49.山脈を超えて
その町?都?は、案外南よりであった。そのまま、家から南側のほうを見ようと動かした。しかし、家より西側のほうに行くと、画像の右側が削れている。
故障か?
家の北側も、今度は左側が3分の1ほど削れている。西側にいたっては、全くない。
ヤバイ、使える君だったナビ様は、局所的だったのか。
・・・・ナビが?・・・・
待て、待て、待て、待て。
・・・・周りがうるさい。
今、何か閃きそうだ。
その間もベルが、壊れてしまったナビをいじっている。イエローやブラック、炎禾まで口を出して、騒いでいる。
待て待て待て・・・・ナビは、なんでマッピングしたんだ?
この車に乗っている人の知識が繁栄しているんじゃないかって、さっき考えていたばかりだよね。
誰の知識だ?
・・・炎禾、あんた、なぜ他のみんなと騒いでいるの?
今あるナビの知識は、あんたの知識だって、さっき私誉めたよね?あんたが、今のところこの世界では、一番知識が豊富なんだから、あんたの知らない場所が載るわきゃないでしょうがっ!!!
もう一度言おう、なぜ、あんたがみんなと一緒に騒いでいるの?
可奈が見つめているのに気がついたのか、可奈のほうを振り返る。
テヘッペロをされた。
何このお茶目。私のこの残念感をどうしろと。
炎禾に問いただしたい。
結果・・・推論は正解です。
炎禾の知らない所は、ナビに載らなかった。
一瞬使えないやつだと、舌打ちしたい気分になったが、考えてみれば、3000km四方は十分カバーしたマッピングだ。
可奈たちが、地道に埋めようとしたら、何年かかるかわからない。地図作りには、貢献度大だ。ましてや、山脈の向こうの様子など超えるのにも、指南の技なのに、ずいぶん詳しく土地の様子がわかるなど、ものすごく便利である。
文句を言うのは、止めよう。あまりにも恩知らずだ。ただ、この能天気そうな様子を見ていると、ありがたみが、一気にかけるのだが・・・・
まあ、気を取り直して、地図を見て、この山脈を越える道を探そう。
ベルたちと一緒に、ナビを見つめる。地図にしたり、写真機能にしたりして、車で行けそうな所にあたりをつける。ときどき、とても行けそうのない所を、案に出す精霊様の意見は、却下である。
ここは、飛べばいいとか、ここら辺から転移すればいいとか、無茶な方法を盛り込んでくるからだ。
人は、飛ぶことも、転移もできないからっ!!!
ああだ、こうだと議論を交わし、どうにか大分南に下ったところで、進めそうな場所を見つけた。
このまま、真っ直ぐ山脈に向かわず、南に進路をとる。南下して、尾根の低いところを回り込んで抜ける計画を立てた。
計画が決まったので、出発だ。
とはいっても、まだまだ、ずっと遠くに小さく山並みが見える程度の距離にしか来ていない。先は遠い。ゆっくり行こう。
・・・・アクセル全開で。
その日は、身体が、こちらの世界の、時間に慣れたのか、昨日よりも、体調が地球時間に引きずられない。快調である。ただし、こまめに休憩を取り、水分と食事を取るように気をつける。小さい子がいるのでなおさらだ。だから、車から降りて、足を伸ばすと、休憩中に戦闘をするのは、止めて欲しい。切実な願いを持っているのは、可奈だけである。
や・め・て・・・・
言うだけ無駄であった。車の中では、DVDを見たり、お菓子を食べたりとそれなりに楽しんでいるが、車の狭い中で窮屈そうにしているのを見ていれば、あまり強くもいえない。
あまり、強くもいえない。
大事なことなので、2回言いましたが、あまり図に乗るんじゃないっ!!!イエローっ!!
