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53.帰宅2

そんなことをしていても帰りの旅路は速かった。

カロだけでなくマリアも運転を覚え、3人で交代しながら運転をしていたおかげだ。2人はわずかな練習で運転技術が可奈よりうまくなった。カロやマリアが、ナビを横目で見ながら全くルートを外れず、最短の帰り道をたどれたから、速かったのだというわけでは決してないと思いたい。

カロは、男の獣人。マリアは、女の獣人だ。熱が高かった子はネルド、傷の多かった子は、ホランという名だった。

時々休憩を入れ、足は伸ばしたが、走れるだけ走り続けた。

砂漠の中に、最初は、ポツリと緑が見えてきた。

あぁ、家に帰ってきたのかと、ほっとする。

今では、家の周りは、下草が生え、木々が生え、草原と森に囲まれている。さらに一番外は、川が流れ、湖ができ、再び草原ができている。

地形も、平坦ではなく、岩山や丘、盆地などもできている。


「・・・森だ・・・」

カロが運転をしている可奈の後ろで、つぶやいた。

ルームミラーで映っているカロとマリアを見ると、2人とも唖然としているというより怯えて警戒している。


・・・・なぜ?


「・・・・ここは、なんだ?」


何だといわれても、自宅です。


「何か恐ろしいものがいるわ・・・・」

えっ?何?

「止まってっ!!」

びっくりして、ブレーキを踏んでしまった。

何っ?どうしたの?

振り返ると、2人どころか、寝ていた子どもたちも起き上がって、毛を逆立てているくせに耳がへたれてしっぽが丸まっている。そして前方を警戒していた。

目線をたどると、どう見ても我が家の方向だ。

家に異常事態が発生したのか?

ハクたちは大丈夫か?


この人たちは、ここに置いていた方がいいか。

でも、ここに、おいておくわけにも行かない。

どうしたら・・・・

気ばかり焦る。

第3バリアの中に置いていけば・・・隣に目を移すと、何がおきた?という不思議そうな顔の炎禾とベル。

後ろの座席では、通常状態のイエローとブラック。怯えているのは、獣人たち。


何、この混沌。


・・・そうだ、謎バリアは、私の周りが一番だった。

「みんな、絶対車から離れないで、そうしたら、大丈夫だから。もし動くとしたら私から身体ひとつ分の距離より離れないで」

言いながら、アクセルを踏み込む。

後ろで、オオウとかヤメテとか動揺した小さな声が聞こえる。


無視である。慣れてもらうしかない。


車を庭に入れ、急いで、車から降りる。

「イエローとベル、あなたたちは、車から降りないで、彼らを守って」

ブラックと炎禾を連れ一緒に家の裏のほうへ走る。

「ハクっ!!!!レッドっ!!!!ブルーっ!!!!いるなら返事してっ!!!」

ハクたちの名を叫びながら走る。

山のほうからすぐに声がしたと思ったら、後ろでは、翼の羽ばたきが聞こえた。

振り向くと、レッドが、飛んできていた。山のほうからも、東の草原のほうからも、まもなくハクとブルーが飛んできた。

「ハク、異常が起こってない?」

問い詰めるように焦って尋ねると、首をかわいらしく傾げられた。

他のものを見ても、みんな首をかしげる。しばらく考えた後、レッドがコケッと言いながら庭のほうを見る。


庭かっ!!


急いで、庭に戻るが、庭に異常はない。心配そうに車からこちらを見ているベルとカロとマリアと窓に縋りつくように、外を見ているネルドとホランがいるだけだ。


イエローは?


車に近づき中を除く。

イエロー、ベルに羽を撫でてもらって、うとうとしている。イエローの胸のところに卵のように埋もれている炎禾が羽毛と戯れている。


おまえたち、何やってるの?


ベル、そんなヤツ構ってやる必要ない。ベルを見ると、別の手で、ネルドの肩を抱いている。怖がっているのを、宥めているのか?


