50.遭遇
さて、気持ちも落ち着いたし、目の前の問題である隠れている人をどうにかしよう。声をかけてみるのが一番だな。
「すみません。その岩の後ろにいる方、少しお尋ねしたいのですが」
と大きい声を出した。
ぜんぜんいるようには、見えていないけど。
みんなの言うとおりいればいいけど。もしいなかったら恥ずかしい。
・・・
反応がない。
本当にいるの?
「こんにちはっ!!そこに居る人!!!返事をお願いします」
・・・
またも反応なしだったが、隠れているという岩を見ていると、確かに何かが動いた。
「すみませんっ怪しいものではありません!!いるのだったら聞きたいことがあるのですがっ」
もう、ぶっちゃけなんでもいい。とりあえず、会って、話をしないことには、いい人か悪い人かわからない。
バリアがあるからこちらは、いざと言うときは大丈夫だし。
「みんな、私と車の近くから離れないでね」
そう言うと、ベルや炎禾は頷いてくれた。イエローは聞こえないふり、ブラックは、少しだけ何言っているの感が漂っている。
まぁ、この2匹は通常運転だね。
自分のことは、私が面倒見るよりよっぽどしっかりしているので基本口出しすることはない。それでも一応注意だけしておく。
岩の陰から槍のようなものを持った毛むくじゃらの人が出てきた。
ってか、顔、狼じゃね?
テレビに出ていたバンドの人が被っていた被り物にそっくりだ。
被り物?
それともまさかの獣人?
・・・・・・正解は・・・・
獣人でした。
「動くなっっ!!!そこで、止まっていろっ!!!」
動く気もないし、何をする気もない。
「何をしに来たっ!!!」
少し発音が人と違うけれど、十分に聞き分けられる。話すのに合わせて口が動く。表情も微妙に変化する。どう見ても作り物でない。
本物の獣人ってヤツでした。
なんか魅入ってしまった。
「おかあさん・・・」
横にいたベルが、呆けている可奈を怪訝な顔で見上げ、小さく可奈の腕をゆすって正気にさせる。
はっとして、現実に戻る。獣人でも人は人であるようだ。話がわかれば友好的に、そうでないなら仕方がない。とりあえず、話をしようと先ほどの質問に答える。
「旅行ですっ!!!」
言った瞬間自分でもないなと思った。
ないわ・・・これはないわ。
日本のような治安が良い所ならまだしも、ベルに聞く限り、文化的には、中世真っ只中って感じ出し、砂漠化が進んで、貧困と食糧難が自体を悪化させている。ほぼ、人を見たら泥棒と思えな感じだろう。
ないわ・・・・
「本当のことを言えっ!!!」
そうだろうな・・・・
「本当にっ旅行ですっ!!!」
言うしかない。
つうか、なぜ、怒鳴りあわなければ、ならないのか。喉が痛い。怒鳴りあうだびに、乾燥して埃っぽい空気が、肺に入り込み、むせそうになる。
もう、なんだか面倒臭くなってきた。
ベルを除いた現地人との初めての遭遇に緊張するかもと考えていたが、思ったほどではない。こちらも良好な関係を無理やり作らなくいいと開き直っているせいかもしれない。武力で来る場合は、過剰なほどの戦力が満ちてるし、なぞバリアもある。
もう、ばっちこいである。
それでも、できる限り、いざこざは起こしたくない。
「武器を捨てろっ!!!」
しばらく時間がたった後、獣人が告げてきた。
何を言ってるんだろう。槍持っている人の前で丸腰になる馬鹿いるのか?
そもそも、武器なんて持ってないけど。
「武器など、もともと持っていません。それよりも、このまま騒いでいるつもりですか。穏便に話ができませんか」
普通の声の音量で話した。意外に声が通った。それでも、聞こえていないかと思ったが、返事が返ってきた。
「わかったっ!俺が、そっちに行くっ」
獣人がゆっくりとこちらに向かってきた。
近づいてくると、思わず顔をしかめそうになる。
・・・・臭い。
近くまで来てよくわかる。
・・・獣人だ。
リアル獣人だ。狼が襤褸だけど服を身にまとい二足歩行している。手は人間の手と変わらない5本指だ。でも、肉球がある手のひらや指が分厚く大きい。爪が鋭く固そうだ。手の甲から指先まで毛で覆われている。足は、裸足だ。犬の足っぽいが、爪がこちらもすごい。頑丈そうだ。
靴いらないよね。確かに。
耳・・耳は・・・動いている。右に・・左に・・・
SFXでは、味わえない。リアル犬耳っ
でも、臭い。
尻尾は・・・尻尾は、どうなったっ!!
後ろを覗こうとして、ベルが、可奈の服をつかんで気をひいた。
「おかあさん・・・」
はっ!!しまったっ!何この獣人魅了魔法。あまりにも強力すぎだ。
・・・主に、自分に。
「こほんっ。はじめまして。可奈といいます。この子達は娘です。先ほども言いましたが、旅行をしています」
自分なりに丁寧に、ゆっくり話しかけた。狼の獣人は、険しい顔のまま、可奈の言葉に答えた。
「・・・・・・おまえたちだけか?」
おいおい不躾だな。礼儀をしらんのか?獣だからか?挨拶したら、仕返すだろう普通。
はっ!“普通”は、ここには、ないのか?