なぜ、そんな遠くまで、わざわざ、魔獣を探しに行くんだっ。戻って来いっ。
「イエロー、そんな遠くに行くと、置いてくよ。戻っておいで」
大きい声で、声を張り上げる。
「私、呼んでくるっ」
と言うやいなや、ベルが、駆け出した。
「駄目っ!!!ベル、車から離れては、駄目っ!!!」
急いで、追いかける。
「大丈夫っ。すぐ戻るからっ」
「駄目っ!!!」
気ばかり焦り、足が進まない。砂に足がとられる。
「あっ!」
・・・転んだ。
顔から。
急いで立ち上がるが、ベルは、炎禾とはるか向こうに、走っている。
「コケッ」
すぐ後ろで、ブラックが声をかける。相手なんかしてられないと、急いで歩を進めるも、足が、砂にとられまくる。
コケコケうるさいぞ、ブラック。
目線の先では、獲物を見つけたイエローが戦っているところに、ベルたちが参戦している。
半分も可奈が行かないうちに、戦いは終わったようだ。
3人?が、意気揚々と引き上げてきた。
・・・・・どういうこと?
なぜ、追いかけている最中に、全てが終わっているの?
そこに立ち止まって、帰ってくるのを待つ。どうやら、ここの魔獣は、ベルたちの敵ではないようである。
でも・・・・・どういうこと?
答え・・・可奈の身体能力は、7歳児以下である。
鶏たちの能力が、凄いことになっているのは知っていた。ベルの魔法が、すごいことも知っていた。精霊の能力も、おそらく凄いと想像はついた。
しかし、しかしである7歳児に、駆けっこで負けるとは思わなかった。
はっ、体重か!?重みで砂へのめり込み具合が違うのか!?
痩せろということか?
1人ショックを受け、呆然としていると、ベルたちが戻ってきた。可奈の言うことを聞かず、叱られると思ったのか、ベルが、少しばかりに愁傷に自分から謝ってきた。
本来なら、止めるのも聞かず勝手に走り出したベルを叱らなければならないところだが、ショックが、大きくてなんとなく曖昧に諌めるだけで終わってしまった。
これが、後に日常になってしまうとは思わなかった。
ようやく、山脈のふもとにたどり着いた。着いたといっても、まだまだ、遠くである。迂回をして回り込むには、先が長い。もうスピードメーターは、常に振り切っている。あと半日走って、山を越えられなければ、引き返すことにした。ここで、ナビ様大活躍である。車が通れるところを、勝手に検索して、道順を示してくれる。出来る奴である。
次第に、コケやシダらしきものが生えている。・・・・・高山植物か?振り向くと、後ろに山並みが見える。どうやら、山のこちら側に来たようだ。とはいっても、まだまだ、緑多い台地とは、言いがたい。荒野の山岳地帯と言う感じだ。数時間走って、何度か上り下りを繰り返し、変わらない風景に、飽きてきた頃、ナビに、家らしき建物が示された。寄ってみることにする。
「あれだよ」
いち早く、ベルが見つけた。枯れ果てた木々の間に、家というか小屋の影が見えた。現地人との遭遇か?大丈夫か?ちゃんとした人たちか?
