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8.怪獣っ?魔獣っ?

その晩、ぐっすり眠るベルを見ながら、この子の体内時計どうなっているのか、ちょっと心配になる。ここに、来るまでたぶん1日48時間で、生活していたはずだ。今は、1日24時間で生活している。朝は少し眠そうだけど、たぶん子どもは、あんなものだと思う。夜もこうしてぐっすり眠る。体調に狂いはないのだろうか。いや、成長に問題ないだろうか。インターネットで聞いても、わからないだろうか。後で調べてみよう。


とりあえず、眠いので、考えるのは明日にしよう。


そんなこんなで、列島の南のほうから梅雨明け宣言が始まった。蒸し暑い夏の訪れの前に、七夕の行事をやらねばならない。それに合わせて、実は、ベルの浴衣を作った。高校のとき、体育祭で浴衣を着るために、家庭科の授業で浴衣を作ったのを参考にした。反物は、おばあちゃんが、納戸にストックしてあったかわいい金魚の絵柄にした。入っていた包みを、そのままにしておいたら、なんと再び新品になって中身が入っていた。不思議大歓迎だ。


ベルも採寸したときから、楽しみにしてくれていて、ミシンをかける可奈のそばを離れなかった。まぁ大概一緒にいるのであるが。裁縫の上達を願った祭りだからいいか。


短冊や飾り物を用意し、笹を切って飾り付けをした。ベルには、夜寝るときの御伽噺に、七夕の牛飼いの彦星と機織の織姫様の話をしていた。1年に1日しか会えないのは悲しいと何度も何度も可奈に、確認してきたが、ストーリーは変えられないので、

「だから、この日は、二人が会えるように、晴れを願ってお祝いするんだよ。」

と、言った。

「お母さんのところの人は、皆優しいんだね。他の人の幸せを皆で願ってあげるんだね。」

大きな勘違いである。でも、子どもの夢を壊さないように、そうだねと頷いておいた可奈であった。そして、大概七夕の日は雨が振ってしまうことも、黙っていた。


その日は、早めに風呂に入り、浴衣を着せた。


・・・うちの子。かわいい。


夕食もちょっと張り切って、七夕風味の似非懐石の食事にした。

幸いなことに、午後夕立が降ったが、その後すっきり晴れ、空には、綺麗な星空が、見えていた。天の川も牽牛星も織女星も見えないが。BGMに、七夕の曲をかけて。


本当に、不思議な空間である。この家の敷地の上空の空は、この世界のものである。ただ、昼夜は、地球の時間割りで、この敷地内だけ行われる。どうやら、ベルの体内時計も、地球の環境に適応してきているみたいだ。不思議満載だ。


その日は、少しお酒を飲んで寝た。ベルには、天然100%ぶどうジュースというやつを出してやった。たまにはいいよね。寝る前に、トイレに、連れて行ったが。



6月に、朝顔やひまわりを蒔いていたのだが、芽が出て、大きくなっていた。夏もいよいよ本番だ。


セミの声も聞こえてくる。

えっ!セミの声!?


鳥や小動物は異世界転移してこなかったけど、虫系は、可奈たちと一緒に転移してきたのだろうか。そうなんだろうな。鳴いているし。


時刻が1日ずれることがわかってきたので、地球時間で、一日おきに、砂漠で座禅を組みに行く。他の日は、縁側でやる。ベルも一緒に。


七夕から数日後、午後、時間が空いたので、二人でピクニックをしようという事になった。

「『ピクニック』?」

当然、ベルに意味は通じない。

「家の外の景色のいいところで、ご飯を食べることなんだけど知らない?」

「知ってる?やったことないけど。ピクニックだね。」

「そうそれだよ。今日は、もうご飯は、食べちゃったからおやつを食べよう。外は、だいたい3時ぐらいの陽のさし方だと思うから、そんなに暑くなくてちょうどいいと思うよ。」

「うん。砂漠の暑さはこことは、違うね。ここは、空気が水っぽくて、暑いね。」

「そうだね。日本では、『蒸し暑い』っていうんだけね。砂漠の暑いは、からっとしている暑さだから、日本の夏より午前中は過ごしやすいかもね。でも、日が出てくるととたんに、気温が上昇するのには、まいったね。」