うちの子、ちょ~優しいんですけど。


ってか、ベル、イエローを撫でるのをやめなさい。そんなヤツ放っておきなさい。





とりあえず、家の周りを、ぐるりと回った。

異常は、ないようだ。

なんといっても、我が家は過剰戦力だといえるぐらい防衛力にも優れている。その皆が誰も警戒していないのである。

その上、東の草原には、あの方が、いらっしゃる。たぶん、害獣だと思われるものは、排除してくれるだろう。


結果として、獣人だけが、怯える何かが、この家にあるということである。

獣人に聞いても、要領を得ない。彼らも、何か恐ろしいものが、近くにいて逃げ出したい気持ちになっているらしい。


日ごろからほぼ何も感じない私は別にしても、ハクたちやベル、炎禾まで、何も感じないのは不思議だ。


まあ、慣れないところで、緊張しているか、異世界のものに、拒否反応を示しているのかもしれない。皆疲れているだろうと、獣人たちを説き伏せて、とりあえず家に入ることにした。子どもたちも、異常な回復をしたといっても、2,3日前まで、死にそうだったのである。早く落ち着いて寝かせたい。


家に入り、皆を家の中に、上げようとして躊躇した。獣人たちは、裸足である。

ハクたちは言われる前に、裏の水道のところに行った。

獣人たちは、単に足の裏が汚いという程度ではすまない汚れ加減だ。

まだ、体力のない子どもは、このまま、抱えて居間に蒲団を敷いてここに来たばかりのベルのように寝かせばいいが。大人はそういうわけには行かない。


可奈的に。


「ベル、すまないけどハクが裏から上がってきたら一緒に、蒲団を2組敷いてくれる?」

はいっという威勢のいい返事の後、家に駆け込んでいった。

うちの子、小さいのに超~有能だ。

「蒲団を押入れから出すのは、ハクにやってもらって」




そして、イエロー、あなた、なぜ、ここにいる?ここから家に上がるつもりじゃないでしょうね?

まあ、でも、ちょうどいい。


「イエローちょっと、一緒に車に戻って、子どもたちを、ここで、見ていてちょうだい」

自分を見ている可奈にぎょっとして慌てて裏に移動しようとしたイエローに言う。

「ネルドとホランは、準備ができたら、家の中にそのまま入るから、車の中で寝ていて良いからね。イエローがいるから大丈夫だからね」


車の中で、不安そうに膝立ちしている子どもたちに横になるようにいながら伝える。イエローは、旅の途中の戦闘行為で意外に獣人たちに、信頼されているのであった。


子どもたちを残すことに、こちらも不安そうなカロとマリアを、裏の土間に連れて行く。

そこから家の中に上がり、風呂場に案内する。風呂やシャワーの使い方やボディシャンプーを説明して、風呂に入るように促す。着替えを用意して、洗って流したお湯が、綺麗になるまで、出てこないように言い、あとはまかせる。

急いで車に戻り、ネルドとホランを家に、抱えて入れる。ベルとハクとブルーが畳の部屋に、蒲団を敷いてくれていた。


ひと段落して、風呂場に向かう。

ちょうど、カロが出るところだった。


全裸で。


・・・・・・・・


「着替えは、とりあえずこれを使ってください」

広げながら、浴衣を渡す。

「ちゃんと、タオルで、拭いて。新しいタオル使っていいですから。お~っと濡れたもので拭いても仕方ないから。そのあと、これで、乾かして」

言いながら、ドライヤーのスイッチを入れカロの毛にあてる。

「このスイッチを押すと、中から暖かい風が出ます。これで、止まります。冷たい風にしたかったら、これを動かしてください。中は、電熱線がありますから、危ないので指を突っ込んだり、何か入れたりしないでください」

言っているそばから、排出口を覗き込み、指を入れようとする。慌てて止めるが、おまえは、子供か。


「カロ、言うとおりにして」

風呂場からマリアの叱責が入る。

しかめ面して、ぐずぐずしていたカロが、途端におとなしく言うことをするようになる。


かかあ殿下だ。


どんな状況でも、女は強いよ。


もたもたしているカロに浴衣の着方を説明し、居間に行くように言う。ブルーを大声で呼び、案内させる。


まだ、風呂場にいるマリアに、浴衣の着付けを説明するために、タオルを巻いて出てきてもらう。

洗面所でのカロとのやり取りを聞いていたのか、意外にすんなりと着替え終わった。


一緒に居間に向かいながら、不安が払拭されていないか聞くと、まだ、毛がぴりぴりと逆立つようだという。

なんだろう?


もともとは古い家だから・・・・なにか・・・・いる?


