。
「「ギャオォォォォオオ!」」
その咆哮に驚き振り向くと、草場から50m程先、頭を2つ持つ巨犬が此方を見据えて、その巨体に見合わぬ凄まじいスピードでこちらに駆けて来る。
まずい、バレた。しかも見ただけで判る。あれは強い。少なくとも単純な近接戦闘ならエミリ―より上だろう。
「エミリ―、作戦中止。君はカッサバさんの元へ行け」
「トモヤ君は?」
「犬を足止めして追いかける。『世界地図』はカッサバさんと合流後に」
「了解。グッドラック」
エミリがそう言うと、親指を上げ物凄く良い顔で遠くの茂みの方に移動していった。その行動には躊躇いがない。潔いっすね…。
即断してくれたエミリ―の為にも、オレは囮となるためにその2頭を持つ巨犬に向かって走り出し、ククリナイフを抜く。あの2頭持ちもスピードを落とさずに突っ込んで来る。
この犬の先の遠吠え、あれは精鋭ゴブリン部隊に知らせるための合図の可能性が高い。
となると、すぐにでも部隊が押し寄せて来る。この犬をどうにかしなければ。
この犬を配置したのはあの『魔獣使い』か?やってくれるじゃないか。
「ガァアアアアア!!!!」
オレは走りながら『咆哮』を放つと、一瞬だけ2頭持ちが『ビクリ』と体を震わせて、動きを止める。
だが、怯えて数秒動けなくする状態『恐怖』を与えるまではいかなかったようで、低く唸りながらこちらを迎え撃つ様に身を屈めた。
(狙うなら足だ)
勝利条件としては、オレを追跡出来ないようにすることだ。
この二頭持ちはエミリ―の『世界地図』の索敵範囲外からオレ達を探し当てたことを考えると、この犬はここでしとめるのが最良だが、足を潰すだけでも十分だろう。
そして、精鋭ゴブリン部隊と黒獅子に乗った転生者クリーンが到着前に条件達成しなければならない。
オレは、短剣のアーツ『スローイングナイフ』で2頭持ちの左前脚を狙う。右手に握られたククリナイフを掲げる様に構え、勢いよく投げつける。すると、青白いオーラを纏いながら、ククリナイフが回転しながら正確に左前脚に飛んで行く。
が、2頭持ちはそれを読んでいたのか、素早くバックステップし難を逃れると、再び低く構えた。
この犬っころ、もしかして時間稼ぎしているのか?これもあの『魔物使い』の仕込みって事かよ。
だが、今の動きで大体の強さは分かった。ステータスは俺よりも低い。が、素早さは中々だ。
オレもバックステップで距離を取ると、2頭持ちは此方を逃がさんと1歩踏み出してくる。
やはり間違いない。此奴の目的は足止めだ。一瞬のにらみ合いの間を使い、オレは『鑑定の魔眼』を使う。
○一一一一一一一一一一一一○
l名前:オルトロス・シーカー(ポチ)
l種族(状態):魔犬族(隷属)
lLV:26(143284/190000)
lHP:162/162
lMP:43/47
l攻撃力:120
l守備力:107
l行動力:182
l幸運 ;61
l
lスキル
l-爪術(2/5LV)
l-聴香(3/5LV)
l-鷹の目(2/5LV)
l-探知(2/5LV)
○一一一一一一一一一一一一○
『シーカー』、探索特化の魔獣だな。仮に目や鼻を潰しても、別スキルで追ってくる可能性が高い。やはり足を潰さなければ。
オレは2頭持ちことオルトロスから視線を外し、背中の弓を下すと矢を番えると、精鋭ゴブリン部隊の方に向かって構えた。狙いは一応、転生者クリーンだ。目標は300mほど先、しかも沢山の木が有る中で狙いをつけるのは、『弓術』スキル2LVのオレでは絶対に当たる事は出来ない。だが、そんなことを知らないオルトロスは、狙われている先が主のクリーンだと分かり、慌てて此方に駆けだしてくるのが横目で見えた。
