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12.再び森へ

今回も長いです。

ご容赦下さい。

ソーリスさんとギルドに行く途中にも思ったことだが、戦況が悪い中、店を閉じている所がほとんどない。

大通りには人が溢れているってぐらい人がいるし、戦争をしているとはとても思えない程だった。

この町の経済の不思議について考えていると、先ほどの木で作られたデカい剣の看板が掲げられた店に来た。扉をくぐり中に入ると、壁には剣や槍が並べられており、部屋の中央に誰もいないカウンター、その奥は鍛冶屋が使うような工房が見える。

奥で作り、手前のスペースで売るって感じかな。店員さんは席を外しているようだが、待っていたら時期に来るだろう。

そしてここからが問題なのだが、オレに剣の良し悪しが分からないという点だ。『鑑定の魔眼』を使って調べてみても、『鉄の剣 鉄で作られた剣』みたいなあっさりした内容だった。森にしばらく籠るようなら、形見の剣だけで戦うのは聊か心もとない。出来ることなら森の中でも振り回しやすい、大きめのナイフとかが良いかな。刀剣類が並べられている壁を見ていると、刀身がへの字型の剣を見つけた。前世で言うところのククリナイフや、鉈のようにも見える。試しに『鑑定の魔眼』で見てみるも、『鉄の短剣』と鑑定された。短剣にしては少し長いが、どういった基準何だろう。手に取ってみたいが、こういうのって勝手に触って良い物じゃないよな?


「何を探しているのー?」


その剣を見るのに集中していたからか、隣に人がたっているのに声を掛けられて初めて気が付いた。

慌てて視線を向けると、小さい女の子がこちらをニコニコ笑いながら見ている。剣のアップリケがつけられた可愛らしい桃色のエプロンを掛け、手には軍手のような手袋を着けていた。

この店の店員さんだろう。もしかしたら、鍛冶屋さんの娘さんとか、お孫さんかもしれない。


「ああ、すいません。実は、剣を探していまして」

「もう作ったのなら、そこの壁に並べてあるだけだよー。初めから作るんだったら、カウンターで作りたいものをきくよー?私一人で作ってるから、ちょっと時間かかっちゃうけどー」


既製品は壁に掛けている物だけで、後はオーダーメイドって事か。それよりも、この女の子が剣とか作ってるように聞こえたのだが気のせいか?

彼女に『鑑定の魔眼』使ってみると、確かにスキル欄に、『鍛冶 LV2/5』とあった。種族もドワーフだし、もしかしたら見た目通りの年齢じゃなかったりするのかな。見た目7歳児くらい、つまりオレと同じくらいに見えるけど。


「うーん、今回はもう作ってある奴でお願いするよ。この短剣を頂けるかな?」

「はいはーい。えっと、金貨8枚だよー」


ここにどうぞ、と両手を差し出し、ニコニコと金貨を入れるように促す少女。そのあどけない所作に、思わず頬が緩んだ。オレは、金貨を入れてある布袋から金貨を8枚取り出し、少女の手に乗せた。


「毎度ありー。それじゃあ、裏から鞘を取ってくるよ。ちょっと待っててね」


そういうと、工房奥に少女は消えていった。が、すぐに両手で抱きかかえるように鞘を持ってきてくれた。

少女は壁に掛けられていた鉄の短剣ことククリナイフを手に取り、鞘に入れてオレに手渡した。

……この短剣結構重いけど、この女の子割と普通に持ってたな。流石ドワーフってことか。


「有難うございましたー。手入れもうちで出来るから、悪くなる前に持ってきてねー」

「あ、別の剣を手入れして欲しいのですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよー。その背負った剣かなー?」

「はい、お願いします」


オレは背中の形見の剣を鞘ごと渡す。剣を取り鞘から抜くと、今までずっと笑顔だった少女の顔が一瞬で曇った。

え?なんだ?なにかマズったんだろうか。


「この剣、鞘と剣が別々の物だね」

「え?ええ。元々どちらも拾い物なので」

「…………」


少女は、難しい顔をしながらオレを見ている。何かを悩んでいるような顔だった。同時に、先ほどの間延びした口調が、少し硬質なものに変わった。ソーリスさんの話では、森で死んだ冒険者の装備を見つけたものは、そのまま所有して大丈夫ということだったのだが。何か問題がある品だったのだろうか?オレを見ていた少女は、再び剣を鞘に戻し、一つため息をつくと、オレに説明してくれた。