・・・・いや、駄目だ。考えたら、負けだ。


百面相しているのをいぶかしがられているのに、気づかずリビングに着く。


畳の部屋には、子供達が、寝ている。

そっと入り、様子を伺うと、ぐっすり寝ているようだ。車の中で、始終横になっていたとはいえ疲れたのだろう。


マリアも、心配そうに見ていたが、大丈夫そうなことがわかったのか、リビングに戻る。

「そこに、座っていてください」

ソファーを示し、くつろいでもらう。

お茶の支度をしようと、キッチンに立つとベルがすかさず手伝いに来る。

「いいよ。ベルも疲れているでしょ。炬燵でゆっくりしていて」

「ううん。手伝いたい」

上目遣いで、駄目?と聞いてくる。

駄目なわけない。ほんと、うちの子ちょ~かわいい。

お茶を沸かしている間に、ただいまの挨拶だ。

「ハク、レッド、ブルー、遅くなったね。ただいま。変わりはなかった?」

「ただいま」

リビングでそれぞれくつろいでいるハクたちに、ベルも一緒になって帰ってきた挨拶をする。

ハクが代表して、可奈の前に来て、何やらコケコケ言う。


ごめん。


言っていること、わからない。


と、横に、炎禾が、来る。

「ハクが、何もなかった。大丈夫。おかえりなさいって言っている」

えっ?炎禾わかるの?

炎禾の通訳に驚いたが、お帰りなさいと言う言葉が、胸にしみた。


「ただいま。ハク「コケッ」レッド、ブルーもただいま。留守番ご苦労様でした」

「「「コケッ」」」

「それから、ベルも炎禾もブラックもご苦労様でした。今日はご馳走にするからね」

「「「「コケケッ!!!」」」」

「オ~!!」

炎禾も喜んでいる。


「ベル、お茶菓子を何でもいいから、納戸から出してきてくれる?」

「わかった。何でもいい?」

「いいよ。好きなものを、たくさん持っておいで。」

「イエロー、行こう」

2人で、パタパタ、ペタペタと駆け出す。


大量のお茶菓子とお茶を前に、みんな揃ったところで、改めて獣人の紹介をする。

紹介するといっても、寝ている子どもたちは、名前だけ、大人の2人も、言えることは、名前だけである。

そして、こちら側の紹介だ。

こちら側もハクとレッドとブルーの紹介だけだ。


見たまんまの鶏である。考えてみたら紹介のしようがない。


あっ!


これだけは言っておかなければならないことに気づいた。

「見た目、鶏だけど家族です。防衛担当をしてくれて、今回も家の留守番警備と私たちの警護についてきてくれていました。リーダーは、ハクで、それぞれいちおう担当区域が決まっているけど、おいおい話していきますから」


獣人の2人に鶏だから非常食だと思われていたら困るので告げた。旅の途中、ブラックやイエローのことは、名前だけ説明しただけなので、改めて言っておく必要があると思ったのだ。


「それは、確かに心強いです。ブラックさんもイエローさんも物凄く強いことは、十分承知しております。ブラックさんたちと同じ種族の方たちならその腕前は、見なくてもわかります」

カロが、丁寧な言葉で答える。


なんか違う????

ブラックさん?イエローさん?・・・・さんづけ?

同じ種族?種族?鶏って種族なの?

見なくてもわかるって・・・・見なきゃわからないでしょう?


もう、どこから突っ込んで良いのかわかからない。




お互いに、よろしく的な挨拶をしあっているので、とりあえず、そこらへんは、聞き流すことにしよう。


最初は、固くなっていた獣人の二人だが、だんだんと、打ち解けてきた。車中でもそうかなと思っていたのだが、どうやら獣人は、ハクたちの言葉がわかるようだった。


会話しているよ。


シュールだ。


ハク達を家族だと紹介したが、この世界に来る前は、鶏を家畜として使役していたのだ。卵を産まなくなったならば、肉としておいしくいただいてきた。


会話が、成り立っていると思うと、凄く複雑だ。

ベルまで、会話に参戦している。


・・・・・仲間はずれ?




まあ、良いとしよう。

今では、本当に大事な家族なのだ。


言葉が通じなくても。



さて、少なくとも、数週間は、ここにいるとして、その準備をしなくてはならない。まず服から用意だ。食べ物は、私たちと一緒で良いとして、後は、寝るところだ。ここではっきりさせとかなければいけないないことがあった。