勝手が違いすぎる。
「私たちだけです。失礼ですけど、あなたは、おひとりで、こちらに住んでいるんですか?」
穏便に、穏便にだ。
「旅行と言うが、どこから来た」
話がかみ合わない。というか、話す気がないのか?
「この山の向こうからですが、お話できないようですので、これで失礼します」
現地人との初遭遇失敗である。
「嘘を言うなっ!!本当のことを言えっ!!」
急に激昂して、槍を構えた。槍先が、目の前に・・・・
「動かないでっ!!」
イエローやブラックが飛び出そうとするのを抑える。
ガッツン
バリアが弾いた。
謎バリア万歳!!!!!
動くなといったのを、自分に言ったと勘違いした獣人は、「何だこれはっ!!」と騒ぎながらガツガツと槍をぶつけていた。
その勢いがあまりにも凄すぎて、少し怖くなりベルを引き寄せ車に乗せる。後ろのドアを開け、炎禾やイエローたちをのせ、運転席に乗り込む。見ているとまだ、槍で性懲りもなくつついている。
なんか槍の先が壊れそうだ。
あっと思う間に、槍の先が吹き飛んだ。勢いついてバリアに顔ごと突っ込んで顔面をぶつけ、折れた槍の柄が身体に当たって怪我をしている。
何、このコント。
独り相撲を地でいっているってすごくない?
「あの人大丈夫?蹲っているよ?血が凄く出ている・・・・」
ベルにまで、心配されている。
ふっと視線をはずすと、最初に獣人が隠れていた岩陰から何かが飛び出てきて、蹲っている獣人に走り寄った。
子どもの獣人だ・・・・・と思う。
呻いていた獣人に取りすがるように怪我の様子を見ている。
「大丈夫っ!!!!みせてっ!!こっちむいてっ!!」
声を聞いてわかりました。子どもではありません。女性でした。
ベルを見て、みんなを見る。
私が何かしたわけじゃないよね?自滅だよね?なぜそんな目で見るっ!?
みんなには車から出ないように言い、車から降りた。
「あの~大丈夫ですか?」
女の獣人は、男の獣人をかばうように、こちらを見上げ必死な目で訴える。
「申し訳ありません。すみません。お許しくださいっ」
背中でかばっている男の獣人がいなかったら、土下座しそうな勢いで、誤り倒してくる。
私ってむやみやたらに非道なことをする人間に見えるの?男の獣人の攻撃よりよっぽど堪えた。
「あの許すも何もこちらに害はなかったので・・」
男が、痛みを堪えながら女の獣人を後ろに庇おうとし、女の獣人と揉めている。
「本当にっ話を聞いてください」
ちょっと強めに、言う。
これで、話ができなかったら帰ろうと思い、最後だと思っていった。
「すみません。話、聞きます」
男の背に後ろに追いやられながら口を聞く。
「話すなっ!!!!」
男の獣人が怒鳴る。
「もういい加減にして、あなた本当に馬鹿なんじゃないですか?頭おかしいの?その方とお話しますからあなたは、もう黙っていてっ!!」
ぶちきれた。
初対面の人に、こんな無作法なことは言ったことがない。日本にいた頃だったら、自分のほうが頭おかしいと思われる。
でも、日本には、こんなおかしな人は普通いない。
いきなり、怒鳴りつけて、にげようとしたら槍で攻撃してくるなんて、どこかの犯罪そのままだ。
こんな話の通じない人会ったことがない。自分に係わりがなければ無視できるが、有益な情報をできるならほしい自分にとって、この女性と話ができるのは、チャンスである。それを悉く邪魔するこの男は、害獣である。
といっても、排除するわけには行かない。女性がどう見たって、一生懸命庇って介助しているのだ。
ここは、大人な対応をしよう。
こちらの怒鳴り声で、目を丸くして、硬直している二人に、近づいていった。近づいて目がはっきり見える位置に来て気がついた。
怯えている?
はぁ~私って、怖がられるの?
