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42.バレンタインデー2

食べられる恐怖に目をきつく瞑った。


衝撃が・・・・来ない。


薄目を開け、目の前のドラゴンを見る。


口は閉じている。ぱっくりはしてない。





・・・・もぐもぐしている?


目をしっかり開いて、よく見る。


ドラゴンは、目を細め、至福の表情だ。


口の中のものを味わうように、舌で口の中のものを動かしている?


あめ?


あっ、チョコ!?



歯にくっついた?それを舌で、こそぎ取ってる?





はっ!!見ている場合じゃないっ!


逃げなきゃ!!



立ち上がろうとしても、立ち上がれない。砂で、足が滑る。


じゃないっ!!


・・・・・・腰が抜けてた。


ホントにあるんだ。こんな状態。体験したくなかったよ。今この場で。


仰向けで、手で体を支えているまま、何とか、手とお尻を使って、後ろに、後ずさっていく。


目の前で、バタバタしているものに気づいたのか、陶然としていた目の焦点が、可奈に合わさる。


ドラゴンから目を離せず、後ずさっていた可奈の心臓が跳ねる。


目が・・・・目が合って・・・・離せない・・・・







あれっ?


なんか・・・・かわいいかも・・・・


目が、子犬のよう・・・・だ。


何か、期待されてる?


えっ?もう、ないよ。


心の声が、聞こえたかのように、悲しい目をする。


やばいっ


かわいい。


「えっと、ちょっと、待っててくれる?今何か持ってくるから」

話が通じたかどうかわからないが、おそらく通じていないだろう。前の世界でも、近所で、迷子の子犬を保護したとき、話しかけていた可奈であった。

・・・・爬虫類系だが・・・・ちょっと大きいが・・・・


目が・・・訴えてくる目が、同じだ。

同類枠でいいだろう。


立ち上がる。

すぐに立ち上がれた。なんなのさっきのは。


遠くから、可奈を探しているベルの声が何度も聞こえる。


「おかあさんっ!!」


東の土間の戸が開いて、ベルが飛び出してくる。

ハクが、裏の山からこちらに飛んでくるのが目に入った。攻撃態勢だ。

速いな、おいっ。


「ストッッップッ!!!やめてっ!!やめてっ!!やめてっ!!」

急いで、大声で止める。

間に合ったのか、ハクが攻撃するのを止め、可奈の隣に舞い降りた。続いて、レッドとブラックが舞い降りてきた。

「おかあさんっ」

ベルが、可奈にしがみつく。イエローとブルーが、ベルを擁護するようについてきていた。ドラゴンを警戒している。

「大丈夫よ」

ドラゴンも、新参者たちに警戒をあらわにしている。ドラゴンにも、安心するように言う。

「大丈夫だよ、ここにいるみんな、あなたに、攻撃なんかしないよ」

ゆっくりと、穏やか気持ちが伝わるように言う。気は心だ。



通じた・・・・ようだ。

ほんとうか?

まあ、そう思うことにする。見るからに。

ドラゴンも警戒を解いて、前足を揃え、その上に、顎をおいて、こちらを見る。


やけに、かわいい姿勢だ。

でかい図体だが。



かわいい。



もしかして、狙っている?

