21.決心
どうしたのだろう。小さな胸を痛ませていることが、何かあるのか。
わからない。
「どうしたの?」
こういうときは、聞くしかない。聞かないで、ことが起こった後、後悔することはしたくない。
「・・・・あのね・・・」
また下を向いてしまった。
話してくれるまで、待つつもりで、言う。何となく、今を外してしまったらいけないような気がした。
「話せるまで待つよ。大丈夫」
「・・・・あの・・バリアの外に出たら、戻ってこれなくなるんじゃないかって思った」
「・・・・・・えっと、ベルが、バリアの外に出たら、はじかれてしまうってことかな?」
そんなことがあるのか?
鶏たちが外に出て、入ったり、出たりしていることは、可奈はしらなかったが、ベルは知っていたはずだ。
なぜ、ベルは、一度出たら、入ってこれなくなってしまうと考えたのか?
そもそも、ベルが言った魔獣は当然だが、草木もはじくって・・・そう言えば、外の砂漠の砂は風に舞っているだろうに、一度も入ってこなかったな。それじゃあ・・・
「ベル、もしかして、イエローに家の敷地内に生えている草とか、家の中のものを外に出して、バリアにぶつけてみた?」
「・・・うん」
「それは、バリアに、はじかれなかったんだね」
「うん」
そうか、純粋に日本産のものは、バリアを出入りできるけど、砂漠産になってしまうと、バリアがはじいてしまうんだ。
じゃあ、ベルは?
ベルは、聡い子だ。
ベルの胸の内はどうなっているんだろう。
閉じ込めてはいるが、それは、安全を考えてだ。出ようと思えば出られないことはない。
でも、一度出てしまえば、2度と入れない。そんなことを、もし、その小さな胸で考えているのならつらいだろう。
ベルは、今、家の敷地内にいる。どうして?
家に入るときは、車に乗せて入った。可奈が運転する車の中のものということで、はじかれなかったのか?
でも・・・
それこそ、実験してみるしかない。ベルの心の安心のためにも、やってみよう。
「ベル、一度でたら、2度と戻って来られなくなるなんて思っているんじゃないでしょうね」
どんな法則があるのか知らないが、ぶち破ってでも、ベルを入れてやる。
「・・・・・・・・」
「ベル、こっちを見て」
ベルが、可奈の真剣な声に何かを感じたのか、涙をためた瞳のまま可奈を見た。
「ベルは、お母さんの子になった」
「・・・うん」
「お母さんは、絶対ベルを見捨てないし、危ない目にあわせることはしない」
「・・・・」
「ベルは、前に住んでいたところで、大人に酷いことをされて、捨てられたんだろうけど、私は、何があろうと、ベルを家の外に放り出すことは、絶対しない。それに、もし、ベルが外に出て危ない目にあっていたら、絶対探し出すよ。」
「ちがうっ!お母さんはあの人たちとは違うっ!ぜんぜん違うっ!」
「うん、違うよ。日本では、袖すりあうも、他生の縁っていうことばがあるんだよ。砂漠であったのも、ベルと私は縁が前世でもどこかでつながっていたんだよ。ましてやこうして親子になったんだ。今生の縁もすごくあるんだと思う」
「縁?」
ベルの目がきらきらしだした。
「縁っていうのは人のつながりのことだよ」
「私とおかあさんはつながっているの?」
「そうだよ」
ベルの横に移動して、止まってしまっていた箸を持つ手に手を重ねる。
「ベル、私を見て」
ベルは、箸をおいて可奈の重ねられた手を握り返す。
「ベル、神様にも仏さまにも言うよ。ベルは、私の子だって。誰にも渡さないし、誰にもどうにもさせない」
「うん」
「絶対だからね」
「うん」
「大丈夫、いざとなったら、お母さんには、おかあさんバリアがあるからね。ほら、砂漠で魔獣に襲われた時のバリアがあるでしょ。ベルが、家の外に出て危なかったら、すぐにお母さんを呼びなさい。」