不安が押し寄せる。
車を手前でとめて降りようかと考えたが、何かあったときすぐに逃げ出せるように、家の手前まで寄せる。近くまできて、家が、すでに廃墟になっているのがわかった。人気は全くなく、よく見れば、家も屋根が壊れて、反対側は、壁もない。車を進めると、一軒ばかりでなく、数十件の家の残骸が立っていた。
小さな集落の廃墟だった。
「誰もいないのかな?」
ベルが、あちらこちらを見ながら言う。車をゆっくり動かしながら先に進む。車で、行けるだけいったほうがいいだろう。
「人が住んでいられるようなところじゃないね」
わずかばかりのぺんぺん草が、やっと集落のまわりに生えているぐらいだ。土は乾き、ごろごろと、石や岩がめだつ。ときたま、あばら家も土煙でおおわれている。集落のそれでも中央あたりだろうか、広場のように開けているところがあった。周りを見渡し、誰もいなさそうだったので、車を止め降り立つことにする。
「降りてみよう、ベルはちょっと待ってて」
「私も、「コケッ」」
1人で、辺りを確認しに行こうと思ったが、すかざず皆も降りたがった。
考えてみれば、自分たちの戦力で炎禾は未知数だが、鶏たちが一番で、次がベル、最後が加奈である。この旅行でつくづく思い知った。こいつらは戦闘脳だと。
「たぶん、何もないよ・・・・そんな顔をしないでも・・・わかった。絶対、私の周り。半径3mから出ないでよ。何があるかわからないからね」
可奈が車から出ることを禁止しようとすると、不満そうな顔で、頬を膨らませる4つの顔があった。全部で8つの目に見つめられて、抵抗できるわけがない可奈であった。
「「やったぁ」」
「「コケッ」」
炎禾まで、ベルの真似をして、子どもっぽく喜びを表す。
・・・・・かわいいから、いいけど。
皆で車から降り、比較的、まともそうに建っている家に向かう。他の家より少し大きめで、広場に、一番近い。
戸はない。中は、土間で、何もない。奥に、2つ戸がついている。立て付けが悪いが、無理やり引っ張る。部屋のようだ。天井が抜け落ちていて、壁が片側壊れている。室内は、板張りがされていたようだ。床板と思しきものが散乱している。
「うわ~すごいね」
ベルが、家の壊れ具合を端的に表す。
そうだね。もうこれ、建っているだけ、邪魔じゃない?家の持ち主が誰か知らないが、空き家といっても程がある。戻って、別のドアを空けるが。ほぼ、崩壊して、外といっていい。
そこから、外にそのまま出て、次の家に向かう。
ブラックが、急に可奈の前に出る。
「ちょっと、急に前に出ちゃ「コケッ」・・」
言っているそばから、イエローもベルの横に行く。炎禾は、可奈の後ろに浮いている。
「あんたたち、どうしたの」
だただならない様子に、ベルも可奈にくっつく。ベルが緊張しているのが、伝わってくる。
ぜんぜん可奈には、わからない。周りを見回す。さっきと同じ殺伐と乾燥して撃ち捨てられた集落の風景しか見えない。
それでも、辺りを見ながら、後ずさりしながら、車のほうに移動する。可奈が車の助手席側に近づき、ベルを乗せようと、ドアに手を掛けた瞬間、ブラックが、警告するように、大きい声で鳴いた。
びくっとして、ドアのノブから手が滑った。
「うわっ、何」
「あれっあそこ。人がっ」
ベルが奥の広場の向こうの遠くの家のほうを指差す。
えっ人?
急いで見るが、見えない。
どこっ?
わからない。
「どこっ?」
焦って、ベルに、聞く。
「ほら、あそこ、あの、枯れた木の一番むこうの家が見えるでしょ。その裏の岩の陰に見えてる。こっちを見てる」
・・・・ぜんぜん、見えません。
かろうじて家があって、岩らしきものが見えるけど、どの岩のこと?
ここから、200mぐらい離れてない?岩の陰の人って?何!?
みんなが、見えているのだから、本当にいるのだろう。
誰?
私たちを、警戒している?狙っている?どっち?
「弓か、何か、飛び道具みたいなもので、狙っていない?」
「う~ん。わからないけど、見てる」
「動かないの?」
「こっちを見張っているんだと思う」
う~ん、いきなり襲われたら対処のために即戦闘だけど、こういう場合どうしたらいいんだろう。
はっ!まずい、何が即戦闘なんて、考えているんだね自分。皆の脳筋思考に染まっているっ。
冷静になれっ!
深呼吸をして、落ち着く。
「何やってるの?」
不安そうに見つめてくるベルの目が、心に刺さる。
そうだよ、この非常時に何やっているんだろう。
とは言っても、可奈バリアがあるので、正直なとこ、みんなの安全は、確保されている。だから、この非常時っているよりも、心に余裕はあるんだよね。
ここのところのやたらめったらな好戦的な環境に染まっているのかも・・・・とも言うかもしれない。




