7.ゴチキンジャー登場
それから、4,5日して、ほぼベルの体調が回復したと判断して、朝の仕事が終わって一段楽したあと、お茶にするためにソファに、向かい合わせに座りながら、自分が決めたことを、ベルに、話し始めた。
「ベル、聞いて欲しい。ベルは、私と一緒に、ここに住んでほしい。ベルを送って、行けない。ごめんね。ここの人は、怖い人たちがたくさんいる。」
ジェスチャー交じりにありったけの言葉を使って、覚悟を決めて告げる。
「はい」
えっそれだけ?可奈の反応に、ベルのほうが不思議そうに、可奈を見つめ、
「お母さんと、ここに、いたい。」
えっそりゃあ、そう言われれば、自分はうれしいけど、ベルは、わかっていっているのかな。なんだか、思わず、にまにましてしまう。
・・・・・・考えてみれば。こんな小さい子が、自分の身の振り方を、どうこう考えられるわけないよねぇ~。
完全に庇護されている年だよ。
身内もいないって言うし、今、親切にしている可奈だけが、頼りだよ。
どう考えたって。
2人きりでの生活に不自由はなかったが、衣服だけは、問題があった。
私のお古の服では、ベルの手足が長すぎたのだ。
ツンツルテンになっている。
見た目が悪かった。
決して、可奈の手足が短いというわけではない。日本人としては絶対標準である。
・・・はずである。
家の中で、介添えなしに危なげなく、一人で歩行できるようになったので、寝るところを、可奈の部屋に移動した。
最初は、客間をベルの部屋にしようと思ったのだが、夜、ひとりで眠るのが怖そうだったので、一緒に寝るようにした。
可奈のベッドは、ダブルで余裕があったのも、幸いした。
可奈が、人恋しくて、ベルと寝たかったわけではない。
元気になってくると可奈の後をついて回るようになった。
珍しいこともあるのだろうが、何が楽しいのかニコニコと、ご機嫌で、ご飯の支度を手伝うことを皮切りに、家の仕事、外の簡単な仕事と、可奈のやっていることを、少しずつ手伝うようになってきた。
すぐ疲れてしまうようなので、注意しながら休み休みであるが。
わかったことだが年は、7歳だった。
10歳にしても大人びている顔つきだと、思っていたのだが、びっくりである。
年の尋ね方が、違って勘違いしているのかと、何度も、確認したが、本当に7歳のようであった。
侮りがたし、異世界の7歳である。
言葉は、流暢だし、字も書ける。
凄いとしか言いようがない。
ベルが、この生活の中で、特に気に入っているのは、朝のラジオ体操のようである。可奈は、こちらに来てから、自分の健康のために、ラジオ体操をすることにしていた。6時25分から待機してラジオをかけてすることで、日本と繋がっている気もしていた。2,3日おきだが。
知っているだろうか、ラジオ体操って本気でやると、半端ない事を。
もともと可奈の朝は早い。だいたい日の出とともに起きる。魔法に目覚めてからは、丹田に気を集める自主訓練のために、日の出前に起き、たまに砂漠に座り、座禅を組みながら日の出を浴びるというシュチュエーションに酔っているいるため、さらに早い。
できるときはだが。
ベルと一緒に寝るようななっても、彼女が寝ている間に座禅を組み、仏様に茶湯行をし、朝の仕事を終わらせ、ラジオ体操をした後、朝食の支度をする。
その頃、ベルも起きてくるのが、いつもだった。
『あた~らしい あさがきた きぼうの あさ~だ・・・』
ラジオに合わせて歌う。
「なに?」
『ラジオたいそう』
「らじお・・た・いそう?」
縁側で、首をかしげる。今日は早く目が覚めたらしい、そんなかわいいベルをそのままに、
ちゃんちゃ~ら ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃ~ら ちゃちゃちゃ・・・・
さぁ 大きく腕をふりあげて~
インナーマッスル鍛えまくりである。ベルは、庭で体操をしている可奈を、見ていたが、自分も立ち上がって、見よう見まねで、真似し始めた。ついてくるのは大変そうだ。自分は学校の体育授業で覚えさせられたなと思い出し、ベルがやりたいようだったら、暇を見つけては、順番にひとつずつの動きを教えていけばいいかと思った。
第2に入ってすぐの体操は笑っていた。異世界でも笑いどころは、同じらしい。
