46.光の中から現れたのは
簡易シャワーを浴び、久しぶりにすっきりした後、BBQをした。カラオケをしたり、ベル、イエローとブラックの3人?で、振りつきで踊ってみたり、羽を伸ばしきっている。さすがに、力を使い果たしたのか、2時間も騒ぐと、みんな電池が切れたように、眠りについた。
可奈だけ取り残して。
歌や踊り、ほんとに、うまいんだよ。ベルも鶏たちも。ベルも最初は、一緒にやろうと誘っては来たものの、ついていけない可奈を見かねて、最近では、お客専門が定位置なんだよ。
まあ、見ごたえあるからいいんだけどね。
・・・別に、1人きりではじかれて拗ねているわけではないからね。
誰に、言い訳しているのかわからないことを、考えながら、明日の支度をしていると、ベルたちと一緒に寝たと思った精霊が、テントから出てきた。
ベルならトイレかと思うところだが、人型でいくら子供だとは言っても、夜中のトイレは、起きださない。
あれ?トイレなんか行ったのを見たことないなぁ。そういえば。
トコトコとわりとしっかりした足取りで、可奈のほうに近寄ってきた。
「どうしましたか?」
声をかけると、黙って、可奈の足元まできて、見上げている。抱き上げて、片付けていたテーブルの上に、座らせる。
「眠れませんか?」
じっと可奈を見つめている精霊に話しかける。前だったら、そこはかと不気味さを感じて躊躇していた夜中のふれあいも不思議となんでもなくなっている。
「・・お・・・おっ・・・おか・・あ・さ」
はあっ?しゃべった?この精霊しゃべった?
声は、ちょっと聞き取りづらい。声量が小さいせいもあるけど、かすれて聞き取りにくい。でも、しっかり言葉を話している。
驚いたが、精霊を驚かせてはいけないと、なるべく落ち着いた声音で聞いた。
「話せたんですか?」
声が裏返った。だめだこりゃ。
「・・・・お・・かああ・・・ささん」
質問は、無視らしい。
一生懸命声を出そうとしているようだ。
だが、おしいっ“あ”は、かろうじて許容範囲だが、“さ”は、多い。全体的に、壊れたCDのようで、はっきり言って、不気味再になっている。
つうか、“おかあさん”って何?私のこと?返事すればいいのか?
「え~と、はい」
目の前の精霊が、花が咲いたようににっこり笑った。
思わずこっちも、にっこりしてしまう。
ニコニコとこちらを見上げている。
・・えっ?何?
精霊の目が何かを期待している。
なんとなくだが、何かをやって、できたベルの笑顔と似ているように感じた。
「精霊様、よく出来ました。頑張ったね。」
といいながら、精霊の頭を撫でる。
さらに精霊の笑顔が満面に広がる。
正解だったらしい。
「お・・かあ・さん。だいすき」
テーブルからひったくるように抱きしめてしまった可奈を、咎めることなど誰も出来ないと思う。
ちょ~可愛いんですけど。
気を落ち着けて、精霊を再びテーブルの上に戻した。
「精れ「なま・・え・・つけ・・て」・・い」
はあ?私が名付けよと?いいの?ってほんとに、そういう意味で言ったの?
「あの精霊様のお名前を私が名付けてよろしいんでしょうか」
にっこり笑って、大きくうなづかれた。
聞き違えじゃあなかったんだ。
はあ、名前って、そんな急に・・・“炎禾”
唐突に頭に浮かんだ。ここは、もう直感だ。私は、直感に生きる女なんだ。
・・・開き直りとも言うが。
「それでは、“エンカ”で、どうでしょう。漢字で“炎禾”と書きます」
といった瞬間、目の前が真っ白の光が爆発した。
「炎禾っ!!」
思わず、つけたばかりの名を呼び、目を背け、手をテーブルの上の炎禾が、乗っていた所に出す。人形程度の大きさのものをつかむつもりの手が、何か大きな物体にぶつかった。光が収まらず、まだ直視は出来ない。ぶつかった感触は、明らかにいきものだ。手を引っ込めたが、精霊はどうなったんだろう。
焦りが生まれる。
「炎禾っ」
大きな声で騒いでしまう。
「おかあさんっ」
「「こけっ」」
テントから、ベルと鶏たちが、飛び出てくる。それが、横目に入り、少し冷静になった。
「近づいてきちゃダメっ」
テーブルの端を持って、テーブルの上に載っているものを、ひっくり返して落とそうと考える。
あれっ?でも、精霊も乗っかっていた・・・・冷静になっていなかった。
・・・どうしよう。
そんな可奈の葛藤をお構いなしに、徐々に光が弱まってきた。
あれっ?この後、何か出るの?何か準備しとかなければいけないとか?やばくね?
「ベル、もっと下がってっ」
「おかあさんっ」「「コケッ」」
なぜ私のすぐ後ろに来るっ!?
「ベル、離れてっ!!」
もうなりふり構わず、ベルだけでもと思い、怒鳴りつけるように言う。
「いやっ!!!」
えっ!!自分の言葉が拒否されたっ!!!
こんな場合なのに、すごくショックを受ける。
っていうか、こんなときに、反抗しないでぇ~。最後の光がおさまって大きなものがテーブルにのっかている影がはっきりしだした。
ベルの反抗期に、振り回されている場合じゃない。ベルを横抱きにして、後ろに5mほど下がる。前にイエローとブラックが立ちふさがってくれる。
「おかあさんっ」
あれっベルじゃない。横抱きにしているベルが言った言葉じゃない。
誰?
声のしたほうを見る。
テーブルだ。
テーブルの上に、大型版精霊が乗っている。
あれっ?目の錯覚?
精霊が、大きくなっているんですけど~。
ついでに、捨てられた子犬みたいに、こちらを見ているんですけど~
可奈の取った行動にショックを受けたように見ているんですけど~
罪悪感半端ないんですけど~~~~~~
この場をうまく収めなければ、ベルの信用をなくしてしまうっ。
愛想笑いをしながらベルを小脇に抱えたまま、テーブルのところに戻る。イエローやブラックの横を通りすぎるとき、“あんた何やってるの?”的に振り返ってみてくる。
おまえら、まさか気がついていたのか?
精霊がただ大きくなっただけだって、わかっていたのか?
はっ!そういえば、攻撃態勢とってなかったわ、こいつら。大丈夫だってわかってたわ。絶対。
可奈が、あたふたしているから、とりあえず、付き合っているって感じだったわ。
今も振り返って見る目が痛いわっ!!なぜわかった!!!知ってたら教えようよっ。
・・・・・・口が聞けなかったわ、この鶏たち。




