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28.憑く

急な光にびっくりして、顔を上げる。車で急ブレーキを踏んだ時のように、反射で、左手をベルの前に突き出し、ベルを下がらせようとしてしまう。

まぶしくって、目が開けられない。

「あっ、精霊様だ」

目が、ちかちかしている。その合間に見える像は、新聞紙の上の紙粘土だ。

ベルも、私の左腕から身を乗り出すようにして、その像に向かって言う。

「精霊様がいらっしゃられる」

いや、それは、紙粘土で作った精霊様じゃない?

「ちょっとベル、落ち着いて。頼むから落ち着いて」

可奈が困っているのがわかったのか、左腕を押すほど前のめりになるのは、やめてくれた。

そのまま、さりげなく左腕を使って、ベルを自分の後ろに誘導する。それでも、顔を出すのをやめない。

いったい何がみえるの?

目の前のものが、動く様子もないようなので、思い切って目を瞑って、視力の回復を待つ。顔を伏せて目を瞑って、10秒ほどたった頃、もう一度目の前の像を見る。

目の錯覚が起こったと思った。大きさも絵具で付けた色付けも変わらない。

でも、生き物になっている。

図工の作品のような像が、精巧なフィギアになって動いている。

ゆっくり、ゆっくり体を確かめるように、動かしている。

なにこれ、気持ちが悪いんですけど。

「炎の精霊様だよ」

固まった可奈の脇の下から顔を出し、可奈の顔を見上げながら、なぜか小さい声で教えてくれる。

そうか、炎の精霊様か・・・

って言っている場合じゃない。

なぜ?

そもそも、本当に、精霊様か?

日本にもあるよ。有名どころで、どっかの人形の髪が伸び続けるとか。外国でも、茶色の髪のいたずら小僧がハサミ持って悪さするとか。

人形に憑りつく何かが・・・・

子供のファンタジーで精霊様はいいけど、違う何かだった場合どうしたらいいの?

動きが緩慢な今がチャンスか?

やっちゃうか?・・・やっちゃ・・う・・・・目が合った。

目力半端ないんですけど。悪霊の類ではなさそうだけど、怖いんですけど。

ベルが可奈の服を、左側から握りしめているため首がつる。左に傾いた首を前に戻して、間が開いた。

「あっ・・・あっあの精霊様っ・・・でいられますか?」

変な日本語になってしまった。のどに何かが絡まったように、声が出ない。人ってホントに驚くと、声が出なくなるんだ。妙なことを思ってしまった。

何かに憑りつかれた像は、グネグネしていた動きを止め、可奈の方を凝視している。


何も返事はない。


変なことを言ってしまっても、もう言った言葉は、戻らない。精霊様じゃないのか。違う何かで、何か別の事を、言わなければいけなかったのか?


・・・・何か、リアクションを・・・


「・・・あの・・・すみません。ちょっと失礼します」

くっ付いているベルを不自然な体勢だが、小脇に抱え、車庫を飛び出し、北の土間に飛び込む。途中ベルの驚いた声も聞こえたが、聞こえなかったことにする。

戦略的撤退だ。

そのままベルを、囲炉裏端に座らせる。おとなしく抱えられていたベルは、可奈を見上げ、すごく不思議そうに尋ねる。

「精霊様、置いてきて、良かったの?」

その質問は、返事に困る。

精霊様を祀るために、精霊様の像を作った。それが光とともに動き出した。もうすっかり、精霊様が、現れたことになるはなぁ、ベル的には。

でも、日本育ちの育ちすぎた中学生は、精霊様だけじゃなくて、いろいろなものを想像するのよ。この不思議世界では特に。不思議はメルヘンばかりじゃないのよ。

でも、このまま、ほっとくことは、できないよねぇ。

・・・ほんと、どうしたら・・・



こっつん


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