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16.元旦

歌ったり踊ったりすることができる曲は、12月の寒空の中、ベルは、庭で鶏たちとショーを繰り広げた。体を動かしているベルたちやもともとあまり寒さを感じないと思えるハクたちはいいだろうが、縁側の窓を開け放しで見ている可奈はたまらない。暖房を最強にし、灯油のストーブを縁側の外に置き、甘酒を作ってストーブの上に置いた。さらに、家の中にいるのにダウンコートを着込んだ。


どこで、練習していたのだろう。


見ごたえがある。


歌えなかったり、踊れない曲になったときは、ベルは家の中に入り、鶏たちは、縁側にはい・・・


ちょっと待て、お前たちは入るとしたら、足を拭いてからだっ。





でも、いちいち家に上がるたびに、足を拭くのは面倒だ。敷物を廊下に敷いて、上がってもいいようにする。


ベルは、ハクたちと一緒に、甘酒を飲んだり、豚汁を食べたり、すしをつまんだり、イエローにみかんを食べさせたりと大騒ぎだ。


そんなこんなで時刻も9時を廻る頃、だんだんと炬燵の上に、頭が落ちてきたベルだった。何とか、起きていようとこっくりこっくりと頭を起こす。炬燵の板に頭をぶつけないかとはらはらしていた可奈は、ベルの頭が炬燵にくっついたときは一安心した。それから目を開けようと頑張っていたが数分で寝てしまった。


しばらくして、完全に寝てしまった様子を見て、久しぶりに、畳の部屋に蒲団を敷き、そこに、ベルを寝かせる。縁側を見るとハクたちも、熟睡しているかのように、丸まっている。


可奈は1人熱燗で、ベルたちの残り物をつまみながら、今年を振り返る。



あぁ、今年はいい年だった。

ベルがいてくれた。鶏たちがいてくれた。・・・


年末の墓掃除のとき、去年は、あの世の家族に、寂しいと、なぜ1人だけで残していったのかと、恨み言を言った。今年は、一年無事に過ごせたことを報告し、感謝した。


どうして、この世界に、家ごと連れてこられたのかわからない、でも、ベルと出会えたことに、感謝する。


どうか、神様、来年も何事もなく過ごせるようにと、少し酔った頭で、猪口を置き、手を合わせる。


テレビから除夜の鐘の音が、重々しく静かな闇に染み渡るように、鳴り響く。


手を合わせる。

神様ありがとうございました。年神様今年もよろしくお願い致します、と心の中で祈る。


ベルがこの一年健やかに過ごせますように。



火の元を消して回り、ベルの横にもぐりこむ。月明かりでもベルの静かな寝顔が良く見える。何とはなしに、頭を撫ぜて、出ていたベル手をふとんに入れて、自分も目を瞑る。




可奈は酒も入って、ぐっすり眠ったせいか、夜明け前に目が覚めた。


ベルは、まだ夢の中だ。蒲団に冷気が入らないように静かに抜け出て、元日の支度をする。まだ、ハクたちも縁側で眠っている。朝ごはんは、御節だ。すぐに雑煮ができるようにしておく。着物を着て、正月気分を出す。そんなことをしていると、だんだん日が昇り、ハクたちも外に行きたそうにしていたため縁側を開け自由にでられるようにする。


ハクたちが外に出たのを見計らって、餌を準備する。戻ってくると、ベルの目が覚めていた。


朝の支度をして、新年の挨拶である。

「ベル、明けましておめでとうございます」

首をかしげる。

「年が明けたら、新年の挨拶をするんだよ、ベルも言ってくれる?」

「明けましておめでとうございます」

「そうそう、今年もよろしくお願い致します」

「今年もよろしくお願い致します」

ベルとにっこり笑いあう。一年の計は元旦にあり、良い年になるといいな。


「ベル、お餅何個食べる?」

「5個っ」

「いやいや、後から追加してもいいから、とりあえず2個にしておこうか」

「えぇ~」


無視である。自分の分とベルの分それでも4個入れる。

テーブルの上に、御節を並べる。


「うわぁきれい!」

そうだろう、そうだろう。もっと言っていいよ。

でも、一緒に作ったときも見てたよね。

あぁそう、箱に詰まっているのは見てないか。

「たくさん食べてね。まだあるからね。」

「お餅もたくさん食べる」

「・・・そうだね」

お餅をつき終わったとき、付きたてを食べたのがおいしかったのか、すごく楽しみにしていたのは知っていた。

・・・が、それほどだったのか。


驚いたことに、御節を次から次と食べても、お餅を5個食べてしまった。


最初の頃のように食べ過ぎて吐いてしまうことを心配して、按配を見ながらおかわりをしていたのだが、割と平気そうに食べてしまった。魔法を使っている影響で、大食いになってしまったのか?

今年からは、ベルの分やハクたちの分の食事の量を増やしたほうが、いいかもしれない。



朝ごはんの片づけを一緒に終えると、

「ベル、今日は、おめかしをするよ」

「おめかし?」

「そう、私が着ている着物をベルも着てみたくない?」

「私の着物できたの?」

「できたよ、驚かそうと思って、しまってあるの」


作っているときから興味津々で、着物を見ていたが、出来上がっているとはおもわなかったらしい。可奈が朝から着物を着て動き回っているのを、うれしそうにちらちら見ていたが、自分のものはまだ着られないとあきらめていたのだろう。かわいそうなことした。


納戸に行き、着物を一揃い出す。子どもの着付けはおはしょりが付いている分案外楽だ。時間をかけず着物を着せる。七五三の着物ではなく、ウールの着物である。おばあちゃんのストックしてあった反物の中になぜか子供用と思える柄が、何反かあった。うすい白地に赤やピンクのもやもや、流れの中に黄色いやうす緑の花が咲いている。ベルの金髪が映えてかわいい。

頭の飾りは、団子をつくったところに、雪洞と小さい花がたくさん付いた簪をした。

髪が伸びてきてよかった。


・・・ちょ~かわいい。



いそいそと歩く。歩きにくそうだ。慣れない足袋で、廊下を滑らないように、手を引いてやる。

にっこりこちらを見上げる。



・・・鼻血が出そうなほどかわいい。




神棚の神様と仏壇の仏様にお参りをする。拝み方を教えると、一生懸命まねをする。願い事も真剣だ。


何を願っているのだろう。



叶うといい。



その後、裏の山に入って行く、罰当たりかどうかわからないが、先祖の墓に参るのではなく、家族に新年の挨拶とベルの健康を願うためだ。


自分とハクたちだけが、この晴れ着のベルを見ることがもったいないという思いもあったのだが。



ハクたちと写真撮影などをしているとお昼になった。


着物を脱がせるつもりだったが、まだ着ていたいというのでそのままにしたが・・・・


お昼の磯辺焼きが食べられず途中で脱ぐことになってしまった。



・・・そうだろう。


・・・帯は苦しいよ。ベルたくさん食べるからね。


食べると、お腹ポッコリ出し。


正月の遊びの福笑いや独楽遊び、人生ゲームやトランプなどで一日を過ごす。


ベルにお年玉をやりたいと考えた。






お金がない。


そうなのだ、お金がないのだ。



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