「刃物には剣とそれを入れる鞘、両方を鍛冶屋が作ることになっているんだけど、そのどちらか片方のみしか持っていないと犯罪の容疑を掛けられちゃうの」

「ええ!?何でですか?」

「一つは、剣の盗難を防止するため。剣と鞘で、2つで1つだから何方かしか持っていないのは不自然。どちらかだけの所有が領兵に見つかれば、詰所に連れていかれて、事情を説明しなくちゃいけない

。私がこれを見つけた以上、鍛冶屋として報告する義務がある」


この町で作られた剣と鞘には、刀鍛冶独自の符号のようなものが仕込まれているそうだ。剣を盗んで別の適当な鞘を宛がっても、符号を見れば一発でバレてしまうらしい。

困った。何とか弁明しなければ領兵に捕まってしまうかもしれない。


「あの、それは……」

「分かってる。君のような小さい子が、悪意を持ってこれを持ってきたとは考え辛い。本当に手入れの為だけに、こちらに見せたんだよね?」

「おっしゃる通りです。剣と鞘は別々の所で、冒険者の遺体の側で拾いましたので…」


少女は再びオレをジッと見てくる。が、一度小さくうなずくと、おもむろに剣を抜き、鞘を掲げた。


「うん、信じるよ。それじゃあ、手入れだけじゃなくて、鞘も一緒に作り直すけど、いいかなー?」

「ええ、良いんですか?」

「うん。この剣、実はウチで作った剣だから。その代わり、今後ともご贔屓に…だよー」


女の子はそういって、再び笑顔で間延びした話し方でそう言った後、『ぺこり』とお辞儀した。

何とか大事にならず済んで良かった。オレは、鞘の代金を追加で金貨一枚を支払い、「また来ます」と言い剣を預けて店を出た。手入れ事体は30分ほどで終わるそうだが、鞘は明日の朝になるとのことだ。鞘の見た目も同じように出来るということで一安心だ。明日、出発する前に一度寄ろう。


次に向かった店は、服のレリーフが刻まれた看板の店だった。ここで買うのは、スキル『擬態』を覚えるために必要な服だ。森の保護色になるようなものがベストだな。、此方も大通り沿いの店で、鍛冶屋の3軒隣にある。

中に入ると、服屋独特の匂いがする。この手の匂いはどこの世界も一緒だな。

店の中は思いのほか大きく、シンプルな木のハンガーラックに、たくさんの服が掛けられている。この中で、オレは緑色のローブ1枚、マントを1枚、シャツを2枚、ズボンを2枚、下着を2枚買う。勿論すべて子供用だ。しかも全て緑色なので、店員さんにはちょっと変な顔をされた。『此奴センスねーな』と思われているに違いない。

森ではこれを着て、『擬態』が上がるかどうか試してみよう。此処での買い物は金貨3枚だった。


さらに次、福屋のすぐ隣にあった鎧などを売っている防具店に入ったのだが、皮手袋とブーツ位しか買うものがなかった。大半の鎧は、オレのサイズに合うものがなく、仕立てるのに1週間以上かかるのと、革の胸当てだけで金貨15枚かかるそうで、ちょっと買えそうにない。特産品の森の獣の毛皮を鞣した物を使った防具など、目玉が飛び出るほど高かった。

この際、ブーツの底に2枚金貨を張り付けているのをこそこそ回収したのはいい思い出ということにしておこう。その2枚は新しく買ったブーツに仕込みなおした。次にブーツを買いなおす時には一旦出してから買いに来よう。此処で使った金貨は3枚だ。


最後に向かったのは雑貨屋。ギルド内にある店にも行きたかったのだが、冒険者に絡まれるのも面倒なので、此方も大通りで店を見繕った。

真っ先に入手したかったのがポーションだ。この店の看板にフラスコのようなレリーフがあったから、もしかしたらと思ったんだが、ゲームでおなじみの回復薬が今目の前にあった。1個金貨1枚というぶっ飛んだ価格なのだが、失ったHPの3割を回復する優れものだ。作るのに魔法技術が必要とかで一部地方でしか作れない貴重なものなんだそうだ。

