表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/61

24a.クリーン

本日2話目です。

急いで書いたため、書き直しするかもしれません。

この世の何処でもない場所で、男女が机を挟んで向き合っていた。

短髪に襟足だけ長い男、というよりも少年は椅子に座り机の上に置かれた『異世界のしおり』と書かれている冊子にパラパラと目を通している。

眼鏡をかけたおさげの女は、緊張の面持ちで同じ冊子を手に取り、ホワイトボードの中央に『女神』とだけ書いて、かけていた眼鏡の位置を整えると、少年に向き直り一度お辞儀した。

この光景を偶然見たある女神は、「新米教師とヤンチャな学生の居残り授業みたいだね」と感想を述べたそうだ。

その眼鏡女神が、緊張からか声が上擦りそうになるのを抑えながら、自己紹介をし始めた。


「えー…では今から転生前の事前説明をさせて頂きます、担当の女神です。宜しくお願いします。では早速ですが、お手元の資料の3ページを」


「開けて下さい」と眼鏡女神が言う前に、パタンと冊子を閉じた少年が言った。


「『イージーモード』で」

「えっと、題目にある通り、まず『自らの死の受け入れと転生前の心構え』の説明をさせて頂きま…はい?」

「『イージーモード』で転生させて下さい」


少年はもう冊子を見る気は無いようで、机の隅に置くと眼鏡女神の方を見た。眼鏡女神は、引き攣った笑顔を浮かべながらも、少年に見てもらうために冊子を広げながらページを指さす。


「あの、この資料3日間徹夜で作って来たもので、出来たらもうちょっとだけでも良いから見て欲しいなって…思うんだけどぉ」

「いえ、大丈夫です。『イージーモード』でお願いします」

「うううう、こんなに早く決まるんだったら私もフリップボードとかで良かったかなぁ…」


涙目になりながら眼鏡女神は冊子の一番最後に描かれていた魔法陣を起動すると、

少年の体が一瞬光に包まれると、光が消える頃にはそこには誰もいなかった。

眼鏡女神はため息を一つつくと、背表紙にメモをする。


「プロジェクト『リ・インカネーション』、ケース83『いけ好かない奴』の始動を確認しました…と」


なお、そんなプロジェクトは存在しない。眼鏡女神が勝手にそう呼んでいる。この眼鏡女神は中2病だった。

こうして、『ケース83』こと中山なかやま 宗次そうじは設定『イージーモード』で転生することとなった。




中山 宗次が転生したのは齢16歳の事故で死んだ領主の一人息子だった。

転生元の年齢は、転生前の宗次の年齢と全く一緒だったのだが、一つ決定的に前世と比べて違うところがあった。それは、その転生元が人間ではなく『魔族』という種族だった事だ。

この魔族という種族は、非常に好戦的なまさに戦闘民族であった。

年がら年中些細ないざこざで戦争をしているし、魔族に従う亜人種などは完全に奴隷として使っているほどプライドも高い。

最も中山の誤算だったのは、魔族が全体的に勤勉で、娯楽関係が未発達であることだった。

美食、酒、嗜好品、スポーツセックス等は全て無いに等しかった。

唯一、服飾関係だけはその自尊心の高さからある程度は発達したがその程度だ。

『魔族』において、何が一番優先されるのか、それは『個人の強さ』、つまり『武力』が最も優先される事項なのだと、転生者『中山 宗次』は転生3日目の強制的に参加させられた戦闘訓練の際に嫌と言うほど思い知った。

転生してからは転生元の少年の名前である『アルメルト・クリーン』を名乗っているその転生者は、元来『最低限の努力でそこそこの成果を得る事』を信条とする少年だった。

そのため、如何やれば最もその状況を打破できるのかを考えた時、やはり『そこそこ強くなる』のが最良だとクリーンは考えた。

そのためにまず利用できる物として『スキル』の効果を使い、結果として周りを黙らせられるほどの『武力』を手に入れた。

クリーンのやったことは単純で、設定『イージーモード』を選んだときに難易度ボーナスにより強大になった転生元の少年が保有していたスキル『魔物使い』4LVを使い、魔界の強力な魔獣を手駒として引き込んだのだ。

