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34.お供え物

出来上がった手作り感満載のケーキを8等分に切り分ける。まず、小皿に精霊様の分を取り分ける。さてどうしよう。

呼ぶしかないのかな。声をかけるしかないよね。黙ってお供えしとけばいいって感じじゃないしね。

炬燵の台の上に本を重ね、簡単なテーブルを作る。携帯カイロを出し、その上にハンドタオルを乗せる。即席の暖房椅子だ。仏壇用の予備茶湯器に紅茶と砂糖を入れ、ケーキを取り分けた皿をおいて、準備はととのった。後は、御呼びするだけだ。炬燵の中でくつろいでいる方を。


こういうときは、勢いをつけなければいけない。炬燵布団をそっとめくる。

やっぱり、いる。

もしかしたら消えてくれているかなって、1%の希望が潰えた。深呼吸をして、気持ちを切り替える。

「あのう、精霊様、『甘いものですが、お召し上がりになりますか?』」

ベルが言ったように、先に可奈が見た時とは違い、仰向けに寝転んで、目を瞑っていた。声をかけると、ゆっくりとこちらに目を向けた。無表情で。

怖いんですけど。

尊敬語が使えなくて日本語使ったのがいけなかったのか。反応が鈍い。

通じてない?

普通の言葉使っていいものかしら。

「精霊様、甘いものを作ったので、食べませんか」

途端に、目がかっと開きこちらに来ようとした。手足がぎくしゃくとしている。

「慌てないでください。誰も、精霊様の分はとりませんから」

起き上がるのにも、容易でなさそうである。じたばたしていて、炬燵のヒーターにぶつかりそうだ。可奈は、大きく深呼吸をした。これはもう仕方がない。

「精霊様、すみません」

声をかけ、思い切って、右腕を炬燵の中に突っ込み、精霊様の胴体をわしづかみした。

一瞬、精霊様の体が硬直した。当然だ。いきなり、つかまれたんだ、びっくりするだろう。左手を添え、精霊様を座らせる。そのまま、用意した温熱付き椅子もどきに座らせる。無表情でも、何が起こった!?っていう感じが身体全体からにじみ出ている精霊に、説明を一気に畳みかける。

「精霊様、これが、ケーキというものです。飲み物は紅茶です。砂糖は、好みがわからなかったので、適当に入れてしまいましたが、もし、駄目だったら、入れ直しますので、言ってください」

目の前のケーキに目が釘付けだ。私の説明聞いてたのか?

ベルも鶏たちも、精霊様の動きを見つめている。少し間が開いて、可奈を何か言いたげに、精霊様が見上げてきた。

何も話さないが、この表情はわかる気がする。

さっきの説明聞いてなかったな、この精霊。

「ええ。精霊様が、食べていいですよ」

顔が、ゆっくり破顔していく。スローな笑顔って、なんか・・・かわいいよ。

思わずこちらも、ニッコリしてしまう。

精霊様は、ケーキに向き直り、食べ始めた。

ベルの分を用意して渡した後、鶏たちの分は、大皿に乗せて、縁側に持っていく。ベルは、精霊様の乗っている炬燵の台に、ケーキの皿を持っていった。

「さあ、みんな食べていいよ」

「いただきます」「「「「「コケー」」」」」」

ベルに紅茶を入れる。鶏たちには、ボールに水を入れて、縁側に持っていく。

「ケー」

不満そうな、約1羽の声は聞かなかったことにする。

みんな、おいしそうに食べている。作った甲斐がある。精霊様も、喜んでいるようだ。

よかった、正解か。

可奈もベルの隣に、ケーキをもって座る。残り少なくなったケーキを食べているベルに聞く。

「もっと食べる?」

「うん」

可奈のケーキを半分にし、ベルの皿に移す。

「いいの?」

「いいよ」

にっこり笑って言うと、ベルもにっこりで、返してくる。

うちの子、ちょ~か・わ・い・い。


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