32.精霊様どこ?
何をやりたかったか、なんとなくわかった。
こいつらは、ドラゴンの助太刀をしたのでも何でもない。ただ、スペクタルな戦闘に参加したかっただけだ。
そうでなければ、完全に戦いが終わってもいないのに、戦線離脱するわけがない。ドラゴンと意思疎通などない。戦い方を見ていても連携しているわけではなく、ドラゴンの動きと魔獣の動きを見て、自分の技を繰り出していただけだ。やけに手馴れている。
何をやっているんだ。おまえらっ。
草っ原の向こうでは、けりがついたのか、勝利の雄たけびを上げているドラゴンがいる。
でかい。
全長30mは、ゆうに超えているよ、あれは。おぉっと、こっちを見た。
怖い。
金色の眼が、縦長で爬虫類だよ。こちらからでも、はっきり見える大きさって・・・
「おかえりぃー」
ベルが、可奈の腕から抜け出して、帰って来た鶏たちを迎えに行く。駆けて行く後姿がちょーかわいい。どっかの海外ドラマのエンディング見たいだ。あのガーリー調のジャンバースカートと、スパッツが、いい感じだ。編み上げショートブーツも決まっている。
「あまり、そっちに行かないで。半分くらいまでにして」
一応大丈夫だと思うが、後をついて行く。
「ほら、あんたたち、早く戻っておいで」
ドラゴンが突然、大きく吠えた。
身体を動かさず、こちらに向かって吠えただけだ。虫系と違って、むやみやたらとバリアに突っ込んでは来ないようだ。
小さすぎて餌にもならぬと思っているのか、突っ込んでもバリアに阻まれると知っているのか。
ハクたちは、意気揚々と、荒野の7人みたいに横に並んで、肩で、風を切って歩いてくる。
5羽だし、雌ばっかりだし、肩らしい肩もないが。
ベルがハクに駆け寄る。イエローが素早く前に出てきて、ベルに褒めろとばかりに、アタックしてよろけさせている。
「コラッ、ベルにぶつかるんじゃないっイエロー。自分の図体を考えなさい」
「コッコッコッコッ」
何やら言い訳をしている。馬鹿なんだからこいつは。
「あんたたち、いつもこんなことやっているのね」
傍に来た、ハクに向かって説明を求める。
「 コウコウコウッコッココウッコッコウ」
何やら一生懸命説明してくれるが、残念。
わからない。
聞いた私もいい加減だが、答えるハクも大概だ。
私たち、似たもの同士だね・・・・・
でも何となくだが、ハクの言いたいことが分かった。
訓練なのだ。ここでは、生き残るために、戦わなければならない。戦って勝ち残らなければ、生き残れない。
いや、勝たなくても、何としても、生き残らなければいけない。生き残れたものが、勝利者なのだ。
この家の敷地内だけではなく、いずれ外へ出て行く未来のためにも、戦闘慣れして、強くなっていなければならない。ハクたちは、そんなことを考えたのか、本能かわからないけれども、強いものと安全に戦いの訓練をするために、5羽で、連携して戦闘する模擬戦なのだろう。
彼女らには、彼女らの生き方がある。口を出すことはできないが、死んでほしくない。
見るからにもう、危なげない戦い方だ。大丈夫だろうが、油断しないでほしいもんだ。
心配なのは、ベルだ。彼らのマネをして、同じようなことをやりたがったらどうしよう。許してやるべきか、止めるべきか、もう少し大人になるまでと言うべきか、どうしたらいいのだろう。
まあ、そのときに考えよう。というか、彼女らを見るキラキラ憧れビームが怖いのだが、釘を刺しておこう。
「ベル、お願いだからハクたちと同じようなこと、しないでよ」
可奈の顔を見て、やっぱり、ベルも鶏たちが、やっていることを知っていた。残念そうな顔をして、それでも頷いてくれた。
懇願するような瞳は、凶器だ。やめて~その目。
「はあ~、わかった。お母さんがいて、ハクたち全員参加で、ハクたちがベルを守ってくれるってわかったらば、参加してもいいから。でも、もっと弱いのにして。ドラゴンはやめて」
途端に、目が輝いて、イエローやハクに飛びつく。
「やった~!!ハク、イエロー、レッド、ブルー、ブラック。私もやって良いって」
なんか、今にも、ピンク参上っとか言いそうだな。
その喜びが感染したのか、鶏たちも一緒にコケコケ言いながら、跳ね回る。
「大喜びなのはけっこうですが、本当に気を付けてよ」
「大丈夫っ」「「「「「「コケッー」」」」」
子供の大丈夫ほど、当てにならないものはないとよく言われている。ベルは、年の割にしっかりしているように見えて、ときどきやらかす。本当に、本当に気をつけさせなければならない。
見張ってなけりゃいけないなぁ。
特にイエロー。
イエローを見ると、ベルと楽しそうに戯れている。鶏たちは、動物の年齢換算らしく大人だ・・・・と思う。イエローも、ベルを気にかけるところや面倒をみるところがある。しかし、自分の興味を示すところに忠実だ。ベルと気が合うところだろう。だからこそ、余計に心配だ。はあ~。
「ほら、帰るよっ」
「は~い」「「「「「コケ」」」」」
みんないい返事だ。
「埃や土をはらって、家に入ってね」
さあてと、家の中には、憂鬱が待っている。入りたくない。
何事かと思って、とるものもとりあえず、家を飛び出したが、家自体に戻るのが、いやだ。
たいしたこともなかったとは、言えないが、まあ、これは、地球ではなしだが、この世界では、ありだろう。
だけど、地球でも、この世界でも、ありそうだが、心情的に受けいられないものが、家で待っている。
どうにかして、スルーできないかな。ハクに言えば、捨ててきてくれないかな。
いや待て、あれを連れてきたのは、レッドだった。あいつらは、受け入れているのか?