「普通だよ。」

砂漠に住むことなくて良かったよ。ホントに。

「じゃぁ、サンドイッチとこの間作ったマドレーヌを持っていこうか?ポットには、ミルクティにしよう。どう?他に持っていきたいものある?」

「ホットケーキ!!」

すごくいい笑顔で言う。ホットケーキ冷めたらそんなにおいしくないんだけど、いいかな。小さいものを作って、保温ケースに入れて持ってけばいいか。

「いいよ。じゃぁ仕度しよう。」

「はい。」


バスケットに食べ物を詰め可奈が持ち、もうひとつの籠にシートや紙コップ、紙皿を入れベルが持った。家を出る際に、なぜかハクたちもついてくる。家から数百メートル離れた丘のようになっているところに、シートを敷き、おやつを始める。ハクたちにも、おこぼれをあげる。やったことがないといっていたベルは凄く楽しそうだ。ホットケーキもハクたちに分けてやるほど上機嫌だ。

ハク達が、落ち着かなくうろうろし始めたと思ったら、騒ぎ始めた。

「あれっっどうした?それに、これ、なんの音?」

音というか、地面から振動が伝わってくる。

「‘#$&’((%$*))!!!」

座っていたベルが、立ち上がると、ものすごい勢いで、可奈の手を引っ張る。

何かまずいことが起こりそうだ。急いで片付け始める。ベルは最初、可奈を引いていた手を離し、何かに追われるように、可奈を手伝ってすばやく片付け始める。怯えたように周りを気にしながら。

そんなベルの様子を見て、ただ事ではないと、ピクニック道具など捨てて、逃げるべきかと思った瞬間、砂から巨大な口が現れた。円筒形の中がサメの歯のように幾重にも細かい尖った歯がずらり並んでいる口だ。細かいといっても大きい歯で可奈の腕ほど、小さくっても手のひらサイズだ。ミミズの大きい判だ。もっとグロテスクにしたような感じだが。臭いし。とっさに、

「逃げてっ」

ベルの前に立ちはだかった。

「逃げなさいっ!家に戻ってっ」

後ろで逡巡しているベルに、

「はやくっ!!イエローっついて行って!!」

果敢にその怪物にアタックしている鶏たちにもいう。

後ろでベルが、逃げていく気配がしている。イエローが戦線離脱して、ベルに付いて行く。鶏たちは、結構善戦しているが、それを無視して、可奈に襲い掛かろうと口を大きく開け、よだれを流しながら、丸呑みにするように上から襲い掛かる。その口の中に、可奈のファイヤーボールが炸裂する。


怪物の巨体に比べれば、マッチの燃えカスを投げつけているようなもんだ。可奈も必死であるが。

あわや・・・・・・

ガツン

あれ、目を開くと口を開けたまま、空中で怪物の口が止まっている。涎がだらだら出て、ガラスに伝わるように、地面に流れ落ち、

えっチャンス?ファイヤーボール、ファイヤーボール、ファイヤーボールっ

ぜんぜん効いてない。が、一旦口を閉じ、首を振る。もう一度、口を開け可奈を食らおうとする。

ガッツン

何かにぶつかる。可奈ははっと気づく。後ろ向きのまま、

「ベルっ戻って、私のところに、戻ってっ!!」

目の右端で、砂がうごめくのが、見えた。ベルに狙いを定めた別の怪物がいるんだ。目を正面の怪物から離せない。

「ベル戻ってっ」

ベルの足音が、聞こえてきた。

どんっと、可奈の腰に抱きついてきた。

「ベルっそのまま、私に、くっついていて!!」

と言ったと同時に、斜め後ろの方の上ががっつんと何かが当たった衝撃がした。

とはいっても、可奈たち自体には何も打撃はないが。

ベルを襲おうとした別の怪物が、可奈のバリアみたいなものにぶつかった衝撃だ。

そう、バリアである。なぜかわからないが、可奈の周りだけ、おそらくだが半径2mの範囲で、不思議バリアが張られている。


ベルがその枠から出ないように、可奈から離れないように言って、丹田に気をこめる。

丹田から、胸、腕を通り手のひらから、火の玉が出る。

大口を開けたど真ん中に、ぶち込む。

バシュッ

手持ち花火ぐらいの威力である。ほぼ、怪我は与えられない。攻撃力0.05みたいな?

