19.カッサバ
狩猟小屋を訪れた次の日、オレは何故かエミリーの『おじいちゃん』に連れられ、森の奥に来ていた。
そこで、いつもの熊と違い、黒色の毛皮に体長が2mを超え、サーベルタイガーのような猛々しい牙を持つ熊に囲まれつつあった。
「ぐわっはっは!本当にウジャウジャと出よるわ。黒熊どもめ!……破っ!」
「だから『来る』って言ったでしょう!マジな話、…ああもう!邪魔だっつーの!…オレにはこのレベルと数は厳しいですよ!爺さんの様に拳で頭吹っ飛ばせるのとは違うんですよ!」
「何を抜かすか。今も、その面妖なる血を操る術が有るではないか!あと『お』を付けろ。……ぬんっ!」
未だに30匹の黒狼に囲まれつつも、まるで子蠅を叩き落とすかのように薙ぎ払うこの老人。
いや、老人と言うには余りにも筋骨隆々なその体とその体から放たれる技の威力は、とても『老い』など感じなかった。
何故このような事態になったのか。それは、この爺さんがあの狩猟小屋に帰宅し、オレが反射的に『鑑定の魔眼』を使った時の事だ。
○一一一一一一一一一一一一○
l名前:カッサバ
l種族(状態):人族(健康)
lLV:40(47m/77m 1m=1000000)
lHP:319/319
lMP:45/45
l攻撃力:369(『剛力』により、+40補正)
l守備力:229
l行動力:143
l幸運 ;45
l
lユニークスキル
l-超肉体(4/5LV)
l
lスキル
l-格闘術(4/5LV) -剛力(4/5LV)
l-縮地法(4/5LV) -倉庫(2/5LV)
l-結界術(2/5LV) -狩猟(4/5LV)
l
l称号
l-万殺の闘士
l-『豪老』
○一一一一一一一一一一一一○
この熊の毛皮を使ったマントを羽織るお爺さん、単純には比べられないが、あのハーガンさんとマーシャルさんと同格かそれ以上だ。
エミリーが言っていた『おじいちゃん』がこのお爺さんなら、確かにこの周辺の狼なんてトイプードルと変わらないだろう。
『魔払いの泉』とやらも、このお爺さんの『結界術』で作ったんだろうな。
と、一先ずは挨拶が先だな。
「初めまして。私は」
「ぬん!」
挨拶をしようとした瞬間、爺さんは凄まじい踏み込みから、手を振り上げ唐竹割りを繰り出して来た。
あまりの速さから、オレはほとんど反応出来ない。その一撃を顔に受けるギリギリに、そのやたらデカい手がは止まった。止めた瞬間に、オレの前髪がその一撃の勢いで生まれた風で舞った。
当たっていたら、オレ死んでたんじゃないか?床からは、踏み込んだ場所から薄く煙が昇っている。
爺さんはにっこりと微笑むと、その手でオレの頭を撫でた。
「よく来たな。儂がこの城の主、カッサバだ。気軽に『お爺さん』と呼ぶが良い」
「……ではお爺さん。今の頭を狙った手刀は何ですか?」
「気にするな、挨拶代わりよ。ぐはは!」
腕を組み豪快に笑うお爺さん。挨拶がチョップて。
苦笑しつつも、あんまりな状況を見かねたエミリーさんが、一応説明してくれた。
「えっとね…おじいちゃん、本当にこれが挨拶って思ってるの。まー強い人だけにしかやらないし、結構気に入っているって事だから。ギルドマスターにも『これ』だったよ?あの人には当てたけどね」
エミリ―が苦笑交じりにそう説明してくれた。すげえなハーガンさん。あれを受けたのか。
ていうか、いくら強い奴にしかやらないって言っても、見た目子供のオレにやる事か?