「少し不躾かもしれないけど、二人の関係を聞いていいですか?夫婦ってことでいいかな?」


カロが少し慌てたように、可奈を見て、マリアを見た。マリアが、案外落ち着いたような口調で見つめてくるカロに聞いた。


「私は、そう、思ってくれたらうれしいけど、カロは、どうなの」

「いや、俺だって・・・でも、俺は、年も取っているし・・」


見つめあったり、カロが目をそらしたり、何かが始まろうとしているような、始まらないような・・・・・爆ぜろ。


「あの、そこは、もう良いんじゃないですか?とりあえず、そこらへんは、2人で、話をするということで」

なんか、ほのぼの告白バージョンが始まりそうだったので、口を挟んで、可奈としては、今後二人を夫婦扱いすることに決定した。


決して、仲間はずれにしたことや公開告白つきリア充を、密かに恨めしく思っていたからじゃない。


結婚式を挙げなければならないとか、役所に何か提出しなければならないのかとか、決まりごとがあるのかもしれないが、ここでは、当然無理だ。

そもそも、戸籍はどうなっているのだろう。

案外、適当なのではないだろうか。


結婚式も神に誓うとかは無理だから、ケーキを焼いて披露宴っぽくパーティを開くことぐらいはできるだろう。

出席者に身内は、無理だが、自分やベルや鶏たちや炎禾で、精一杯祝うことはできる。子どもたちもいる。

話が決まったら、提案しようと決め、もともと決めるはずの寝るところを説明する。

「今、子供達が、寝ている畳の部屋は、元気になるまで、子どもたちを寝かせておこうと思うのだけど、大人が交代で付き添うことにして、二人は、基本、客間で、過ごしてほしいのですけど、それでいいですか」

「いえ、子どもの寝ている部屋でも、この部屋の隅でもいいです」

マリアが、慌てたように言う。

なぜ、そんなに慌てているの?

「そうだ、俺たちは、どこでも構わない」

カロも、真剣な顔をして言う。


ここは、そんなに深刻に言うところ?


何か、ひどく尻込みしているような二人を相手にするのが、面倒臭い・・・いえ、わずらわしい・・・間違った、大変だったので、ハクに子供たちを見ていてもらい、強制的に二人を客間に連れ出した。



後から、聞いた話だと、見たこともない作りだが、家も立派で、中も綺麗で清潔だったので、自分たちのような獣人に汚されたくないと思っているのではないかと遠慮したのだそうだ。この世界では、自分の家に、獣人の匂いがつくのを嫌がる貴族がいるのだそうだ。獣人を使用人として使う場合、家畜小屋のようなところに住まわせ、肉体労働で、主に働かせるのが普通だそうだ。

可奈が、この世界の常識を知らないことは気づいており、後から追い出されることを、気にしたための遠慮だった。

可奈は、もしそうだったら、そもそも家に入れたりしないのだと、説得してようやく納得してくれた。

「それに、カロもマリアもお風呂どうでした?」

「初めて、ソープというものを使いましたが、いい匂いで綺麗になれて、とても気持ちがよかったです」

マリアには、好評だった。

「あぁ、最初は、これでもかって、汚れが落ちなかったが、湯船?につかるのは気持ちがいいな」

カロも気持ちがよかったらしい。獣人だから、マーキングの意味もかねて体臭を管理しているかと思ったが、そうでもないらしいので良かった。

「そうですか、それなら良かった。毎日お風呂に入ってくれれば、臭いもしませんし清潔ですよ」

「毎日ですか?水は、大丈夫ですか?」

「あぁ、それは、気にしないで。ここでは、水道の蛇口をひねれば、水とお湯が出ますから。ついでに、簡単に家の中を案内しましようか」


「じゃあ、この部屋から説明しますね。あちらの畳・・・草を編んだ床が敷いてある部屋とこの部屋は、食事をしたり、くつろいだりする部屋です。南側の廊下は、ハクたちが、夜寝床にしています。このカウンターよりこちら側は、キッチンです。皿などは、後ろの棚にもありますが、こちらの棚にもしまってあります。キッチン用品はこちらの扉を開けてくれれば入ってます。水はこの棒をあげてくれれば出ます」

マリアやカロが聞いてくるので、こと細かにキッチンを説明していた。ガス台や冷蔵庫など、物凄い魔法器具のように思っているらしかった。


やっと、リビングとダイニング、キッチンの説明も終わり、次に進むことになった。今回は、客間の件もあり、西側から案内することにした。ダイニングを抜け、土間を右に折れ、2階に上がる。2階の客間にとりあえず寝てもらうことにする。ベッドが2つありちょうどいい。

「定期的に風を通していますが、掃除しますから」

「このようなりっぱな部屋でなくてもいいのですが」

とマリアが遠慮がちに言う。

蒲団を干したり、部屋を掃除するというと、カロもマリアも率先して手伝ってくれた。

その前に、浴衣じゃ動きづらいだろうと、おじいちゃんの作衣と自分の緩めのジャージを着替えに渡す。

「とりあえず、今日のところは、これを着ていてください。また、探しますので」

「いえ、これだけで、十分です」

すごく恐縮している。

カロのパッツンパッツンの作務をみればそういうわけにもいかないだろう。



カロには浴衣を着なおしてもらった。





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