10日ほどでベルは、覚えた。
うちの子。天才!!夏休みも怖くない。
最近ベルの朝が早くなってきた。とうとう、可奈のなんちゃって座禅にも、ついてくるようになった。
ある朝、起きようとすると、隣で寝ているベルが、身じろいだ。
「まだ、寝ていて、いいよ。」
蒲団の上から、手で軽く押さえた。
「う~ん。う、う、起きるの?」
「起きるけど、ベルは、まだ寝ていなさい。」
「起きる。」
言いながら、一緒にベッドから出た。
梅雨も、終わりに近づいてきたけど、まだ、肌寒い。
服を着替えさせ、砂漠へ行く用意をする。
「今から、『座禅』をしに行くよ。」
「『座禅』?」
「そう、うまく、説明できないけど、ついてくればわかるから。」
下に敷くシートを持ち、家の敷地外に出る。砂漠を少し歩き、小丘になっている上にシートを敷く。そこに、DVDで見た座禅のかっこうで座る。
「まず、この形で座る。」
「座る。」
真似をしてベルも、同じ形をとろうと頑張る。
・・・かわいい。
「いいよ。その形で。上手。」
こちらを見上げ、にっこり笑う。
・・・かわいい。
「おなかのここに、集中して、身体の中の『気』をためる。」
といいながら、丹田と呼ばれているあたりを、触りながら、自分でも良くわからない説明をする。
「おなかのここに、集中。」
といいながら、可奈と同じ仕草で丹田の辺りに手のひらを当てる。
・・・かわいい。
「手をこの形に組む。」
と見せながら、組むと、それもまねする。
・・・ちょーかわいいんですけど。
「目を瞑って、集中。太陽に包まれるまで、『気』をためる。」
「集中。」
・・・だめだ、かわいすぎて、集中できない。
それでも、日課の朝の座禅(自己流)をする。最近なんとなく、“気”というものが、丹田と言うところかどうかわからないが、下腹にたまっていっているような気がする。
脂肪ではない・・・と思いたいが。
しばらくすると、顔に、日の光が当たり始めるのが、肌で感じられる。目を閉じていてもあたりが明るくなってきたのがわかる。完全に、夜が明けた頃、座禅をとく。途中何度か、隣でモゾモゾとしていることに気がついたので、座禅を組みながら、足を崩してもいいとベルに言うと、ベルは、組んだりほぐしたり自分で調整しながら、可奈に付き合う。
終わったところで、目を開け、隣を見る。ベルも一生懸命目を瞑っている。力入れすぎだよ目を瞑るのに。なんだかおかしくって笑ってしまいそうな顔を引き締め、
「ベル、よく頑張ったね。終わりにしよう。」
目をぱっと開け、誉めてもらったことを、喜ぶように、満面の笑顔でこちらを見上げる。
・・・・・なんなんだぁ。このかわいい子は。こんなかわいい子は、いないな絶対。
家に戻り、朝の仕事にもついてくる。やれそうなことをお願いして、やってもらう。鶏小屋の掃除や餌やりも、いっしょにやる。
朝ごはんの支度も一緒に、やりたそうだったので、手伝ってもらう。
いつもより、遅くなってしまったが、いただきますを言いながら食べる。元気になってから、最初は食べるのが早かったが、だんだん落ち着いて、味わいながら食べるようになってきた。とはいっても、もともと食べ方は“品がある”とは、このことか的な食べ方で下品ではないが。
出汁巻き卵とか、チーズインウィンナーとかが出ると、もうニコニコ顔が止まらない。
・・・・・ちょーかわいい。
作る甲斐があるってもんだよ。
ほんとうに。
おばあちゃんが忙しいとき、ご飯を作ったが、そのときも、おばあちゃんもおじいちゃんも、おいしそうに食べてくれて、本当に嬉しかったが、半方、じじばばの欲目と励ましが入っているんじゃないかと、心底喜べなかった。でもこう手放しに、嬉しそうな顔をされると、本当に気持ちが弾む。
次何作ってやろうか。
片付けも手伝ってくれる。一緒に食べるようになって、最初から使った皿や茶碗を、流しに持ってきてくれた。えらいと誉めると、嬉しそうにはにかむ。
・・・どうしてくれよう、かわいさだ。
洗い物も手伝いたそうだったが、さすがに、それはいいとして、その間、テレビをつけて、お子様番組を見せておく。
ふと、キッチンカウンター越しに、ソファーに座りながらテレビを見ているベルを見ると、船を漕いでいる。
洗い物を中断して、ベルをソファに横にならせ、毛布を持ってきて、寝かせる。