「うん、あれすごかったね。ガッツンって魔獣がぶつかってもぜんぜん平気だったね」
砂漠の危険とか、そういうことの心配ではなかったと思う。たぶん、可奈に見捨てられないか、常に不安が付きまとっているのだろうと思う。親子ごっこが、本当になるには、道のりは長い。覚悟を改めてしなければならない。
ベルが復活したようだ。完全に心から、この状況に安心できてはいないとは思う。ここへ来るまでの環境があまりにもひどかったようだ。大人を信頼する。その信頼が簡単にはできない。そんな生活が続いていたのだろう。
また、ベルの周りの大人たちに怒りが湧いてくる。
だめだ、ブラック可奈が現れてしまう。
ふぅ~落ち着け。ベルがビビっている。
「ごめん、・・・えっとね・・・ベルにひどいことをした奴ら・・・いや・・大人のことを考えたら、腹が立って来たんだよ。ベルのことを怒ったんじゃないからね」
「・・・うん、わかった。でも、もうおかあさんがいるから大丈夫」
にっこり満面の笑顔で、可奈を見つめながら言う。
かわいい。
とりあえず、今日のところは、この辺でいいだろう。まだ、不安が何度もぶり返すかもしれない。そのときは、そのときだ。
見逃さずに、すかさず安心させられるようにしよう。
イエロー・・・いやハクに言っておこう。
わずかな、不安でも、ほっておくと、大変な事になってしまうかもしれない。
できるだけ取り除こう。
だから、まず・・・
「ベル、一度ベルが外に出たら、一人で家に入れるかどうか実験してみよう」
「えっ?」
「お母さんが、一緒にいるから入れるのかとか、一人きりでも入れるのかと心配なんでしょ?やっておこう」
「いいの?」
「いいよ、ハクたちも強くなったし、何といってもお母さんのバリアがあるからね」
「うんっやる。イエロー、また、実験するよ」
ちょっと怖いが、ベルのことを考えたら、些細な事だ。どんな緊急事態が今後あるかもしれない。そのとき、ベルが一人で外に出て、安全な中に、一人では戻って来られないなどあってはいけないが、確かめておくことは絶対必要だ。
やっておくしかない。結果はどうあれ、対策をしておかなければならない。
考え込んで、目を離したすきに、ベルが隣でうずくまっているイエローに手を伸ばし羽毛を撫でまくる。安心したのか、普段のベルが戻って来た。
「うわぁ、ご飯のとき、鶏たちに触らないっ」
しまったという顔もかわいい。
「手を洗ってきなさい」
「は~い。イエロー、行こっ」
話が済んだと思ったのか、鶏たちも落ち着いたようだ。イエローはさっそくいつもの態度に、戻った。
ふてぶてしい態度だ。
面倒くさそうな顔をして、やっと立ち上がる。
眠りたいのかもしれない。ハクがベルの傍に寄ってくる。ついて行ってやるつもりのようだ。
ベルもハクの頭を優しくなでる。
でも私は許さないし。
「イエロー。ベルについて行ってやって。洗面所まで、暗いでしょ」
イエローが嫌そうにする。
「イエローっ」
「コケッ」
ベルの後をきびきびとした態度で、ついていった。
足音は、まぬけなペタペタとさせて。
実験の結果わかったことは、ベルは問題なく一人で出入りができるということだ。
もうひとつわかったことがある。
ベルや鶏たちがバリアの向こうから敷地内に何かを投げ入れようとしても、入れることができない。けれど、草の生えているところへは、投げ入れることはできなくても、持って入ることはできる。可奈の場合は、どちらもできるのだ。投げ入れることも、持って入ることも。
この違いは何?
要、検討。
・・まぁ・・・いっか。
べるは、これで一安心したようだ。よかった、よかった。
さて、気を取り直して、新しいステージ突入だ。
・・・・・・自分的に
ここから出て、この世界の人と交流しようと