勿論買った。オレには『液体操作』があるから、これをもとに増幅で増やすことが出来るはずだ。

…あれ?ポーション増産して売れば、大儲け出来るんじゃね?いやいや、何でそんなにポーション持っているのかと怪しまれるだろ普通。変なゴタゴタに巻き込まれる気がする。

まぁ、金がどうしても必要な時以外ではやらないで方向で行こう。

他には、ちょっとの衝撃でキーンと高い音が鳴り響く『音石』。火を点けるとものすごい煙が出てくる茸。

大きめの革で出来たウエストポーチと、皮膚に付いても問題ない緑色の染料、岩塩を買った。

ポーションが有るならと思い、大量にどんな物でも入るマジックバッグのような物が無いか店主に尋ねみたが、見たことも聞いたこともないそうだ。残念だが諦めるしかない。もし別の町に行くことが有れば、その時に改めて探すかな。

此処での買い物は金貨2枚と銀貨3枚。宿屋に銀貨5枚分を払ってい有るから、手持ちのお金はブーツに入れた金貨2枚と銀貨2枚。実質今日使えるのは銀貨2枚かな。

そう言えば今日はまだ何も食べてい無い事を思い出し、何か食べようと思い、大通り沿いを歩き始めた。荷物が多少かさばっていたので宿屋に向かおうかとも思ったが、明日はどうせこの装備で行くことになるんだと思いなおす。





そうしてブラブラと歩いていると、大きい広場のような所にでた。中央には小さいながらも噴水のような物も見える。その円形の広場に屋台が出ていたので、そこで熊肉を焼いて出している所で飯を買う。木串に刺した焼き肉を1本買い、その場で頬張る。ちょっと野趣味にあふれた味だが、十分うまい。体が小さい分、1本でお腹いっぱいになった。

広間にあった石造りのベンチに腰掛け、あの噴水どうやって動かしているだろう、下水とかあるのかなと考えながら、広間をボーっとみているとオレの足元にリンゴのような果物が転がって来た。リンゴもどきを手に取り、転がって来た先に視線を向けてみると、一人の少女が地面に尻もちを付くように地面に座りこみ、その周りを冒険者風のいで立ちをした厳つい男が3人、少女を取り囲んでいた。

少女の前に立った禿頭の男の大きな声が此処まで聞こえてくる。


「おいおいおい、お嬢ちゃん。よそ見はいけねぇなぁ、よそ見はよぉ。ぶつかったせいでオレの鎧に、ほら見ろよ。…見ろっつってんだよコラぁ!いいか?こいつはなぁ、『ソーマの青』って超ー高い染め汁なんだわ。すげー貴重な葉っぱで作られたモンなんだよ。わかる?それをお嬢ちゃんがぶつかってきたせいでブチ撒けちまったんだよ。分かったか?お嬢ちゃんは金を払えねぇだろ?だからさ、親のところに案内しろや」

「モ、モモにお母さんもお父さんもいないもん…お姉ちゃんしかいないもん……あとモモ、ぶつかってな」

「うるせえボケが。じゃあそのねーちゃんの元に連れてけや」


バシッとひときわ高い音が鳴る。男が少女の頬を叩いた音だ。広間にいた何人かの女性がそれをみて小さく悲鳴をあげた。叩いた男は、しゃがみ込み、少女の髪を掴んで無理やり立たせ、案内させようとする。他の男2人はそれをニヤニヤ笑いながら見ていて、付いて行こうとする。広場にいた者たちはあまりにも無法に過ぎる事態に半ば呆然としているようだった。兵隊さんが来るような気配もない。


(やるか)


オレは、先ほど雑貨やでいくつか買った染料の入った小壺を取り、あのハゲ野郎に思いっきり投げつけた。

染料は男の右肩に命中し、ガシャンと、入れ物の小さな壺が割れ、中から、緑色の染料が皮鎧の一部を染めた。一瞬、広間は沈黙に支配され、男の視線がこちらに向く。


「おいコラ。クソガキがてめぇ死んだぞお前」


怒りに頭が回っていないのか、言ってくることが良く分からなくなっている。オレは立ち上がると、右眼でハゲ野郎を『見た』が、LV8のスキルが『斧術(1/5LV)』しか持っていないただの雑魚だった。見掛け倒しだな。

