29.無害な人形?
びくっとした。心臓が嫌な音を立てて喉元までせりあがる。
引き戸のガラスに、小さくぶつかる音がした。そちらを見る。ガラス戸に映る影が人形だったら・・・
大丈夫だった。脅かすなよ、鶏どもよ。
鶏の白い大きな影が曇りガラスの向こうに見える。
こういう間が悪い真似をするのは、イエローか?それとも、事があれば素早く駆けつけてくれるハクか?
ハクか?・・・だったら、ちょっと見に行ってもらおうかな。
引き戸を開ける。
イエローでも、ハクでもなかった。
油断していた。
憑りつかれた何かを乗せたレッドだった。
「コケッ」
うわぁっ!!
戸を閉めた。
「コケッコケッ」
嘴で、ガラス戸をつつく。
やめて~!!!
一体どうしたの?あんたまで憑りつかれたの?
伝染するの?ゾンビか吸血鬼のように。
「入りたいっていっているよ?」
全く危機感なく、ベルが横に来て、可奈の様子を窺う。
どう言ったらいいの?レッド、なんで、あんたそんなもの背中に乗せているの?
あんたまで問題児になっちゃたの?
完全にパニックだ。
廊下のほうから、とっとっとっと軽い足取りが聞こえてきた。
ハクだ。
両手で引き戸を押さえながら振り向く。
「こけっこっこっこ」
可奈の足元まで来ると、見上げながら、語りかけるように鳴く。
・・・・・・何言ってんの?
ごめん、わからない。
「ハクが、開けてっていってるよ」
可奈が、ハクの言ったことを、理解してないのがわかったのが、ハクの代わりにベルが言い直してくれた。
・・・・・やっぱり?
いや、でも・・・・
ベル、そのなぜ?って顔やめてっ
ハク、その賢人のような顔で責任取れるのでしょうね。
もう、どうにでもなれだ。
世の中って、いつの世も多数決なんだよね。
・・・・・・・・
覚悟を決めて、恐る恐る引き戸をひく。ガラスに映っていた白い影の正体であるレッドがいた。
その背には、横座りしてこちらにニコニコ手を振る人形がいた。
きりっとしたレッドを見ればいいのか、やけにフレンドリーに振舞う人形を見ればいいのか。
とりあえず、レッドからにしよう。
「あんた、それ拾ったところに返してきなさい」
定番のセルフである。そうなのだ、これで、すべてが解決するのである。
引き戸の前に立ちはだかれば、完璧である。
よし、よし。
「え~~」「コケッー」
後ろから覗いていたベルとハクが不満の声をあげる。気づかないうちに、ブラックとブルーも後ろにいて、コケコケ言っている。
言われたレッドは、ショックを受けた顔をしている。そんなことを可奈から言われるとは、思いもしなかったみたいな顔をして、きりっとした顔が困惑している。
裏表なく純粋に信用されていると、期待を裏切ったようで堪える。
私が、間違っているのか?
雰囲気から拒絶されたことがわかったのか、お人形が塩垂れた。
っって、えっ、レッドの背にぽつぽつ落ちているの涙?
「ちょっとちょっと、ごめんごめん、入って」
ひぃ~みんなの視線が痛い。慌てて、招き入れた。
「精霊様っ」
ベルがお人形に近づいていこうとする。体を割り込むように、遮る。
お人形は、ベルの声を聞いて顔を上げる。
涙でいっぱいのつぶらな瞳をしている。
罪悪感に押しつぶされそうだ。




