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11.宵越しの金は金貨2枚

いつもの長さの2倍近く有ります。明日投稿予定の12話も長いです。

あとがきにこの話を纏めた風のものも載せていますので、そこだけ読んでも良いかもしれません。


一部修正しました。話の大筋に影響は有りません。

余りの2人の強さに思わず顔が強張るのが分かる。いやまぁ、戦闘になることはたぶんないんだけど。

座ったオレの表情を見て、正面の髭面の男性は少し顔を訝し気に髭を撫でる。が、すぐに笑顔になると、

「まぁ、茶でも飲みねぇ」と、ティーポットのような陶器から、紅茶らしき物をカップに注いでくれた。「頂きます」と断りを入れ、口をつけたお茶の味はほのかに甘く柑橘類の香がした。美味しい。


「さて、落ち着いたところで自己紹介と行こう。俺の名前は、ハーガンという。この冒険者ギルドの…ギルドマスターってわかるか?まぁ、ギルドで一番偉い奴だ。こっちの銀髪のダークエルフが」

「マーシャルだ」

「そう、マーシャルっつーモンで、自治領軍ってモン率いている。そんでいいか?今日は俺だけの話を聞け。こいつの話は全部無視しろ」

「…………」


ハーガンさん、が笑顔でマーシャルさん(ステータスの方、なんで名前が2つあるんだ?)を指さしながら、無視するように勧めてくる。

すると、マーシャルさんが、初めて目を開けると横目でハーガンさんを無言でにらんだ。

ハーガンさんはどこ吹く風で、マーシャルさんを完全に無視している。取りあえず愛想笑いでごまかしておこう。


「あはは……私の名前はトモヤと申します。よろしくお願いいたします」

「おお、ソーリスの言う通り糞礼儀正しいな。別に咎めやしねぇから、気楽に喋って構わねぇぜ?」

「いえ、この喋り方は目上の人と喋るときの癖でして。申し訳ありませんが…」

「そうかい。ま、楽しくおしゃべりしに来たわけじゃねぇしな。本題に入らせてもらうぜ。まずは、ソーリスの護衛と、町門の防衛の手伝い感謝する。そんでな、お前強えから、自由領軍に入れや」


ハーガンさんが草野球チームの勧誘の如く気軽に言うが、一応軍なんだよな?

オレは頂いていたお茶のカップを置きながら、頭を下げる。


「お断りします」

「お、そうか?じゃ、もう帰っていいぞ。一言だけ言っとくが、ソニック・オーガとやりあうなんてのは大人だけで十分だ。次から無茶すんじゃねーぞ」

「え?帰って良いのですか?」

「応。気にすんな。後はこっちで全部やっとくからよ」


良いよ良いよ、と手を振りながら笑顔のまま帰るように促すハーガンさん。

本当に席を立とうかと思ったが、マーシャルさんから「待て」、と止められてしまった。ソーリスさんは少し慌てて、オレの袖口を掴んでいる。

「まぁ、そうだろうな」と浮きかけていた腰を下げる。次はマーシャルさんからの質問だ。


「小僧。お前、記憶がないそうだな」

「はい」

「我々の元に…自由領軍に入れば、記憶を取り戻せるように術師を用意しよう」

「坊主、悪いが用意なんて出来ねーぞ?戦況も大体わかってんだろ?そういう特別なスキル持ちの大半は、とっくに自治領から出ちまってるよ。そういう奴らは食いっぱぐれねーから、この町に居続ける理由がねえしな」


ハーガンさんの横やりに、マーシャルさんが視線で人を殺せるんじゃないかってぐらいに睨んでいたが、改めてこちらに向き直すと、再び訴えかけ始める。その提案は、実際に記憶のあるオレにとって全く魅力は無い。

と言うか、このまま条件を変えて言われても入るつもりは無い。此方からの考えを伝えなければ。


「術師は必ず探して見せる。……どうだ?」

「非常に魅力的なご提案ではあるのですが……ああ、そうだ。それでしたら、私からも一つ提案が有るのですが」


「提案?」と、マーシャルさんが細い眉を寄せてこちらを見てくる。こちらの方から提案されるとは思っていなかったのだろう。

ハーガンさんは面白そうに此方を見ているだけだった。少し会っただけだが、ハーガンさんはオレのような子供を戦場に出したくない、って人なんだろう。言葉は乱暴だけど、端々から優しさが見えた。その気持ちを少し裏切るような提案をするようで、少し心が痛む。