「ふむ。小僧が唯の人族ならば、レベルは20半ばから30の間、と言ったところか。その年で如何やってそこまで鍛えた?」
「え!?おじいちゃん、それ本当?」
「応。この小僧、生意気にも儂の手の動きを見切らんとしておった。体がそれに追いつけん様だったがな」
「はー。やっぱり『ヘルモード』で過ごして来た人は違うねぇ。あ、おじいちゃん。その子、転生者だよ」
エミリーが嘆息しながらも、オレの秘密を暴露し始めた。先ほどまで話すか話さないかを迷っていたオレと違い、そこに一切の躊躇いがない。鬼か此奴は。
「何と!それならば納得よ。幼子の時から修行に励むとは中々見込みが有るではないか」
「あの、そろそろ話を進めても?あとエイミー、勝手にバラすな」
「メンゴメンゴ」と拝むように謝るエイミー。絶対に反省していない。まぁ、話してしまった方が、話が早いか。
結局オレは、エイミーさんと同じ話をもう一度した。2人にバレるなら、2人揃ったときに説明すればよかったな。
先ほどの御達者振りからは打って変わって、腕を組み神妙な顔でオレの話を聞いていたカッサバさんだったが、エイミーと全く同じ所で食いついてきた。
「『ヘルモード』?何だそれは。エミリ―のハードモードと、どう違うのだ?」
「私は『ハードモード』の詳細を知らないため比べられませんが、『ハードモード』以上の難易度、つまり人生の試練を増やしたのです」
「人生の試練、では分からん。実際にどうだったのだ」
「……『幸運』にマイナス500の補正が掛けられました。あとは、生まれでしょうか。私はドラム村で生を受けたので」
先ほどエイミーとの会話では、ここまで具体的な話はしなかった。そのためか、その異常な『幸運』の値を聞いて、エイミーが素っ頓狂な声を上げた。
「マイナス500!?私の時でさえ、マイナス100で相当きつかったのに。…ホント良く生きてるよね。そういった意味じゃ運が良いじゃん」
「産まれた次の日から戦ってるのに、運がいいもなにも無いだろ。それで、オレの『幸運』はまだマイナス400近いのです。『魔払いの泉』がどのような状況になるかもわかりませんし、本日はこれで失礼します」
『魔払いの泉』の効果が本物なら、この小屋の周囲に狼はいないはずだ。それを確かめて今日は帰ろう。
彼らには彼らの都合もあるはずだし。
用事は済んだと思い、立ち上がろうとすると、「まて」カッサバさんに止められた。
オレの話を聞いていたカッサバさんは、先ほどの神妙な顔から、何か悪戯を思いついたような少年の顔になっていた。
腕組みをやめ、テーブルに手をつき立ち上がると、部屋の奥についてくるように手を招かれる。
少し不安になったが着いて行くと、一つの部屋の前でカッサバさんが立ち止まった。親指で部屋を指し示し、楽しそうに言った。
「今日から家に住め。此処が小僧の部屋だ。好きに使え」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり何の話ですか?」
「明日から儂と森に入れ。小僧の、獣や魔獣との遭遇率だったか。それを利用して狩りをする。先ほどの話では出てこなかったが、再び森に入る理由が分からん。が、小僧『も』強くなるために此処に、森を訪れたのだろう?儂が高レベルの熊どもの所まで道案内してやる」
オレは言葉に詰まった。確かに、先ほどの話でオレは森に来た本来の理由を話していない。
確かに、この爺さんについて行き、高レベル帯の獣を狩るのは悪くない。あの洞窟周辺の獣だと、そろそろレベル上げが限界だ。オレと同等以上の獣を狩り、速やかにレベルを上げたいところだ。
レベルが上がればドラム村まで行き、母の遺体を埋葬することも容易になるだろう。
が、いきなり高レベルの狩場に行き、大量の獣に囲まれたら、流石にキツイ。だがそのリスクも、カッサバさんが居れば、かなり下げられるんじゃないだろうか。
そんな。悩んでいるオレを見て、カッサバさんがつまらなそうにあくびをした。