これにより、クリーンの名はその領地内どころか他領にまで広まる事となり、強大な戦力としていくつかの特権を自らの父である領主から引き出した。

仕事は他領へ挨拶周りをする事ぐらいで、免除された訓練の時間を使い、自領民を使った『独創的の遊び』をしながら過ごしていた。

だが、他領に赴いたときに、性に疎い女子を手籠めにする事で性欲に関しては幾らか収まりが付いてはいるが、食と嗜好品の物足りなさに段々と不満を募らせていった。

この2つは『スキル』で打開することが出来ず、現状だとクリーンに打開する方法がなかったのだ。

転機が訪れたのは転生から半年がたった時だ。ユニークスキル『占星術』を持つ自領内でも有名な占い師の女が、『ファガス大森林にてダンジョンの気配有り』と領主に報告して来たのだ。

この報告に真っ先に反応したのがクリーンだった。クリーンは自分の父に訴えかけた。


「父上、私の力を使えばダンジョンの確保など容易に出来ます。是非、私に一軍を御貸し下さい。父上にダンジョンを献上して見せましょう」


この世界において、宝物を生み無限に魔物がわき続けるダンジョンというのは、軍事的にも資材的にもこの世界で最も有益な資源生産の場なのだ。

特に、強さを第一とする魔族にとってダンジョンは『魔物を倒し続けても全滅しない無限に鍛える事の出来る訓練場』という至上の価値があった。魔族で戦争が起こる際、最も大きい開戦理由がダンジョンの争奪なのだ。

ファガス大森林は魔界と人界の丁度境界線上にあるが、あそこにダンジョンがあるという話はまだ聞いたことが無いため、まだ誰の物でもないことは確実だ。

領主は考えを纏め自分の息子の提案に頷きかけた時、「ですが」とクリーンは続けた。


「もし、我々が森に進軍したとして、他の貴族の方々は恐らく我々の行動を訝しみ、進軍の理由を聞いてくるでしょう。その際、誤魔化すこともできますが、もしダンジョンの情報が漏れた場合間違いなく戦争になるでしょう」


クリーンの父親は慌てた。

この父親は、リスクがあっても自らを研鑽する機会があれば挑戦する魔族としては珍しく、自身の身の危険に関しては非常に敏感かつ臆病で、火の粉を被りそうな事案には一切手を出さない日和者なのだ。そのくせ、人一倍自尊心が強く己を強く見せたがり、危険の少ない相手と見ると自らの経験値の為に積極的に戦うのだ。

それを見たクリーンが、馬鹿めと内心笑いながら、次の提案をする。


「ですので、それを避けるためにも予め他の貴族様には提案を持ちかけるのです。早い話が『同盟』です。口説き文句としては、そうですね…ダンジョンの利用権の2割ほどを譲渡する、などどうでしょう。…ああ、そんなに怖い顔をせずとも分かっておりますよ。ダンジョン入手後は、ダンジョン制圧の過程で手に入れた魔物たちを使って他の貴族を一掃すれば良いのです。なに、1年程を掛けて森で徐々に他の貴族軍が弱って来たところでダンジョンを征服し、その後殲滅するだけ。容易い事ですよ」


「そ、それでは結局戦争になるという事ではないか!」という父親のどこか恐れを含んだ叫び声に、クリーンは笑ってゆっくりと頷くと、父親に近づき耳打ちをする。


「もしこの戦争に勝てば、『魔王』になれる可能性すらありますが、如何ですか?」


その『魔王』とぃう言葉を聞いた瞬間、ビクリと父親の体が震えたのをクリーンは見逃さなかった。

『魔王』というのは、 一定以上の領地を治める『魔族』が名乗ることができ、それは所謂建国に他ならなかった。

プライドの高い『魔族』である以上、また父親の自己顕示欲から『魔王』の称号は抗い難いものがある事をクリーンは利用したのだ。

こうして、父親を『説得』することに成功したクリーンは、軍を編成することになった。

他領の貴族にも話をつけ、地方に住む弱小種族の魔物を無理やり引き込み、最終的な戦力はゴブリン換算で1万程の大規模な軍団となった。

勿論、クリーンはダンジョン制圧などに興味はない。クリーンの目標は、ファガル大森林の西端にある人間の町だった。そこで、魔族領に無い物資や女を略奪することで手に入れようとしているのだ。