果敢に攻める鶏たちのほうが、与える打撃は、大きい。鎌鼬のように、ときどき大きな胴体が、すっぱっと切れて、黄色の体液が噴出している。

可奈の攻撃は、口の中に何かが入ったくらいには思ったのかもしれないが、大口明け丸呑み攻撃は、続行のようである。

それでも、ちりも積もればで、次々と口の中に花火を放り込む。

5、6、・・・10・・・20・・・50・・・

単純作業というのと、疲れから、だんだん冷静になってきた。

おおっと、別のやつが寄ってきた。

と思ったら、そいつが、最初のやつを攻撃しだした。


「ブラック、ブルー、イエロー私の近くに寄って」

大怪獣バトルイベントに巻き込まれないように、下がらせる。

「ハク、レッド、後ろを見張っていて、このまま下がって、家に戻るからっ」

考えてみれば、この怪物たちを倒す必要なんてないのだ。

自分には、不思議バリアがある。そのまま、帰れば、襲ってきても、食べられることはない。

「ベル、私は、手をふさがっているから、周りのものを、籠にまとめて。もてそうにないものは、無理をしなくていいから。」

「うんっ!!」

最初は、可奈にしがみついて、震えていたが、ベルも可奈と同じように、この不思議バリアの防御力が、わかったのであろう、素直に返事をした。

うちの子超賢い。

「私の周りから離れないように気をつけて。」

「うんっ」

口をぐっとかみ締め身体を機敏に動かしている。

ベルは震えは、おさまったのだろうが、怖いことは変わらないだろう。無体なことを言っているとは思うが、ベルにやってもらうしかない。可奈は真っ直ぐ前に突き出した手を降ろせないのだ。自分が手を降ろすとバリアが、解けてしまうかもしれない。無謀な賭けはできない。荷物を置いて、このまま逃げるという手もあるが、持っていけそうなのに置いていくという選択はない。物はもう買えないのだ。

「いいよっ」

と可奈の横で言う。見ると、全部を籠に突っ込んで、持てないシートや、鶏が運べるものは、鶏に持たせている。

「あなたたち、持っていける?」

鶏たちが、物を銜えたまま、首を縦に振る。

ここは、彼らを信用するしかない。

「無理だと思ったら、捨てていっていいからっ。ベルもだよっ」

「わかったっ」

「じゃぁ、いくよっ。ハクっ後ろに何かがいたら、騒いで。荷物はこっちに。」

ベルが持っている、籠を片手で持つ。目は、怪獣大バトルから離さない。もう片方の手は、上げたままにする。

「ベルは、私から離れないで、私の服をつかんで。」

ベルが、可奈の服のすそをつかんだ感触がしたのがわかった後、後ろにあとずさった。

途中何度か、他のやつに襲われたが、不思議バリアのおかげでなんともない。

気分的に遅々としてなかなか進まなかったが、やっと門にたどり着いた。

「はぁ・・・ベル、怪我ない?」

急いでベルの身体を確認する。

「大丈夫。」

無理に笑顔を作ろうとして、引きつってる。

「大丈夫じゃないよ。怖かったでしょ。ごめんね。」

といって、力が入ってこわばっている身体を抱きしめる。自分の不甲斐なさが情けない。ベルを抱きしめて気づいたが、自分の身体も震えている。ベルを放して、自分の両手を見ると震えが止まらない。無理に止めようとしても、余計に震える。

