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9.夏椿

魔獣襲撃?から数日が立った。いよいよ、夏も本番に、なってきた。

収穫も忙しい。

鶏たちに、家の周りの警戒を頼んである。


敷地外に出ないで、瞑想をした後、魔法の練習をしていたが、ベルの魔法の威力が半端ないことになってきた。


これは、いけるんじゃないか。


「ベル、魔法を手から出すとき、イメージするのに、強く固める感じにしてごらん。」

「こう?」

炎の玉が、凝縮して飛び出した。

「そうそう、そして、すごく熱く、白い炎を意識して。」

「う~ん難しい」

「ほら、仏壇の蝋燭とキッチンのガスコンロの火の熱さの違いを前に、言ったじゃない?」

「あっ、なんかわかった」

7,8回練習していると、だんだん温度が上がっていっているのが、目に見えてわかった。

と、ぐらっとベルがふらついた。ベルの肩を支え、

「あっ、もう、練習は、終わり。」

「えっ、まだできるよ。」

「駄目、たぶん魔力が、なくなったんだと思う。ここで、終わり。」

「え~」

「え~じゃない。今日は、ここまで、それから、この練習は、私のいないところでやっては駄目だからね。絶対。」

不服そうな、ベルの正面に座り、ベルの肩に手を置き目を見つめながら、約束させる。

しばらく可奈を見つめた後、可奈の真剣さがわかったのか、

「わかった、お母さんの言うとおりにする。」

「本当だからね、約束だよ。」

といいながら、右手の小指を差し出す。

「ベルも出して」

まだまだ細く小さい小指が、出された。その指に、自分の小指を絡めた。

「指きりげんまん嘘付いたら、針千本飲~ます、指切った♪」

と歌いながら、手でリズムを取る。歌い終わると同時に離す。

「何?呪?」

ベルがおどおどと震える。これは、まずい。わからないことをされてびっくりしたのかな?

「う~ん、子どもの約束の仕方だよ。大事な約束を守ってもらうためのお呪いみたいなものだよ。」

可奈の顔をじっと見つめた。可奈も軽い気持ちでやったことが、なんか大事っぽく受け取られちょっとびびったが、おかあさんとしてひるんではいられない。

真剣な顔をして、見つめ返した。自分といないところで、強力な魔法など使われたらベルに何が起こるかわからない。ここは、決め所だ。

「でも、約束を破らなければ、いいんだからね。」

目を見つめながら言うと、

「うん。わかった。お母さんのいるところでしか練習しない。」

「よし、いい子だ。」

頭をぐりぐりする。照れくさそうに、ベルがはにかむ。


うちの子、ちょ~かわいい。


「そうだ、ハクこっち来て」

大声を出して、ハクを呼ぶ。どこにいたのか、ハクだけじゃなく他の鶏も時間をたたず集まってくる。

「ハクたち、家の見回りいつもありがとう。それでね。今日から警護の役割分担を決めようと思うんだけどいいかな。」

「コケッ」

「じゃあ、いい?これが、だいたい家の見取り図だけどわかる?」

地面に図を書く。

「ここが。今いる門のところ、ここが、東のはずれ、中心は家、裏の山のぶなの木、ここが、北のはずれ、西は田んぼの端」

「「「「コケッコケッ」」」」

約一羽返事をしておらず地面を一生懸命つついているやつがいるが、よしとする。

「いい?このぶなの木のところで斜めに4つに分けて、東をブルー、南をレッド、西をブラック、そして、一番広いし大変だと思うけど北の山の中から砂漠に向かってハクが見回ってほしい。なにかあったら、大きい声で鳴いて知らせて、そして逃げて。前にも言ったけど絶対ひとりで戦ってはだめだだからね」

「コケッコッコケッ」「コッコッコッ」「コーコケッ」

鶏の癖に不満そうに文句を言っている。自分たちは戦えるとでも言っているのだけど、危ないことは止めてほしい。そして、何も聞いてないイエロー。お前は何を漁っているんだ。

