23a.緊急報告
本日2話目です。
ちょっと短いです。時系的には21話になります。
マーシャル司令官の指令により、トモヤを監視していたアーチルドは現在町に向けて全力で走っていた。
狩猟小屋で聞いた、ドラム村跡地を越えて進軍する魔族軍を『カーネルの町』に知らせる為である。
マーシャル司令官からは、緊急事態以外の帰投は禁じられているが、緊急帰投に十分な情報と判断したためだ。
だが、狩人エイミーが言うには2~3日後には『カーネルの町』に到着しているとのことで、本日中に帰投し無ければ、町で迎え討つ準備を行う時間が無い。
いくら、あの狩人達と『血の魔術師』とはいえ、魔族軍を削りはするだろうが撤退まで追い込めるかはわからない。
そのため、アーチルドは出来る事をするために、町の方向に夕暮れの森の中を少しでも早くと走り続けていた。
『絶対隠密』の力を使えば、走っていてもやや違和感がある程度で獣の横でも通り過ぎることが出来る。
そのため、アーチルドは走るのにも躊躇なく全力で走れるのだ。
と、同時にアーチルドは思った。
あの『血の魔術師』の事は誤解していた。あの少年は『良い血の魔術師』だ。
少なくとも、あの大量の狼との一戦の後、何度も魔族軍の斥候部隊だと思わしき部隊を撃破しているのだ。魔族軍の間者ではないはずだ。得体がしれないというのは変わらないが、スキルの確認をしている時、年相応の笑顔になる事があるのを見ると、ギルドマスター・ハーガンの言う通り、ただ森に入りたかっただけなのでは無いかというのが、この数日間トモヤの監視をしてきたアーチルドの結論だった。
そうして報告の考えを頭の中で纏めながら森を駆け抜けたアーチルドが町に着いた時には、夜中の1時を回っていた。
正規の手順を踏んで開門してもらう時間も惜しい為、町の石垣を飛び越えて町中に入り込む。
物陰に一瞬隠れ、『絶対隠密』を解除すると、町の外れにある軍の宿舎に入り、緊急案件としてマーシャル司令官に報告がある事を担当官に告げた。無事にたどり着けた安心感からか、アーチルドは思わず疲れに任せて倒れ込んでしまった。
そのアーチルドの様から、大変な事態になっていることを悟った担当官も急いでマーシャルを呼んでくると、バスローブを着たマーシャルがアーチルドの前に現れた。
アーチルドは床に大の字になって倒れていた体を起こし、直立した。マーシャルは如何やら入浴中だったらしく、どこか肌が上気している様に見える。
美しい褐色肌に整った顔立ちの彼女のその姿に、役得だな、と思ったマーシャルはそれどころではないと頭を振り気を引き締めた。
マーシャルはそんなアーチルドをたいして気にせず、ハッキリとした声で報告を求めた。
「良く戻った、アーチルド。要件を聞こう」
「はっ!狩人エミリーが推定500体以上のゴブリンを主力にした軍を発見したとの事です。また、その後方より別の魔族軍が追走しており、その全てがこの『カーネルの町』を目指し進軍している模様です」
アーチルドは一旦ここで言葉を切ると、何か指摘が無いか確認の為マーシャルの方を見た。
マーシャルは額に手を当て、何かを考えていると、もう一方の手で報告を止めたアーチルドを促した。
「続けろ」
「はっ!トモヤ少年、狩人エミリー、『豪老』カッサバ氏の三名は、本日早朝にゴブリン軍を襲撃する計画。その計画については…」
アーチルドからトモヤ達の作戦を聞いたマーシャルは、表情を変えずに伝達係に向かって命令を伝えた。
「偵察部隊に連絡。至急魔族軍が発見された現地に赴き、状況を確認させろ。アーチルド、疲れている所悪いが、お前は編成される小隊に詳しい情報を伝えた後、再びトモヤ少年の監視に付いて貰う。明朝に編成される偵察部隊に一旦合流し、現地で別れてトモヤ少年の動向を探れ」
「了解しました。…あの、マーシャル司令官、一つ宜しいですか?」
「何だ」
「トモヤ少年や狩人達に援軍は出さないのですか?幾ら達人たちとはいえ、少々数が多すぎると思うのですが」
「彼らもそれは承知している筈だ。町に逃げ込めば、安全は確保できるだろうし、町に入るのも拒否はしない。だが、彼らはそれをしなかった。それだけだ」
確かに、狩猟小屋の面子も予想していたが、500体程のゴブリン軍を相手にすれば、町も多少の被害が出るとはいえ問題なく撃退出来る数だ。事前に察知することも出来き、明日には冒険者ギルドにも臨時の緊急依頼が発令され、自由両軍も事前の準備が出来る。通常の戦力も、臨時の戦力も用意できるのだ。
ならば、一般の発想ならば、町に逃げ込むのが最も安全な方法なのだ。
彼らがそれをしなかった以上、軍の相談も無しに足止めを行うというのは傲慢なように思えるし、援軍を出してもらえないのも自己責任としか言えない、とアーチルドは理屈の上では理解できた。
だが、どこか彼らを見捨てたような気分を抱えて報告を終えたアーチルドは、複雑な思いのままマーシャル司令官に敬礼をしてその場を後にすると、軍の宿舎で仮眠を取った後、軍の宿舎前に集まっていた偵察部隊に合流した。
朝日の見えない空を眺めながら、偵察部隊の面々へ、作戦を説明している隊長と思わしき人物に近づいた。
アーチルドの存在は、その仕事の内容やスキルから軍でも大っぴらに出来ない為、狩人達へのメッセンジャーと言うのが今回の役職だ。
「アーチルドだ。伝達係として、途中まで同行する。宜しく頼む」
「此方の方こそ、宜しくお願いします。特別編成偵察小隊隊長、ソーリスです」
アーチルドが顔に笑みを浮かべながら握手した相手は、兎人族の少女と言ってもいい若い女性だった。