ちょっと朝が早かったかな。
ベルが寝ている間に、急いで、朝遣り残したことを済ませる。家の掃除は、結構広いので、日常使っているところは、毎日するが、使っていないところは、日替わりで掃除をしていく。洗濯は、全自動で、梅雨の間は乾燥機が活躍したが、今日のような天気予報で晴れ予報の出ているときは、庭に干す。その間、ベルから眼を離すことになってしまうが、しっかり寝ていることを、確認して移動を繰り返す。
9時少し前に、ベルの目が覚める。
ちょうど、リビングから続き間の畳に掃除機をかけようかどうしようか、悩んでいたところだった。
「目が覚めた?」
まだ、頭がはっきりしないのか、可奈の顔を見て、きょろきょろと、辺りを見回す。
「今から、ここの掃除をするから、ちょっとうるさいよ。」といいながら、掃除機のスイッチを入れる。
「なにっ!!」
クスクス笑いがでてしまう。
「『掃除機』、だよ。」
「『そうじき』」
「そうそう、『掃除機』」
興味深そうに寄ってくる。吸い込み口が畳の上を行ったり来たりしているのを不思議そうに見ている。
「ちょっと、待ってて。」
掃除機を一旦止め、新聞紙の切れ端を持ってきて、さらに小さく破り、紙ふぶきのように、ばら撒く。何をするのかと、目を輝かせている。
期待にこたえるためにも、ここは、絨緞モードで、やるしかない。
スイッチON!!
ものすごく綺麗に、紙切れを吸い込んでいく。
口を開けて、驚いている。文明の利器、すごいよ。
日本人でいることこが誇らしいよ。
自分が作ったわけでも、なんでもないが、掃除機使ってこんなに得意になったことはかつてない。
可奈以外の誰がこんなに得意そうに掃除機を使っているかと思う。
でもこの際、ベルも喜び、自分もうれしい、ここに、つまらぬ見えや恥は、ない。
すべてを吸い終わると、ベルの目が催促している。ていうか自分でやりたそうだね。でも、ここでは、まだ、君にはやらせないよ。
喜びは、長引かせないともったいないからね。ではなくて、体のサイズ的にまだ大変そうだからね。
いつかやれるというこの楽しみは、つまり・・・つづく・・・である。
その時まで、掃除好き少女であることを祈る。
掃除機をかけ終わり、ティータイムである。ベルはミルクティにする。ビスケットを、2枚と、サワークリームをつける。一息ついて、可奈は、畑仕事をしようと外に出る。当然のように、ベルもついてくる。
子どもが、仕事ばかりというのもなんだよね。切りのいいとこで、畑仕事を止めて、あとは、ベルに外を、案内した。考えてみれば、家の中もまだ全部は、見せていない。まぁ、時間は、たくさんありそうだ。ゆっくり行こう。
庭を、ざっと案内して、家の裏の山に入る。
泉の水は、直接飲めるが、沢の水は駄目だということを、教える。
そして、1人では、沢の近くまで行っては、いけないことを約束させる。
食べられる木の実、果実、触ってはいけない漆の木などざっと話しながら、歩き回る。あっという間に、1時間が過ぎる。
ご飯だ。家に帰り、すぐに食べられる冷凍レトルト食品をチンする。冷蔵庫から出したものや棚から出したものの袋を捨てないで元の所に置いておくように注意することも忘れないでしておく。
昼寝を入れた後、勉強タイムである。
昼過ぎ頃から、天気がまた、怪しくなってきた。
リビングで、二人で考えながら、勉強していると、庭で、ハクたち鶏が、コケコケと窓際で何かを教えるように、鳴き始めた。ふと外を見ると、雨粒が、ポタリポタリと地面の上に、しみを作り始めた。
『あっ雨!?洗濯物っ』
可奈が、声を上げると、ベルが顔を上げた。
「何?」
可奈は、
慌てて、腰を上げた。
「雨?雨、降ってき?」
ベルが外を見てうれしそうに言う。
可奈の焦る気持ちとかみ合わない。
砂漠に生まれて、砂漠で育ち、わずかな飲み水か井戸の底でしか水など、ほとんど見たことがない生活をしていたため、テレビや本の言葉で、雨は知っていても、本当に空から水の粒が何もしないのに降ってくるのが、不思議で仕方がないらしかった。
そうして、それをめったにない吉兆のしるしのように喜んでいた生活だったのだ。処変わればである。
しかし、大人な可奈には、それよりもせっかく洗った衣類が駄目になってしまう方が、きになってしまう。