オレは番えた矢を放ち弓を投げ捨てウエストポーチに手を突っ込むと、水筒代わりの革袋をオルトロスに投げつけた。
いきなりの投擲物に虚を突かれ、思わずその爪で切り払うと、切り裂かれた皮袋の中身が前足を濡らした。
オルトロスは刻んだ革袋を一瞥すると再びこちらに視線を向けるが、同時にオレもスキルを発動していた。
(『液体操作』、水から液体ヘリウムへ。気化せず液体を維持しろ)
マイナス200度を超える超低温の液体ヘリウムに変えた瞬間、効果は劇的に現れた。
「ギャオォォアアア!?」と、オルトロスはあと5mのところでオレを捉えられる位置にまで来て、片方の前足から地面に崩れた。あの凍てついた足では、しばらくは追うどころか動く事すらままならないだろう。
オレは倒れたオルトロスの手前にあったククリナイフを回収し踵を返し立ち去ろうとするが、チラリと見えた黒獅子を駆けさせるクリーンの顔が、進軍している時と同じくニヤついているように見えた。
(なんだ?何かあるのか?)
その一瞬の逡巡がオレを救った。オレが踵を返した先、5m程前にいつの間にか1体のオルトロスが居からだ。あのまま駆け出していたら、このオルトロスにやられていたかもしれない。先ほどのクリーンの余裕はこれか。
「「グルルルゥ…」」
静かに唸るそのオルトロスは、黒獅子の様に黒の体躯に2頭を持つオルトロスの亜種だった。
先ほどの荒々しく向かってきたオルトロスに比べてその静かな佇まいは、どこか気品さえ感じる。
此方を攻撃しようとする様子はない。先ほどのオルトロスと同じく足止めか。
黒いオルトロスに向かい、ククリナイフを構えるが、その直後に後ろから話しかけらた。
「やあやあ、君だね犯人は。ゴブリンの部隊を爆破したりと大活躍だったそうじゃないか。おっと失敬、名乗るのを忘れていたよ。僕の名前はクリーン。『魔物使い』のクリーン。魔族軍を率いる者の一人さ」
振り返ると、黒獅子にまたがった、ニヤついた転生者クリーンがそこにいた。
考える。オレがあの2回目のニヤけ面を拝んだときは、200m程先だったはずだ。さすがに数秒で来れる距離ではない。となると…『重力魔法』辺りか?
何のスキルにせよ、黒いオルトロスとレッサー・マンティコアに挟まれる形になった。
ヤバいな、さすがに脱出手段が思いつかない。思わず天を仰ぐ。時間を稼げ、好機を待つんだ。
「聞いているのかい?全く、目上の者にその態度はないんじゃあないかな?それとも、人間の社会はその程度の礼儀も存在しないのか」
「…随分と言ってくれますね。魔族と話す口を持たないだけですよ」
オレはククリナイフを構え、横目で黒いオルトロスと黒獅子を確認できる構えをとる。
此方の辛辣な言葉にも、クリーンはその歪んだ笑みを崩すことは無かった。此方を見下しながら、革の手袋をはめた手で拍手をする。
「素晴らしい。この状況下でその啖呵をきれるこ人物が何人いるか!称賛を贈ろうじゃないか、少年」
「出来れば称賛何ていらないので、別の事を聞かせて頂きたい物ですね」
「ほう、聞きたいことが有るというのか。実はな、君が私の会った初めての『生きている』人間なのだよ。だから私は大変機嫌がいい。何でも聞き給え」
大仰に手を振り、恰好を付けたクリーンの物言いはいちいちシャクに触るな。
クリーンの後ろから懸命に走る精鋭ゴブリン軍を見つつ、機会を伺うためオレはクリーンに質問を投げかけた。
