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22.召喚獣

次の日の朝、オレとエミリー』は先行部隊の進路上にある高さ10m程の木の上で、部隊が通るのを待っていた。登った木は樹齢何千年と言われても驚かない立派な大木だ。作戦上なるべく丈夫なものが良かったのだが、予想よりも耐えてくれそうなのが見つかって良かった。

先ほどまでは朝露に葉が濡れていたのだが、今は乾いてさらりとした葉の感触を触れた頬に感じる。

今日のオレの装備は、緑のローブとウエストポーチ、ククリナイフにゴブリンの弓だ。作戦の想定して、形見の剣は使うことが無いと思い、狩猟小屋に置いて来ていた。

先行部隊を先ほど偵察に行ってみたが、街道など使わず最短距離で町にまで行くつもりだ。ならば、作戦に変更はない。

オレが周囲を警戒しつつ見上げていた視線をエミリーに移すと、エミリーは、ぜえぜえと荒く呼吸を繰り返している。


「トモヤ君…ハァハァ…草場に…ハァ…隠れながら、ハァ、移動、しているのに、早すぎでしょ」

「この数日でこの手の移動はだいぶ慣れた。慣らされたと言ったほうが良いかもしれないけど。一か所に留まっていると、熊や狼に囲まれてしまうからね」

「そりゃ、そうかー」


エミリーも、だんだん呼吸が整ってきたのか、「ふぅ」と一呼吸おいて、辺りの警戒を始めた。流石レベル20だ。体力回復の速度も早い。遠くの方を見ようと、目を細めながらエミリーは苦笑しながらオレに言った。


「私も狩人としてそこそこ修行しているんだけどなぁ。数日修行しただけでその技術。羨ましいぜい」

「そうだろう?エミリ―もヘルモードにすれば良かったんだよ」

「無い無い」


お互いに少し笑う。遠くを見ていたエミリーがこちらを横目で少し見て言った。


「私が見張っとくよ。ゴブリンの足だと、後30分ぐらいで着くと思うから、それまで休んでなよ」

「悪いな、頼むよ」


オレよりもエミリ―の方が『狩猟』のレベルが高いため、見張りなどは基本エミリーの役目だ。

エミリ―が言うには、彼女の持つ祝福スキル『世界地図』にも索敵機能があるらしい。

エミリ―に見張りを任せて、オレは休む間、昨日確認したステータスを復習を兼ねて確認する。


○一一一一一一一一一一一一○

l名前:トモヤ

l種族(状態):人族(健康)

lLV:23(9UP 29832/95000)

lHP:217/217(88UP)

lMP:82/82(32UP)

l攻撃力:213(106UP)

l守備力:205(91UP)

l行動力:202(78UP)

l幸運 ;-308(66UP 称号『転生者ヘルモード』の為-500補正)

l???

l-神様へのチケット

l祝福スキル

l-逃走吸収 (2/5LV)

l-徴収贈与(1/5LV)

l-時間停止(2/5LV)

lユニークスキル

l-鑑定の魔眼(2/5LV)

l-絶対記憶(2/5LV)

l-液体操作(2/5LV)

l-暗殺者の素質(1/5LV)

lスキル

l-短剣術(1UP 2/5LV) -狩猟<野生>(1UP 2/5LV) -探知(0/5LV)

l-爪術(0/5LV)     -咆哮(1/5LV)      -土魔法(0/5LV)  

l-剣術(2/5LV)     -擬態(2/5LV)   

l-弓術(1UP 2/5LV) -倉庫(NEW 0/5LV)  

l-格闘術(1/5LV)     -縮地法(NEW 0/5LV)

l称号

l-転生者<ヘルモード>

○一一一一一一一一一一一一○


昨日確認した時も思ったのだが、あの黒熊やら白熊を倒したためか、すごい勢いでレベルが上がる。だが、いまだにスキルレベルが3に上がるものが無いのが気にかかる。スキルレベルが1でも上がると、その前のレベルとは隔絶した強さになるのが、カッサバさんと一緒に狩りをして分かった。あの人の『格闘術』と、オレの『格闘術』では、まさに天と地の差がある。『格闘術』1LVを使用してカッサバさんに勝つのは、恐らく倍のレベルを上げても難しいと思う。レベルが上がるのは勿論喜ばしい事なのだが、早くスキルレベルを上げないと、スキルレベルが高い敵に会った瞬間詰む可能性が高い。