その過程で失われる命などは一切考慮していない。クリーンにとって、全ては己の欲望が優先されるのだ。



ファガル大森林進軍計画から2か月後。

全ての準備が整い森に進軍し始めた魔族軍なのだが、順調な進軍とはならなかった。森に入った直後、この森の原生生物だと思われる狼と熊に襲われ始めたのだ。

『魔物使い』のクリーンにとってはどうと言う相手ではないのだが、何しろ広範囲に広がった軍全てに対応することは出来ず、またする気も無かったため被害が出始める。当然、クリーンの居る自領軍の被害は軽微で、他軍の被害は大きくなるがここまではクリーンの予想通りの展開だった。

他領軍も、ダンジョンの制圧には『魔物使い』の力が不可欠だと考え、あまり大きくは言えなかった。

だが、クリーンにとっても予想外な事があった。

事前の情報だと、普段はお互いに狩り合っている熊と狼が協力するように、連動して襲い掛かってくるようになったのだ。これにより、獣達に包囲されていた魔族軍はそれなりの戦力を削られることとなった。

獣たちがだんだんと強くなっていく森の北と南の端どちらかにダンジョンがあると予想した魔族軍が、探索の手を広げようと考えていた矢先の出来事だった。

そうして、一進一退の魔族軍と獣達の攻防により、一年を森の中で魔族軍は過ごすこととなった。人間の軍であれば不満が出始めるところなのだが、寿命の長い魔族としては1年程はまだ許容範囲内であり、強くなる機会として上々と考えている者も多くいた。

だが、クリーンからしてみればこの状況は喜ばしい事ではない。

戦いを重ねて他領の魔族が強くなれば、ダンジョン制圧後の殲滅が難しくなるし、戦線の厳しさから自領軍本陣から離れることが難しくなり、本来の目標がまだ達成できていない。

なにより不味い食事は勿論、マンネリ気味の弱者を弄んだ遊びで気を紛らわすのは限界だった。

そのため、クリーンは現在の状況を打開するためとして、仮定したダンジョン位置の裏手に回り込むような位置に移動し、そこから獣達を操って一気に急襲する作戦を『建前』として用意した。

実際は、裏手には回らず、クリーンは自領の軍を使い、真っ直ぐ西に進軍させていった。

その過程で、ドラム村と呼ばれるそこそこの人間がいた村を一つ滅ぼすことになった。本命は町にあるわけだし、此処に至るまで小さな集落は潰して来たのだ。今更村の一つや二つは潰しても問題ないだろうとクリーンは思っていた。連れて来た弱小種族を遊びを兼ねて一つ使い潰すことになったが、クリーンは特に気にしていなかった。

ドラム村にてしばし休息をとっていたクリーンに、一人の男が必死の形相でこの行軍を止めるように説得していた。


「若様、ご自重下さい!人間の領域への過度な干渉は禁じられています!」

「トットリア、僕はお前の許可など求めてはいない。副官なら副官らしく、本陣に戻って父と共にダンジョン制圧に当たるがいい。手なずけた熊も狼も全て置いていったはずだ。本陣も防衛ぐらいならば問題ないはずだ」

「そういう問題ではありません!これ以上の干渉を行うなら、御屋形様に部隊の取り下げを進言させて頂きます!」

「…やれやれだな。分かったよ」


そうして、一旦はは引いたクリーンだったが、顔には不満の色がありありと浮かんでいる。

そのクリーンの表情に気付かず、クリーンのお目付け役として同行することになった自領軍の副官・トットリアは、これでようやくダンジョンの裏手に回り込む本来の作戦通りに事が進むとホッとしていた。

そして翌日の朝、まだ寝ていた自領軍副官のトットリアの元に、一人の伝達兵の魔族が駆けこんで来た。


「トットリア様、大変です!クリーン様と、クリーン様のゴブリン部隊が見当たりません!」

「何だと!?」

「町の方向に向かって進軍している足跡が有りました。恐らくですが…」

「あのお方は…!すぐに私のオーク部隊を叩き起こせ!」


その日、クリーンは500体のゴブリンを引き攣れて、町を目指した。

トモヤが転生してから丁度10日目の出来事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