20.実験結果
外に出ないのではない、出ることができないのだ。
安全という檻に、閉じ込められているのだ。
ここは、自給自足ができる監獄だ。
ベルを抱きかかえたまま、ベルの涙にまみれた寝顔を見る。力が入らず、ソファから動くことができない。
右隣に寄り添うように、座っていたハクが、どこかに行く。左隣のイエローも席を立つ。ペタペタと、おかしな音をたててイエローは歩いていく。
キッチンの方に行ったと思ったら、すぐに戻って来る。水でも飲みに行ったのか。お気楽な奴だ。
ベルの頭を撫でている手元に濡れた布を落とされた。顔を上げると、イエローが得意そうにしている。
。
どや顔だ。ベルの顔をこれで、拭いてやれってか?
・・・・・・・・これは、台拭きだっ!!!!!
ハクが、たぶん、外の物干しに干してあったタオルをぬらして持って来てくれた。
どうやったかわからないが絞ってある。
感謝してベルを起こさないように、顔を拭う。
・・・・・・幼い、かわいらしい顔だ。
これから、いろんなことを知って、大人になるのだ。
どうしたらいいのだろう。
・・・・・考えなければ。
でもとりあえず。
ベルをソファにそのまま寝かせて、ご飯の支度をする。
ご飯が炊きあがるころ、ベルの目が覚めたようだった。
ソファで、毛布にくるまって、うだうだしている。イエローがちょっかいをかけている。
カウンターから出て、ソファの横にひざまずく。
「ご飯できたよ、さっきはごめんね。お母さん急に怒ったりして、怖かったでしょ。お母さんも、ベルが危ないことして死んじゃあうんじゃないかと思って、怖かったんだ。ごめんね」
毛布をかぶって、こちらをちらちら窺ってくるベルに謝る。
「ちがうよっお母さんは、悪くないっ、私が・・・私・・が・・うっ・」
興奮したのだろう、また泣き出しそうになる。毛布ごと抱きしめる。
「そうだね。ベルがお母さんとの約束を破ったのは、いけなかったね。わかっていればいいよ。でも、お母さんも、怒りすぎた。ごめんね。」
「ううん」
抱きしめた胸のところで、頭が胸にこすりつけられる。
・・・本当に、いい子だ。
「じゃあ、ご飯食べられる?」
「うんっ」
ぐうっ
言った拍子に、お腹が鳴る。漫才か。
笑ってしまう。
ベルも、照れていたが、つられて笑う。
・・・超~かわいいっ!!
思わず、また抱きしめてしまう。
鶏たちも、周りでばたばたと一緒に騒ぎ出す。
夕ご飯を食べる頃には、ベルも落ち着きを取り戻してきた。
改めて、事情を聞く。
「ベル、さっき、実験をしたって言っていたね」
「・・・うん・・・」
実験の結果を言いたくてたまらないが、叱られたことが、大きすぎて、言えばまた叱られるかもという雰囲気をありまくりで出しながら、返事をする。
「ごめん、さっき良く聞いてなかった。もう一度説明してくれるかな」
なるべく、プレッシャーをかけないようにやさしく言う。もともと可奈に報告したかったことである。関を切ったように、話し始めた。
「あのね、この家のバリアは2重になっているの」
「2重?」
「家の敷地にバリアがあるでしょ。その外側に、草や木が生えているところがあるでしょ」
「そうだね、だんだん広くなってきているね」
異世界の自然の植生を破壊をしていることに罪悪感のある可奈は、遠い目をしてしまった。それに、全く気が付かないベルは、うれしそうに報告を続ける。
「それでね、その外の草の切れ端を家の敷地に投げ入れても、バリアにぶつかってしまうの」
「そうなんだ」
草さえもはじくのか。
「家の中に生えている似たような草も、ここで、もともと生えていたような砂漠の草もどちらも駄目なの」
「へぇなんか、実験すごいね」
感心してしまった。
「うふっふ」
ちょっと、誉められて、照れたように笑うベルが、かわいい。ベルの足元で得意そうに顔を上げているおまえはうざいがな。イエロー。
「それでね、今度は、草の生えていなくなったところから、草の生えているところへ砂漠の砂を投げたの。でもバリアに防がれて入らないの。生えている草でもそうなの」
「へぇすごいことがわかったね」
確かにすごいことだ。でも、砂漠の外に出たことでまた、心配が募ってくる。自分のいないところで、平気で敷地外に出る、その行為が普通に行われてしまう。苛立ちに変わってきた頃、ベルが、言葉を継ぎ足してくる。
「最初は、絶対でちゃ駄目ってわかってたからイエローが外に出て魔法の練習をしているのを見てただけなんだけど、イエローが、草の生えているところから、砂漠の魔獣に向かって、魔法を撃っているのを見たとき、気が付いたの・・・」
イエローがやっていることを告げ口したようなことがわかったのか、言いよどむ。
イエローが、そっぽを向いて、口笛を吹くまねをする。
どこで覚えたっ!!!
ちっイエローめ!でも、今は、それどころではない。あとで、いじめよう。
「何を?」
やさしく促す。顔がひきつっていたかもしれない。幸いベルは、うつむいていたため、気が付かないでいてくれた。
「えっとね、イエローを怒らないでくれる?」
心配そうに、困った顔をして、上目遣いに見上げる。そんな顔されたら、べるのいいなりになっちゃうよ。
「大丈夫、怒らないよ」
いじめるけどね。
ベルは、ほっと息を吐き、続きを話し始める。
「イエローはどんどん魔法を打ち込むから、魔獣が寄ってきてイエローを攻撃しようとするけど、壁にドンってぶつかるの。魔法撃ってきてもドンってはじくの」
へぇそうなんだ。
でも、ほんと何やってんだイエロー、おまえはっ
魔獣を挑発して、面白いのか?
暇なのか?
警戒するのと、魔獣をやっつけるのは、ちがうんだよ。わかっている?ねぇ?
ベルの横にいるイエローをチラッと見る。ベルの話の中で、魔獣と戦って勝っているようなことを言われて、またもドヤ顔を決めている。
ホント、うざいっ
・・・でも・・・そうなのか・・・・もしかして。
「ベルは砂漠に出なかったの?」
「・・・うん・・・」
また、俯いて言いよどむ。
そうかぁ、出なかったのか、あんなに叱る必要はなかったのかぁ。私の約束半分は聞いていたんだ。半分だけど、ちゃんと判断して危ないことはしなかったんだ。
「そうかぁ、完全に砂漠には出なかったんだね、ちゃんと判断できてえらかったね」
ベルの顔を上げさせようと褒める。
顔は上げたが、可奈を見つめる目は、なぜか
・・・・・・縋るようだった。