上がったスキルは有るが、殆どスキル説明が変わっていない。確認はせずにステータスの確認を止める。

折角なので、『倉庫』の練習をしてみる。昨日から練習しているのだが、イマイチ上達していない気がする。

落ち着いたらカッサバさんに聞いてみるかな。

縮地法は昨日練習してみた限り、手ごたえのある感覚があった。もう少し練習すれば習得出来るだろう。

暫くそうしてスキル練習をしていると、「来た」と、エミリーが呟いた。

思わず、エミリーの見ている方向に視線を向ける。

確かに、まだだいぶ遠くにだが、緑色の豆粒がちょろちょろと動いている。ゴブリンだ。


「かなり広範囲に広がりながら前進しているみたいだね」

「好都合だ。作戦通り、『隠密』を使って先鋒のゴブリンが通り過ぎるのを待とう」

「オッケー」


僕が緑のローブの中に完全に隠れるようにしてなるべく体を縮こませるように小さくする。

と同時に、『擬態』を発動を感じる。これで『隠密』2LV同等の効果になった筈だ。


「…それ本当にすごいね。唯の緑のロープのはずなのに、近くでも一瞬見失いそうになるよ。『隠密』だけとはちょっと違う感じだよ」

「『擬態』スキル便利だよ。狩りでも使えると思うけど、覚えたらどう?」

「遠慮するよ。顔を緑色に塗りたくないしね」


エミリ―が再び苦笑で返す。うーん、これそんな駄目かな?と、顔を触る。今日も、顔と手を緑の塗料で

塗りたくって居るから、ちょっとガサガサする。…女の子にはちょっと厳しいか。

エミリ―も『狩猟』の効果を使って、『隠密』を発動したみたいだ。オレの隠密スキルレベルは、『擬態』のプラス補正を使っても2LVだけど、エミリーは『狩猟』4LVだから、『隠密』3LVが使える。さっきはオレを褒めていたが、エミリーが本気で隠れたら、オレも全力で意識して探さないと見つからないと思う。

…やばい、早くスキルレベルを上げたい。早く片付けて、狩りをしながらスキルレベルを上げよう。

そんなことを考えながらも、最初の一体のゴブリンが木の下を通った。

それに続いて、剣を佩いたゴブリンたちが、『ギャギャギャ』と汚い鳴き声を上げながら通り過ぎてゆく。

作戦開始の合図はオレがすることになっている。


(そろそろだな…作戦開始だ)


オレは、大木の周りにゴブリンが居なくなるタイミングを狙い、小さくしていた体を伸ばし、空に向かって顔を上げると、スキル『咆哮』を発動すべく力の限り叫んだ。


「がぁぁぁぁああああああああ!」


相当高くなったステータスから放たれた『咆哮』が森に響き渡る。あまりの大きさの叫び声に、遠くの方で鳥が飛びたったのが見えた。直近で聞いてしまったエミリ―は耳を抑え、目を回している。頭を何度か振ったエミリ―が、涙目でこちらを見た。


「~~~っこ、こんな大きいなんて聞いてないよ!」

「あー、ごめん加減が分からなかったから」

「もう!ゴブリン達に八つ当たりだよ!」


ぷりぷりと怒りながらも、慣れた手つきで弓に矢を番えるエミリ―。木の下では、「ギャギャギャ」とゴブリンの混乱が見て取れる。オレも手早く弓を構え矢を引き絞ると、手近なゴブリンの一体を射かけた。

ゴブリンの頭に矢が刺さったのを確認し、次のゴブリンに狙いを定めては射るを繰り返す。

それを5度繰り返すと、ゴブリンがこちらを発見したようで、何体かのゴブリンが、此方を指さしているのが分かる。

遅せーよ。『咆哮』使った段階で居場所位わかるだろ。


「ゴブリンってやっぱり頭悪いのな…」

「そうだねぇ。あ、トモヤ君、背中を合わせて、死角を減らそう。通り過ぎて行ったゴブリン達も戻って来たみたい。近接装備ばっかりだから、碌に反撃出来ないと思うけど、成る丈数は減らそっか」


