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52.帰宅

コミュ症は、どちらでもいい。かかっているのは、どう見ても子どもの命だ。傷はあまり深くはなかったかもしれないが、栄養不足は歴然としている。見れば、親の方もひどく痩せている。

「どうやって、生活をたてているのですか?」

獣人の男は、最初にあったときの攻撃的な様子はなくなった。可奈の言葉に最初は、何を言っているのかわからないようだったが、言葉が耳に入ってきたのだろう。

「何を言っているんだ?」

極めて落ち着いた常識的返事をしてきた。

だろうね。まず、可奈の言ったことを鵜呑みにするほうが、大人として心配になる。

でも、乗りかかった船である何とか説得しなければ、いけないと思う。なんと言ってもベルも見ているし、炎禾や鶏たちが成り行きを見ている。

「ここで、どうやって食料を得ているのかわかりませんが、どう見てもジリ貧ですよね」

「そんなことおまえに、かんけ「やめてっそうです。もう、限界なんです」」

男の言葉に遮るように女が答える。

「あなたが、無茶をしていることはこの間から気がついていました。でも、助けた子どもたち・・・違うっ自分のために目を瞑っていたんです。どうか、この人たちの言うことをきいてくれませんか。聞いてくれるだけでもいいんです。お願い」

男の手をとり、目を見つめながら、必死に男に向かって言う。男はしばらく女の顔を見つめ、大きくため息をつくと、可奈のほうを見た。

「すまなかった。そして、子どもたちを助けてくれて、ありがとう。話をきかせてくれ」



獣人たちは、親子でもなんでもなく、ベルのように捨てられていた子を、拾ってきたということだった。もともと、男は、国を追われ、住むところを転々としていたところある獣人の隠れ里のような僻地に住み着くようになったそうだ。ところが、人間の兵士にその里が襲われた。よくしてくれた里長に頼まれ、長の娘と一緒に命からがら逃げ出し、砂漠を越えて、この山の中に逃げ出したということだ。この禿山のような山脈を越えた先に小さい砂漠があり、真ん中のオアシスには、小さい村があるそうだ。そのオアシスは、交易地点となっているそうで、逃げ出すとき持ち出したものと引き換えに、食料を手に入れていたのだ。その換金率は、非常に悪く、ほとんど向こうの言い値だった。もちろんそれだけでなく、男がここらへんに生息する動物を狩って、生活雑貨を引き換えて生活していたのだが、持ち出したものも底をつき、狩れる動物もめったにいなく生活は困窮していった。

そんな生活でも、ぎりぎり2人が生活していくのならばどうにかなりそうだったが、男が、3日前に、狩った獲物を持ってオアシスに行き、帰る途中、馬車から捨てられた2人の子どもを拾ってきたのだ。

2人もできるだけのことは、しようと思ってが、いかんせん手段がない。安静にして、獣人の回復力に賭けるしかないと祈り、運を天に任せるしかなかった。


そんなところに、可奈たちがやってきたのだ。

問答無用で、攻撃するよね。どう考えたって。事情は、わかった。


今度は、可奈たちの番だ。山脈の向こうの砂漠を行ったところに住んでいて、周りがどんな様子か見に来たのだと正直に答えた。いぶかしげに聞いていたが、可奈の様子やベルの様子を見て、何か納得したのか可奈の言ったことをそのまま受け入れた。


話し終わり、再び、ここに残る必要はあるのかと改めて聞く加奈に、男の獣人はしばらく迷った後、ないと答えた。


それからは、最短ルート、最高時速で砂漠を突っ切った。


車に驚いていたが、走り始めると、興味津々で、可奈の手元を後ろから覗き込んでいる男の獣人に、臭いから離れてとはいえず、右足が力いっぱいアクセルを踏んでしまっていたのは仕方がないことだと思う。


因みに、痩せているとはいえ、獣人は身体も大きく、多少に荷物と大人2人で真ん中の座席がいっぱいになり、後ろに子ども2人を寝かせ、荷物の上にイエローとブラックに載ってもらった。炎禾は小さくなれるということで、なってもらい、可奈とベルの間に座ってもらうことにした。


さすがに疲れて、野宿をすることにしたのだが、男の獣人が運転をしてみたいとのことで、やらせてみると、説明をして、ほんの少し練習しただけで、できるようになった。ベルと炎禾が羨ましそうに見ていたが、炎禾はまだしも、ベルにはやらせん。

ぷくっ~と膨れたかわいいベルもに、堪能しながら女の獣人と食事を作る。男が練習しているのを見ながら作業をしていたのだが、急にイエローが鳴いた。

「コケコケコケ」

それに答えるようにブラックが、可奈のところに来て、何やら話す。この様子は魔獣が出たときに迎撃したいといっているときだ。

運転の練習している男の獣人を急いで戻す。イエローたちに許可を出すと、膨れていたベルも可奈を見上げ、許可を待つ。


・・・・・仕方がない。

「行っておいで。でも、イエローやブラックの指示から出ないようにね。気をつけてね」

ベルの頭をなで繰りながら言う。

「炎禾、ベルのことよろしくね。あなたも気をつけて」

当然のように、一緒に出ようとする炎禾にも言う。

イエローが鴇の声をあげ、砂漠に駆けていく。

行く先が魔獣でなければ、なんか良い感じの絵面だ。


ふと、顔を向けると、獣人たちが唖然として彼らの行き先を見ていた。


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