41.バレンタインデー 1
今日は、2月13日である。ここにいる者はみな女子である。精霊様の性別はわからないが、格好だけ見るに、女子に含めていいだろう。渡す相手はいなかろうと、作らねばならない。
それが、女子力と言うものだ。
親として、ベルに見本を見せねばならないと思う。
いままで、28年間作ったことはないのだが。
冷蔵庫の中に、買い込んであったのだ。板チョコと型が。
可奈ちゃん、何を考えていたの?
当時の私に問いただしたい。
まあ、こういうときに、役に立ったが。
インターネットからチョコの作り方を、プリントアウトした。朝のやる事の後、ベルと勉強を終わると、
「ピアノ弾いてきていい?」
と、ベルが聞いてきた。
「いいよ」
返事をしながら、ベルと一緒に、大接間に向かう。テレビをセットし、ベルの次の課題を、ブルー、イエローと一緒に見る。
ブルーが真剣に見ている。わかっているのか?どこまで、賢いの?
「ブルー、テレビの録画再生ってわかる?」
「コケッ」
「ベルが、練習しているとき、必要なら、巻きもどして、何回か再生することできる?」
「「コケッ」」
おまえには、聞いていない、イエロー。
「イエロー。テレビに触らないように。触ったらお昼のデザート抜きだから」
「コッコッコケッ」
不服そうである。
「本当にそうするから。ブルー、イエローが余分なことしないように見張っていて」
「コケッ」
ブルーは、即座に返事をするが、イエローはそっぽを向いて、聞いていないふりをする。
それを、許すほど、甘くないからね。
「イエロー、次に返事がなかったら、夜のデザートも抜きだから」
「コケッ」
早っ。
家電の修理ができないので、ここで壊してしまったら一大事である。
「ここには、大型電気店なんかないんだから、壊したらおしまいなんだからね。気をつけてよ」
釘をさしておく。ブルーに、テレビの録画再生の仕方を教えると、すぐに覚えたようだ。
「ブルー、あんた、ベルがこのテレビと違うリズムになったら、止めて、一緒にテレビを見て。イエロー、あんたもね。だけど、テレビのリモコンに触らないっ」
「「コケッ」」
返事は、即座に返ってきたが、イエローが怪しい。くれぐれもブルーにお願いしておく。
「ホントに、頼むからね、ブルー」
「コケッ」
「じゃあ、ベル、ブルーが、止めたら、もう一度テレビを見て、おさらいするようにね」
「は~い」
キッチンに戻ると、早速、チョコレートの作り方を読む。
うん。湯煎するだけだ。簡単だ。よしっやろう。
おかしい、分離する。
なぜ?
プリントを見ながらやっているのに、言っているようにならない。
おかしい・・・・
匂いが部屋中に充満する。香りは、チョコレートの甘い香りだ。おいしそうだ。
現物は、不気味だ。
それでも、型に入れて・・・・入れるのも大変だったが・・・冷やす。
出来上がった。
こんなに早く、固まるものなの?
香りは、すごくいい。
少し、かじってみる。
見るからに固かったが、実際固い。
固いにも程がある、歯が立たない。比喩ではなく、物理的に。
舌で舐めた味は・・・・しない。
??????・・・・味しない?そんなことあるの?
とりあえず、証拠隠滅だ。
どこに、捨てるか。
香りがいいのが、あだになる。強烈に、そこら中、匂いだけ漂っている。ビニール袋に入れても、においがする。
何これ?何の兵器?誰得?
砂漠に、埋めよう。
チョコレートのなりそこないを持って、庭に出て・・・・駄目だ、正面の庭には、レッドがいた。
西は、ブラックが、北は、ハクがいる。
東だ。
家に戻り、東の土間から家を出る。
家から出ると、すぐに、砂漠に大きい物体が目に付く。ドラゴンだ。原っぱのぎりぎりの所に丸く蹲っている。バリアぎりぎりと言い換えてもいい。なぜそんなところにいるの?寝ているようだ。そのドラゴンを避けるように、東でも北よりへ向かって原っぱを歩いて行く。ドラゴンを警戒しながら行くが、ピクリともしない。熟睡しているのかな?
・・・・生きているんでしょうね。
死んでたら、でかい生ゴミだよ。虫が湧くなんて、たぶんあの大きさだと半端ないよ。誰が処分するんだ。これから暖かくなっていくから、腐って、ウジ虫が湧いてハエが飛び回るのか?
・・・・・勘弁してよ~。
立ち止まって、ドラゴンをよく見るが。まったく動かない。息をしているかどうかもわからない。
はぁ~。
まあ、その時はそのときかと思い、歩を進めて、最初の目的であるチョコを捨てるために、バリアぎりぎりまで行く。
砂漠に出て大丈夫か、一瞬考えたが、少しだけだからと、ビニール袋からチョコを出し、捨てる穴を掘る。掘るといっても、砂だし、たかだかチョコ1個分だ。すぐに掘れた。
あれ、日陰った。
ふと、上を見上げる。
鱗が、赤いゴムが、白い歯・・・・牙だよね。
声も出ない。
人間とっさに何をするかわからないよね。持っていたチョコレートを投げつけた。
それで、逃げようとして、振り返りざま・・・・ひっくり返った。
・・・・・砂に足を取られた。
死んだと思った。
仰向けになって、ドラゴンが、何か咀嚼しているのを、真正面から見ています。
それも、至近距離で。
ドラゴンが口を開ければ、ぱっくりいってしまう距離で。
心臓が、喉から飛び出そうだ。