エイミーがまるで遊びに誘うような気軽な調子でそういうと、矢筒から矢を何本も引き抜き、それをまとめて引き放った。すると、放った矢が光を放ち、さらに分裂してゴブリンの一群をまとめて射貫いた。


「『分裂魔矢』。面制圧には便利だけど、実際の狩りだと遠くから安全圏から狙える『ロングスナイプ』の方が便利なんだよね。コスト安いし」


『弓術』3LVのアーツを使い、塊になっている所を狙い続けるエイミー。一時、そうやってゴブリンを一方的に蹂躙できていたが、何体かが大木にとりつき木を登り始めるのと同時に、先行部隊の奥に居たのであろう弓隊が到着し、弓を構え始めた。オレは、まずは木を登ってい来るゴブリンを対処しようと、水筒の蓋を開ける。


(『液体操作』、『水』から『油』へ変化。樹の幹に塗り付けろ)


皮袋一杯分程度では幹全てに塗ることは出来ないが、一部だけなら濡らすことが可能だ。

地上から5mほどの地点で、縦50cm程を円を描きながら塗っていく。丁度そこに到達した木登りゴブリンは、油に滑り、地上へ落下した。

後ろのエイミーに視線をやると、此方が地上を対処していた時に弓兵を牽制していたみたいだが、ついに弓兵から矢が放たれた。だが遅い。ゴブリンとオレの圧倒的なステータス差が、矢のスピードを遅く見せた。オレは振り返りざまククリナイフを引き抜くと、エイミーの前に出て全ての矢を無理やり叩き落す。

オレのククリナイフが石鏃を弾くたびに、小さな火花が飛び散った。

さらにオレと入れ替わりエイミーが、クールタイムが終わった『分裂魔矢』を解き放ち、弓兵の半数がその場に崩れ落ちた。が、奥の方からも続々と弓兵が現れ、部隊の左右に散っていた歩兵達もここに集ってきた。

しかし、ステータス差は圧倒的とはいえ、流石にこのままだとジリ貧だ。持ってきていた矢も無尽蔵に有るわけではない。この後の計画の為に、矢もMPも残しておかなければならないのだが…。


(くそっ!予想より遅いぞ!もう一回『咆哮』を使うか?)


オレが僅かに逡巡したその時、先行部隊の左右の奥より「ガァアアアアア!」という、『咆哮』が聞こえた。間に合った、『召喚獣』だ。あの雄たけびを聞いて安堵したのは初めてだ。

左右から合われたのは、おなじみの狼と熊だった。狼の群れが2グループほど。熊も4匹もいる。大漁だな。

今回一番最初に使った『咆哮』。この叫びに気付いた、オレのエンカウント率にひかれて近くにいた獣共が駆けつけてくれたのだ。いやぁ、ヘルモードって便利だなぁ。あ、追加で狼の群れが1グループ来た。

まぁ、今回の作戦の中軸、『召喚獣』作戦は、前回の3つ巴戦の延長線上なんだけど。エミリーに作戦の概要を話した時も、「えげつない手を使うね」とお褒めいただいた。やったね。

あと、今回の『咆哮』には、カッサバさんへの後方部隊と先行部隊の同時襲撃の合図としての役割もある。さらに、ゴブリン達の注意を引きつけることで、獣達に気付きにくくすることも出来る。『召喚』と『合図』と『陽動』の、1石3鳥な作戦なのだ。

これで、この場に限ってだが、先行部隊は逆包囲状態になるはずだ。

辺りを見渡すと、すでに無秩序に攻撃を仕掛けている獣たちに、ゴブリン兵たちは押されて行き、後退し始めていた。隣で「ふぅ」とエミリーがここに来た時の様に息を整えると、此方を向いてにっこりと笑った。


「良し。何とか上手いく行ったね。最後、『世界地図』を使おうかと思っちゃった」

「オレもだよ。と言っても、まだやることが有る。気を引き締めて行こう」


そう。次の目標は、この部隊の指揮官を殺すことだ。

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