「何だつまらん。『強くなりたい』と言う気概が有ったように見えたのは儂の気のせいか?」
その言葉に思わず頭が『カッ』となる。
これは挑発だ、と心のどこか冷静な部分が言うも、そんなことは関係ない。
オレが『上を目指す』気が無い?面白く無い冗談だ。
素で言ってんのかどうか知らねえが、受けようじゃねえか。
笑顔を顔に張り付け、挑むようにカッサバさんを睨み付けながら言った。
「判りました。一応、貴方よりも遥か上を目指すつもりなので。その話、受けます」
「ぐわっはっは!なんだ、気持ちだけは強者に見えるではないか。明日の日の出とともに出発する。準備をしておけよ」
「分かりました。後悔しないでくださいよ」
抜かせ、と背を向けて呵々と笑いながらリビングに戻っていく爺さん。
オレは部屋の中に入ると、荷物をまとめて机の上に置いた。部屋は宿の部屋と殆ど変わらないように見える。テーブルとイスが一脚、あとは藁のベッド、布団代わりの、鞣された狼の毛皮があった。
…爺さんにはうまく乗せられてしまったかな。「強くなる」って目的には沿ってるから別にいいか。
それよりも、明日の準備だ。なんだかんだ言って、新しい狩場だ。どれくらいレベルが上がるのか想像しただけでテンションが上がる。流石に圧倒的にレベルの低いオレを、初日に高レベルの狩場に連れて行けばどうなるかも分かっているだろうし、ある程度は配慮してくれるだろう。今日は準備したら早めに寝てしまおう。
そして次の日、付いて来た結果が『これ』だった。あの爺さん、マジで自分の狩りの事しか考えていないんじゃないか?
エミリーも付いてくるのかと思ったが、「調べたいことがある」とのことで、オレ達と逆方向の森に向かっていった。彼女は俺達と違って、レベル上げにさほど興味は無いのかもしれないな。
何を調べているのかは気になるが、それよりも熊だ。これまでの熊は、多くて2匹ぐらいと、少数しか同時に相手にしたことがなかったが…この黒熊、同時に30体ぐらいの群れを作ってやがった。強くて群れるってタチが悪すぎるだろ。
『鑑定』で調べてみると、一匹一匹のレベルが20前後と、川の周辺とは比べ物にならない。爪の一振りで木がぶっ飛ぶし、濃硫酸を被ってもダメージを負いながら突っ込んで来る。今はカッサバさんが居るから何とかなっているが、一人だと危なかったな。
先ほどまで大量にいた黒熊は、大半がカッサバさんの鉄拳により粉砕されていた。まさしく死屍累々な有様だが、オレが戦ったときも大体そうなるので、特に感じることはない。
当たりの惨状を見ていたオレの元に、念入りに黒熊の頭を潰して回っていたカッサバさんが近づいて来た。
「小僧、その血を操る術、面白いな。ユニークか?」
「ええ。応用が効いて便利です。僅かな裂傷でも詰みまで持っていけますからね」
「確かにな。だが、熊1体分の血を抜くのに10秒近い。強者との戦いではその詰み手も絶対には成りえんぞ」
「分かってます。実際それだと1対1でしか使えませんし。それよりも、予め血を用意したほうが面倒が無くて良いですね」
「それならば、『倉庫』憶えればよかろう。便利だぞ?これがないと、とても狩りなど出来ん」
そういうと、カッサバさんは徐に黒熊の死体に手を向ける。手が触れた瞬間、熊の死体がいきなり消えた。
これは…まさか、あれか!
「マジックボックスですか!?うっわ、すごい!」
「異世界人と言うのは皆同じ反応を返すのだな。エミリーも同じ様だったわ。懐かしい物だわい」
あれはエミリーが9歳の時じゃった、と昔話を始めるカッサバさんだったが、オレは急いでステータスを確認する。…よし、0LVだが確かに『倉庫』が追加されている。後で練習しておこう。
身振り手振りを交えながら、エミリーの壮大な物語を語るカッサバさんを後目に、オレはマジックボックスこと『倉庫』の習得を決意するのであった。
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