「私は、これからも森に入り続けます。従軍して任務を受けて森に入るのではなく、一定期間ずっと一人で森に入りたいのです。その過程で、魔物の軍とも戦うことがあると思います。それはこちらで順次処理していきますし、なんなら敵の拠点に攻撃を掛けてもいい。……それを持って『協力』という形で扱ってもらえませんか?」

「まだ森に入るだと!」


思った通り、ハーガンさんは笑顔から一転、子供を叱る大人の顔になる。だが、これがマーシャルさんの考えを酌んだ最善の妥協案のつもりだ。マーシャルさんは、じっとこちらを見ているだけで、無言で話を促しているようだった。


「駄目だ駄目だ!一人で森に入る?お前のようなガキが?あんまり燥ぐな、クソガキが。魔物のいねぇ1年前でも、大の大人が、年100人以上死んでる人呑みの森だぞ。お前が1週間でも生きていられたら奇跡ってモンだぜ」


ハーガンさんが顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。握られた拳はテーブルに落とされ、『ミシリ』と嫌な音を立てる。それに、オレは笑顔で返した。


「私には、ユニークスキルが有ります」

「……は?」

「水を扱うスキルとは別に、ユニークスキルを複数保有しています。詳細はお話しできませんが」


ハーガンさんは惚けるようにオレを見ており、マーシャルさんは一瞬ソーリスさんを見た。オレの言うことが本当かどうか、ソーリスさんの反応を見ているのだろう。そのソーリスさんは吃驚してオレを見ている。

表情に出すぎですよ、ソーリスさん。


「証明できるのか?複数あるってよ」

「出来ませんし、仮に出来たとしてもお断りさせていただきます。それは、ハーガンさんもマーシャルさんも『お持ち』ならお分かりでしょう」


今度は、ハーガスさんだけでなくマーシャルさんも目を見開き驚いていた。この二人は、ユニークスキルを持っていることをオレに話していない。オレが、ソーリスさんや別の人に聞いたなら知ることは可能かもしれないが、今の反応を見る限りこの二人も自らのスキルは必要最低限隠そうとしているようだ。

当たり前だが、自らの切り札をペラペラと他人に喋るような人達なら、オレはもうこの場から離れている。どこから、自分に害するかもしれない者に情報が渡るか分からないのだから。

今の一連の流れで、完全には分かっていないだろうが、『ステータスを見る』スキルを持っている可能性が高いことは印象付けられただろう。ここは必要経費として割り切ろう。


オレの場合は、真の切り札は祝福スキルだ。此方を隠せば、ユニークを切り札と思っていることが逆に逆転のカードになりえる。ソニック・オーガ戦で使った『時間停止』は、その効果から、バレにくいと思って使ってみたんだけど、結果としては『あれ』は失敗だったな…。

「しょ、証明出来ないんじゃ、森の外に出すわけにゃいかねーな」と、苦し紛れにハーガンさんが反論した。それに対し、オレは首を横に振りながらそれに答えた。


「もし門の外に出るのを止めるのでしたら、隠れてこっそり脱出させてもらいます。もし認めて頂けるなら、定期的にこの町に寄らせて頂くことをお約束いたします。それとも、どこかに自分を監禁しますか?」


ハーガンさんの優しさに漬け込み、『協力しないようだったら、勝手に出ていくぞこの野郎』と言外にほのめかす。実際に、ソニックオーガ一体とほぼ互角だった冒険者たちを平均と考えて、オレがほぼ一人でソニック・オーガを数体倒している実力を鑑みると、この町から脱出出来る可能性は高いと思う。見知らぬクソガキ一人見捨てられない男に、そのクソガキが脅しを仕掛けるこの構図。うわ、思った以上に最低だなオレ。

すると、眼を閉じて考え込んでいたであろうマーシャルさんがオレに質問してきた。


「…何故、また森に戻ろうと?」

「マーシャルさん、記憶を失っている原因は森にあります。オレが居た所はドラム村の近くだったそうです。そこに向かいます。…幸いにも私には森で過ごせるだけの力がありますから」


ドラム村に行きたいのは本当だ。あそこには母の遺体がある。もしあのままだったら、せめて埋葬だけでもして上げたい。ただ、あの化け物がまだあの村にいる可能性がある事を考えると、もう無駄かもしれないし、大分先の予定になると思うが。勝手ではあるが、死体を見捨ててしまった事を謝罪したい。

ハーガンさんを見ると、先ほどの笑顔や怒り顔は何処へやら。眉尻を下げて俯いてしまった。ソーリスさんは顔に手を当てて頭を振っている。風邪かな?

