25.失敗は誰にでもあるさ
次の日、掃除をすると、コロコロ転がるものが出てくる。
すかさず、後ろからレッドが飛び出して、つつく。
可奈の掃除機のお供は、レッド。
2階は、ベルとイエローに拾ってもらっている。
当分、どこからかコロコロしてくるのだろう。
鶏たちには、楽しみらしいが、レッドが喜々として飛び出している。
ブルーは、スタートダッシュが足りないみたいだ。
あんたらなんの競技だ。遊びなのか?
ハクと、ブラックには、それぞれ、北側を任せてある。ブラックは落ち着いていると言えば聞こえがいいが、尻が重いのだ。しかし、慎重だ。ハクは当然信用できる。2羽に任せても大丈夫なのである。レッドはちょっと好戦的だ。ブルーは、真面目なのだが、レッドに挑発されると、熱くなってしまうことがある。目をちょっと離せない2羽だ。
午前中に畑仕事をしてしまい、午後は、木や草花の剪定をしてしまう。ついでに、イチゴも収穫する。
西の畑で、鶏たちと魔法の練習をしていたベルが、知らない間に現れてた。
「イチゴとってる?」
「そうだよ。ベルもとる?赤くて大きいものを取って」
「うん。おいしそう」
ひとつ採ってベルの口に、持っていく。
「あ~ん」
ぱくっと一口で食べる。口いっぱいになってもぐもぐとリスのようになる。
鶏たちもコケコケ言ってくる。
「あんたたちも3個ずつなら食べてもいいから。熟してよさそうなものをえらんでいいから」
コケコケ散らばっていく。
「私もっ」
イチゴを選んで摘んでいく。
「今日のお昼は、イチゴのデザート?」
「う~ん、ケーキを作るつもりだったけど、牛乳カンをつくろうか。イチゴ入りで」
「ケーキ?牛乳カン?」
「ケーキは、すぐにできないから、牛乳カンを作ろうか」
ケーキという魔法の言葉に惑わされているベルだった。
時々、テレビでケーキが出てくることがあった。食べたいと思っていたのだろう。それが、牛乳カンというものに変わってしまいそうだと思い、焦ってしまっている。
顔の表情がくるくる変わる。
「大丈夫、ケーキも作るよ。でも、お昼は牛乳カンを食べよう。大丈夫、たぶん気に入るよ」
「ほんとっ楽しみっ」
牛乳カンは問題なく出来た。3時においしくいただきました。
問題はケーキ。甘く見てました。
転移の前の日、無意味に片端から大量買いしていた食品の中に入っていた。買ったとき、なんで自分も出来ると思っちゃたんだろう。
傾いたスポンジ。
意味わからないよね。私も初めてみたよ。硬いところと柔らかいところ、膨らんだところとそうでないところ。様々な要因から傾く土台。クリームを塗っても、果物を載せても傾いている。あれっ~
鶏さんたちに後片付けをお願いいたしました。
ベルっお腹壊すから、食べないでぇ。
ふっ、材料は、入れた袋さえあれば、無限っ。挑戦券は無限とみていいっ。
いつか、また・・・・
ベルの誕生日まで・・・・来年まで・・・・
ベル、その期待する目はやめてっ。
クレープを焼いた。
ハンドミキサー偉大だね。
イチゴは、もれなく使えたし、チョコだって使ったよ。銀色の小さい粒も、カラフルなチョコ?も。
さらに、缶詰のフルーツも乗せまくった。
ケーキじゃなくてよくね?
ごまかせたはず。
「いつ作るのケーキ?」
はっはっはっ・・・・
「・・・またね・・・」
「明日?」
私のライフは0だよ。ベル明日は勘弁して。
「明日は、たおこしをした後、中庭の木を剪定しなきゃならないから、残念だけどできないなぁ」
「じゃあ、明後日?」
「ごめん、明後日は、ハクたちの家の中のベッド用に、藤籠編む支度するために山に入ろうって言ってたよね」
言ってない・・・行こうとは、言ってたが。汚い大人である。
「・・・そうか・・・じゃあ、しあさって?」
すごい、明々後日なんて、どこで覚えたの?