まじ、初めてだ。
凄くショックだった。
何とか言葉を紡ぎだす。
「・・・私は、何もしません。怪我を見せてください」
親切心ではない。なんとか名誉回復とか・・・ちがう・・・初対面の印象をよくしたい。
男は怯えつつ怪我を庇い、女を後ろに下げさせようとし、女も男を横から庇い話されまいとしている。
男が、口を開いた。
「すまなかった。この女には、関係ないことだ。罰するなら俺だけにして欲しい」
それまでの攻撃的な様子が一気に影を潜め、悄然とうな垂れた後、可奈の目を見つめながら訴えてきた。
何がどうなって、可奈がこの二人を罰せなければならないのか、本当にもうぜんぜんわからない。
確かに、急に攻撃してきたのは恐ろしいが、実のところ本当に、可奈たち自身に危害を及ぼそうと思って槍を振るってきたわけではないように見えていた。
まぁ、怖いには怖かったが、結局、可奈たちを追い払いたかっただけのようだったので、不法侵入に近い可奈たちにも悪いところはあったことは承知していた。
「いえ、こちらも、断りもなくこの村?に入って家捜し見たいな事をしてしまって、申し訳ありません」
たとえ、廃屋のようなところでも、他人に無断侵入されたらいい気持ちがしないし、怒るだろう。
謝る加奈に、驚いたように、目を見開き、戸惑ったような顔をして、男が、もう一度謝罪してくる。今度は、本当に自分の暴挙を謝罪しているようだった。
「いや、本当にすまなかった。人族がここまで、攻めてきたのかと思ったんだ」
攻めてきたって、女子供に鶏だよ。まともに殊勝なことを言っているように見えるけど、内容おかしいよ。
「え~と、その人族とは、たぶん違うと思います。私たちは旅行に来ています。まあ、とりあえず、その怪我見せてください」
男が抑えている横腹を少々強引に見せてもらう。この際多少の臭さは、目をつぶる。
・・・・毛むくじゃら過ぎて良く見えない。
「ベル、救急箱とって」
「はいっ」
車に乗っているベルに言う。興味津々で、降りたそうにしていたベルは、すでに手にしていた箱を持ってすぐ降りてきた。
準備がいい・・・・何この賢さ!!!ちょ~可愛いんですけど。
観念したのかされるままになっている男に言う。
「ちょっと傷の周りの毛を切りますね」
はさみを取り出し、遠慮なく切る。刃物を取り出すことで、また男を刺激しては、叶わないと思い、初めに了解を得る。
結構深く切り裂いていたようだったが、傷口に入っていた木屑を取り去り、消毒をすると意外に早く血が止まった。水絆創膏を縫っておく。血が出た割には、本当にかすり傷だ。さらにばい菌が入らないように大き目の伴奏子を貼り、応急手当終了だ。
それまで黙って、気遣わしそうに手当てを見ていた女の獣人に向き直り、改めて自己紹介する。
「初めまして、可奈といいます。これで、一応大丈夫だと思いますが、後は、医者に見てもらってください」
決まりごとなので、一応言っておく。
「医者?医者ってやつに見せないと駄目なのか?」
男が怯えたように心配そうに言う。女の獣人も不安そうに男を見た後、縋るようにこちらを見てくる。
「いえ・・・あの、たぶんもう大丈夫だと思いますが・・・」
失敗した。時と場合を分けて、言葉を選ぶべきだよ、自分。
でも、初対面の人にそんな高度な会話ができないんだよ。
・・・・・コミュ症なんだよ。
「あの・・・医者って、人族の魔法使いですよね」
何、その医者イコール魔法使いって。そうなの?
「ええっと、とりあえず、本当に大丈夫だと思いますよ。なんか、この方、凄く回復力があるみたいで、治り早そうですから。心配なのは、ばい菌が入っていないかどうかで、抗生物質を処方してもらえればと思っただけですから」
「ばい・・?こうせい・・・?」
女の獣人が繰り返したことでわかったが、その単語は日本語でした。こちらの単語で、ベルがわからなかった場合、自然に日本語で話すことになっていたのに気がつかなかったのはうっかりだった。
「いえ、今言ったことは忘れてください。えっと、ここに住んでいるのは、あなた方おふたりなんですか?」
女の獣人が、躊躇うように口に出す。
「いえ・・・「言うなっ!!」・・」
男の獣人が言葉を遮るように、怒鳴る。
「大丈夫よっ。この人は、信用できる人族よっ」
「何を言っているっ人族なんか信用できるかっ」
「他の人族は信用できないけど、この人族は、高価な薬をあなたに惜しみもなく使ってくれたわっ」
「そんなのは、騙すためにやったのかもしれないだろっ」
「私たちを騙そうとしていたっ!?そんなこともわからなくなっちゃたのっ!?」
なんか、可奈を置きざりに二人がエキサイトしている。話をするとき怒鳴りあうのが獣人では、普通の感覚なのか?
れに、女の獣人がなんか最後に変なことを言っていた。騙そうとすると、獣人にはわかってしまうのか?
獣人恐るべし
「あの・・・それで、騙すとかなんとか、何を騙すのかわからないのですけど、とりあえず、ほら、2人きりだと、急に男方が具合が悪くなったとき、あなた独りでどうにかできるものなのかどうか聞きたいと思って尋ねたのですけど」
「・・・そんなにひどい怪我なのですか?」
「いえ、本当に、たぶんかすり傷程度だと思いますけど、槍で怪我したこともないですし、治療したこともないので、少し心配になって。槍といっても折れたもち手で怪我したみたいですから、木で怪我したのと同じだと思いますけど」
「あぁ、それでは、大丈夫だと思います。私たち獣人は、治癒力と回復力は人族より大分発達してますから」
「そうですか、それなら安心です。え~と、それでは、私たちは、これで失礼しますね」
何か厄介ごとににおいがぷんぷんする。早く、この地を離れたかった。車の乗ろうと、踵を返したところで、女の獣人に呼び止められた。