此方に肩で風を切りながら向かってくる男の胸元の染料を『見て』みるが、『染料 一般的な染料』としか表示されない。やはり当たり屋で確定だな。


「失礼。自分で革鎧に染料を塗りたくるのがご趣味に見えたので。私も、少々お手伝いして差し上げようとしただけの事ですよ」


それを聞いたハゲ野郎は、顔を嘲笑に歪めながら、革鎧を指さしながら反論してくる。


「あ?自分で塗った?あっちのクソガキがぶつかったせいだろうが。はっ、丁度いい。その小奇麗な顔面ぶっ壊そうと思ったが、お前も親のところに案内し」


オレは、何か言っているハゲを無視して、一歩踏み込む。ハゲが少し動揺したように話を止めた。

やはり此奴見掛け倒しだ。クソガキにビビってんじゃねーよ。


「私はね、『仕事』柄染料を扱うことが多いからわかるのですよ。あれ、普通の染料ですよね?ああ、名乗っていませんでしたが、私はトモヤと申します。『血の呪術師』って聞いたことありませんか?外見はこんなですが、見た目通りの年齢と思わないほうが良い」


周りに聞こえ無いように小声で言うと、ハゲ野郎にだけ見える様に隠しながら、ナイフで少しだけ指の先を切る。出てきた血を操り、手のひら大の血の球を作る。少しの血を、『液体操作』の増幅効果で増やしたものだ。

胸前に作っていた血の球から視線を上げると、ハゲ野郎が可愛そうなぐらいに青い顔をしていた。一体どんな噂になってるんだ?逆にオレが怖いわ。


「いや、す、すんませ…だけど、オレを溶かしても、良い、事無いっていうか、いやほんとすいません。勘弁してください」

「そう?それじゃあ何も言わずに帰ってもらえます?勿論、ここで起こったことは二人の秘密ってことで。もし喋ったり、またあの子に手を出すようなら」


もう少し脅しておこうと、液体操作で黒色にした血の球を強酸に変換し、それを地面に落とした。『ズシュウ』と石畳を溶かす音がした。最後に水に戻しておくアフターケアも忘れない。市街地だしね。

ハゲ野郎に近づき、耳打ちする。


「お前の穴という穴からこいつをぶち込む。お前だけじゃない、お前は最後だ。家族も、恋人も、友人も、お前に関わった奴全員だ。溶かしきった後に、皮袋に詰めてお前に送ろう。オレの『血の呪い』から逃れられると思うな。ああ、お前だけはドロドロになっても生きれるようにしてやろう。スライムって知ってるか?粘土みたいな魔物なんだが、のそのそと這い寄るだけしかないか弱い魔物だ。今のオレには、お前がそれに見えて仕方がないよ」


勿論『血の呪い』なんてスキルはオレには無い。狂気を演出するために猫撫で声で呟くように喋ってるんだけどうまくできているかしら。指からは血がまだ出てるし、早く治療したいからどこかに行ってくれないかな。

あ、すごいガタガタ震えている。もう大丈夫かな?


ハゲ野郎は凄い勢いで仲間2人のもとに駆け寄ると、そのままどこかへ消えた。それと同時に、屋台にいた人たちも、どこかホッとした顔をして、広場にも喧騒が戻る。

やれやれ、指を切らなきゃならんし、散々だな。あの子はもっと散々だろうけど。オレは女の子に近づくと、女の子はビクッと体を竦ませた。なるべく怖がらせないように、優しく声を掛ける。


「大丈夫かい?」

「えっと、あの…モモを助けてくれて、ありがとうございました!」


勢いよく少女が頭を下げる。三つ編みに編まれた神がふわりと一瞬浮いた。顔を上げると、少女の顔には向日葵のような明るい笑顔だった。やっぱり女の子は笑顔が一番だ。


「モモね?お姉ちゃんに貰ったププルの実を持って行ってあげようと思ってね?急いで走ってたらね?あの人たちがぶつかってないのにぶつかったって言ってきたのー」

「そっかー、モモちゃんはお姉さんが大好きなんだね。さっきの怖い人はもう居ないから安心しなよ」


子供特有の怒涛の言葉攻めにそう返すと、少女ことモモちゃんを褒めるように頭を撫でる。モモちゃんは「エヘヘ」と擽ったそうに目を細める。

ふと見ると、モモちゃんの頬は少し腫れていた。オレは荷物からポーションを取り出しすと、『液体操作』を使いながらモモちゃんに渡す。


「モモちゃん、これ見て。これね、魔法のポーションっていうんだ。いくら飲んでも減らない不思議なポーション。今ちょっと頬っぺた痛いでしょ?これを飲めば痛いのが無くなるから飲んでみて。少しづつ、ゆっくり飲むんだよ?」