いやいや、野生のドラゴンが、かわいこぶっても誰得だよって話だよね。


つぶらな瞳だよ。


ヤバイ、かわいい。


知らないうちに、可奈の手が、突き出された鼻づらを撫でてしまっていた。

思った感触と違い、さらさらしている。

気持ちがいい。

ドラゴンも気持ちがいいのか、再び、目を細めている。

「おかあさん?」

小さな声で、隣に来たベルが可奈の服の裾をひっぱって、囁いてくる。

ベルを見ると、眉間にしわを寄せている。

「心配しないで、大丈夫だよ。かわいいから。ベルも撫でてみる?」

何が、大丈夫なのか、かわいいからどうしたのかとか、つっこみどころはたくさんあると思うが、すべて、スルーで。


ベルの心配は、当然のことだ。でも、不思議なことに、このドラゴンからは不思議と脅威は感じられなかった。


ベルも、促されたことで、決心がついたのか、恐る恐るドラゴンの鼻面を撫でる。

触られたのに、何も反応はない。先ほどと変わらない様子だ。

「この子は、私の子のベルだよ。仲良くしてね。それから、周りの鶏たちはも、身内のものだよ。喧嘩しないでね」

薄目を開け、まどろんでいた目で、ベルを見たあとに、周りにいるハクたちを、確認した。

「クフー」

吐息のような返事が返ってきた。

「私の言うことがわかるんだね。賢いね」

鼻面を撫で撫でしてやる。

「クフゥー」

今度は、少し得意そうだ。かしこい、かしこい。

「コケッ」

うるさいっ。イエロー。

それでも、イエローの声で、われに返る。

目を周りに戻す。

「ベル、心配かけてごめんね。ピアノの稽古は?」

「あのね、家中いい匂いがしてきてね。あれ、チョコレートだよね。キッチンに行ってもおかあさんいなくて、呼んでもいなくて、びっくりした」

「そうか、ごめんね」

心配をさせた分仕方がないので、正直に白状することにした。

「そうだよ、チョコレート作ってたんだけど失敗しちゃってね。その話は、家に戻ってからにしようか」

といいながら、ベルを窺う。ベルが、納得してくれたみたいなので、

「ハク、助けに来てくれてありがとう。レッドとブラックもね。ブラックは、遠かったのによく気がついてくれたね。ほんとにありがとう。ブルーもイエローもベルについててくれて助かったよ。これからもよろしくね。それから、このドラゴンは、いい子だから仲良くしてね」

ハクたちに、ドラゴンを紹介する。

ベルを促し、家に戻るとなぜチョコレートを作っていたのかと、追求され、バレンタインのことがばれてしまう。驚いたことに、ベルも皆もテレビCMで、知っていた。ただ、ここで、バレンタインの行事が発生するとは思わなかったらしい。CMでは、シチュエーションが学校とか会社とか。ないわ、それは。

「それで、チョコは?」

無邪気な質問である。

失敗したとはいわず、ドラゴンにくれたことにする。

なんせ、バレンタインだから。言い切ったものが勝ちだ。プレゼントに理由はない。

ただ、なぜ、見も知らぬドラゴンに、と言う不満よりも、ずるいというコールが吹き荒れたのが痛い。


今日は、もうチャレンジしたくない。




「みんなにも、用意はするつもりだったんだけど、気づくのが早いんだもの。用意する暇がなかったよ。ごめんね」

“必殺自分は悪くありません”言い訳である。隠れてやりたかったけど、ばれちゃったからもうできない、みたいな。

みんな、絵に書いたようなショックを受けたような顔をする。良心が痛むことこの上ない。

いやいや、みんなにもやらないなんてことないよ。

単なる大人のずるい、いいわけだよ。



「大丈夫、今から用意するからね」

にっこり笑顔つきで、もっともらしく言い切った。

「わたしも~」

「ベルも手伝ってくれるの?すごくうれしいな」

とベルと手をつなぎ納戸に行く。なぜ納戸?みたいな不思議顔は無視する。ラッピング用グッズが仕舞ってあるのだ。8つ分用意する。チョコレートは、大袋のチョコを10個ずつ分ける。

いつもチョコは、1個ずつしか皆に食べさせていない。それも、めったに与えない。決してケチで与えないわけじゃない。刺激が強すぎて、子どもやハクたちに大丈夫かとか、虫歯になったら困るとかいろいろ考えての結果だ。決して、1人夜中に楽しみにしているわけではない。ないったらない。決してだ。



10個をひとつにラッピングしていく様子を見て、皆テンションが上がっていく。

「おかあさん、10個っ?10個ずつ?」

筆頭はベルだ。ベルの隣で、羽をばたばたさせて喜びのダンスを舞っているのは、イエローだ。

ベルが、最近チョコレートにはまっていることに、密かに気づいていた。だからこそのバレンタインだったのだ。

「バレンタインが、なんのためか知っている?」

「知ってる」「こけっ」

うるさいぞ、イエロー。

「女の子が、男の子に好きだって言って渡すんだよね」

少し、照れくさそうに言う。何が恥ずかしいんだか。そんなベルがチョーかわいい。

「コケッー」

おまえは、照れなくてよろしい。

「そうなんだよね。あと、お世話になっている男の人にも渡したり、女の子の友達同士で渡したりするんだよ。大好きって気持ちを渡すんだね」

「うふっふっ」

ふっくらとベルが、やさしく笑う。そんな話をしながらラッピングができる。綺麗にかわいらしくできた。籠にまとめて、リビングに移動する。

明日のお楽しみだ。


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