ベルが可奈の震える手を握ってくる。

「ベルっ!!」

もう一度、しっかりベルを抱きしめる。ベルも、しがみついてくる。

ベルの顔が当たっている部分が、濡れてくる。小さな嗚咽が耳元で聞こえる。可奈の震えが止まる。

「ベル、怖かったね。もう大丈夫だよ。あいつらは、この家に、入って来れないから。大丈夫。」

なぜか、あの怪物たちが、この家に入ってこないことがわかった。

ベルが、顔を伏せたまま、うなずく。周りを見わたし、鶏が全部いることを確認する。

「みんなも怪我はない?」

5羽とも、元気に返事をする。

「ハク、荷物は後で取りに来るから。みんな、守ってくれてありがとう。」

ハクが、コケコケと返事をする。他の鶏もたいしたことないさというように、返事をする。

可奈は、ベルをそのまましっかり抱きかかえ、家に入る。


汚れてしまったので、風呂に入ろうと、風呂を沸かす。

風呂に入りながら、怪我がないかもう一度確認する。可奈に隠そうとする少しの擦り傷と、青あざになりそうな打ち身があった。

「痛い?」

「大丈夫」

「大丈夫なんて言わない。怪我すれば痛いのは、当たり前。我慢しなくていいんだよ。」

顔を俯ける。

「ごめんごめん。きつく言い過ぎたね。」

そっと、ベルを抱える。ゆっくりそのまま赤ん坊をあやすように、揺らす。

頭を可奈の胸に預け、こわばったからだの力を抜いて、可奈に身体を預ける。さすがに風呂の中で長時間いればのぼせてしまう。浴槽に、ベルを抱いたまま、身を沈める。風呂から出て、髪や身体を乾かし、お茶にする。とんだピクニックになってしまった。縁側からお茶と一緒に出したクッキーを投げる。

「ハク、レッド、ブルー、ブラック、イエロー、おいで。」

門の近くで砂漠を警戒して、うろうろしていた鶏たちが、飛んでくる。

低空飛行だが飛んでくる。

えっ!?飛んだ?


縁側の近くまで来ると、普通の鶏の顔をして、与えられたクッキーを啄ばむ。コケコケとおいしそうに。

なごむわー。振り返って、ベルを見ると、ベルもクッキーを持って寄ってくる。

「はい。食べて。今日はありがとう。」

鶏が、急いでこちらによって来て、啄ばむ。一生懸命食べる様子を見て、可奈を振り返り、

「みんな、凄かったね。」

といって、笑顔になる。

「そうだね。みんなが、無事なのが何よりだよ。怪我がなくてよかった。本当に。」

言いながら、ベルの頭を撫でる。しばらく鶏をぼんやり2人で見ていたが、お茶が冷めてしまうと気づき、ソファーに戻ってくつろぐ。怖い話をすぐにするのもなんだかと思ったが、

「ベル、あの怪物を前にも見たか聞いたことある?」

「うん、ある。あんな大きい%&’$#は、見たことはないけど、もっと小さい私の身体くらいの%&’$#は、砂漠に出たところで襲われたから。」

%&’$#は、怪獣?怪物?妖獣?異世界だから魔獣?

魔獣に決定だ。ベルのアニメ知識が、役立った。

砂漠に出たところで襲われた?

「ベル、砂漠に出たところで襲われたって、ベルだけはぐれたの?」

俯いてしまった。しまった、心の傷に触るようなことを聞いてしまったか。

「違う。私逃げたの。奴隷として、売られていくところだったの。でも、ちゃんとしていない奴隷商たちだったから、安全な道を行けなくて、ひごうほうの道を使ったみたい。そこを襲われて、その隙に、逃げ出したの。」

俯きながら、自分が悪いことをして叱られるか、嫌われるのを覚悟して言っているようだった。くそ忌々しいことだった。ベルのほうに回り込み、ベルを頭から抱きしめた。

「えらいっ。よく逃げた。えらかったよ。」

手放しで誉めまくった。小さい身体で、ろくに食べさせてもらわず、よく生き残ってくれたと思う。逃げ出すだけの気力をよくもっていてくれたと思う。

顔を、上げて可奈の顔を見つめた。可奈が満面の笑顔で褒め称えているのがわかったのか、徐々に笑顔が伝染した。

「よし、今日は、怖いことも撃退したし、ベルの武勇伝も聞けたから、お祝いしよう。」

「うんっ」

冷たく気がめいるような空気が霧散して、一気に活気が出てきた。


それから、外に置きっぱなしの荷物を取りにいき、鶏の世話や田畑の面倒を見たあと、ベルには、洗濯を取り込んでもらい、自分は、夕食の支度を始めた。

今日は、すき焼きだ。

デザートにメロンだ。

それも本物のマスクメロンだ。

ビールがうまい。


おいしく楽しい夕食だ。縁側によってきていた鶏たちにも、お相伴をさせた。



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