なにゆえ?
っていうか、ホントに精霊なの?とりあえず、拝んどいたけど。
あの、妙にゆっくりした動き。
人形と体をなじませていますよ的な動作。
完全に何かに何かがとりついているパターンだよね。
怖いわ。ホント。
ベルは精霊様って本当に思っているみたいだけど、そうじゃなかったら、どうしよう。
レッドは、絶対駄目だ。他のヤツラは、少しは大丈夫か?
ハクに言っておこうか?
「ハク、ちょっといいかな」
「コッ?」
ベルは、歩きながら、まだ、イエローと戯れている。
「ほら、炬燵にいるでしょ、あれ」
「コッ」
「あれ、精霊様って言ってるけど、どうなの?」
「コッコッコッ」
鶏に何言ってるんだこいつ、みたいな顔をされた。慌てて言い訳をした。
・・・鶏に。
「いや、もちろん、ハクが話せるとは思ってないよ。でも、ほら、なんとなくわかっていそうだからさぁ」
今度は、しょうがないなぁ、という顔をされた。
「コッコッ」
それを了承の合図だと思い、質問をした。
「あれって、精霊なの」
「コッ」
本当なのか。鶏の判断を仰ぐ人間、大丈夫?って気もしないでもないけど、こいつら異様に、賢くなっている上に、勘が鋭くなっているからな。
「でも、なぜ、人形にとりついたの?」
「コッコッコッコケッコッケ。ッコッケ」
「うん、ごめん。ぜんぜんわからない」
そうだろうなって顔やめて。
でも、何かちゃんとした理由が、あるんだろう。それも、自然の摂理みたいな、抗えない何かみたいな。
とりあえず、納得したとしよう。
「それで、あの人形にとりついた精霊は、ベルを助けてくれた精霊なのかな?」
「コッコ?」
どうかな?みたいな答え。さらに、そんなのわかりませんよみたいな顔やめて。
ホント許して、人間止めたくなるから。鶏に頼る人間って・・・・
もうここまで来たら、とことんやっちゃうしかない。
「ハク、ベルが、あなたたちの戦闘に混ざりたいって言ったら、いれてやってくれる?」
「コッ」
「じゃあ、そのときは、ベルのことよろしくお願いね」
「コッッ」
任せてって言っているようだ。さすが。頼もしい。
でも、鶏に頼む私って・・・・
「あっ!」
突然、ベルが声を上げた。
「どうしたの」
「精霊様、置いてきちゃった」
今更である。忘れたままでもいいのに。
「早くいかなきゃ」
すぐに、駆けだした。他の鶏たちも、後を追う。
「ちょっと、脚洗って入ってよ」
後ろから、声を掛けながら、可奈も急いだ。ベルより先に、辿り着きたい。
ベルも足が速いが、まだ、負けない。ベルをさりげなく追い越し、西の土間から家に上がる。リビングに辿り着き、思い切って炬燵の上を見る。
あれ?いない?
「あっ!精霊様いなくなっちゃった」
ベルにも、見えなくなったらしい。
えっこのままいなくなってくれれば、みんな幸せなんじゃない?特に私的に。
ベルが炬燵の周りをぐるぐる回って探している。ソファやキッチン、縁側、畳の部屋も見て回っていた。
見つからないらしい、このままだったらラッキーである。
・・・・でも、私は知っている。炬燵があれば、隠れるだろ、普通。ベルはそういえば、潜っていたことなかったな。
炬燵の中。
たぶん、いるんだろうな。炬燵の中。
ベルが、キッチンをもう一度、見に行っている時に、そっと炬燵の布団をめくって見た。
いないでほしい。いないでほしい。
・・・・・・いた。
炬燵のヒーターの真下に、日光浴のような格好でくつろいでいた。
そっと、めくっていた布団を元に戻した。




