33.おもてなし
ベルが精霊様と言いながら、家じゅうを捜し歩いている。鶏たちも、埃や土を掃い、脚を洗い終わり入って来た。ベルに合流して、一緒に探しているようだ。ハクが、リビングに入ってきて、炬燵のところへ行く。いい勘しているよな。
可奈は、お茶の支度をした。
一息入れよう。ベルを呼ぶ。返事が2階から聞こえてきた。
「ベル、お茶にしよう。おいで」
「精霊様いないよ~」
遠くから、声だけ聞こえる。
「いいから、おいで~」
「は~い」
しぶしぶ従う返事が返って来た。
リビングに、情けない顔で入ってくると、
「精霊様いなくなっちゃた~」
と言いながら、可奈に抱きついてくる。仕方がない、教えるか。
「精霊様は、炬燵の中で、暖まっているよ。邪魔しない方がいいよ」
本音は、なるべくかかわりたくないので、もっともらしく忠告する。
「えっほんとっ!!!」
ものすごくうれしそうに、笑顔になる。諦めていた分、余計うれしいのだろう。
素直な喜び方が、超かわいい。
もっと早く、教えてあればよかったかも。嫌だけど。
お茶の支度を、ソファの方へ用意をしていると、炬燵の傍に、忍び足で寄っていき、布団をそっとめくって、中を覗き込む。
その姿、写真に撮っておきたい。かわいいよ~。
いることが確認できたので、満足か、再びそっとおろし、忍び足で、ソファのところまで来た。
小さな声で、可奈に話しかける。
「精霊様いた」
「そうだね」
うふふと小さく笑い、本当にうれしそうに言う。
「精霊様、目を瞑って寝ていた。ずっと、うちにいてくれるかな」
え~~~いてほしくないんですけど。でも、こんなベルを前に言えない。
「そうだね」
返事にならない曖昧な返事をした。
可奈の気持ちに気づいたのかわからないが、ベルにしては、熱心に言う。
「いてほしいな。私が死にそうなときに、精霊様も大変だったのに、力を使って助けてくれたから、お返しをしたいの」
人の気持ちに聡いベルは、可奈が反対そうにしていることは、見抜いて、そこまで、わがままは言わない。そのベルが、一生懸命言葉を紡ぐ。人の気持ちに聡いと言えばいいが、人の顔色を窺わなければ生きていけなかったのかと思うと、胸を突かれる。ときどき、ひょっと、ベルのこれまでの生活が垣間見える時がある。できるだけ自由に気ままにさせてやりたいと思う。
ここまで言うのだ、叶えないわけにはいかないだろう。
「そうだね、精霊様に、ここに、いていただけるよう、しっかりおもてなしをしようね」
「うんっ!!」
いいお返事だ。おもわずこちらもにっこりしてしまう。
「え~っと、じゃあケーキ作る?」
ベルの最上級のおもてなしらしい。それ、まだ、無理だから。
っていうか自分が食べたいものが、おもてなしにはならないんだよ。かわいいからいいけど。
「う~ん。ケーキは、どうかな」
「え~~~」「コケ~」
なぜイエローも話に加わっている。完全にお前も食べる気だろう。お前のためじゃないから。
「うん。もう少し練習しないと、精霊様にお供えするどころか、お客様に出せるものもできないよ」
「え~」「「コケ~」」
えっブラックも、気に入ってたの?ケーキ。
「だから、何度も練習しよう。そうすれば上手になるし、下手だけど味は、まずまずだからいいでしょ」
「わ~い、そうだね。何度も練習できるの?」
練習したものを食べることができるのがわかったのか、非常にうれしそうだ。
「いいよ」
「じゃあ、今日?」
始まってしまった。ここは、きっぱり言わないといけないことが、わかっている。
「今日は、精霊様をおもてなしするから無理だよ」
「何するの?」
何するの?わたし。
ベルに、最初の目的を、思い出させたのは、よかったけれど、精霊のおもてなしって何すればいいの?
「・・・・・ケーキ作ろうか」
「わーい」「「「「「コケッー」」」」」
不信心だとか、不敬とかという問題ではないと、思ってもらいたい。はっきりいって、我が家は、家庭訪問で、あたふたするレベルだから。権威というよりも、聖職というか神聖なものにとことん弱いから。訪問してくれて、普通におもてなしができるのは、昔から付き合いがある坊さんだけだから。
考えても見てほしい。自分の家にナマ福沢諭吉がきたらどうする?
ハウスクリーンの人呼んで掃除片付けから始まって、お休みになる部屋なんか、改装しちゃう勢いだよ、たぶん。お召上がりになられるものなんか、高級料理店の料理長に土下座して頼み込むよ。ホント、まじで。それでもたりないだろうな。本当に。
まずありえないけど、天皇とか皇后とか、もう雲の上のお方が、家においでになるつったらあなたどうする?
家でのもてなしするスペックなんか完全にないよ、うちは。
さらに、その上の神格ある方々なんかお越しになられた日にはどうしたらいいのか。途方に暮れるよ。
もう一周廻って、どうか来ないでくださいと土下座しちゃうと思うよ。
そうして、ベルの案に従って、とりあえず、何をしたらいいのか考える時間稼ぎでケーキ作りにいそしんだ。
ときどき、炬燵を覘いて、精霊様が大丈夫かどうか、確認しながら。
できばえは・・・・・・・・推して知るべしだ。
はぁ~




