45.進展なし
時々休憩を入れたり、おやつを入れたりしながら、可奈の家時間で、夕方の6時になった。実際には、太陽が、南中している。食事をしたが、このまま、一日が終わるという感じはしない。というか、この流れで、眠ることは、どう考えても無理だ。
疲れたら、そこで、運転を止めることにして、走り出すことにした。
出発してまもなく、ベルが蹲っていた地点についた。なぜわかったかというと、ナビ様である。マップにベルがいた地点に、点があり、ベルと記入されていた。
何これ?
何仕様?
意味がわからない。
でも、すごく役に立つ。
ナビ様である。
そんなことはさておき、ベルが、いたところまで来て周りを見て気がつく。
何もない。
見果たす限り、平坦な砂漠である。この世界に来たばかりの頃の家の周りのように、四方八方で、地平線が見える。
ベル、どこから来たの?
大人でも、何の支度もしないでたどり着ける場所などこの場所からは、見えない。ましてや子どもの足で、人の住んでいる場所へは、行けそうにない。
あれ?荷馬車で、どこかに連れて行かれるところだったって、言ってたかな?
「ベル、どっちから来たかわかる?」
ベルも、可奈に言われて、周りを見渡していたが、可奈に話しかけられ、しばらく考えて答えた。
「ううん。わからない。精霊様が、ここまで、飛ばしてくれたから」
はぁ~。出たよ。精霊様。
可奈が、億劫に思っていると、今まで、車の座席に座って、昼の残りのサンドイッチを味わっていた精霊が、座席を乗り越え、運転席から出てきて、可奈の服をひっぱった。
精霊が来たことに気がつかなかった可奈は、突然、服をひっぱられ、ものすごく驚いた。
不遜なことを考えていたのが、ばれたか?
内心びくびくしていたが、そ知らぬ顔で、精霊に向き直った。
「どうされましたか」
精霊は、可奈の注意を引けたことで満足したのか、服を放し、今度は、可奈たちが向かっていた方向である家から東の先を指した。
「精霊様、ベルがいたのは、ここを真っ直ぐ行ったところですか?」
精霊が、にっこり笑って、肯いた。自分の言いたいことが通じたのがうれしいようだ。なんだか、こちらもうれしくなってしまう。
本当に、この精霊が、ベルを助けてくれたのである。
このとき、はっきり可奈にも、わかった。
可奈は、精霊の前に膝を付き、目線をあわせて、お礼を改めて言った。
思わず、口から付いて出たのだ。
「精霊様、ベルをお助けくださり、本当にありがとうございました。あなたが、いなかったらベルは、今ここに、おりませんでした」
精霊様は、少し照れたように、はにかんで笑った。
ちょ~可愛いんですけど。
邪魔扱いしたり、気味が悪いと思ったり、めんどくさいと思ったりして、本当に、申し訳ないと猛反省した。
ベルも、可奈の横に膝をつき、可奈のまねをするように、精霊様にお礼を言った。
「精霊様、本当にありがとうございました」
「コケッ」
イエローまで、お礼を言っているようだった。
よくわからないが。
さて気を取り直して、車に乗り込み、出発だ。
それから車を2時間ほど走らせた。距離にして、300kmほどだ。
何もない。
四方八方、何もない。
見えるものといったら、これまでも、時々現れていた魔獣だけだ。
さすがに、疲れを感じてきたので、車の中で、仮眠を取る。横では、とっくに、ベルが寝ている。2時間ほど寝ると、目が覚め、食事を取りさらに走る。生活習慣めちゃくちゃだと感じるが、体内時計?っていうのが、日光に関係あるんじゃないかと、ひそかに思っっている今日この頃なわけですよ。可奈としては。この世界と地球と2倍の時間差があるのだけど、1泊2日の砂漠宿泊訓練をしていて感じたことだが、この世界で、太陽が出ている時間は、活動していても、あまり眠くならないのだ。そのかわり、夜、活動するのは、結構眠くて大変だった。
さすがに、1日か2日で、慣れるのは、無理があるだろうが、長くこの世界の時間単位で、生活していれば、慣れてくるんじゃないかと、思っている。
そんな具にも、つかないことをつらつら考えて車を走らす。
しかし、何もない。以下略。
そろそろ、この世界の夕暮れも近づいてきた。それでも全く何もない。道中ぼちぼちと、他のメンバーも目を覚まし、歌を歌ったり、お菓子を食べたり、持ち込んだゲームやDVDを見たりして、また車の中が、賑やかになる。
東の地平線の向こうに、低く山並みが見える様な気がした。太陽の残照だろうか、蜃気楼のように大気が揺らめく。目をこらして、よく見ようとする。
「あっ!!果ての山脈だ」
ベルが隣で弾むように声を上げる。
あっやっぱり、見間違いではなかったのか。
「果ての山脈?」
「うんっ私の住んでいた城の塔から、人の住む最果てが見えていたの。あれ?最果て?おかあさん住んでるから・・・」
「まあ、お母さんは、後から来たから、たぶんそのときは、最果てで正解だったと思うよ」
「そうかっ。それでね。そこから山脈とか見えていたんだけど、すごく遠くに、あの山脈が見えたの。あの山脈だよ」
まあ、たぶん、ベルの言っていることは、間違ってはいないだろう。あそこの山脈がどれぐらい遠いかわからないが、その向こうが、人の住んでいる土地だろう。けっこう近いな。
・・・・と思っている自分がいました。
あれから、日が落ちて、3時間ほど走ってはいるが、いっこうに近づかない。どういうこと?
ここで、キャンプをすることにした。
車から、テントや寝袋を出して寝る準備を整え、食事の支度を皆でやった。車のバッテリーは、不思議な家と、同じ仕様なようなので、ずいぶん楽だ。電気も使いたい放題使っている。車から降り、ゆっくり足を伸ばすことができたためか、また、ベルやイエローの勢いがついてきた。時計をみれば、地球時間では、まだ、午後だ。というか、車の中で、寝過ぎたんじゃないか?お前たち。
賑やかを通り越して、妙にテンションが高い、騒がしいときを過ごした。
その晩、精霊様が進化した。