幾分の間が開くと、深い溜息の後、ハーガンさんが此方を向いた。その表情は真剣そのものだ。


「ハァ、しょうがねーな。分かった。森に行くことを許可してやる。その代わり、この町で出来る限り準備だけはしていけよ?あと絶対死ぬな。必ず戻ってこい」

「ありがとうございます。必ず戻ってきます」


そこで、マーシャルさんが「待て」と、制止を掛ける。ああ、まだ納得していただけていないようだ。


「マーシャルさん。先ほども申した通り、私の強さはユニークスキル故にです。軍に入っても、私はスキルの秘匿を優先するので、思ったような戦果を期待されても困ります」

「なるべく隠しながら従軍すればいい。私もそうしている」

「いいですか?私のスキルは、人に見せることも詳細に話すことも出来ないのです。もう一度繰り返しますが、お分かりでしょう?」


歴戦の勇士であるマーシャルさんなら、これで伝わってくれると思う。つまり、『知られてしまうと弱点がもろに分かってしまう』スキル、もしくは『人に知られたら色々な意味でヤバい』スキルの可能性が高いということだ。

実際に、『液体操作』も『液体』がない所では使えないし、祝福スキルはクセが強すぎる。

『徴収贈与』はまだ使っていないが、いきなりスキルが使えるようになったり、使えないようになったりするのは人に知られていい情報ではない。

後は、ヤバいスキルってのはあれだ、『人食回復』とか。そんなスキル無い(と思う)けど。


「もし仮に『そう』だととしたら、益々見過ごす訳にはいかん」

「証拠もないでしょう?勿論、検証はお断りさせていただきます」

「おい、マーシャル。その辺でやめておけよ」


中々引き下がらないマーシャルさに、めんどくさそうにハーガンさんが会話を止める。

マーシャルさんが、再びハーガンさんを横目でにらむが、今度はハーガンさんもにらみ返していた。


「おめーのやりたい事も、分からねーこともねーけどよ。坊主はこのままだと絶対折れやしねーよ。一旦引けや。見苦しいぞ」

「…………」


ハーガスさんの一言に、マーシャルさんは、この部屋に入って来た時と同じ様に腕を組んで目を閉じた。

どこか不貞腐れているように見えるのが、ちょっと可笑しかった。


「よし、そんじゃ、軍が如何のこうの言うのは終わりだ。次は金だな」


ハーガスさんがそう言って立ち上がり、ソファの後ろに置かれている大きな執務机の上に置かれていた布袋を取ると、それをテーブルに放り投げた。ガチャリと、大きな音が鳴り少し吃驚する。この人、ちょっと乱暴だよ…。

開けるように促されたので、革ひもをほどき袋の中身を見た。


「金貨20枚。これが今回の報酬だ。一応その場で数えて確認しとけ。俺が言うのも何だがな、結構破格の金額だと思うぜ?お前が俗物なら、マーシャルはこれをチラつかせて勧誘する予定も有ったからな」


マーシャルさんの目の前でそれを言うのは如何なんだろうか。マーシャルさんは何の反応も無いので本当かどうかは分からないけど。

言われるがまま数えると、中には確かに20枚の金貨が入っていた。これがどれくらいの価値があるのか分からない。

隣のソーリスさんに聞いてみたところ、自治領で使える硬貨は、金貨・銀貨・銅貨・鉄貨だそうで、

現在の相場では、円換算で金貨=1万、銀貨=1千、銅貨=100、鉄貨=1、となるそうな。

後は、大きな商店が使う大金貨と呼ばれる、100万相当の金貨があるそうだが、個人ではあまり流通していないそうだ。ちなみに、単位は『コルト』と言うらしい。


「あと、これは助言というか忠告というか…ともかく、下の冒険者共に近づかない方が良いな」

「何故ですか?」

「お前、今良くない噂が流れてんだよ。絡まれたりして、嫌な思いをするだけだと思うぞ」

「…因みに、どんな噂ですか?」


少し『ニヤリ』とハーガンさんが笑うと、首を掻ききるかの様なしぐさをしこう言った。


「『血の呪術師』って言ってよ。見た目はガキの癖に、強力な呪いを使う奴がいるって話だったかな。水を操るスキルで、血を操ったんだろ?しかもその血がソニック・オーガに触れると体が溶ける。呪いに見えてもしょーがねーわな。……あ。一応聞いとくけど、マジで呪い使えんの?」