というか、その目はずるいよ。
・・・降参だよ。
「そうだね。明々後日にやろうか」
「うん、私もやる」
わ~いといいいながら、縁側のハクたちの元に走っていって、ケーキを作る報告をしている。
やつらに明々後日という、概念が理解できるのか?ハクはいけそうだが、イエローは完全に明日か、いまだと思っているぞ。ほら、こっちに寄ってきた。あの半生の出来損ないケーキでもよかったのか。そして、仮に今から作っても、すぐには出来ないぞ。出来るまで待ち構えの姿勢は、や・め・ろ・イエロー。
「イエロー、良く聞きなさい。ベルは明日の明日と言っていたでしょ。今日は作らないよ」
今日は作らないといった瞬間、が~んという擬音がつくような顔をしてショックを表した。
お前器用だな。
縁側からベルが、戻ってきて、イエローを慰める。
「イエロー・・・今日じゃないよ。でも、また食べられるからね」
ベル、そんな食いしん坊なお馬鹿さんを、慰める必要ない。ほっときなさい。
消沈しているイエローを連れて縁側に戻り、みんなでトランプの神経衰弱をし始めた。仲良きことは、いいことだ。
あれっ。かがんでいると、完全に鳥たちのほうがベルより大きい。
というか、ひと周りでかいんですけど。
鳥たちが大きくなるのは、もう、この不思議空間だからいいとしよう。
問題はベルだ。
ここへきたとき、120cmぐらいだったよね。あれから8ヶ月経っているんだから5、6cm伸びていてもいいよね。
伸びているの?
それとも、あっちの経過年月は、こちらの倍はだから、成長は半分くらいで、2、3cmっていうことなのかな。
縁側で、札をめくる順番を待っているベルを良く見る。真剣に鶏たちがめくる札を見つめている。邪魔するわけには行かない。
あっ、ハク手加減してるの?ブラックも?イエローの間抜け具合は、素だね。
ベルなかなか検討しているじゃない。
たった7つなのにすごい記憶力だよ。勘で勝負のイエローなんか粉砕しなさい。
う~ん。体重はここにきたときより増えたな。よかった。よかった。身長は、2、3cmだから、よくわからないのかな。
・・・・大きくなっているようには見えないな。
後で、身長と体重を測っておこう。
というか、あいつら完全に小屋に戻るつもりないな。
戸の開け閉めは自分たちで出来る。最近では、外の水道で脚を洗って、雑巾で綺麗に拭いてから家に上がることを覚えた鶏たちである。あのダニ事件以来、ハクが、皆を確認して入らせている。ちゃんとベルをも確認してくれている。
まったく、よく出来た鶏だよ。
そのハクがダニにくいつかれていたのが、考えてみれば不思議なのだが。
まぁ、夜も賑やかでいい。
テレビでアニメが始まった。
「ベル、忍者ガンバくんが、始まったよ」
声をかけると、すぐに返事が返り、トランプが片付けられた。テレビの前を、ベルとイエローが占領する。
「ベル、テレビから離れて」
「は~い」
素直に炬燵のところまで下がる。
「イエロー、ベルの横まで下がって」
お前もだ。イエロー。でかい図体が、テレビの前で邪魔なんだよ。
「コケッ」
小さくブルーが鳴く。
何かと思ったら、炬燵の上の蜜柑を食べたがっているようだ。
あんたたち、ほんとなんでも食べるようになったな。
「剥いたほうがいい?それともこのままでも大丈夫?」
このまま大丈夫のようだ。ブルーの前のテーブルの上に広告紙を敷き蜜柑を置いてやる。
他の皆もほしそうにしていたので、それぞれの前に、広告紙を置いてやりそれぞれ1個ずつ載せていく。
「もっと、欲しかったら自分でとりなさい」
「「「「コケッ」」」」
ブラック2つにわって食べるなんて器用だね。
レッド、あんた皮を剥くって・・・えっ一房ずつ食べるの?
ブルーも畳に広告紙をひっぱり落として同じように器用に両脚と嘴を使っている。
あっちょっと、イエロー、周りに飛んでるから。
「イエロー、落ち着いて食べなさい。広告の紙からはみ出さないようにっ」
「あっイエロー、こぼしてるよ」
「あっ、あんたたち、その汚れた脚で、歩かないでよ」
急いで脚拭きを用意する。食べ終わった後、満足したのか脚をざっと拭き、そのまま家の中を飛んでいく。
えっどこ行くの?
アニメも終わってきりがいいのか、ベルもついていく。北の土間に直接行き、水道を出して脚をあらっている。ベルが気を利かせて雑巾を持ってくる。ハクやブルーは、先ほどの脚拭きも銜えて持ってきたが。
うちの子、ちょう~気が利いてるよ。
「えらい。えらい。みんな賢いね。お湯のほうを出してもいいからね。やけどに気をつけてね」
水道が2詮式のノブならではだと思う。鶏の脚でも簡単に水が出せる。
ビバッ!!
3年前の改装が無駄にならなかったよ。