子どもの感動を、大事にできない大人であった。
だって仕方がないじゃない。酸性雨や放射能の雨や黄砂が騒がれている日本産の大人なのだから。
「急いで。」
言いながら、立ち上がり、裏口のほうに走った。
置いてあるサンダルを履き、干してある洗濯物を取り込む。
ベルは、履物がないので、上がり口で待っている。家の中では、外履きは脱ぎ、スリッパのような中履きを履くことを、説明してからは、足の裏が汚れないように、注意するようになっていた。
子どものだから、多少汚い足のまま上がってもいいけどと、内心では思っていることは内緒だが。
少し濡れてしまったものは、乾燥機にかける。
乾燥機の説明と、使い方をベルに説明しながらまわす。衣服がドラムの中で廻っているのを、熱心に見ている。
「おもしろいかな」
「おもしろい」
「まぁ。時間がかかるから、ついでに、この家をあちこち見てみる?」
なんのついでかわからんが。とたんに、嬉しそうに、「うん」とうなずく。そんな顔されたら、はりきっちゃうよ。おかあさんは。
ベルに手を差し出す。
手をつなぎながら、北の廊下を歩く。
今、居る所は、北東の角だ。炊事用の釜がある土間があり、囲炉裏が切ってある板間の少し広めの部屋である。
北の廊下を西に向かって行くと右手は、水周りの風呂やトイレがあり、左側は、納戸がある。さらに進むと、左右に、畳の部屋が続いている。突き当りを左に行くとおじいさんの使っていた部屋と書斎があり、さらに奥の蔵へ廊下が続く。その突き当りを右に折れると客間がある。
右側に曲がると、右は、畳の続き間がある。左は、北から続く、畳の続き間がある。左の部屋を過ぎたところで、廊下になっていて中庭がある。といっても、廊下と段がない温室のようなへやである。そこからは、北の部屋に行ける。ちょうど、ダイニングの裏に当たる。
ダイニングに光を取り入れるための工夫だ。
曲がる前の廊下には、2階に上がる階段がある。
戻っても良かったが、そのまま廊下をつっきり、東の玄関に出る。玄関を入ったところの階段を上がる。
いつも、2階に上がる階段だ。
階段を上がると、南北に廊下がある。南東の角部屋が、可奈の部屋である。今日は、右に行く。北東は、板張りの廊下が、結構広いスペースでとってある。角に東に続くドアがある。ここは家の東にある車庫の2階部分にある住居スペースと連絡しているのである。
左は、一部屋子ども部屋があり、子ども部屋はいずれ、ベルの部屋にしようと思っていることを、ベルに言うと、うれしそうな顔をしたが、すぐと、心配そうな顔になった。
「まだまだ、私といっしょだよ。ベルが、もう少し大きくなってからね。」
というと、安心したのか、いずれ自分の部屋になる子ども部屋を熱心に見ていた。といっても、かわいい柄のカーテン、カーペットが敷いてあり、シングルベッドと、収納付の机、作り付けのクローゼットがあるだけの部屋である。
「ベルの物で、使ってないものは、ここに、持ってきておこうか。」
「はい」
返事がいい。
その部屋を廻って、北の廊下を西に並んで部屋が3つある。北の廊下の西に向かって、右側は、水周りになっていて、ユニット式の風呂やトイレがある。さらに西に奥に進むと左側に階段があり、下に下りていく。
一階の西側の廊下の普段あまり使わない階段だ。これで、家の中をぐるりと一周したことになる。
もともと先祖が地方の豪族だったこともあり、結構大きな家だ。
両親が、一緒に住むことになり、おじいちゃんが2世帯住宅にと、改築したのだ。東の車庫もそのとき改築し、2階にも、人が住めるようにした。
昔は、女中や作男が住んでいた棟だったせいか必要もないのにアパートのようにしてある。いざというときアパートにして稼げばいいということらしかった。でも、母屋と2階で繋がっている時点で、おかしいと思うが。
家が改築し終わり、引越しをその週の終わりに予定していた両親と兄が、幼稚園児の可奈を残し交通事故で、あっけなく死に、実家に戻ってくるはずの家族は、可奈ひとりになってしまった。可奈が使っている部屋は、両親が使うはずだった部屋である。実は可奈も、中学生になるまで、1人部屋を持たず、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に寝起きをしていたのだ。北の納戸の隣の部屋でおばあちゃんが裁縫などをしているときは、そこで勉強をしたり遊んでいた。子ども部屋の家具は、一応整っていたが、使った気配がないのはそのせいだ。