「いや、使えませんけど…」


ちょっとホッとしている顔のハーガンさん。もし使えたとしても貴方にはやりませんよ?メリット無いし。

話が終わり、オレはソーリスさんと一緒に部屋を出て、ギルドの外に出た。まだ日は高いので、これから装備を整えに行ってもいいかな。宿屋も今日一日は止まって行こうと思い、一先ず宿屋で部屋を取るために足を向けようとした時に、ソーリスさんから話しかけられた。ソーリスさんは、これから軍の宿舎に戻るとのことだったと思うのだが、オレのあとをついてきている。


「ねぇ、トモヤ君。ちょっと聞いていい?」

「はい?何ですか?…あ、報奨金ソーリスさんの援護分払わなきゃ」

「わ、私の分はもう貰ったから大丈夫よ。…えっと、子供のあなたに、こんなことを聞くのは間違っているのかもしれないのだけど……マーシャル司令官は、なぜ貴方に執着しているのかしら。確かに、ソニック・オーガを連続して倒したのって、相当凄いと思うんだけど、軍にも同じようなことが出来る人は何人もいると思うの。でも、マーシャル司令官は、貴方にどうしても軍に入ってほしいように見えたんだけど」


うーん、そうだなぁ。色々あると思うけど、真っ先に思い付いたのがこれだ。


「多分ですが、士気を上げるためじゃないかと」

「士気?えっと、やる気ってことよね?貴方が入ることでそれが上がるの?」


ソーリスさんは訝し気にオレを見た。オレは、大通りに歩きながら、大木一本を丸々使って作られた剣の看板と、着色された服のレリーフの看板を横目で見ながら質問に答えた。


「ただ軍に入っただけでは上がらないと思いますが、この町には今特殊なスキルを持っている人が少ない、とハーガンさんが言ってました。つまり、私のスキルを材料に『水の神の使い』とかなんとか言って、祭りあげるつもりだったんじゃないでしょうか。速い話が『英雄づくり』ですね。…あ、『血の呪術師』って噂を使うのも良いですね」


子供にやらせることではないと思うけど、ソーリスさんも、マーシャルさんは実益第一な人って言ってたしな。

ソーリスさんは納得したようなしていないよな微妙な表情のままだった。宿の前につき、ソーリスさんと別れた。ソーリスさんからは、「一週間後、良かったらまた会いましょう」と、軍の宿舎の部屋番号を教えてくれた。

勿論『大人』な意味はない。もしかしたら、軍から何か言われているのかもしれないな。


宿に入り、一泊分の料金を払おうとしたが、もう貰っていると断られた。軍の方で出して貰っていたみたいだ。二階角部屋をそのまま使えるようにしてもらったので、受付後、そのまま宿を出て装備を買うことにした。

森に行くにしても、金を持っていたって重いだけだし、パーっと全て使ってやろう。……と思ったけど、もしもの時の為、ブーツに二枚金貨を入れた。「無一文になるのって何となく怖いしね」、と小市民丸出しなオレだった。


11話まとめ。


ギルド到着後


ハーガン「よく来たな。ところで軍に入らない?」

トモヤ「いやです」

ハーガン「おっけー。帰って良いよ」

トモヤ「マジすか。帰ります」

マーシャル「駄目。軍入れ」

トモヤ「嫌です。なんやかんや森に行きます」

ハーガン「いやそっちの方が駄目な」

トモヤ「でも、なんやかんや森に行きます。軍には入りませんが、間接的に援護します」

マーシャル・ハーガン「うーん、しょうがないかなぁ」

ハーガン「あ、金貰って帰ってね」

トモヤ「はい」


宿屋に帰る途中で


ソーリス「司令官は何で軍にしつこく勧誘するの?」

トモヤ「英雄に仕立て士気に+補正狙い」

ソーリス「うーん、そうなのかなあ」


トモヤ「宿屋に着いたし、装備買いに行くよ」→12話に続く

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