「この進軍の目的は何ですか?」
「良い質問だね。『魔族軍』の目的は森の奥深くにあるという『ダンジョン』さ。そして、『僕の』目的は町の、人間の文化を拝借させて貰おうと思ってね」
『ダンジョン』?ここに来て良く分からない単語が出て来た。この森の奥には『ダンジョン』なるものが有るのか?なら、魔族全体では人間の町にさほど興味が無い?なら先のドラム村のソニック・オーガ襲撃は何だったんだ?それに、この言い方だと、まるで魔族軍とこいつの目的は違うような言い方だが…。
ともかく、こいつの気を引けるのはこいつの目的の方だろう。
「人間の文化?魔族がそれをどうするつもりですか」
「決まっている。愛でるのさ。酒を嗜み、美食を極めて、女性と甘いひと時を過ごす。どれも魔族には無い物なのだよ。着飾る事ぐらいしか魔族はしない。僕はそれじゃあ満足出来ない」
顔に手を当て悲しみを表現するクリーン。此奴はいちいち動きを付けないと喋れないのか。
にしても、ようするに魔族側には娯楽が無いから人間から奪いに行こうという事らしい。それで本来の目的から外れ、自らの軍だけで来ている訳か。
成程ね、だから軍の規模が小さいわけか。実際に急襲するのはオルトロスや黒獅子たちで、ゴブリンは手に入れた物の運搬の為って事か?
「全く、ようやく独自に軍を動かせたのが侵攻開始から1年後だなんて!それまでずっと、熊や狼と戯れる事になり退屈な毎日だった。それも今日で終わりだ。なに、人間の町から全て頂こうとは思ってはいない。僕たちが抱え込めるだけの戦利品だけで十分だ。少年、久しぶりに『人間』と話すのは楽しかったよ。さよならだ」
「くっせぇなお前。何なり切ってる訳?いちいち恰好付けてんじゃねぇぞ、クソガキが」
口端を最大にまで上げたような歪んだ笑みを浮かべながら、命令を下す為振り下ろされようとしていたクリーンの手が止まる。
その顔に笑みは無くなっており、無表情にこちらを見つめている。
オレはその顔を見ながら、先ほどの此奴の様に顔に笑顔を張り付け声真似をする。とにかく時間を稼ぐのだ。
「『決まっている。愛でるのさ。酒を嗜み、美食を極めて、女性と甘いひと時を過ごす。どれも魔族には無い物なのだよ』。お前これ、素面で言ってんのか?」
「…お前、転生者か!」
「クリーンくん。所で聞かせて欲しいんだけどさ、さっきのセリフとか全部自分で考えてんの?すげー面白かったよ。もうちょっと続けてよ」
ああ、どうしよう。普段煽りなれて無いから、どこまで言っていいか判らん。
クリーンはブルブルと体を震わせているし、多分怒っているんだと思うんだけど。やはり慣れないことはするもんじゃないな。
「お、お前…」
「あ?顔真っ赤でもお前の青い肌じゃわかんねーよ。もういいから帰ってくんねーかな」
「…此奴を殺せ!肉一片足りとも残すな!」
ヤバい、煽りすぎた?命令を受けた魔獣達が、構えを取りこちらに襲い掛かった。
オレは腹をくくり最期の切り札を使おうとした瞬間、黒獅子がクリーンに向かって飛んで来た一本の矢を、その長い尻尾で素早く払い捨てた。
その一本の矢に呼応するように、オレの後方よりたくさんの矢が降って来た。クリーンの乗る黒獅子、後ろの黒いオルトロスが矢の雨を避けてやや後退する。
(『弓術』アーツの『アローレイン』?エミリーが戻って来たのか?)
疑問を感じながら後方に振り返ると、50m程先の地点にに立っていたのは…
「トモヤ君、逃げて!」
ウサギ耳を揺らし、勇ましく弓を構えるソーリスさんだった。