中学生も後半になって、部屋を2階に移動したのだが、そのとき、両親が使うはずだった、クローゼット書斎付の部屋を使うことにしたのだった。
今は、ベルと過ごすには、大きいベッドがあり、快適である。何が幸いするかわからないもんだとつくづく思う可奈であった。
母屋を見終えるころ、かすかに、乾燥機が止まる音が聞こえてきた。ベルにも聞こえたらしい。可奈の顔を、窺うように見てくるので、
「うん、今のは、乾燥機が止まったことを知らせる音だよ。」
といいながら、手をつなぎ、階段を降りて一階に行く。再び、囲炉裏がある板の間に向かう。土間には、竃があるが、ピザ釜やパン焼き釜があればいいのに、と思わないではない。
乾燥機から衣類を出すと、ほんわかと温かい。ベルに渡すと、うれしそうに顔をうずめる。
「あったかい・・・。」
「そうだね。さあ、それだけ持っていってくれる?」
脱衣所の前の畳の部屋で、二人でたたむ。
衣類を片付け終わり、夕食までの仕事をしてしまう。
主に草取りだ。
ものすごい勢いで、生えてくる。
取っても取っても、後から後から生えてくる。
小さいうちにと草削りで、削っては、土を振るい、敷地外の砂漠に捨てる。日本にいたときには、絶対できなかったことだが、砂漠はこういう時、都合がいい。
砂漠の太陽にさらされて、萎びてしまうかと思いきや、さすが雑草、結構頑張って、はびこっている。
まぁ、この広大な、黄色の景色のほんのつめの先どころか、毛の先ほど、緑にするぐらいなら、いいんじゃないかと、積極的に、取った草は、砂漠に捨てている。ベルも、お手伝いがしたいのか、見よう見まねで、草をとってくれる。一輪車で、草を捨てるのにもついてくる。草を捨てて、戻ってくるとき、
「ベル、乗ってみる?」
「えっ。いいの?」
「いいよ。乗ったら、前を向いて、ふちにつかまって」
ベルを、抱え上げ載せてしまう。うれしそうに、前を向いて、ふちにつかまる。
「出発っ」
「しゅぱつ」
大きい声を上げ。一輪車を持ち上げ、前に進む。元気になったように見えて、抱えたときの体重の軽さと骨のあたり具合に、胸の奥がちくりと痛む。一輪車を押していっても、草をてんこ盛りに、載せたときより、簡単に押せる。
もっと、いっぱい食べさせなきゃいけないな。
肉と魚の両方をつけよう。おやつも頻繁に、与えよう。水分を取らせるために、外にお茶の用意をいつもしておこう。
それとも、腰バックをつけさせて、常に、お菓子を入れさせておこうか。
そんなことを考えながら、草をとっていると、日が沈んできたので、夕飯の準備をするために、上がることにした。
「さぁ、鶏に餌をやったら、上がろう。」
「うん!私が、餌をやってもいい?」
「いいよ。つつかれないように気をつけてね。」
「大丈夫だよ。とりさんたち、賢いもん。」
確かにずいぶん賢くなった。今では、確実に可奈の言っていることを理解しているようで、リーダーのハクを筆頭に、ちゃんと言うことを聞いてくれる。
水の換えをしている間に、餌を納屋から出してきて、鶏たちにやっている。
「餌をやりながら、話しかけるといいよ。その、大きいのが『ハク』、隣にいるトサカが小さいけど真っ赤にきれいなのが『レッド』、足の黄色が綺麗なのが『イエロー』、目が珍しく黒いのが『ブラック』、羽に青みがかかっているように見えるのが『ブルー』だよ。ハクがみんなのリーダーだよ。」
そういう可奈を見つめ、しばらく、考え込んでいた様子だが、
「こんにちは、ベルといいます。ハクよろしくね。」
ハクに、むかって丁寧に挨拶をする。
ハクは、可奈を見た。
可奈がうなずくと、ベルに向かって鷹揚にうなずくように、首を縦に振る。
・・・何者この鶏。やけに貫禄ありすぎだよ。
続いて、ベルは、他の鶏にも挨拶していく。
「レッド、イエロー、ブラック、ブルーもよろしくね。」
それぞれ、コケコケと返事を返していく。
・・・なんなのこの鶏たち。
「まぁ、小屋に入って寝てもいいし、鍵は開けとくから好きにしなさい。」
と鶏たちに言って、家の中に入る。