1.『ヘルモード』
初投稿です。よろしくお願いいたします。
「えー…、では、転生するに当たって、あなたの居た前世のエピソード記憶、つまり『思い出』がなくなることは分かった?次に、今から転生には幾つかの難易度…そうだね、『生き易さ』と言い換えてもいいかな。があって、それを選んで貰います。はいドンッ!」
女神さまはそういってお手元のフリップボードをひっくり返す。そこには5つのゲームモード、女神さま曰く難易度が手書きで書かれていた。白のフリップボードには手書きでゲームの難易度設定画面のようなものが書かれている。可愛らしい女の子文字だ。
♡イージーモード
チートスキル無し。才能系スキルをランダムで複数付与。努力すればド安定。
転生先が王族・貴族・富裕層からランダムで選ばれる。
○ノーマルモード
チートスキル発生率30%。ユニークスキルをランダムで1つ以上進呈。お勧めだよ。
転生先はランダムだが、高確率で中流層以上。
△ハードモード
チートスキルがランダムで1つ付与。スキルレベルボーナス+1。出自が厳しくなる。
ただ生き延びれば間違いなく大成出来る。転移先不明。
×ベリーハードモード
チートスキルがランダムで2つ付与。スキルレベルボーナス+2。
転生後即死の可能性すらある。
卍ヘルモード
???を1つ付与。チートスキル・ユニークスキルをランダムで複数付与。
生存率は現在なんと0%!転生先が異世界の地獄(のような場所)になる。
(ここからフォントが変わっている)過 去 2 7 人 が 挑 戦 し 、 一 人 も 2 年 目 を
迎 え る こ と が 出 来 な か っ た 。 こ の 試 練 を 選 ぶ 事 な か れ 。 命 を 無 駄
に す る な 。
「あの、一番下のだけおかしくないすか」
「え?そんなことないよ。モード選択はね、複雑にならないように全部2行に」
まとめたんだよ、と言いつつもフリップボードをみる女神さま。だけど、一番下のモードを見ると、一瞬硬直し、慌ててマジックで下2行を黒く塗りつぶした。えへへ、と女神さまが笑いながら、此方をうかがうように視線を向けてくるが、もう見てしまったものはどうしようもない。
「OKOK、気にしないで。で、ヘルモードにしとく?」
「いやー、今の流れでヘルモードは普通無いんじゃないですかね?」
「いけるいける」
「軽いですね」
「……………いける」
「重々しく言ってほしかったわけじゃないですよ?」
どうすりゃええんじゃい、と女神さまはフリップボードを投げ捨てた。自由だな。自由な女神だ。
このままでは話が進まない。それよりも、どのモードにするのか決めよう。
イージーはぶっちゃけつまんないな。オレは公務員より、リスクを負ってベンチャーに生きたいのだ。
ノーマルも同じようなものなので、除外する。のこり3つだ。
「分かった。じゃあ、ヘルを選んでくれたら、このチケットあげるよ」
と、女神さまが一枚のチケットを手渡してくれた。そのチケットには『1週間無事だよチケット』と、手書きで書かれている。好きだな手書き。紙も画用紙だもんこれ。指で撮んだチケットを、ヒラヒラさせながら聞いてみる。
「これ本当に使えるんですか?」
「さっき適当に作っただけだからよくわかんない」
「マジ人の命なんだと思っているんですか…」
「いや、でも、ちゃんと力込めましたんで、効果的にはグンバツっすよ」
「グンバツて。というか、なんでそんな『ヘル』やらせたがってるんですか?」
「だってさ、その上のモード作れないじゃん。どこまでいけるか試したいじゃん」
「いや、ヘルモードも十分無理ゲーのように見えますけど」
何故かドヤってる女神さまは放っておいて、チケットを見つつ、先ほどの残り3つのモードについて考える。
ハードモードはキツさに比べて特典が少しショボそうな気がする。どういうスキルかは分からないが、
戦闘系スキルが欲しい転生先で、生産系のスキルをもらう可能性を考えると、まだノーマルのがいい。
ベリーハードが最も理想に近い。『転生後即死の可能性すらある』ということは、裏を返せば、高確率で即死はない、ということだ。即死さえ免れれば、あとはチートスキルでしのげるじゃないか?だが……
「あの、質問いいですか?」
「ダメ」
「そ、即答ですか」
「そういうルールな訳よ。神様のルールはなるべく大雑把にしたほうが『都合』がいいんだよね。わかる?複雑にしすぎた結果、賢しい者どもに逆手に取られまくった神様のキモチ!」
後半唯の愚痴じゃないですかね?
「うわぁ…」
「分かる!その反応も分かる。だけどさ、私ら神な訳よ。私はカーディーラーじゃないんだからさ。根掘り葉掘りはやめて、問答無用で決めてくれって話ね。もう結構話してる気がするけど」
「カーディーラー…?てか、転生して貰うにしても、ちょっと勝手に聞こえますよ」
「神って、元来そういうもんでしょ?」
「歴史を紐解くと、って奴ですかね」
なんだ分かってるじゃん、と笑う女神さま。問答無用か。この女神さまもこんな軽い神様だが、問答無用といわれた以上、これ以上何か言うのはよくないかな。出来れば時間もかけないほうがいい。相手が神様ということを忘れるな。神は気まぐれで、何をされるか分からないってのが相場だ。
少しの静寂のあと、オレは考えた末、未来を決定するであろうモードを選んだ。
「ヘルモードにします」
「…マジで?」
「はい」
「そっか。どマゾだったか」
あれほどヘルモードを押していた女神さまは、人の性癖を決めつけると、おもむろに立ち上がった。どMとかどSとかは俺には分からないが、オレは結構などエロだと自負している。ドヤッ。
女神さまは、先ほど放り投げたフリップボードを拾い上げ、フリップボードを一撫ですると、元の真っ白な状態に戻る。
さらに女神さまが、フリップボードに手をかざすと、発光とともに魔法陣が浮き上がった。
恐らく、転生のために使用するものなのだろう。
俺がヘルモードを選んだ理由はただ一つ。前人未踏に挑みたかった。ただそれだけだ。
前人未踏。その言葉を聞いてワクワクしないのはもはや登山家ではない。他の選択肢も一応考えてはみたが、やはり『最も難しい』という文句に、オレは非常に弱かった。先ほど嫌がったのは、何か特典がもらえないかな、という下心と美人の女神さんとだべるのがちょっと楽しかったからだ。
「じゃあ、やるよ」
「お願いします」
「ちょっとしか喋れなかったけど、中々楽しかったよ。『山の神様』君」
「オレもです。あと、その呼ばれ方気に入ってないんですよ」
「そっか。山の神様、『この世界』にいるしね」
お互いに少し笑う。次の瞬間、俺の意識が唐突に途切れた。