「あんたたちが、強いのはわかっているけど、必ず勝てるとは限らないんだからそうして。怪我をしてからじゃ遅いからね。」

「コッ」

ハクがしぶしぶだが、代表して返事をしてくれた。

「それからイエローっ」

少し大きい声を出して、注意を向けさせる。鶏に肩があるのかないのわからないが、びくっとして顔をこちらに向ける。

「イエローはベルと一緒にいて。ベルに何かあったらすぐに知らせて欲しい。できる?」

「コッ?」

と首をかしげた瞬間、ハクにつつかれた。

「コッ」

やけにキリッとして改めて可奈に返事をする。

「みんなよろしくね。ベルもいい?私と一緒じゃないときは、イエローといるんだよ。」

「うん。」


「よしっ今日は、土曜の丑の日だから、うなぎにしよう。パックで買ってあるんだよね~」

不思議現象は食べ物の保存まで及んでいて、冷凍庫、冷蔵庫に入れとけば何ヶ月どころか、何年も持ちそうだった。パックが空になったまま入れとけば元に戻ることを考えればほぼ無限だがね。



おばあちゃんの新盆も終わり、残暑が残る頃、子供用プールが、夏の初めから役立っていた。海や川など見たことないベルは、当然泳げなかった。最初プールを出したときは、びっくりしていた。無駄に水を張ることに。何か農作業の一環かと思っていたらしいが、水着を用意して着せたので、何をするのかわかったらしい。水着の試着は水風呂で、遊んで確かめてみている。

しかし、これが、災いした。

可奈がベルの洋服を、型紙からダウンロードして作っているとき、ベルがイエローと外に出かけていた。

突然ぞわっと鳥肌が立った。

同時に甲高い鶏の声が裏山から響いた。

イエローの鳴き声だ。ベルに何かあったんだ。

急いで靴を履き裏山に入る。ブルーがどこから飛んできて先導してくれる。

「ブルー、あんたの後についてけば良いんだね。」

「コッ」

すばやい動きで裏山を走る。付いていくだけでも精一杯だが、気が焦る。

沢のほうに向かっているのに気づく。ヤバイっ

山の北側にある滝につづく沢にも夏の間は釣りをしに何度か行った。ウグイやハヤ、イワナが獲れいろりで炭焼きをして夕食をにぎわしていたのだが、けっこう深いとこもあるのだ。


釣りをよくする岩場のところにたどりつく。いない。イエローの鳴き声が、もっと下流から聞こえる。山の北側の少し小高くなったところから東に抜けていく沢ではあるが、真っ直ぐではなく、岩や隆起した土地の間を縫っている。カーブを曲がると、岩や木々が邪魔をして見通せない。たった十数メートルの距離を足をとられて滑ったり、躓いたりしながら気ばかり焦って声のするほうに向かう。

ハクが沢の激しく水をかぶっている岩の上で、片足だけで踏ん張っている。足が取れそうだ。もう片方の足は、ベルの袖の服をつかんでいる。イエローが羽ばたきながらベルの背中を足でつかんで岩に押し付けている。ベルも必死に岩にしがみついている。急いで、自分も、ベルのところに行こうと沢に入るが、足を水にすくわれころぶ。肘を打ちつけ目の前に火花が散る。そんなことに構ってられない。

「ベルっ」

「おかっおかっあっさん」

「だめっ気を緩めないでっ、しっかりつかまっていて」

「おかあさんっごぶっ」

「すぐ行くから」

大人の身体でも気を許すと流されてしまう。ブルーがイエローの近くに飛んで、別の片腕を足で捕らえ固定する。

ざぶざぶと川に入っていく。川の中の岩場が滑りやすくなっているところもあるが、気にしてはいられない。流れに足を取られる。

邪魔だぁとばかりに川の流れに逆らって進む。

えっ!?急に足が軽くなる。ベルだけを見ていたので気が付かなかったが、自分の足元だけ水がなくなっている。足の周りに、透明なカバーがついているように水がそこだけよけて流れている。跳ね上がった水がベルや鶏たちにかぶってしまう。まずい。ベルを支えようと水の中に手を差し込むと、ベルや鶏たちもバリアの有効範囲に入った。ベルの周りから水が引き岩場に張り付く。