「うん、有難う。お兄ちゃん!」


キラキラした目でポーションを見るモモちゃん。まぁ、実際は『液体操作』で増幅を使いながら飲んでもらうってだけなんだけど。

コクコクと一本分ほど飲んだモモちゃんの頬は、見る見る元の可愛い頬っぺたに戻っていく。

「すごい!本当に減ってないよ、お兄ちゃん!」と、ポーションの入った小壺を掲げるモモちゃん。オレは笑いながらポーションを返してもらい、蓋をして袋の中に戻した。拾ってベンチに置いていた、ププルの実?をモモちゃんに返す。


「はい、ププルの実。お姉ちゃんに食べさせてあげな」

「うん!ありがとー、お兄ちゃーん」


手を振りながら大通りを走っていく。あらら、また走って行っちゃった。あ、気づいて早歩きになってる。可愛いもんだな。

気が付くと、もう日が傾き始め、夕方になりかけていた。オレは宿に向かい、荷物を置くとそのままベッドに横になり寝た。森では夜に行動するのも危ないし、早寝早起きの生活になると思う。今日も慣らしで早めに寝ておこうと思ったのだ。

…1時間ほど寝たとこで、腹が減って一度起きた。宿屋の夕食は宿泊費に入っていて良かったよ。




次の日の朝を迎えたオレは、若干の頭痛に悩まされていた。昨日寝た時は、これまでの記憶をひたすらフラッシュバックのように見ることになったからだ。正直、生まれた場面を何度も見るのは精神衛生上きつい。これどうにかなら無いんだろうか。数日に一度でもやはり結構きつい。『絶対記憶』のレベルを上げたら解決するのだろうか。

宿で朝食を食べ終える頃には痛みが引き、オレは森に入るために、町の門の前に居た。武器屋の少女に預けてあった、母の形見の剣も貰って来ている。準備は万全だ。オレが門に近づくと、その門に寄りかかるようにして一人の男がこちらに手を振っている。冒険者ギルドのギルドマスター、ハーガンさんだった。


「お早うございます、ハーガンさん。今日は如何されたんですか?」

「おう、お早うさん。いやー悪い。渡すものがあったんだわ。これな」


そう言って差し出されたのは、木と剣が十字に重なったメダルのようなものだった。


「これが、冒険者ギルドの発行しているギルド職員の証ってヤツだ」

「そんなもの…頂いていいのですか?」


ハーガンさんが、そのゴツい指で髭を撫でつけると、少し口端が上がった気がする。オレには苦笑しているように見えた。


「あんまり良くねぇな。だがよ、この門潜れんのそれ持ってる奴か、軍の奴らか、冒険者しかいねーんだわ。次町に来た時に居心地悪いかもしれねーが冒険者になっとけ。軍じゃねー、ただの冒険者だったら動くのにも強制が出来ねーからな」

「分かりました。何から何までお手数お掛けします。後、冒険者の件、考えておきます」


メダルをズボンのポケットに仕舞ながら、了解の言葉を返す。門番の人が隣にいるのに、堂々と言ってのけるもんだ。門番の人も少しあきれた目でハーガンさんを見ている。


「それともう一つ、頼まれちゃくれねえか。この先の道、ドラム村に繋がってんだけど、途中に『熊注意!』って立札がある。そこを左に曲がり真っ直ぐ行くと、狩猟小屋があんだけど、そこに変わりもんの狩人がまだ狩りの為に残ってんのよ。すげー強いから問題はないと思うんだが、もし寄れるときは寄ってくれ」

「その人はこの町に避難しないんですか?」

「変わり者つったろ。これでもここ1年で10回は町に来いっつったよ。あれはな、典型的な戦闘馬鹿ってタイプだな。だからまだ森に居んだよ。。ま、後は好きにしろ。1週間後、必ずギルド来いよ」


そう言ってハーガンさんは大通りを歩いて行った。と思ったら振り返って、オレを指さし「絶対戻って来いよ!」と大声で叫んだ。…頼まれたし、狩猟小屋 へ先に行ってみるか?




そうして、オレは再び森に入る。

この時のオレは、装備の点では準備をしていたが、肝心要のステータスを見るのを怠っていた。だから、『1週間無事だよチケット』の効果が、あと数時間で切れてしまうことに気づけなかった。


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