37.雪合戦
朝、目が覚め、カーテンをひくと、庭一面に、雪が積もっていた。
我が家の敷地内だけ。
後は、砂漠。
まあ、のっぺりと白一色と黄色一色のツートンカラーの世界だと思えば、それも面白い。2階の部屋は、暖房が、自動的に入るようになっているので、快適空間だ。熱いも寒いもない。ベルが起きだしているのが、後ろの気配でわかった。
「おはよう、ベル。雪が積もったよ」
「おかあさん、おはよう」
ベッドから飛び降り、可奈の横に立ち下を見る。
「あれっ。あれ、雪?全部雪?」
「そうだよ。積もったね」
「やったぁー」
「ふふっ、雪遊びができるね」
「うんっ」
すぐ動き出した。
「ベル、着替えて、ちゃんとご飯食べてからね」
声をかけると、すでに、服を出していた。すごいやる気だ。
「おかあさん、ご飯何する」
いつもより、いそいで着替え始めた可奈よりも、早く身支度が済んだベルが、可奈をせかすように声をかける。
「下へ行って、顔をあらっておいで」
「洗面所に、イエロー連れて行っていい?」
「縁側で声をかければ、ついて行ってくれるでしょ。もし、ぐずぐずするようだったら、ブルーかレッドについて行ってもらいなさい。」
「は~い」
下へ降りていく軽やかな音がする。昨日のことは、終わったことらしい。とりあえず、よかった。
ついでに東側の廊下の窓から、砂漠を望む。
いた。
やっぱりいた。
ドラゴン。
ここから見ても結構でかい。本当に、あのホビットの映画に出てくるドラゴンに似ている。タフさも、あれぐらいあるのかな。溶けた鉄がマグマのようになっているのを被っても、大丈夫なんて、怖すぎだよ。
ここには、エルフもホビットもドワーフもいないから。ホント勘弁してよと思うけど、
居座る気満々だな。
そうだ、昨日のやっつけた魔獣たちは、どこいったのかな。
砂に埋もれちゃったのかな?
それとも・・・
食べちゃった?
・・・そうだよね。弱肉強食、お腹がすいたら何でも食べなきゃね。考えてみれば、ここら辺、食べるものなどないよね。魔獣たちを主食にするのかな。
「おかあさ~ん」
階下から、可奈を呼ぶ声がする。しまった。ぼうっとしていたみたいだ。
「今行くよ」
返事をして、下に降りていく。
鶏たちに、納屋から土間に移した鶏の餌をやっているベルの姿があった。
「ありがとう。えらいね。ベル。おかあさんも、早くご飯つくるから」
「お手伝いする」
「ふふっ、ベルがいてくれて、助かるなぁ。お母さんも頑張らなきゃなぁ」
具体的に何を頑張るのか、自分で言っててわからないが。
「えぇ~おかあさん、頑張っているよ」
「そぉ?」
子どもの言うことだが、そういってくれると、うれしい。
こんなかわいい子いないよ。まったく。
お互い、ふふっ、あははっと笑い合いながら、朝を過ごした。
今日は、朝から、いい日だ。
後片付けやら、炬燵にもぐりこんでいる精霊様の世話やらをした後、本日のメインイベント、雪遊びをすることになった。クリスマスプレゼトが、活躍をする日がやってきた。ミトンだが、雪遊びには、十分だろう。
鶏たちに、厳しく言って、最初の足跡を皆でいっせいにつける手はずになっていた。フライングするヤツは、いつでもいるのだ。
イエロー。
早速追いかけて、雪玉をぶつけてやった。イエローをかばうベルにも、軽くぶつけた。
きゃあきゃあ言いながら、雪玉から逃れようとする。
・・・身のこなしがすばやい。
あっと言う間に、形勢逆転、イエローとベルがタッグを組んで、雪をぶつけてくる。片足で雪をつかんで、ほどよい固さにして、ぶつけてくるイエロー。おまえ、無駄に器用だな。
ハクとレッドとブルーは、可奈をカバーしようとしてくれる。ブラックは、ベルたちのグループに味方しているようだ。バランスを考えてくれたのだろう。尻が重いやつだが、空気が読めて、全体を見渡し、案外面倒みがいい。田んぼの方まで、駆け回って、皆大喜びだ。
約一名、体力がない人間を除いて。
一時休戦して、家の中庭の手付かずの雪で、雪だるまを作った。
汗をかいてしまったので、家の中に入り、ベルを着替えさせ、暖をとらせた。
「まだ、外で遊びたい」
「いいよ。おかあさんは、用事を済ませちゃうから、ハクたちと遊んでいて」
少し不満そうだが、可奈が、その日の仕事をすることは仕方がないと思ったのか、うなづいてくれた。ベルが、安心して不満を態度に出せるようになったことが、妙にうれしい。変な話だが、我がままばかり言う子供も、困るが、物分かりがよすぎる子供も、気持ちが悪い。
「わかった」
「寒かったら、すぐに家に入ってね」
「うん」
可奈の作ったお汁粉を食べるとそのまま外に、鶏たちを誘って、飛び出していった。