「今のうちに、ベル立って」

ベルも可奈の支えを借りて、岩に滑りながらも、なんとか立つ。

周りを見ると、可奈とベルと鶏たちの周りだけ、水がよけて流れていく。可奈は、ベルを抱き上げ岩場を伝いながら、沢から上がる。

力が抜けて、ベルを下すと自分もしゃがみこんでしまう。ハクたちも可奈たちの周りで、くつろぐ。

「ごめんなさい・・・」

「いいよ。無事でよかった」

本当にそうだ。大きくて分別があるように見えても、まだ7つだ。1人で、慣れない山の中を歩かせた自分が悪い。

しょげているベルを抱きしめる。夏だと入っても、沢の水は冷たい。びしょぬれでひんやりしている。

「話は、後にしよう。みんなもごくろうさん」

「コケッコッ」

ベルを背負い、ハクたちを引き連れ家に戻る。途中ハクやブルーは、自分の役目にそのまま戻った。大変だったから今日の警備の役目はいいって言ったんだけどね。

イエローだけ、可奈たちについてくる。

「イエローもありがとう。助かったよ」

「コッコッ」

申し訳なそうに下を向きながら、返事をする。

「イエローごめんね。止めたのに、ごめんね」

背中でベルが泣きべそをかきながら謝る。

「コッコッケッ」

やはり下を見ながら返事をする。どうしたのかはわからないが、とりあえず皆が無事なら同じ事を繰り返さないようにすればいいと思った可奈は、

「とりあえず、家に帰って暖かい風呂に入ろう。イエローも頑張ってくれたのわかっているから」

ハクたちもそうだったがイエローも濡れていない。羽が水をはじいているようだった。

びしょぬれで体が冷え切っているベルもそうだが、可奈自身寒くて仕方がなかった。病気には決してなってはならない。急いで帰って風呂にした。


人心地が付いて縁側でお茶にしながら、風呂で聞いたことを考えた。ベルは山の中を歩き回って、実をもいだり花を見たりしていたのだが、沢の淵に咲いている夏椿の花を採ろうとして、足を滑らせて落ちたらしかった。どうやら、可奈に見せてくれるつもりだったらしい。


・・・・ちょーかわいい。


叱れない。ダメ親だ。


無事でよかった。





十分に反省しているみたいだから改めて言う必要もないか。イエローやハクが自分のせいで、一緒に危ない目にあったこともわかっているみたいだし。

そもそも、反省しなきゃならないのは可奈だ。もっと安全策を練らなければならなかった。






よし、反省終わり。


今回のことで、収穫もあった。

イエローを見直したことだ。

イエローは花を採ろうとした時点で、止めに入ったのだが、間に合わなかったらしい。イエロー、本当に役目を果たしているっぽい。

意外だ。

止めに入ったことが驚きだ。

花を採ることは、ベルにはまだ危ないことだとイエローは判断できたんだ。

本当に意外だ。

可奈が言った“ベルを守れ”という役目を理解していたんだ。

実際、ベルを一生懸命助けようとしていたしね。

可奈の膝に頭を乗せソファの上で夏掛けにくるまってうとうとしているベルを見つめ、無事でよかったと頭をなでる。

腕には、ハクやブルーがつかんだあとが残っている。爪が食い込んでいるかと思ったが、そんなことはなく、ただつかんだ後がくっきりとしている。ちゃんと傷つかないように、つかんでくれたのかと鶏たちの進歩に感謝する。

・・・進歩?もしかしたら進化?

まぁなんでもいいが、すごく助かる。ハクたちが帰ってきたら労わないといけない。

最近、鶏の餌だけでなくいろいろなものをたべるようになった。今日はステーキをご馳走してみるのもいいかもしれない。そうしよう。


その晩の食事は、豪華に皆でステーキにした。ベルには、イエローの言うことを良く聞くよう言い聞かせ、イエローには、これからもベルのことをよろしくお願いした。


レッドやブラックは、あの騒ぎの時、自分たちのエリアを広げブルーやハクの抜けた分まで警戒していてくれたみたいだった。


連携が凄い。知能が高くなっている。


進化?のせいかハクたちみんな体も大きくなっている。横に来たので振り返ると腿の上ぐらいの背丈だ。いつからこんな大きさになったんだろう。


その晩、先に寝ているベルを見ながらふと思い出した。

あの足元のバリアはなんだったんだろう。そういえば、魔獣のときも自分にバリアができた。沢に入った最初は、流れに足をとられた。でも、途中から、水がはじかれていった。はじいた水をかぶって危うくベルやハクたちを溺れさすことになりかねなかったけど。でも、すぐに、ベルやハクたちにも水をはじくバリアが張られた。なぜ?



・・・今日は疲れた。


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